第279回 軌跡
しばらく前に、スタッフのKさんがフェイスブックにアップした写真。なんでも、Kさんが駐車場を出た後に奥さんが撮ったものだというが、ここまでクルマの動きを想像させるものは貴重。薄っすらと雪が積もった状況もめったにあるわけではないし、再現するのは難しいだろうし。
4輪の軌跡が明確に示されているからあれこれ見えてくるものがある
・まず前輪が進む軌跡と後輪の軌跡の違いが明白だ
・前輪と後輪が同列上で発進し徐々に内輪差が生まれコーナリングの終わりに収束するのがよくわかる
・次に内輪差の大きさに注目しなければならないだろう
・こんなに大きいのだ
・だが外側前後輪より内側前後輪の内輪差ほうが大きいね
・内側前後輪のほうが回転中心に対して近いからだな
・でも前後輪の軌跡から想像するとホイールベースが長いと内輪差が大きくなるのがわかるね
・それにしても、据え切りしたまま発進しないで直進状態で発進して転舵しているのは ◎
・だけど右コーナリングが終わり左コーナリングに移ると内輪差がない !?
こういう状況だとKさんがやらないわけがないけれど
本人曰く
「ゼロカウンターくらいだけど右に左に少し滑らせて出てったの分かっちゃう?(^^;)」
やっぱりね
第278回 吉田塾
ユイレーシングスクールは18年の間に様々なカリキュラムを用意してきたが、今回初めて、参加者にどんなことを学びたいか聞いて、それに応じる内容のスクールをやってみた。題して吉田塾。
申し込み時に知りたいことややってみたいことを書いてもらった結果、
・自分のクルマの特性を知りたい
・オーバーステアが出た時の対処方法を知りたい
・コーナリングの限界速度の見極め方を知りたい
・運転の癖を知りたい
・上りと下りのコーナーのブレーキングの踏み方を知りたい
・スピンしてみたい
といった声が寄せられた。
それではというので、いつも使っているFSWの駐車場に半径28mの120度コーナーをパイロンで設定。オーバルコースのように奥が深いコーナーは、コーナーの奥に行くほど速度が落ちてしまうので、オーバーステアに持ち込むのが難しいからだ。
できれば90度ぐらいのコーナーでやりたかったのだけど、コーナーの前後のストレートの幅を14m確保し、コーナー区間は20mのコース幅を取るとなると、駐車場の形状からして120度回さないとならなかったのだ。
それでもオーバルコースよりはコーナーが浅いのでオーバースピードに対して挙動がはっきり出るはずだった。
コース幅14mというと高速道路の3車線より広い
サーキットでも幅員14mはない
広くするのはどこを走ったらいいのか「迷ってもらうため」と
安全に走ってもらうため
せっかく初めてのコースを走ってもらうのだからと、ユイレーシングスクール始まって以来初めて、朝一番の座学をやめて後回しに。ユイレーシングスクールを初めて受講する方もいたが、自分なりに走ってもらうことにした。
リードフォローでコースを覚えてもらい、次に単独で少しずつペースを上げて走ってもらう。ところが誰もスピンしない。
「あと5キロぐらいターンインの速度を上げてみて下さい」のアドバイスに応えてくれるのだけれど、オーバーステアにはならない。
なかなかオーバーステアが顔を出さない
決して遅いわけではなく操作がていねいだから
クルマがバランスを崩さない
コース幅を広く取りすぎたためアウトインアウトで走るとコーナーの曲率が大きくなって、全員がそれなりに全開で走っているのに、クルマがバランスを崩すまでの速度に到達しないままターンインしている可能性があるな、と。
で、助走が長く取れる逆回りにしたら、ようやくバランスを崩しそうなクルマがちらほら。
「もう少し速く入ってみましょう」と何回かはっぱをかけると、ようやくスピンするクルマが。
結局、スピンというのは瞬間的なオーバーステアなわけで、オーバーステアというのはフロントタイヤよりもリアタイヤのスリップアングルが大きい状態のことをさすわけで、基本的にアンダーステア傾向に作られている量産車がオーバーステアになることはまれ。リアタイヤのグリップがフロントタイヤのそれに比べて極端に少なくなるような操作をしない限り、オーバーステアとは縁遠いものなんですよ、と説明。
今回もスピンしたのはオーバースピードが原因ではなく、コーナリング中にスロットルを緩めたために過重が移動した結果だった。
クルマがバランスを崩さないように操作すればスピンやアンダーステアとは無縁ですよ、4輪の過重配分をコントロールできれば4輪を使ってクルマを動かせますよ、と昼休みに座学をやって、午後からはいつものオーバルコースでオーバースピードでターンインする練習と、前後タイヤのグリップバランスを微妙にかつ積極的に変えるトレイルブレーキングの練習をしてもらった。
午後遅く
逆光気味の富士山がきれいだったから
富士山を背景に記念撮影とあいなったのだけど甘かった
人も逆光だった(笑)
今のクルマはほんとうによくできている。タイヤのグリップや剛性も一昔前とは雲泥の差だ。意識的にクルマのバランスを崩そうとしても、簡単にはバランスが崩れない。
クルマが運動力学にのっとって作られている以上、物理学的な操作を学び実行すれば、クルマは安定して思い通りに走ってくれるということだ。
参加してくれた方はそれなりに収穫があったようで笑顔の解散となったけれど、「スピンするにはスピンするような操作をするからです」と説明するのも必要だけど、オーバーステアを実際に体験してもらうのも大切かも知れないと改めて思った。なんとか工夫してもっと『スパッ』って回るレイアウトを考えてみよう。
第277回 ラウンドアバウト
それほど遠くないところに滋賀県唯一のラウンドアバウトがあるという。 ラウンドアバウト自体はイギリスで経験済みだけど、当時の記憶もあいまいになってきたし、ここは滋賀県守山市立田町に行ってみるしかないなと。
最初にGoogleで下調べ
守山市立田町のラウンドアバウトのbird’s eye view
田園地帯の中にあるような
行ってみて
守山市立田町のラウンドアバウト手前で南西方向を望む
見通しのよい田園地帯の中にあった
いまだかってお目にかかったことはないけど日本にも法令で定める円形交差点(ロータリー交差点)なるものがあるらしい。2013年に道路交通法が改正され、このあたりがまさにアバウトなのだけど、円形交差点に加えて安全性を高め交通の円滑な流れを実現するために、ラウンドアバウトが環状交差点として運用されることになったらしい。
今回はラウンドアバウトを見るのが目的で行ったから心の準備(?)ができていたからいいようなものの、予備知識なしにここを通過することになったら大いに面食らうだろうな、と。
クルマを停めて歩き回ったけれど、行く手に環状交差点があることをうかがわせる標識はこれだけ。
円のような部分を環道と呼ぶらしい
で、環道を走るクルマが優先らしい
存在が極めてまれな交差点なのだから、初めて通過する人も迷わないようにきちんと予告する手立てをとるべきだ。安全で流れを妨げませんと言われても、作って終わりでは困る。
環道へ進入する道と脱出する道の間にある部分を分離島と呼ぶらしい
だから4枚目の写真のキャプションは中央分離帯ではなく分離島が正解らしい
その分離島にある注意書き
中央島のまわりにはエプロンと呼ばれるたしい少しだけ高くなっている部分がある
乗り上げても問題ない段差だ
ホイールベースの長いクルマの内輪差を吸収するためらしい
ショートカットのためではないらしい
環道への進入路の正面になる部分の中央島になにやら矢印様のものが
中央島にソーラーセルが設置されていたから夜間に点灯するのかも知れない
確かに、信号機のない交差点で安全確認のために一時停止をしなくてすむのは発進加速が減るわけだから、燃費が良くなって環境には優しいのかなぁ、と思う。
確かに、止まらなくていいですよ、と言われると、逆に動いている他のクルマの動きを注意しなければならないから、運転手の集中力を高めることにつながるのかなぁ、とも思う。
でも、守山市立田町のラウンドアバウトを見て、走った感想は、これといって信号機のない交差点をラウンドアバウトに置き換える決定的なメリットはないな、と。
田園地帯にはそれこそ星の数ほどの交差点があった。安全を確保するためとはいえ、それら全てをラウンドアバウトに置き換えるのは現実的ではないし、地価の高い都市部では設置自体が不可能だろう。通過交通量が増えると機能が低下すると言われるラウンドアバウトが、円滑な流れに対して万能であるはずもない。それにコストだってかかるはずだ。
安全で円滑な交通の流れを実現するために行われる試みを全て否定するわけではないけれど。
ネットに載っていた、環道を走行中のクルマがいたら徐行または停止、環道に入ったら左端に沿って右旋回、環道を離脱する道のひとつ手前の道からウィンカー、の走り方を、思ったより小さなラウンドアバウトで試しながらそう思った。
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第276回 優先順位
JAFが、信号機のない横断歩道を歩行者が渡ろうとしている場面でどれだけのクルマが一時停止するか調査したことがあった。その数字を見ると、2017年の調査で8.5%のクルマしか止まらなかった。2016年は7.6%だったという。
調査の方法等はJAFの頁に詳しいが、 ようするにだ、 『信号機のない横断歩道をあなたが渡ろうとしていても、向こうから100台のクルマがやってくるとして最初の91台はまず停まってはくれないよ』 と例えるのは乱暴か。
結果を受けて昨年、JAFは一時停止しない理由などを聞くアンケートを実施、「信号機のない横断歩道」でクルマは依然として止まらない 一時停止率は8.5% というタイトルで、歩行者がいる場合は一時停止をするのが当たり前をいう視点からレポートしている。
いろいろな設問があるが、ここではなぜ一時停止しなかったのかその理由を見てみたい。※アンケートは複数回答
①自車が停止しても対向車が停止せず危ないから:44.9%
②後続から車がきておらず、自車が通り過ぎれば歩行者は渡れると思うから:41.1%
③横断歩道に歩行者がいても渡るかどうか判らないから:38.4%
④一時停止した際に後続車から追突されそうになる(追突されたことがある)から:33.5%
⑤横断歩道に歩行者がいても譲られることがあるから:19.9%
⑥自車が停止した際に後続車からあおられる(クラクションを鳴らされる等)から:12.6%
⑦自車が停止すると後続で渋滞が起きてしまうなど、後続車等に申し訳ない気持ちがある(交通流を乱したくない)から:12.0%
⑧一時停止することが面倒だから:8.9%
⑨先に横断歩道があることが判りにくいから:7.6%
⑩何も考えていない:5.2%
⑪そもそもこのような場面で歩行者優先だったということを知らなかった:4.2%
⑫警察が取り締まりしていないから:3.7%
⑬その他:6.4%
面倒だからとか、何も考えていないとか、警察が取り締まりをしていないからなんて理由には驚くが、総じて見れば歩行者がいても積極的に停まろうとしない人が多いのがわかる。クルマを運転している人も歩行者になる場面があるはずなのに、立場が変わると意識も変わるということか。
JAFは『横断歩道における歩行者優先が交通ルール (原文ママ)』であり、『横断歩道を横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない』とし、『歩行者がいる場合にはまず減速してその動きを注視して一時停止しましょう。また、歩行者も横断をしようとする際にはドライバーに横断する意思表示をして、お互いに安全に努めましょう』とレポートを結んでいるのだが・・・。
確かに、道路交通法第38条には歩行者優先が謳われているけれど、信号のない横断歩道に歩行者がいたら、いかなる場合も一時停止しましょう、というのは現実的でない。
屁理屈に聞こえるかも知れないが、第一章第一条にあるように道路交通法は「交通の安全かつ円滑な流れ」を実現するためのものだ。歩行者優先が一人歩きして横断歩道の手前で停まらない運転者はけしからん、という流れは危うい。歩行者がいても、停まることで交通の流れを阻害するのであれば止まらないほうがいいこともある。
自分が遵法精神にあふれているとか、自分が優良運転手だとか思ったことはこれっぽっちもないけど、運転している時にあらゆる場面の判断に優先順位をつけることは怠らない。その順位をつけるためのたたき台が「交通の安全かつ円滑な流れ」という思想だ。法律が全て正しくて従わなければならないとは思わないが、クルマを安全かつ効率的に動かすためには自分なりのルールがあるといい。ルールがあれば判断に迷うことがないし、すばやく判断をくだせる。
信号機のない横断歩道に歩行者がいたら一時停止するのは
・高齢者が待っている場合
・複数人が待っている場合
・後ろから来るクルマが遠くにいる場合
・前を走るクルマとの距離があいている場合
・先の信号でひっかかると判断した場合
信号機のない横断歩道に歩行者がいるのに停まらないのは
・前後に複数のクルマがいて一定の速さで流れている場合
・後ろのクルマが車間距離をつめている場合
・歩行者が下を向いている場合
・歩行者がスマホをいじっている場合
横断歩道に関してもこれが全てではないし、右折時とか細い道を走る時とか雨の高速道路とか、やってはいけないこと、やったほうがいいこと、やるべきことを仕分けするため、そしてあらゆる場面で安全かつ円滑にクルマを走らせるために自分なりのルールを作り積み上げてきた。クルマの運転中は次から次へと判断を下さなければならないけど、自分の行動が交通の流れを乱さないように心がけるのは心地よいもんだ。
※ 掲載した写真はイメージです