トム ヨシダブログ


第711回 エンジンドライビングレッスン

所有欲から使用欲への転換と題した企画書から始まったエンジンドライビングレッスン。2003年11月に第1回を開催。基本的に午前中は筑波サーキットジムカーナ場でイーブンスロットルとトレイルブレーキングの練習。午後はコース1000を走行(例外として富士スピードウエイジムカーナ場で午前中にオーバルコースを午後ショートコースを走った回が1回)。2022年末までに73回開催し延べ1,858名が参加。

2023年1回目の今回が74回目。参加申し込みは30名の定員いっぱい。しかしながら急用ができたとかでキャンセルが2名。28名中初めてエンジンドライビングレッスンに参加される方が10名。そのうち3名が初めてのサーキット走行。23歳から70歳まで平均年齢53.9歳の若者が1日中運転に集中していました。

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「運転が上手くなればクルマがもっと楽しくなります」
「免許を手にして以来、改めて運転を教わってみませんか」
村上編集長の言葉です

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コース1000に移動して昼食
参加者を4グループに分けてセッションを繰り返します

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雨も上がり
今回はコース上の記念撮影が再開
みんな笑顔笑顔笑顔
 
次は5月25日(木)開催
またお会いしましょう

 

行き当たりばったりで操作していては運転はうまくならない。その場しのぎの操作うまさにはつながらない。上達するには理論に基づいた知識と走行中のクルマの状況を知る感性と、理にかなった練習が必要だ。

練習に多くの時間をさけることができればそれにこしたことはないけど、ふつうは十分な練習ができる環境にはないだろう。だから練習の仕方も工夫が必要だ。午前中に運転の基本であるイーブンスロットルとトレイルブレーキングの練習を集中して行い、午後は短いセッションを繰り返して参加者にリズムを作ってもらう。

「最初からペースを上げるのは得策ではありません。ある程度の速さで走って不快な感じがしなければそれを2~3周続けます。同じような速さで走ることができたと思ったら、その時に少しペースを上げてみます。走っている周より次の周が遅くならないように、その時その時の速さを感じながら操作してみて下さい」。

1回目のセッションが終わってミーティングをしていたらけっこうな雨がおちてきた。

「最高のコンディションですね。恵みの雨です。路面がウエットだからといって極端にタイヤのグリップが低下するわけではありません。路面が濡れている時は操作と操作の間で何もしない時間を長めにとって、次の挙動に移る時にクルマをフラットにして安定させます」。

考えすぎてリズムに乗れなかった方も見かけたけど、大方はアドバイス通りセッションの後半でベストラップを刻んでいた。路面が濡れていたのでスピンが皆無と言うわけにはいかなかったが、まだウエットパッチの残る2回目のセッションでベストラップをたたき出した方もいる。おそらくほとんどの方が透明な気持ちで集中して運転していたに違いないと思う。運転がこなれたからだと思う。

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参加者名簿から改造の有無とサーキット走行の経験
エンジンドライビングレッスンの参加回数と筑波コース1000の走行経験を軸に
 
セッションごとのベストラップとベストラップが何周目に出たかを集計
エンジンドライビングレッスンの面目躍如

 

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2021年10月のエンジンドライビングレッスンに続いて
高知から駆けつけてくれたOさん
 
写真を撮り忘れたのでOさんに拝借
2021年8月のルノー・ミーティング@岡山サーキット

 

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参考までに
筑波サーキット発行の13:00~1420の第1セッションの結果

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参考までに
筑波サーキット発行の14:30~16:00の第2セッションの結果



第710回 YRSオーバルスクールのススメ

富士スピードウエイ(FSW)の東ゲートをくぐり正面の坂を上っていくと右手の高いところにFSW最大の駐車場があります。下の図のように南北に270m余り、東西に150m余の広大な駐車場です。その駐車場、FSWの協力を仰ぎユイレーシングスクールが最初にドライビングスクールの会場として使うことができました。当時はガードレールも教室もなくトイレがあるだけの単なる駐車場でした。駐車場でドライビングスクールなんてできるの、なんて声が聞こえてきた時代です。それでも広々とした舗装された駐車場のような空間でドライビングスクールをやりたい理由がありました。

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ジムラッセルレーシングスクールのアドバンストコースは、カリフォルニアはラグナセカレースウエイの広大なパドックを使って受講生同士に追いかけっこをさせるオーバルトレーニングをカリキュラムに組み込んでいました。これが実に効果的で、なんとか日本でも実現したかったのです。2002年に筑波サーキットジムカーナ場で初のYRSオーバルスクールを開催。翌2003年からは千葉県の浅間台スポーツランドでも開催しました。年に11回開催した年もあります。その後富士山のスキー場Yeti、関越スポーツランド、ツインリンクもてぎ、大阪の舞洲、和歌山マリーナシティ、奥伊吹スキー場で、新しいマーケットを模索しながら変化に富んだオーバルコースの設定を目指してきました。ですが徐々に大きなオーバルコースを作ることができてエスケープゾーンも広くとれるFSWの駐車場にしぼって開催するようになりました。とにかくスピードの出るコースで思い切り走ってもらいたいという気持ちと、速度域が高いほうが参加する人も操作と挙動の因果関係がわかりやすいと思ったからです。

2023P2レイアウト

 

ユイレーシングスクールの活動の骨格をなすYRSオーバルスクールFSWはコーンを立て、図のようなオーバルコースを作って開催します。基本的には半径22m直線130mのYRSオーバルFSWロングを使いますが、コース幅は14.1mもあります。車線の区分線が描いてないのでにわかには信じがたいですが、高速道路の1車線は幅3.5mですから3車線の高速道路より幅が広いのが特長です。アウト側のコーンの外側にも十分なエスケープゾーンを設けているので安全性は十分に確保してあります。アメリカ製の軟質PVCのコーンを使っているので、コーンと接触してもクルマに傷はつきません。

「クルマは持っているだけでも楽しいけど、走らせるともっと楽しい。うまく走らせられるようになるともっともっと楽しくなる。100年に1度の自動車の変換期にあって、あなたも運転と向き合ってみませんか」。村上編集長のエンジンドライビングレッスン開会の辞です。
いつもより少しばかり速いペースで走っても安全なYRSオーバルFSWで、ご自身の愛車のスロットルを床まで踏んでみませんか。4月2日(日)に富士スピードウエイの駐車場で開催するYRSオーバルスクールFSWへのお誘いです。

・4月2日(日)に開催するYRSオーバルスクールFSWの案内頁へのリンクです

 


第709回 人間の操作がクルマを動かす

第708回 加速度と速さ で取り上げたSさんとボクの走行データ。

速さから見ればSさんが20秒10でボクが19秒70で高齢者(!)の勝利となったけど、この時は5周した中のベストタイム。Sさんの名誉のために付け加えれば、間際になって「データロガーを積んで走ってみて!」と言われたSさんが実力を発揮できなかった可能性は十分にある。それにYRSオーバルレースFSWでもYRSオーバルスクールFSWでも200周近く走る人もいるから、ラップタイムだけを見て一喜一憂するのはあまり意味がない。Sさんも無心に走っていた時は20秒を切っていたと想像できる。データを取るということは、むしろ子細を見てどうやって走っているか想像できることに価値がある。

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グラフはどちらも速度と横Gを同じ座標軸に置いている。グラフは赤が速度、緑が横Gを表し、赤の横線が横Gゼロを示す。コーナリングの比較のためにスタート後11.5秒で本来ならつながっている1ラップのグラフを2分割して横に並べてみた。どちらも左側がSさんで右がボクのグラフ。何が見える?

・Sさんの速度変化を見るとスタートからコンマ5秒あたりで加速から減速に転じているが、グラフが尖がって折れている。おそらくスロットルオフと同時にブレーキペダルを踏み込んでいるので、加速の終わりに続いて減速が始まっているものと思われる。ボクの場合はSさんより加速が終わっている地点が手前(スタート後コンマ3秒)でトランジッションを意識してブレーキをかけ始めているから速度が落ち始めるのが1テンポ遅い。
・Sさんは加速から減速に移る区間で横Gが減少している。コースは左回りだったのでクルマが右に流れたのだろうか。スタートから4秒あたりまではコーナーのアプローチでおそらく3秒ぐらいまではトレイルブレーキングを使っているのだが、Sさんの横Gの立ち上がり方が急だ。クルマが前に進まずに横(右方向)に流れている可能性がある。それに対しボクの場合は速度の低下に反比例するように横Gが増えウづけている。
・このグラフは進入が下り坂で脱出が上り坂の通称「下のコーナー」の走りを表しているが、Sさんはスタート後4.5秒の地点でボトムスピードを記録している。その後速度は上昇するのだが、横Gがほぼ一定の状態なのに速度が低下してから上昇に転じるのはクルマが前に進んでいない可能性もある。ボクの場合は4秒から5.5秒くらいの間で速度がほぼ一定だからイーブンスロットルの効果だろう。ボトムスピードはSさんのほうが速いがクルマの向いている方向と運動エネルギーの方向が一致しているか検証する必要がある。
・ボトムスピードを記録した後の加速もボクの方は横Gの減少にともない滑らかだが、Sさんの場合は横Gが急激に減少するのにフルトラクションでの加速開始が遅れている(Sさんがスタート後8秒あたりでボクが6.5秒付近)。結果、スタート/フィニッシュ地点と反対側の通称「裏のストレート」での到達速度はSさんが10.8秒あたりで100キロなのに対し、ボクは10.5秒手前で108キロ弱まで達している。

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・裏のストレートでスロットルオフから瞬間的なブレーキング。踏力を抜いてトレイルブレーキングでフロントのロールを抑えてアプローチ。ここでもSさんの横Gの立ち上がり方が急なように見える。パフォーマンスボックスをフロントウインドの真下に取り付けた結果、ヨーモーメントの中心より前にセンサーがあるので前輪にかかる横Gを拾いやすくなったせいなのかも知れない。
・上のコーナー(下のコーナーの反対側でほぼフラットなコーナー)でのSさんのコーナリングは、やはりボトムスピードがある地点だけで記録されているようだ。その後速度は上昇するがアンダーステアが出ていたのか19.5秒まで横Gが残っているのでストレートに出てスロットルを開けてもフル加速には及ばなかったはずだ。対してボクは19秒で横Gを消すことができているのでしっかり加速できたということになる。
・結果として、この周に限ってみれば1周20秒ほどの周回路で、Sさんより1.1キロ速い到達速度と0.4秒速いラップタイムを刻むことができたことになる。

閑話休題。運転とは走行中のクルマの状態を把握し、自分の経験なり知識を基にして目的を達成するためにはこういう操作が必要だという仮説を立て、それを実行に移す作業だと考える。ところが仮説がいつも正しいとは限らないから、経験と知識を積み重ねる努力は続けたい。また特にタイヤへの負担が大きい高速で走る時とか小さなコーナーを回る時など、仮説が正しくてもわずかな操作の違いで結果が目的から外れることが多くなる。場合によってはそのつもりなのに自分の立てた仮説通りに操作できていないこともあるだろう。つまり目的を達成するためには、必然的に操作の修正が求められる場面が無数にあるということだ。

YRSオーバルスクールFSWに参加する人はラインから外れそうになるとなんらかの方法で修正する。10秒後に同じ曲率のコーナーに、20秒後には全く同じコーナーにアプローチするのだから、操作を修正する回数は天文学的になるはずだ。しかし、だから徐々に仮説の正確さが増し、修正の幅が少なくなり、冷静に走ればクルマを前に前に進めることができるようになる。それこそ前後輪のスリップアングルの均等化を目指すこともできる。ユイレーシングスクールがオーバルスクールを潜在的ドライビング技術向上ために勧める理由だ。

 

このブログをお読みのみなさん。ぜひ1度YRSオーバルFSWロングを走ってみませんか。仮説の立て方を理論的に説明します。FMラジオを使ったリアルタイムアドバイスで理論と操作の乖離を指摘します。仮説に見合う修正の方法をアドバイスします。クルマとの対話が間違いなく進みます。

・4月2日(日) YRSオーバルスクールFSW開催案内 へのリンク

 


第708回 加速度と速さ

先日のYRSオーバルレースFSWの空いている時間に、SさんのメガーヌRSにパフォーマンスボックスを取り付けて最近走りがスムースになったSさんとボクの走りを比較するために走行データをとってみた。

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データは速度とプラスマイナスの加速度と横向き加速度。右の楕円形の走行軌跡の直線部中間にある緑色の点がスタート/フィニッシュラインで5周したうちのベストラップのグラフ。上ふたつの緑色のグラフが横Gで赤いグラフが速度。下ふたつの紺色のグラフが加速・減速Gで赤色のグラフが速度。それぞれ上側がSさんで下がボクの走り。
Sさんの最高速は108.16キロ。最大横Gは瞬間的に1.131G。最大減速Gは-0.889G。ボクはと言うとそれぞれ109.26キロ、1.105G、-0.972G。ラップタイムはSさんが20秒10で19秒70のボクの勝ち。加速度の立ち上がり方に微妙なちがいがあって面白い。改めて詳しく検証してみたい。
1周20秒のコースで2回コーナリング。しかも同じ曲率でも下のコーナーにはかなりの傾斜がある。荷重のかけ方でラインが変化する180度コーナーを10秒に1回走るのだから意識しないでも運転がこなれる。多くの方にYRSオーバルFSWを走ってもらいたいと思っている。

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3月11、12日(土日)開催のYRSツーデースクールFSW はまだ申込み受付中です。



第707回 2月の富士山とFSWと食

東京での所用を終えて木曜日午後に御殿場入り。土日がスクールだから金曜日にコース設定をする予定だった。ホテルの部屋で2週間天気とナウキャストをパソコンで見ているといやな予感。

翌朝カーテンを開けてさぁ大変。やっぱり。雪が舞ってるし地面がどんどん白くなっていく。

前日富士スピードウエイのコース営業の担当者とどうなるかね、って話していたけどどうにかなってしまいそう。慌てて身支度してFSWへ向かう。246号線はところどころシャーベット。走れなくはない。小山工業団地に上る道もシャーベット。試しにドンとスロットルを開けると前輪が空転。下りで瞬間的に制動力を立ち上げるとツツツツッって。8時半。なんとかFSWに到着するして遠くを眺めると、東ゲートの先の上り坂が真っ白。東ゲートの駐車場はかなりの水深のシャーベット。事務所前の駐車場は積雪。これは無理だなと、土曜日は朝から晴れの予報だから朝一番にコースを作ってもいいし、と担当者に伝えるも、「明日の営業の判断は昼過ぎに」と。降り続く雪の中をホテルに取って返す。
午後になって担当者から「明日の営業は中止です」と電話。FSWを後にしてからずいぶんと降ったみたい。2022年2月のスクールも雪で中止になったけど。2月は鬼門か。急いで参加申込みをした人に連絡。YRSオーバルスクールFSWの中止を伝える。

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金曜日朝8時
ホテルの駐車場に出たらこの通り
粉雪が舞う
どうなる!

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土曜日
快晴
様子を見にFSWに向かう途中
御殿場市山の尻から8時55分の富士山を仰ぐ

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土曜日だから沼津港は混んでいるに違いないと
今回は海鮮料理をあきらめて
御殿場インター近くの大和田さんに

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白焼き
胆も焼いてあります

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うな重
胆はお吸い物ではなく焼いて出てきます

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土曜日の夕食の写真はなし
6時20分
日曜日の朝食
須走の扇屋旅館さんで

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このところ頻繁に来てくれているSさん
実は土曜日のYRSオーバルスクールFSWにも申し込んでくれていた

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日曜日は予報が外れ終日曇り
その上風が強い
それでもYRSオーバルレースFSW参加者は全開に次ぐ全開

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パワーが武器のFFか
計量が利点のFFか
SさんとAさんのバトル



第706回 続・クルマとの対話が楽しい

705回 クルマとの対話が楽しい』を読まれた方から、「4輪操舵車の場合はどうなんだ」という話があった。第349回 4コントロール 同位相でも触れているけど、改めてメガーヌRSに搭載されている4輪操舵システム、4コントロールのコーナリングについて自分の経験を。

ルノー・ジャポンから借りているメガーヌRSトロフィーには4輪操舵装置である4コントロールが備わっている。高価な装備の目的は、前輪操舵車がコーナリングする際に起きる可能性のある前後タイヤのグリップの不均衡を是正するためだ。

前回説明したようにターンイン直後や高速コーナリングではクルマの向きを変えるために前輪が猛烈に働いている。特にアウト側前輪。タイヤが働くということは路面との間にズレが生じ、簡単に言えばそれがそのままタイヤのグリップの増加につながる。一方の後輪は他力本願的に遠心力を受けるまで路面とのズレを生じないから、どうしても前輪に比べるとグリップが不足がちになる。前後輪にグリップの差が生まれるとクルマがバランスを崩す可能性が高まる。それを補おうというのが4輪操舵の思想だ。

もちろん、だからと言って前輪操舵車の旋回特性が4輪操舵車に全面的に劣るかというとそんなことはない。100年以上も前から馬車の系統を引き継ぎクルマは前輪がステアするのが当たり前だった。現代の前輪操舵装置、例えばダブルアクシスストラットなど完成の域に達していると言ってさしつかえない。繰り返しになるけど、クルマが曲がらないのは運転手が曲げ方を知らないだけなのだ。

改めて簡潔に言えば、4輪操舵装置はクルマを曲げるということに対してフールプルーフ思想を実現したものだと言える。

さて、メガーヌRSトロフィーの4コントロールはある速度で後輪のステアが逆になる。低速域では後輪は逆位相に、高速域では同位相に変位する。

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主に低速時
4輪操舵車逆位相コーナリングでのタイヤの軌跡
 
現実にはあり得ないけれど視覚的な理解のために

それぞれに目的がある。後輪が逆位相で転舵した場合、舵角が同じだとすると(そんなことは現実にはないけど)後輪は前輪の軌跡を踏みながら転がる。つまり理論的には内輪差がなくなる。車両間隔がつかみやすくなる。後輪もクルマの向きを変えるから小回りが効くことになる。

実際のところはどうか。湖西道路を降りてからわが家へ向かう途中に十字路を左折する。変形の交差点で左折は鋭角に曲がることになる。ある時メガーヌRSトロフィーと以前借りていたルーテシアRSでは明らかにハンドリングが異なることに気が付いた。どこが違うかと言うと・・・。
引手でステアリングホイールを回すので左手を時計の11時あたりに持っていって、それを7時くらいまで引き下げる。違いは、ルーテシアRSの場合は手を引いてから1拍ぐらいホールドする間があったのだけど、メガーヌRSトロフィーの場合は7時まで引いたとたんに戻し始めないとイン側に巻き込むような挙動を見せたのだ。ステアリングホイールを引く速度を速めると7時まで引く必要がない場合もある。腰で感じるリアのロールに起因する横Gが少ないから、4コントロールがクルマのコーナリングに積極的に関わっているのがわかった。


メガーヌRSでYRSトライオーバルFSW走る。4コントロール逆位相が見てとれる。

 

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高速走行時
4輪操舵車同位相コーナリングでのタイヤの軌跡
 
同位相の場合は旋回中心があいまい
クルマ任せになるけど
クルマが平行移動する感じ
 
あくまでもイメージです

高速域で後輪が同位相にステアするのはクルマを安定させることが第1目的。高速で走っている時にステアリングを切る。高速だから舵角のついた前輪には比較的大きなズレが生じる=前輪のグリップが極端に高まる≒後輪のグリップは低いままではクルマがバランスを崩す可能性が高い。具体的に言えば、急なステアはオーバーステアにつながるはずだ。
そこで後輪を同位相にステアさせることにより前輪に舵角がつくと後輪にも舵角がつき、後輪に遠心力がかかるのを待たずに後輪のグリップを前輪のそれにみあった大きさにしてバランスをとる。換言すれば本来前輪駆動車では他力本願的に後輪に遠心力が働くのを期待するしかなかったのを、自立本願で必要なだけのスリップアングルを手に入れることができるようになり4本のタイヤでのコーナリングを実現できることになる。

大津の自宅に最初のメガーヌRSを配車してもらい初めてFSWに向かった時のこと。新名神の草津ICから東に向かうと高速道路にしては曲率の小さなコーナーがひとつある。登りの左コーナーでこれまた高速道路にしては大きめのカントがついている。
初めてのメガーヌRSだったが少しばかりオーバースピードでターンイン。どんな場合でも一発でステアリングを回さずに探りながら切り足すのだけど、いつもなら切り足していく過程で腰で感じる横Gが増えるはずなのにそれがない。横Gが抜けたと言うか、ある程度ステアリングを切った段階でクルマが旋回ではなく、何と言うか、円運動をしながら平行移動したと言うか。横Gが増えなかったのには戸惑ったけど、よくよく考えればアウト側前後輪の負担も増えなかったのでこれが4輪操舵が目指すところなのだと納得。逆に、このコーナリングを自分の手柄だと勘違いする人が出なければいいなとも思った。

ということで最後に一言。

自動車技術の進化はめざましい。人間は昔に比べれば安直にクルマを運転できるようになった。クルマの性能に助けられて運転している人も多いはずだ。でも今までもこれからもずっと、クルマを手放しで運転できるわけがない。やはり我々の生活を豊かにしてくれるクルマに畏怖の念をいだき、自分も運転を上手くなろうという気持ちを持つことが大切ではないかと改めて思う。



第705回 クルマとの対話が楽しい

クルマの機能は加速、減速、旋回の3つだけ。そのうち加速と減速はクルマが直進状態にある時に性能を発揮しやすいことがわかっている。逆に旋回中のクルマの加減速には大きな制約があることも周知の事実。ということは、クルマはそもそも旋回が苦手なんだ、と言えるかも知れない。という前提で原因と対策を考えてみる。

705-1
旋回しているクルマの4本のタイヤの軌跡

前輪にステアリング装置がついているクルマがコーナリングをする時、その旋回中心は後輪の車軸の延長線と左右前輪それぞれの車軸の延長線が交わる点になる。ステアリングを切るとまずフロントが向きを変え始め後輪がその跡を追うが、旋回中心との位置関係で内輪差が生まれる。舵角が大きければ大きいほど内輪差も大きくなる。クルマがコーナリングを終えた時、最終的に最も長い距離を転がったのはアウト側の前輪。4本のタイヤのうち最も働いたことになる。これが第1の伏線。
図のようにクルマがコーナリングしている時、遠心力が働きクルマはコーナーの外側にロールし荷重はアウト側の前後輪に大きくかかっている。速度を上げれば上げるほど遠心力が大きくなるからアウト側前後輪への負担はますます増える。運動エネルギーは上昇した速度の二乗に比例して大きくなるから、クルマの向きを変える役割りをほぼ一手に引き受けているアウト側前輪の負担は他の3本と比べものにならないほど大きい。第2の伏線。
速度が速ければ速いほど、そして舵角が大きければ大きいほど負担は増すから、アウト側前輪が悲鳴を上げる可能性を無視することはできない。

705-2
アンダーステア発生時の軌跡と前後輪のスリップアングル

ステアリングを切るとまず前輪がたわむ。直進方向に向いていた大きな運動エネルギーの向きを変えるために前輪はたわみ、路面とズレながら回転し徐々にクルマの向きを変え始める。この時タイヤの向いている方向と実際にタイヤが進む方向、正確に言えばホイールの向いている方向と実際にタイヤが進む方向のズレを生じる。ホイールが転がる方向に対するタイヤのズレをスリップアングルと呼ぶ。遠心力が働くからタイヤは本来の向きより外側に向かって転がり続ける。やがて前輪に遠心力が働き始めれば、遠心力もスリップアングルを増加させる源となる。
一方ステアリングを切った瞬間にはまだ後輪には遠心力が働いていない。後輪にはステアリング装置がついていないから後輪と路面のズレ=スリップアングルは遠心力に頼らなければ生じない。つまり、ある瞬間には前輪にはスリップアングルがついているが後輪にはそれがついていない、もしくは前輪のスリップアングルが後輪のそれより極端に大きいという状況が存在するということになる。

ここで注意すべきなのが、タイヤが路面との間にズレを生じた場合、あるところまではズレの増加がグリップの増加につながる点だ。だからタイヤにスリップアングルがつくことを否定する必要は全くない。タイヤのグリップ自体は向上するのだから。問題になるとすれば4本のタイヤそれぞれのスリップアングルの大きさだ。

もしコーナリング中のクルマの前後輪のスリップアングルの大きさ=タイヤのグリップに差があれば、前輪>後輪あるいは前輪<後輪を問わずクルマがバランスを崩しやすくなるのは明らかだ。バランスを崩さないまでも、図のように何らかの理由で前輪に過大なスリップアングルが発生してアンダーステアに陥った場合、グリップが大きくなってない後輪は働いていないのだからコーナリング速度自体が速くない。サーキットを走る時にアンダーステアを出してはだめだと言われる所以だ。

自動車学校で「急ハンドルは駄目ですよ」と言われるのも、前輪に比べてグリップが低くなった後輪が引き起こす不測の事態を避けるためだ。

さて、クルマが大なり小なりアンダーステアに陥る過程がわかった。クルマが曲がる時に常に大きな負担を負っているアウト側前輪が悲鳴を上げて役割を果たせなくなったのが原因だ。ではどんな操作をしたのか。大きく分けてふたつ。
ひとつはターンインの時に俗に言う『バキ切り』、一瞬にして大きな舵角を与えた時。ふたつ目はブレーキングで前輪に大きな荷重がかかっているのにステアリングを切った時だ。どちらもアウト側前輪のグリップが無限だと勘違いしている操作だ。運動エネルギーの方向を変えるには全くもってふさわしくない。

結局のところ、加速と減速についてはクルマ任せでも構わないが、ことクルマを曲げることに関しては4本のタイヤの使い方を正しく学ぶべきだろう。タイヤの路面を捕まえる力には限界があるのだから、練習して工夫して限界を越えずに限界を高める操作ができるようになれば、本来クルマが苦手であろう旋回の次元を上げられると言うものだ。クルマ固有の旋回性能をどれだけ限界近くまで引き出せるかは乗り手次第だと言える。

折に触れ、個人的に『発進から停止まで前後輪のスリップアングルを合計した時にそれぞれの和が限りなく等しい走り』を目指していると言ってきた。クルマを安全に速く走らせる唯一の方法だと思うからだ。長い間クルマと対話してきて導き出した結論だ。

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コーナリング特性3態

ブログの702回に登場してもらったKさん。改めて極端に冷たいウエット路面のYRSオーバルスクールFSWに参加した彼の感想を紹介したい。

「トレイルブレーキの1なんかはまさに中低速コーナーのコーナリングスピードを上げるには必須だし、フルブレーキの練習も大いに役立ちました。ドンブレーキのやり方を誤解しているところがありました。何よりも横乗りでのコーナリングは、FF車を早く走らせる為のベストな解を体感させていただいたと思っております、まさに私が求めている運転技術でした」。

あの日。半径22m直線60mのYRSオーバルFSWでトレイルブレーキングの練習をしていた時。Kさんの走りを見てふたつのことに気が付いた。ひとつはスロットルオフが奥でブレーキングが強いからターンインまでに車速が落ちすぎるのとターンインの瞬間の姿勢が前のめり。もうひとつはトレイルブレーキング中の踏力が強いのだろうブレーキを引き摺っている間に失速すること。路面が滑りやすいというのも影響しているのかも知れないから、Kさんを助手席に『前後輪のスリップアングルの合計が均等』な運転を目指す操作を見てもらうことにした。
・YRSオーバルFSWはインベタでの練習だから180度コーナーの後半120度くらいを積極的にイーブンスロットルを使ってボトムスピードを上げる。
・立ち上がりで瞬間的にステアリングを戻しできるだけ手前でフルトラクション。到達速度を速めスロットルオフを遅らせずに右足をブレーキペダルに。
・パッドとローターが触るか触らないかの位置を探りわずかに抵抗を感じたらそのまま速度を落とさずにターンイン。
・ステアリングホイールを手のひらの摩擦で回すように慎重に。最初の舵角はごく小さく徐々に大きく。
・右足の位置はそのままで赤いパイロンの3本目ぐらいまでトレイルブレーキング。前輪のインリフトがないからフロントが逃げることはない。
・ブレーキを残しつつ探りながらステアリングを回す。180度コーナーの最初の3分の1に達しようという頃リアが穏やかに流れ始める。
・右足をスロットルペダルに戻し少しだけ開けてリアを落ち着かせてからステアリングを切り足すと再びリアがアウトに出るからスロットルオン。
・これが目指す挙動。ゆっくりごくわずかにスロットルを戻せば舵角が一定でもリアにスリップアングルがつく。
・4輪ともアウトに流れる兆候がを感じたらステアリングホイールを持つ手に少しだけ力をこめてラインをタイトにする。
・微妙なステアリングワークとごくわずかでゆっくりなスロットルのオンオフでクルマは円運動を続ける。
◎舵角がついている駆動輪である前輪のスリップアングルが過大にならないようにしながら、同時にではなくてかまわないので後輪にも前輪と同様のスリップアングルがつくように十分な遠心力を受けられる速度を維持した結果だ。

KさんのルーテシアRSは明確にフロントが逃げるアンダーステアにもズルッとリアが出るオーバーステアにもならずインベタのラインも外さずにコーナーを回ったが、厳密に言うと実は穏やかで微妙なアンダーステアとオーバーステアを繰り返しながら円運動をしていたのだ。それをニュートラルステアと呼ぶべきかどうかは別にして、FF車であろうとアンダーステアでしかコーナリングができない訳ではない。おそらくこれをKさんは探し求めていたのだと思う。

4輪がコーナーのアウト側に流れながら狙った通りの軌跡をたどりクルマが前へ前へと進む。前後輪の流れる量が最終的に同じになるように操作すれば、クルマはバランスを崩すこともなく我々が想像するよりも高い速度でコーナリングをすることが可能だ。それを実現するためにも、前後輪のスリップアングルを意識することが大切になってくる。

そんな訳ですから、YRSオーバルスクールFSWでタイヤのスリップアングルを意識しながら走ってみてはいかがでしょう。ご参加をお待ちしています。
・2月11日(土)開催 YRSオーバルスクールFSW開催案内へのリンク

 

 

 

 

※ 内輪差の話が出たついでに。
ニュースで知ったのだけど左折する時、いったん右にステアリングを切ってから左に曲がる迷惑な左折方法があって『あおりハンドル』と言うらしい。ガードレールとガードレールの間に入るような左折の場合はクルマの側面をこすりそうな感じになり、そうしたくなる気持ちもわからないではないけど、右に切るのはやめたほうがいい。自分が『バキ切り』をするので内輪差を少なくするためにいったん右に振らざるを得ないのだ、と告白しているようなものだ。最初の舵角を少なく徐々に切り足していけば、あるいは速度を落とすかすれば解決するのだから。
交差点に立って他人のステアリングワークを観察するのも面白い。まずほとんどの人が探りもせず躊躇しないで一気にステアリングホイールを回している。パワーステアリングのない時代にはできなかったことだ。自動車技術の発展が人間を油断させているひとつの例と言ったら言い過ぎか。

 


第704回 待望の

今年初めて沼津港まで足を延ばした。毎月1回はおじゃましている沼津市場前のむすび屋さん。
寒い時期なので海老天丼をいただいた。カウンターの向こうでパチパチと音がする。間もなくして熱々、プリプリの海老が5本乗った天丼が。追加でかけられるタレガついているのも嬉しい。

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2月にまたおじゃまします・4



第703回 忘れてた

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2023年1月13日
9時47分
今年初めての富士山を御殿場市山の尻から仰ぐ
やはり暖冬なのかしらん

 

127-11
2017年
1月7日の富士山を御殿場市山の尻から仰いだ
まだ周囲に人工的建造物はない



第702回 嬉しいね X 2

2020年からポルシェクラブ東京銀座の依頼でドライビングレッスンを開催している。昨年はFSWの駐車場でオーバルレッスンと散水車で水を撒いてのドリフト練習、それと筑波サーキットコース1000でイーブンスロットルとトレイルブレーキングの練習をした3回。カリキュラム自体はユイレーシングスクールのそれに準じるものだけど、ポルシェ乗りに向けてプラスアルファも加味している。
今年は4回の開催を予定していて1回目はFSWの駐車場でのYRSオーバルロングが舞台。ドライビングポジションの確認に始まりブレーキペダルの踏み方、ステアリングホイールの回し方の説明、イーブンスロットルとトレイルブレーキングの練習をした後は全開で走りっぱなし。参加した人全員がふだんはなかなかできない愛車の全開走行をを堪能していた。

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あれこれ説明するのだけれど
参加された方は真剣そのもの
聞く方の熱意が伝わり説明に力が入る

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全ての走行が終わればこの通り
「先生は真ん中に!どうぞどうぞ」
それではと
和気あいあいのクラブミーティングです

 

それはそうと、朝座学を始めようとすると会長のFさんが「トムさん ちょっと待って。プレゼントがあるので」 と。 ついぞプレゼントなどもらったことがないのでドギマギしているうちに渡されたのが写真の人形。 嬉しいね。なんか照れくさいけど。

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ちゃんと包装がしてあって

702b
可愛らしいレーシングドライバー
クルマのウインドウに吸盤で取り付けるタイプかな

702c
レーシングスーツにはちゃんと『TOM』の名前入り
ありがとうございました
クラブ員のみなさん

 

翌日は同じコースでYRSオーバルスクールFSW。遠路はるばる神戸からKさん、大津からTさんが来てくれました。感謝です。

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左からTさん、ワタクシ、Kさん
朝一で写真を撮っていたら雨が
結局最後まで路面はウエット
それなりに滑ったから大いに収穫はあったけど

 

帰宅してパソコン立ち上げたらKさんからのメールが届いていた。嬉しいね

トム先生
本日はありがとうございました♪ 久しぶりに参加させていただきましたが、やはり目から鱗が多々ありました!
トレイルブレーキの1なんかはまさに中低速コーナーのコーナリングスピードを上げるには必須だし、フルブレーキの練習も大いに役立ちました。ドンブレーキのやり方を誤解しているところがありました。
何よりも先生の横乗りでのコーナリングは、FF車を早く走らせる為のベストな解を体感させていただいたと思っております、まさに私が求めている運転技術でした。
また、天候はあいにくの雨でしたが、スリッピーな路面を出来るだけハイスピードで抜ける経験は一般道ではリスクが高すぎて出来ないので、今日はとてもラッキーでした。また参加させていただきますので、その折には宜しくお願い致します。先ずはお礼まで!