トム ヨシダブログ


第728回 ABS考察

ABS。Anti-lock Brake System。アンチロック・ブレーキ・システム。今やほとんどのクルマが装着しているであろうABS。

ブレーキング時に制動力がタイヤのグリップを上回った時や路面の摩擦係数が極端に小さい場合にタイヤがロックすると、タイヤは回転しないで路面上を滑走することになりステアリング操作をしてもクルマの向きが変わらなくなる。結果として危険回避の可能性が減少する。そこで、機械的に制動力を低下させタイヤに回転力を与え、タイヤが回転したら再度制動力を高める。これをごくごく短いサイクルで繰り返すことにより可能な限り平均的に高い制動力を維持しながらもタイヤのロックを防ぎ、かつステアリング操作でクルマの向きを変えることを可能にするのがABS。

経験的に、ミリセコンドの単位でもブレーキラインの油圧を減らすのだから減速Gは弱まるはずで、ABSが効いている間はそれが繰り返されるのだから結果として制動距離は伸びると思うのだけど、ABSの記述の中には『ほとんどの路面でABS非装着車と比較して制動距離が短くなる』と書いてあるモノがある。本当にそうなのか。

そこで、あくまでもユイレーシングスクール独自の方法ではあるけど、ABSが働いた時の減速Gの変化をGセンサーとパフォーマンスボックスを使って可視化してみた。
方法はこうだ。とにかく100キロ近くまで加速しユイレーシングスクールで言うところのブレーキを蹴とばす。操作としてはトランジッションを挟まず、スロットルオフと同時にブレーキペダルを一気に踏みこむ。ジムラッセルレーシングスクールで言うところのブレーキペダルをスクィーズするのではなくスタンプする。その結果が次の動画。

蹴とばしブレーキの減速Gの立ち上がり方をGセンサーで捉えたもの。開始8秒くらいのフラッシュ後は4分の1スローで再生。26秒くらいからバーが上下に大きく振れ落ち着かない。下に掲げたパフォーマンスボックスのグラフの④に該当すると考えられる。

728b

上の図はパフォーマンスボックスから速度と加減速Gを拾ってグラフにしたもの。赤い線が左目盛の速度。青線が右目盛の加減速G。そこには、経験的にこうだろうなとうABSが介入した時の減速Gの増減が見てとれる。

・加速して最高速が110キロプラスになるあたりでスパッとスロットルオフしてブレーキペダルを瞬時に踏みこむ=①左端
・たちまち減速Gが立ち上がありマイナス1Gを記録=②左端
・その後速度の低下は続くが減速Gの増加は見られない。タイヤのグリップを使い切っているのか=②
・ブレーキペダルを力いっぱい踏みこんでいるが減速Gが減少を始める=③左端
・1秒の間に加減速Gはプラスマイナスゼロに=③右端
・ABSが作動し加減速Gは2秒ほど横ばいで速度も13Km/hあたりで変化なし=④
・再度減速Gが立ち上がり速度も低下し始める=④右端
・速度がゼロになる直前に減速Gが減っているのは停止に備え踏力を抜いているから=⑤

ブレーキング中に何が起きているか正確に検証する術は持たないけど、パフォーマンスボックスが拾ったデータから、ブレーキを蹴とばすした場合ブレーキペダルを思いっきり踏み続けABSが介入している状態においては、クルマが減速をしていない=速度が低下しない時間があることがわかった。すなわちABSが介入せず速度が低下し続ければもっと短い距離で停止できたであろうことは想像に難くない。

ユイレーシングスクールではどのカリキュラムでも希望される方にはブレーキングの練習をしてもらっています。まだABSを働かせたことのない方、ご自身のブレーキングが蹴とばしているか確認したい方、直近のスクールは6月10日(土)開催のYRSオーバルスクールFSWです。
YRSオーバルスクールFSW開催案内をご覧の上、ぜひご参加下さい。クルマとの対話が進むこと請け合いです。



第719回 ローンチコントロール

駐車場だから加速距離は長くないしスタート地点には砂が浮いているからメガーヌRSトロフィー本来の性能ではないと思われるけれど、ローンチコントロールを可視化したらいろいろ見えてきた。


トライは2回だけ。1回目は完全に止まる前録画中にしゃべってしまいボツ。記録は1回目が良かったのだけれど。

719-1
横軸が経過時間
左目盛の赤線が速度を表し右目盛の青線が加減速Gを表す
 
グラフ左端から0.19秒で速度ゼロから発進

YouTubeにあげた動画と同じランだけど記録した数値に違いがあるのはパフォーマンスボックスやiPhoneの取付位置や取り付け方によるものか、それぞれのデバイスのデータの拾い方によるものなのか現時点では不明。

719-2
発進から1.21秒で最大加速度0.586Gを記録
その時の速度が」13.68Km/h
 

発進時は明確なホイールスピンが起きた。しかし昔ながらの高出力のマニュアルシフト車でクラッチをドンとつないだ時のようなホイールスピンではなかったような気がする。経験からすると、エンジン出力から考えれば空転に近いホイールスピンが起きてもおかしくはなかった。何かが介入していた?

719-6
0.5G以上の加速が4.5秒ほど続く
スタート後4.46秒で72.27Km/hを記録
 

この間、時間の経過とともにエンジン回転が上昇しそれに見合った加速度の増加があるはずなのだけど、それが見られなかった。それでも速度が確実に上昇していることを考慮すると、滑りやすい路面、あるいは大きなエンジン出力に対応するため、加速度を押さえる方向でなんらかの制御が入っているものと推察される。
スタート後3.4秒あたりで速度の上昇によどみがある。1速から2速へのシフトアップだろう、加速度にもわずかな落ち込みが見てとれる。対して2速から3速へのシフトアップは5.3秒あたりか。こちらは動画の音声からもわかるが一瞬加速度の鈍化が感じられる。いずれにしろシフトアップ時に加速度がマイナスに振れないシームレスなシフトアップはさすがEDC。

719-3
スタート後7.40秒でこのランの最高速度110.30Km/hを記録
この時の加速度はプラス0.062G
加速度がマイナスになるのは7.46秒時で110.22秒/-0.002G
 

スタートから7.3秒あたり。最高速度に達する前に加速度は大きく減少を始めている。と言うことは、それ以前にスロットルが閉じられていることになる。換言すればスロットルオフ後もクルマは加速した、ということになる。しかも最高速度を記録してからコンマ5秒ほど110Km/hあたりを維持している。運動エネルギーが持つ一面。
スロットルを開けつづければそれだけ運動エネルギーが増加する。スロットルオフと同時にクルマが減速を始めることがないとすれば、状況によってはスロットルを閉じてもクルマがさらに加速する可能性があるわけで、サーキットでブレーキを我慢してスピンしたりコースアウトする人やブレーキをオーバーヒートさせる人はブレーキを遅らせることで短くなった減速区間で速度を落とそうとクルマが加速状態のまま=荷重がリアにかかり前輪のグリップが低下している状況で過大な制動力を立ち上げているのではないか、ユイレーシングスクールで言うところの『蹴とばしブレーキング』をやっているのではないかという仮説がなりたつ。スピンやコースアウトは速度が十分に落ちなかったかターンイン時にクルマが前のめりだったのが原因だろうし、オーバーヒートはブレーキローターの回転が落ちなかったせいだろう。
ブレーキを我慢すれば周回路を速く走れると思うのは錯覚にすぎない。

719-4
最大の減速Gはスタート後8.30秒で-1.004G
その時の速度が96.42Km/h
 

と書いてきて、穴があったら入りたい! 猿も筆の誤り! (笑)
効率的なブレーキングは、加速中リアにあった荷重をフロントに移動させ前輪の輪荷重を増やすように制動力を立ち上げなければならない。輪荷重が増えれば増えるほど前輪のグリップが増加するから本来の制動力を発揮することができて減速Gも大きくなる。だから、最大減速Gは減速区間の後半で記録されるはずだ。つまりグラフの加速度を見る限りこれは明らかに『蹴とばしブレーキング』なのだ。実際、
・スタート後8.5秒から10.5秒までの間、速度は落ちているが減速Gの大きさが横ばい
・11.3秒から13.2秒の間、速度が一定と言うかわずかではあるが上昇している
・減速加速度が跳ね上がり11.5秒から13.6秒の間加速度ゼロ、つまりブレーキをかけているのに速度が落ちていない時間があった
・その後減速Gが回復し速度も低下
これはABSなりなんらかのデバイスが介入した結果だと言わざるを得ない。その原因を作ったのはボクだけど。ブレーキング中に速度の落ちていない時間があれば制動距離が延びるのは自明の理だ。だからブレーキングは上手くなったほうがいい。

※ 加速距離を稼ぎたかったので、このランはスロットルオフを遅らせクルマが完全に下り坂に降りてからブレーキングを開始した。下り坂で前輪に急な荷重がかかった結果である可能性もある。 って、言い訳ですけど。

『蹴とばしブレーキング』の動画

719-5
スタート後14.91秒で-0.374Gを記録した直度に停止したはず
 

しかしグラフを子細にいてみると、速度がゼロになった瞬間がない。最も速度が低下したのは記録によるとスタートから14.91秒後に時速0.04キロになった瞬間だった。速度が落ちて止まったなと思ったからブレーキをリリースしたのだけど、クルマが完全には止まっていなかった=運動エネルギーを開放しきってはいなかったってことになる。もっとも、その前の減速度の大きさにもよるだろうけど。以前、ドライブレコーダーを使った運転診断で「一旦停止ではもっと確実にしっかり停止しましょう」と言われたのはこのことだったのかも知れない。一旦停止で切符を切られるのはこういう運転かも知れない。

クルマの運転って楽しい。クルマの機能、性能を味わうのも面白いし楽しいけど、やっているつもりでやっていなかった自分とか、できていると思ってやっていたのにできていなかった自分を発見するのも楽しい。運転は学習の連続。まだまだ先は長い。

ところで、4月29日(土)に富士スピードウエイ駐車場でYRSドライビングワークショップアドバンストトレーニングを行います。Gセンサーを使って参加者全員のブレーキング、オーバル走行のデータを記録し、教室でモニターに映してアドバイスします。言葉のアドバイスに加えて視覚的にも理解を深められるカリキュラムです。興味のある方は 開催案内 をご覧下さい。ぜひ多くの人に体験してほしいと思います。



第708回 加速度と速さ

先日のYRSオーバルレースFSWの空いている時間に、SさんのメガーヌRSにパフォーマンスボックスを取り付けて最近走りがスムースになったSさんとボクの走りを比較するために走行データをとってみた。

708

 

データは速度とプラスマイナスの加速度と横向き加速度。右の楕円形の走行軌跡の直線部中間にある緑色の点がスタート/フィニッシュラインで5周したうちのベストラップのグラフ。上ふたつの緑色のグラフが横Gで赤いグラフが速度。下ふたつの紺色のグラフが加速・減速Gで赤色のグラフが速度。それぞれ上側がSさんで下がボクの走り。
Sさんの最高速は108.16キロ。最大横Gは瞬間的に1.131G。最大減速Gは-0.889G。ボクはと言うとそれぞれ109.26キロ、1.105G、-0.972G。ラップタイムはSさんが20秒10で19秒70のボクの勝ち。加速度の立ち上がり方に微妙なちがいがあって面白い。改めて詳しく検証してみたい。
1周20秒のコースで2回コーナリング。しかも同じ曲率でも下のコーナーにはかなりの傾斜がある。荷重のかけ方でラインが変化する180度コーナーを10秒に1回走るのだから意識しないでも運転がこなれる。多くの方にYRSオーバルFSWを走ってもらいたいと思っている。

708-1a

708-2b

708-1b

708-2a

 

3月11、12日(土日)開催のYRSツーデースクールFSW はまだ申込み受付中です。