トム ヨシダブログ


第716回 続・人間の操作がクルマを動かす

第708回加速度と速さ 第709回人間の操作がクルマを動かす で取り上げた、YRSオーバルFSWロングを走った時のSさんとボクの走行データ。今回はブレーキングの仕方と減速Gの立ち上がり方の関連を比較検証。と言っても、たった1周の操作を比較するのだからもちろん厳密なものではないし、こうするとこうなるという因果関係みたいなものが導き出せればと思う。
ちなみに選んだラップは2人が下のコーナーのターンイン手前で最も大きな減速Gをたたき出した周。下のふたつの図は速度と減速Gを同じ座標軸に置いた。赤いグラフが速度で左目盛、青いグラフが減速Gで右目盛。右の楕円形の線図はこの周に走った軌跡で線上の小さな緑の丸がスタート/フィニッシュライン。それぞれのX印が下のコーナー前に最大減速Gを記録した地点。図は上がSさんで下がボク。

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Sさんはスタートから0.99秒でマイナス0.889Gのブレーキングをして99.33キロまで減速。トレイルブレーキングを使いながらターンイン。第709回でも触れたけど、加速から減速へも、強りブレーキングからの抜き方にもトランジッションが不足している印象を受ける。

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ボクはスタート後1.1秒でマイナス0.972Gのブレーキングで97.10キロまで減速。ボクはというと、フロントが跳ねないようにブレーキのリリースに時間をかけ、その後のトレイルブレーキの効果を高めようとしている。それぞれのブレーキングがそれがその後のトレイルブレーキで相対速度という視点からどんな影響を与えるか。

下の図は比較しやすいように1周のラップをスタート後10秒で2分割して並べた。図中の赤い横線が減速Gゼロを示す。
※ Sさんの赤線がイラストレーターで制作中に少しズレたのに気づかないまま画像にしてしまった(泣)。

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・Sさんは最大減速Gを発生させた強いブレーキングの後でブレーキを抜いて2秒強引き摺っていると思われるが、減速Gの減少がゆるやかでしかない。減速Gがマイナス0.3Gまで減少するのが2秒後。と言うことは、この間も速度も低下していることになる。3秒後に減速Gが1瞬プラスマイナスゼロに戻るけどその後が安定していないからいぜんとして速度の低下が続く。ボクの場合は強いブレーキのリリース後すぐに減速Gがマイナス0.3Gまで減少し、減速Gは安定しないものの最大でもマイナス0.5Gを超えない範囲で推移しているから、トレイルブレーキング中に速度の低下が緩やかになっている。
・結果として下のコーナーのボトムスピードは60キロ対55キロでSさんの方が速い。Sさんの場合スタート後4.5秒あたりで1瞬60キロになってから速度が上昇を始めるけれど、ボクの場合はスタート後4秒あたりから約1.5秒の間55キロを維持している。
・ボトムスピードを記録してからSさんは加速を続けるけど下のコーナーの立ち上がりで70キロに達したのはスタート後約8秒。対するボクは7.3秒あたり。Sさんのグラフはその後急に立ち上がりプラス0.3~0.4Gの加速を10.7秒あたりまで続けるけど、ボクはイーブンスロットルを始めた4秒からは減速Gが大きくマイナスに振れることなく加速を続けそれに見合った速度を得ている。

・周回路のラップタイムは距離が決まっているので平均速度の裏返しになる。そして周回路ではコーナリング速度より直線での速度のほうが圧倒的に高い。何よりもほとんどの周回路では直線を加速している時間よりコーナーの中にいる時間のほうがずっと長い。例えばYRSオーバルFSWロングを20秒で走るクルマを数えてみると、直線を「1、2、3・・・」くらいで駆け抜けるのに、コーナーを回っている時間は「1、2、3、4、5、6、7・・・」となる。だからコーナリングではボトムスピードを高く維持することも大切だけど、コーナリング区間の平均速度を上げるのがもっと重要になる。
・コーナリング区間というのは直線でスロットルから足を放した時から、コーナーを抜けて立ち上がり舵角がゼロになってフルトラクションをかけられるようになるまでのことを言う。この区間でクルマが失速せずに前に前に進めば平均速度は上昇する。速く走りたい人が陥りがちなブレーキを遅らせることや、立ち上がり速度よりもスロットルを全開にすることを優先することが、果たして平均速度を上げることにつながるかは絶えず検証が必要だ。

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・結果、裏のストレートでSさんが100キロを超えたのはスタート後10.5秒あたりで到達速度が105キロ弱。対するボクは9.7秒あたりで100キロに達し108キロまで加速。
・そこから上のコーナーへのアプローチが始まるのだけど、ターンイン手前でSさんが強いブレーキングをしていないのが見てとれる。対してボクは1瞬だけだけどマイナス0.9G付近までしっかりと減速している。
・上のコーナーはフラットに見えるけど実はうねりがある。それでも下のコーナーほど神経質になる必要はない。減速の後には加速という流れを作りやすい。
・Sさんもボクもスタート後同じように14.5秒あたりで同じ様なボトムスピード57キロを記録。ボクはイーブンスロットルにして加速に備えるけど、Sさんはスロットル瞬間開けたのかも知れない。15.2秒あたりで0.7Gに達しようかという加速度のスパイクが記録され瞬間的に速度も上昇している。この瞬間、加速度もマイナスを示していてコーナーの脱出速度に影響したものと思われる。
・結果、ロールを残しながらコーナーを脱出するのだけど、Sさんが70キロに到達したのが約17.3秒でボクが約16.8秒。直線に出てからの加速については、#2 横Gと速度のグラフ―後半スタート後11.5秒から にも表れているけどSさんはスロットルをステアリングを戻すのよりスロットルを開ける量が多いのかロールを消せないまま加速している。1周20秒のコースでコンマ3秒の差がつくということは、ここに書いたことだけではなく実に様々な要素=クルマを前に進めるための操作がからんでいる。

 

時間のある方はぜひ、709回で触れた横Gと速度の関係のグラフも、『どうするとこうなるのか?』 という観点から見ていただければ幸いです。
#1 横Gと速度のグラフ―前半スタート後11.5秒まで
#2 横Gと速度のグラフ―後半スタート後11.5秒から

 

繰り返しになるけど、運転とは走行中のクルマの状態を把握し、自分の経験なり知識を基にして目的を達成するためにはこういう操作が必要だという仮説を立て、それを実行に移す作業だと考えている。ところが仮説がいつも正しいとは限らないから、間違いを犯さないためにも知識と経験を積み重ねる努力を続ける必要がある。また仮説が正しくてもわずかな操作の違いで結果が目的から外れたり、場合によってはそのつもりなのに自分の立てた仮説通りに操作できていないこともあるだろう。その場合には修正が必要になるのだから、どちらの方向に修正すべきかを瞬時に判断するための知識と経験も必要だとユイレーシングスクールは考えてオリジナルのカリキュラムを展開している。

 

最後に、ここ数回に登場してくれたSさん。ブログの手伝いをしてくれたことを感謝します。ありがとうございました。文中ではあれこれ言いましたが、Sさんが目指す運転の方向性は間違っていません。新たらしい仮説を探すための経験を積みにまたスクールに遊びに来て下さい。



第709回 人間の操作がクルマを動かす

第708回 加速度と速さ で取り上げたSさんとボクの走行データ。

速さから見ればSさんが20秒10でボクが19秒70で高齢者(!)の勝利となったけど、この時は5周した中のベストタイム。Sさんの名誉のために付け加えれば、間際になって「データロガーを積んで走ってみて!」と言われたSさんが実力を発揮できなかった可能性は十分にある。それにYRSオーバルレースFSWでもYRSオーバルスクールFSWでも200周近く走る人もいるから、ラップタイムだけを見て一喜一憂するのはあまり意味がない。Sさんも無心に走っていた時は20秒を切っていたと想像できる。データを取るということは、むしろ子細を見てどうやって走っているか想像できることに価値がある。

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グラフはどちらも速度と横Gを同じ座標軸に置いている。グラフは赤が速度、緑が横Gを表し、赤の横線が横Gゼロを示す。コーナリングの比較のためにスタート後11.5秒で本来ならつながっている1ラップのグラフを2分割して横に並べてみた。どちらも左側がSさんで右がボクのグラフ。何が見える?

・Sさんの速度変化を見るとスタートからコンマ5秒あたりで加速から減速に転じているが、グラフが尖がって折れている。おそらくスロットルオフと同時にブレーキペダルを踏み込んでいるので、加速の終わりに続いて減速が始まっているものと思われる。ボクの場合はSさんより加速が終わっている地点が手前(スタート後コンマ3秒)でトランジッションを意識してブレーキをかけ始めているから速度が落ち始めるのが1テンポ遅い。
・Sさんは加速から減速に移る区間で横Gが減少している。コースは左回りだったのでクルマが右に流れたのだろうか。スタートから4秒あたりまではコーナーのアプローチでおそらく3秒ぐらいまではトレイルブレーキングを使っているのだが、Sさんの横Gの立ち上がり方が急だ。クルマが前に進まずに横(右方向)に流れている可能性がある。それに対しボクの場合は速度の低下に反比例するように横Gが増えウづけている。
・このグラフは進入が下り坂で脱出が上り坂の通称「下のコーナー」の走りを表しているが、Sさんはスタート後4.5秒の地点でボトムスピードを記録している。その後速度は上昇するのだが、横Gがほぼ一定の状態なのに速度が低下してから上昇に転じるのはクルマが前に進んでいない可能性もある。ボクの場合は4秒から5.5秒くらいの間で速度がほぼ一定だからイーブンスロットルの効果だろう。ボトムスピードはSさんのほうが速いがクルマの向いている方向と運動エネルギーの方向が一致しているか検証する必要がある。
・ボトムスピードを記録した後の加速もボクの方は横Gの減少にともない滑らかだが、Sさんの場合は横Gが急激に減少するのにフルトラクションでの加速開始が遅れている(Sさんがスタート後8秒あたりでボクが6.5秒付近)。結果、スタート/フィニッシュ地点と反対側の通称「裏のストレート」での到達速度はSさんが10.8秒あたりで100キロなのに対し、ボクは10.5秒手前で108キロ弱まで達している。

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・裏のストレートでスロットルオフから瞬間的なブレーキング。踏力を抜いてトレイルブレーキングでフロントのロールを抑えてアプローチ。ここでもSさんの横Gの立ち上がり方が急なように見える。パフォーマンスボックスをフロントウインドの真下に取り付けた結果、ヨーモーメントの中心より前にセンサーがあるので前輪にかかる横Gを拾いやすくなったせいなのかも知れない。
・上のコーナー(下のコーナーの反対側でほぼフラットなコーナー)でのSさんのコーナリングは、やはりボトムスピードがある地点だけで記録されているようだ。その後速度は上昇するがアンダーステアが出ていたのか19.5秒まで横Gが残っているのでストレートに出てスロットルを開けてもフル加速には及ばなかったはずだ。対してボクは19秒で横Gを消すことができているのでしっかり加速できたということになる。
・結果として、この周に限ってみれば1周20秒ほどの周回路で、Sさんより1.1キロ速い到達速度と0.4秒速いラップタイムを刻むことができたことになる。

閑話休題。運転とは走行中のクルマの状態を把握し、自分の経験なり知識を基にして目的を達成するためにはこういう操作が必要だという仮説を立て、それを実行に移す作業だと考える。ところが仮説がいつも正しいとは限らないから、経験と知識を積み重ねる努力は続けたい。また特にタイヤへの負担が大きい高速で走る時とか小さなコーナーを回る時など、仮説が正しくてもわずかな操作の違いで結果が目的から外れることが多くなる。場合によってはそのつもりなのに自分の立てた仮説通りに操作できていないこともあるだろう。つまり目的を達成するためには、必然的に操作の修正が求められる場面が無数にあるということだ。

YRSオーバルスクールFSWに参加する人はラインから外れそうになるとなんらかの方法で修正する。10秒後に同じ曲率のコーナーに、20秒後には全く同じコーナーにアプローチするのだから、操作を修正する回数は天文学的になるはずだ。しかし、だから徐々に仮説の正確さが増し、修正の幅が少なくなり、冷静に走ればクルマを前に前に進めることができるようになる。それこそ前後輪のスリップアングルの均等化を目指すこともできる。ユイレーシングスクールがオーバルスクールを潜在的ドライビング技術向上ために勧める理由だ。

 

このブログをお読みのみなさん。ぜひ1度YRSオーバルFSWロングを走ってみませんか。仮説の立て方を理論的に説明します。FMラジオを使ったリアルタイムアドバイスで理論と操作の乖離を指摘します。仮説に見合う修正の方法をアドバイスします。クルマとの対話が間違いなく進みます。

・4月2日(日) YRSオーバルスクールFSW開催案内 へのリンク

 


第706回 続・クルマとの対話が楽しい

705回 クルマとの対話が楽しい』を読まれた方から、「4輪操舵車の場合はどうなんだ」という話があった。第349回 4コントロール 同位相でも触れているけど、改めてメガーヌRSに搭載されている4輪操舵システム、4コントロールのコーナリングについて自分の経験を。

ルノー・ジャポンから借りているメガーヌRSトロフィーには4輪操舵装置である4コントロールが備わっている。高価な装備の目的は、前輪操舵車がコーナリングする際に起きる可能性のある前後タイヤのグリップの不均衡を是正するためだ。

前回説明したようにターンイン直後や高速コーナリングではクルマの向きを変えるために前輪が猛烈に働いている。特にアウト側前輪。タイヤが働くということは路面との間にズレが生じ、簡単に言えばそれがそのままタイヤのグリップの増加につながる。一方の後輪は他力本願的に遠心力を受けるまで路面とのズレを生じないから、どうしても前輪に比べるとグリップが不足がちになる。前後輪にグリップの差が生まれるとクルマがバランスを崩す可能性が高まる。それを補おうというのが4輪操舵の思想だ。

もちろん、だからと言って前輪操舵車の旋回特性が4輪操舵車に全面的に劣るかというとそんなことはない。100年以上も前から馬車の系統を引き継ぎクルマは前輪がステアするのが当たり前だった。現代の前輪操舵装置、例えばダブルアクシスストラットなど完成の域に達していると言ってさしつかえない。繰り返しになるけど、クルマが曲がらないのは運転手が曲げ方を知らないだけなのだ。

改めて簡潔に言えば、4輪操舵装置はクルマを曲げるということに対してフールプルーフ思想を実現したものだと言える。

さて、メガーヌRSトロフィーの4コントロールはある速度で後輪のステアが逆になる。低速域では後輪は逆位相に、高速域では同位相に変位する。

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主に低速時
4輪操舵車逆位相コーナリングでのタイヤの軌跡
 
現実にはあり得ないけれど視覚的な理解のために

それぞれに目的がある。後輪が逆位相で転舵した場合、舵角が同じだとすると(そんなことは現実にはないけど)後輪は前輪の軌跡を踏みながら転がる。つまり理論的には内輪差がなくなる。車両間隔がつかみやすくなる。後輪もクルマの向きを変えるから小回りが効くことになる。

実際のところはどうか。湖西道路を降りてからわが家へ向かう途中に十字路を左折する。変形の交差点で左折は鋭角に曲がることになる。ある時メガーヌRSトロフィーと以前借りていたルーテシアRSでは明らかにハンドリングが異なることに気が付いた。どこが違うかと言うと・・・。
引手でステアリングホイールを回すので左手を時計の11時あたりに持っていって、それを7時くらいまで引き下げる。違いは、ルーテシアRSの場合は手を引いてから1拍ぐらいホールドする間があったのだけど、メガーヌRSトロフィーの場合は7時まで引いたとたんに戻し始めないとイン側に巻き込むような挙動を見せたのだ。ステアリングホイールを引く速度を速めると7時まで引く必要がない場合もある。腰で感じるリアのロールに起因する横Gが少ないから、4コントロールがクルマのコーナリングに積極的に関わっているのがわかった。


メガーヌRSでYRSトライオーバルFSW走る。4コントロール逆位相が見てとれる。

 

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高速走行時
4輪操舵車同位相コーナリングでのタイヤの軌跡
 
同位相の場合は旋回中心があいまい
クルマ任せになるけど
クルマが平行移動する感じ
 
あくまでもイメージです

高速域で後輪が同位相にステアするのはクルマを安定させることが第1目的。高速で走っている時にステアリングを切る。高速だから舵角のついた前輪には比較的大きなズレが生じる=前輪のグリップが極端に高まる≒後輪のグリップは低いままではクルマがバランスを崩す可能性が高い。具体的に言えば、急なステアはオーバーステアにつながるはずだ。
そこで後輪を同位相にステアさせることにより前輪に舵角がつくと後輪にも舵角がつき、後輪に遠心力がかかるのを待たずに後輪のグリップを前輪のそれにみあった大きさにしてバランスをとる。換言すれば本来前輪駆動車では他力本願的に後輪に遠心力が働くのを期待するしかなかったのを、自立本願で必要なだけのスリップアングルを手に入れることができるようになり4本のタイヤでのコーナリングを実現できることになる。

大津の自宅に最初のメガーヌRSを配車してもらい初めてFSWに向かった時のこと。新名神の草津ICから東に向かうと高速道路にしては曲率の小さなコーナーがひとつある。登りの左コーナーでこれまた高速道路にしては大きめのカントがついている。
初めてのメガーヌRSだったが少しばかりオーバースピードでターンイン。どんな場合でも一発でステアリングを回さずに探りながら切り足すのだけど、いつもなら切り足していく過程で腰で感じる横Gが増えるはずなのにそれがない。横Gが抜けたと言うか、ある程度ステアリングを切った段階でクルマが旋回ではなく、何と言うか、円運動をしながら平行移動したと言うか。横Gが増えなかったのには戸惑ったけど、よくよく考えればアウト側前後輪の負担も増えなかったのでこれが4輪操舵が目指すところなのだと納得。逆に、このコーナリングを自分の手柄だと勘違いする人が出なければいいなとも思った。

ということで最後に一言。

自動車技術の進化はめざましい。人間は昔に比べれば安直にクルマを運転できるようになった。クルマの性能に助けられて運転している人も多いはずだ。でも今までもこれからもずっと、クルマを手放しで運転できるわけがない。やはり我々の生活を豊かにしてくれるクルマに畏怖の念をいだき、自分も運転を上手くなろうという気持ちを持つことが大切ではないかと改めて思う。



第705回 クルマとの対話が楽しい

クルマの機能は加速、減速、旋回の3つだけ。そのうち加速と減速はクルマが直進状態にある時に性能を発揮しやすいことがわかっている。逆に旋回中のクルマの加減速には大きな制約があることも周知の事実。ということは、クルマはそもそも旋回が苦手なんだ、と言えるかも知れない。という前提で原因と対策を考えてみる。

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旋回しているクルマの4本のタイヤの軌跡

前輪にステアリング装置がついているクルマがコーナリングをする時、その旋回中心は後輪の車軸の延長線と左右前輪それぞれの車軸の延長線が交わる点になる。ステアリングを切るとまずフロントが向きを変え始め後輪がその跡を追うが、旋回中心との位置関係で内輪差が生まれる。舵角が大きければ大きいほど内輪差も大きくなる。クルマがコーナリングを終えた時、最終的に最も長い距離を転がったのはアウト側の前輪。4本のタイヤのうち最も働いたことになる。これが第1の伏線。
図のようにクルマがコーナリングしている時、遠心力が働きクルマはコーナーの外側にロールし荷重はアウト側の前後輪に大きくかかっている。速度を上げれば上げるほど遠心力が大きくなるからアウト側前後輪への負担はますます増える。運動エネルギーは上昇した速度の二乗に比例して大きくなるから、クルマの向きを変える役割りをほぼ一手に引き受けているアウト側前輪の負担は他の3本と比べものにならないほど大きい。第2の伏線。
速度が速ければ速いほど、そして舵角が大きければ大きいほど負担は増すから、アウト側前輪が悲鳴を上げる可能性を無視することはできない。

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アンダーステア発生時の軌跡と前後輪のスリップアングル

ステアリングを切るとまず前輪がたわむ。直進方向に向いていた大きな運動エネルギーの向きを変えるために前輪はたわみ、路面とズレながら回転し徐々にクルマの向きを変え始める。この時タイヤの向いている方向と実際にタイヤが進む方向、正確に言えばホイールの向いている方向と実際にタイヤが進む方向のズレを生じる。ホイールが転がる方向に対するタイヤのズレをスリップアングルと呼ぶ。遠心力が働くからタイヤは本来の向きより外側に向かって転がり続ける。やがて前輪に遠心力が働き始めれば、遠心力もスリップアングルを増加させる源となる。
一方ステアリングを切った瞬間にはまだ後輪には遠心力が働いていない。後輪にはステアリング装置がついていないから後輪と路面のズレ=スリップアングルは遠心力に頼らなければ生じない。つまり、ある瞬間には前輪にはスリップアングルがついているが後輪にはそれがついていない、もしくは前輪のスリップアングルが後輪のそれより極端に大きいという状況が存在するということになる。

ここで注意すべきなのが、タイヤが路面との間にズレを生じた場合、あるところまではズレの増加がグリップの増加につながる点だ。だからタイヤにスリップアングルがつくことを否定する必要は全くない。タイヤのグリップ自体は向上するのだから。問題になるとすれば4本のタイヤそれぞれのスリップアングルの大きさだ。

もしコーナリング中のクルマの前後輪のスリップアングルの大きさ=タイヤのグリップに差があれば、前輪>後輪あるいは前輪<後輪を問わずクルマがバランスを崩しやすくなるのは明らかだ。バランスを崩さないまでも、図のように何らかの理由で前輪に過大なスリップアングルが発生してアンダーステアに陥った場合、グリップが大きくなってない後輪は働いていないのだからコーナリング速度自体が速くない。サーキットを走る時にアンダーステアを出してはだめだと言われる所以だ。

自動車学校で「急ハンドルは駄目ですよ」と言われるのも、前輪に比べてグリップが低くなった後輪が引き起こす不測の事態を避けるためだ。

さて、クルマが大なり小なりアンダーステアに陥る過程がわかった。クルマが曲がる時に常に大きな負担を負っているアウト側前輪が悲鳴を上げて役割を果たせなくなったのが原因だ。ではどんな操作をしたのか。大きく分けてふたつ。
ひとつはターンインの時に俗に言う『バキ切り』、一瞬にして大きな舵角を与えた時。ふたつ目はブレーキングで前輪に大きな荷重がかかっているのにステアリングを切った時だ。どちらもアウト側前輪のグリップが無限だと勘違いしている操作だ。運動エネルギーの方向を変えるには全くもってふさわしくない。

結局のところ、加速と減速についてはクルマ任せでも構わないが、ことクルマを曲げることに関しては4本のタイヤの使い方を正しく学ぶべきだろう。タイヤの路面を捕まえる力には限界があるのだから、練習して工夫して限界を越えずに限界を高める操作ができるようになれば、本来クルマが苦手であろう旋回の次元を上げられると言うものだ。クルマ固有の旋回性能をどれだけ限界近くまで引き出せるかは乗り手次第だと言える。

折に触れ、個人的に『発進から停止まで前後輪のスリップアングルを合計した時にそれぞれの和が限りなく等しい走り』を目指していると言ってきた。クルマを安全に速く走らせる唯一の方法だと思うからだ。長い間クルマと対話してきて導き出した結論だ。

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コーナリング特性3態

ブログの702回に登場してもらったKさん。改めて極端に冷たいウエット路面のYRSオーバルスクールFSWに参加した彼の感想を紹介したい。

「トレイルブレーキの1なんかはまさに中低速コーナーのコーナリングスピードを上げるには必須だし、フルブレーキの練習も大いに役立ちました。ドンブレーキのやり方を誤解しているところがありました。何よりも横乗りでのコーナリングは、FF車を早く走らせる為のベストな解を体感させていただいたと思っております、まさに私が求めている運転技術でした」。

あの日。半径22m直線60mのYRSオーバルFSWでトレイルブレーキングの練習をしていた時。Kさんの走りを見てふたつのことに気が付いた。ひとつはスロットルオフが奥でブレーキングが強いからターンインまでに車速が落ちすぎるのとターンインの瞬間の姿勢が前のめり。もうひとつはトレイルブレーキング中の踏力が強いのだろうブレーキを引き摺っている間に失速すること。路面が滑りやすいというのも影響しているのかも知れないから、Kさんを助手席に『前後輪のスリップアングルの合計が均等』な運転を目指す操作を見てもらうことにした。
・YRSオーバルFSWはインベタでの練習だから180度コーナーの後半120度くらいを積極的にイーブンスロットルを使ってボトムスピードを上げる。
・立ち上がりで瞬間的にステアリングを戻しできるだけ手前でフルトラクション。到達速度を速めスロットルオフを遅らせずに右足をブレーキペダルに。
・パッドとローターが触るか触らないかの位置を探りわずかに抵抗を感じたらそのまま速度を落とさずにターンイン。
・ステアリングホイールを手のひらの摩擦で回すように慎重に。最初の舵角はごく小さく徐々に大きく。
・右足の位置はそのままで赤いパイロンの3本目ぐらいまでトレイルブレーキング。前輪のインリフトがないからフロントが逃げることはない。
・ブレーキを残しつつ探りながらステアリングを回す。180度コーナーの最初の3分の1に達しようという頃リアが穏やかに流れ始める。
・右足をスロットルペダルに戻し少しだけ開けてリアを落ち着かせてからステアリングを切り足すと再びリアがアウトに出るからスロットルオン。
・これが目指す挙動。ゆっくりごくわずかにスロットルを戻せば舵角が一定でもリアにスリップアングルがつく。
・4輪ともアウトに流れる兆候がを感じたらステアリングホイールを持つ手に少しだけ力をこめてラインをタイトにする。
・微妙なステアリングワークとごくわずかでゆっくりなスロットルのオンオフでクルマは円運動を続ける。
◎舵角がついている駆動輪である前輪のスリップアングルが過大にならないようにしながら、同時にではなくてかまわないので後輪にも前輪と同様のスリップアングルがつくように十分な遠心力を受けられる速度を維持した結果だ。

KさんのルーテシアRSは明確にフロントが逃げるアンダーステアにもズルッとリアが出るオーバーステアにもならずインベタのラインも外さずにコーナーを回ったが、厳密に言うと実は穏やかで微妙なアンダーステアとオーバーステアを繰り返しながら円運動をしていたのだ。それをニュートラルステアと呼ぶべきかどうかは別にして、FF車であろうとアンダーステアでしかコーナリングができない訳ではない。おそらくこれをKさんは探し求めていたのだと思う。

4輪がコーナーのアウト側に流れながら狙った通りの軌跡をたどりクルマが前へ前へと進む。前後輪の流れる量が最終的に同じになるように操作すれば、クルマはバランスを崩すこともなく我々が想像するよりも高い速度でコーナリングをすることが可能だ。それを実現するためにも、前後輪のスリップアングルを意識することが大切になってくる。

そんな訳ですから、YRSオーバルスクールFSWでタイヤのスリップアングルを意識しながら走ってみてはいかがでしょう。ご参加をお待ちしています。
・2月11日(土)開催 YRSオーバルスクールFSW開催案内へのリンク

 

 

 

 

※ 内輪差の話が出たついでに。
ニュースで知ったのだけど左折する時、いったん右にステアリングを切ってから左に曲がる迷惑な左折方法があって『あおりハンドル』と言うらしい。ガードレールとガードレールの間に入るような左折の場合はクルマの側面をこすりそうな感じになり、そうしたくなる気持ちもわからないではないけど、右に切るのはやめたほうがいい。自分が『バキ切り』をするので内輪差を少なくするためにいったん右に振らざるを得ないのだ、と告白しているようなものだ。最初の舵角を少なく徐々に切り足していけば、あるいは速度を落とすかすれば解決するのだから。
交差点に立って他人のステアリングワークを観察するのも面白い。まずほとんどの人が探りもせず躊躇しないで一気にステアリングホイールを回している。パワーステアリングのない時代にはできなかったことだ。自動車技術の発展が人間を油断させているひとつの例と言ったら言い過ぎか。

 


第701回 続・運転を見直してみませんか

『 運転している自分を後ろから見下ろしているもう一人の自分がいて、そっちが本当の自分で、やらないほうがいい操作をしたり横着な運転をしたら後ろからパシッと運転している自分の頭をはたいてやる。そんな運転を目指して下さい(笑) 』。 スクールでそう話すのは運転を俯瞰して客観性を保つことが大切だと思うからだ。

かく言う自分はどうなんだ、という自問自答が常にあった。3年前に安全運転講習を受講したのも、古希を前にして自分の運転を客観視したかったからだ。

ただ、最初に受けたブラッシュアップ講習の申込みに行った時に窓口で、2017年に始まったブラッシュアップ講習は本来高齢者向けのカリキュラムではなく、『 運転免許をとってから自分の運転を振り返ったことのない人を対象にしたもの 』で、高齢者が受けてはいけないことはもちろんないけれど、ブラッシュアップ講習の対象は運転免許証を持っている全ての人だと教わった。
確かにそうだ。費用と時間はかかるけど免許証を持っている人全てが受講すれば、個人間で差がある運転意識の共通化につながるだろうし、あいまいでいいかげんな運転癖が減り社会全体の運転レベルが上がる可能性がある。交通事故の減少にも寄与するはずだ。ただ残念なことにブラッシュアップ講習を行っている自動車教習所は現在でも37都道府県で144ヶ所しかない。※滋賀県にはまだ皆無 (驚)

こういったシステムがもっともっと増えて料金も下がり、誰もが気軽に受講できるようになるといいのだけど。
以下は過去に受けた安全運転講習に触れたバックナンバーです。運転を見直すきっかけになれば幸いです。

392-3
ブラッシュアップ講習

第392回 ブラッシュアップ講習 (1)
第393回 ブラッシュアップ講習 (2)
第394回 ブラッシュアップ講習 (3)
第396回 ブラッシュアップ講習 (4)

 

508-14
Objet講習(滋賀県警の場合)

第507回 運転技能自動評価システム
第508回 続・運転技能自動評価システム
第509回 続々・運転技能自動評価システム

 

547-1
高齢者安全運転診断サービス

第547回 またまた適正検査
第552回 結果は ⁇ またしても ‼
第553回 高安診の診断結果の1
第554回 高安診の診断結果の2
第555回 高安診の診断結果の3
第556回 高安診のその後

滋賀県警のObjet講習は65歳以上が、高齢者安全運転診断サービスは文字通り高齢者が対象だけど、ブラッシュアップ講習は中勢自動車学校の水谷さんが言うように年齢に関係なく自分の運転を見直したいという人に開放されている。
最近では愛知県のJAFがスタッフが受講者のクルマに同乗し車載ビデオを撮って後日運転を解析するということを始めているようだけど、試験的な開催のようで公にはなっていない。全国のJAFではドライバーズセミナーシニアコースというプログラムがあるようだけど、いかんせん開催日が極端に少ない。現実問題としてまだまだ自分の運転を検証する機会は限られている。

安全運転講習が普及して楽しみながら自分の運転を振り返れるようになるのが望ましいのだろうけど、その前に自分の運転を見直してみようという気持ちになることのほうが先なのかな。手前みそだけどユイレーシングスクールを活用してくれればこの上なく嬉しい。



第700回 運転を見直してみませんか

ある日のスーパーマーケットの駐車場。開店時間を過ぎると続々とクルマがやってきて瞬く間に駐車場は満杯になる。商業施設の駐車場では入口からできるだけ遠くにクルマを止めて歩く距離を稼いでいる。と言ってもわずかだけど。(笑) で、歩きながらいろいろな光景に出くわす。

真新しい白の軽トラックがやってきた。おじいさんが運転している。目の前を通り過ぎると入口の近くに空きスペースがないか探すように走り続けている。空いているところに止めて歩いたほうが健康的なのにと思いつつ見ていると、発進しては止まり、止まっては発進するのだが、どうも動きがぎこちない。発進する時には急にエンジン音が高まりテールスクワットするほどヴワッと出ていく。その直後、見事にスロットルは閉じられ加速し続けることはない。しかし止まる段になると、ギユッと止まるようにノーズダイブしながら急減速する。下がったフロントが「お釣り」をもらって跳ねるほど。とにかく動き始めと止まり際が急と言うか激しい。

想像するに、スロットルペダルにしてもブレーキペダルにしても踏み始めのストロークが大きすぎる。それぞれのペダルに足を乗せて一拍してから踏みこむのではなく、踏むために足を動かす際に 「ここまで踏み込むのが当たり前」 の運転を日ごろからしているように感じる。オンかオフの操作をする習慣が身についているのだろう。足を持ち上げて、つまり床から完全に足を放してペダルを踏みこむ人に見られる傾向だ。

正直言って、クローズドコース以外でこういう運転をする人がいると知ってかなりショックだった。

この日この高齢の男性はひとりで来られていたけど、時には同乗する方もいるに違いない。本人は気づかなくても、過去に家族や第三者が発進減速が激しすぎるのでは、と伝えることはできなかったのかなと。あの運転の延長には高まる事故の可能性しかない。経験的にそう思う。事故を起こさなければ、それはたまたま偶然に危険を回避できていたに過ぎない。それほど危なっかしい運転だった。

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※写真と本文は関係ありません

 

高齢者の運転を客観視して、その事実を本人が自覚する方法はないものだろうか。

高齢者の交通事故増加が叫ばれて久しい。マスコミによる増幅分も含まれていると思うけど、「アクセルとブレーキの踏み間違い」、「ハンドル操作の誤り」、「前方不注意」、「判断能力の低下」 と高齢者は運転能力が劣っているかのような表現があふれる。記事を書いた記者も現役世代もやがて歳を取るというのに、だ。

けれど、高齢者にも落ち度は確かにある。歳を重ねてきた自信から自分は間違っていないと思い人の話を聞かない。だから周囲は高齢者に直言することを避けるようになる。そんな高齢者の周りにはおそらく、この場合で言えば急発進が危険なものだと認識している人もいないのだろう。結局、危険な状況が見過ごされたまま時は過ぎていく。

高齢者の運転を客観視して、その事実を本人に納得させる方法はないものだろうか。

昨年5月から始まった75歳以上の高齢者を対象とした運転技能検査。さかのぼる過去3年間に事故につながる違反をした人が対象で、5項目の実技テストに受からないと免許証の更新ができないというもの。ここに愛知県のデータがあるが、それによると2022年5~11月で6,600人がテストを受け25%が不合格だったという。高齢者の何割が事故につながる違反をしたかがわからないので絶対数はわからないけれど、違反歴のある人の4人に1人は運転技能に問題があると推測できる。運転技能検査の話を聞いてから気にはしていたけど、予想していた数字より大きいので驚いた。

 

話は変わりますがこのブログに目を通された方は、ぜひ貴方のスロットルペダルとブレーキペダルの踏み方を次のような方法で試してみて下さい。年齢には関係ありません。ペダルを踏む時は必ず踵を床につけておいて下さい。できれば同じ踵の位置でスロットルペダルとブレーキペダルと踏み換えられるような踵の位置を探してみて下さい。同じ踵の位置でスロットルペダルを踏むのが難しい場合は右足の足刀で踏んでみて下さい。右足のつま先の動きが直線的ではなく円弧を描いているか確認して下さい。腿ではなくふくらはぎの筋肉を使ってつま先を動かしているか感じてみて下さい。どうしても違和感があるのならそれまで通りの方法に戻せばいいのです。一度だけ、踵を意識して、踵を床につけてペダルを踏むと何がどうなるかの確認をしてほしいのです。

それと、周囲にクルマを運転する高齢者がいらっしゃる場合は、貴方自身にとっても将来の課題なのですから、横に乗ってどんな操作をしているか見てあげてはどうでしょう。一緒に危険を避ける操作を模索することはできない相談でしょうか。

 

クルマは白モノ家電とは違います。家電は動きません。しかしクルマは運転者の意思に従い自由に動き回ることで役割を果たします。ですが、習慣とは恐ろしいもので過去にできた、前にできたことは再度できると思い込み、パンを焼くのと同じような感覚でクルマを運転しているかも知れないのです。
運転はクルマという道具を動かす全人格的な行為です。そこが肝心です。動かなくても役に立つトースターのダイアルを回すのとは違います。ですから、運転操作を検証するのは年齢を問わずクルマを運転する人全てに必要なことだとユイレーシングスクールは考えています。



第698回 ユイレーシングスクールは満23歳

1999年12月8日に埼玉県は桶川スポーツランドで産声を上げたユイレーシングスクール。先日のYRSオーバルスクールFSWロンガーで23年目の活動は全て終了。今年、何事もなく延べ30回、32日に渡るドライビングスクールを開催できたことに安堵しているとともに、参加して下さったみなさん、スタッフ、ユイレーシングスクールを応援してくれているルノー・ジャポン、エンジン、ポルシェクラブ東京銀座に感謝の気持ちでいっぱいです。

YRSオーバルスクールFSW 8回
YRSオーバルスクールFSWロンガー 1回
YRSドライビングワークショップ 3回
YRSドライビングワークアウト 1回
YRS筑波サーキットドライビングスクール 2回
YRS鈴鹿サーキットドライビングスクール 1回
YRSツーデースクールFSW 2回
YRSオーバルレースFSW 5回
エンジンドライビングレッスン 2回
ポルシェクラブ東京銀座ドライビングレッスン 3回
アルピーヌドライビングレッスン 2回

まだユイレーシングスクールを体験していない方はぜひ来年遊びに来て下さい。クルマの人間能力拡大説をひも解きます。

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今年最後の座学

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今年最後のリードフォロー

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今年最後のミーティング

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今年初めてのラップタイム計測

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最後だから全員こっちを向いてライト点けて下さ~い
 
クルマに乗ってラジオを聞いてなかった2人が点灯なし

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2日続けて参加のOさん

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2日続けて参加のSさん

 

どなたさまも良いお年をお迎え下さい。



第678回 『免許は返納しなくていい』

加齢に伴う身体機能や認知機能の低下によって運転操作を誤りやすくなり、交通事故を起こしてしまう可能性が高くなるので高齢者は自主的に免許証を返納しましょうという空気が蔓延しているように思う。いくつかの調査機関のデータを見るとおおむね返納には賛成で、あちこちのデータを見ると8割弱の人が将来的に返納しようと考えているようだ。

しかし、免許証の返納と言っても住んでいる地域によってクルマの運転に依存する度合いは大きく異なるし、まして運転技術のレベルは年齢によらず人によってまちまちだし、ひとくくりにして高齢になったら返納しろと言うのは少し乱暴だろう。

で、自分だったらどうするか考えてみた。結局、言葉は少々きたないかが 「 くたばる前の日まで運転していたい 」 から返納はしないという結論になるのだけど、そんな気持ちを後押ししてくれるような文章に出会った。

精神科医の和田秀樹さんが書かれた『老人入門』に掲載されている『免許は返納しなくていい』の講だ。1部引用(太字部分)させてもらって紹介したい。

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 まして地方に住んでいて、週に1度の買い物や通院に車を使っているような人は、免許返納をしてはいけません。不便になるだけでなく、生活の自由度が大きく低下して、老いを一気に加速させる可能性があるからです。

 そしていちばん見逃してならないのは、免許を返納することで高齢者が要介護になるリスクが高まるということです。筑波大などの研究チームは、運転をやめた高齢者は運転を続けた高齢者に比べて6年後には要介護と認定される人が約2.2倍になるという調査結果をまとめています。

 言うまでもなく、運転ができなくなることで家に閉じこもりがちの生活になり、運動機能も脳機能も衰えてしまったからです。自発的な免許返納は良識的な判断のように思われがちですが、実際には老いを加速させ、生きる楽しみを高齢者から奪ってしまうことにしかならないのです。

 たかが運転ぐらいでと思うかもしれませんが、それくらい高齢者は危ういバランスを保ちながら生活しています。

 運転をやめることで外出の機会が減り、人と会ったり話したりすることも減ると、活動量もどんどん減ってしまいます。とくに外出の手段が限られる地方に暮らす高齢者ほど、車の運転をやめてはいけません。たったそれだけのことでも、維持できるさまざまな機能や楽しみや意欲があります。免許返納は、それをすべて自分から手放すことになりかねないのです。

 

個人的なことになるけど、ボクはクルマの運転を自分が自立する手段だと思っている。自家用車以外の交通機関では陸海空を問わずその道の資格を持った人が運転する。いわば移動は人任せでかまわない。しかしクルマは誰にも頼らずに、運転中の出来事の全責任を負いながら、誰も助けてくれない状況で運転する。ボク自身の場合は日常生活とは違った緊張感を持ってステアリングホイールを握っている。自分がそういう自覚のもとに運転ができる限り、ボクは、人に頼らず生活を続けられると思っている。

ボクはこう思う。高齢者になって事故を起こす可能性が高くなる人は、もともと潜在的に事故を起こしかねないような運転をしていたのではないかと。スクールでも言う。クルマは機械だけど家電とは違う。使うにはそれなりの知識と覚悟が必要だと。
クルマが発達し運転が特別なことではなくなり操作自体も簡単になったけれど、手軽になったことを気軽に運転できるとはき違えてはならない。実際、運転に真剣味が足りない人もいるだろう。でも、だからこそ、年齢を問わず、クルマを運転する人全員がもっと一生懸命運転すれば事故が減る可能性はある。まずは運転に興味を持つことだと思う。次に運転を楽しむことだと思う。クルマを単なる移動の道具にしておくのはもったいない。考えようによっては自分の人生を拡大してくれる相棒になりうるのだから。

昨年暮れの調査で免許証返納義務化に反対する人が23.9%いたらしい。それぞれが反対した動機は定かではないけれど、その人達はいつも覚悟を持って運転しているから返すことに抵抗があるのではないだろうか。

 

現状を認識するために改めて年齢層別に交通事故の数字をまとめてみた。左の表が交通事故件数で右が死に至った交通事故件数でともに令和3年度の数字だ。

事故発生件数から見れば決して高齢者の事故が多いわけではない。参考のために全人口に占める年齢別構成比と交通事故総件数に占める事故件数を調べてみた。30~59歳が人口の38.9%を占め交通事故の48.1%を起こしている。一方60~89歳は人口の32.8%で起こした事故は30.8%だ。
ただ、表からはいったん事故が起きた場合に亡くなる人の数は圧倒的に高齢者が多いのが読み取れる。重大事故に至る例が多いのだろう。高齢者の安全を考えるなら免許返納を促す流れは間違いではないかも知れないが、返納すれば片付く問題でもないだろう。運転の仕方によっては事故を防げる。免許証返納問題を機に、免許保有者の多くが運転を見直す風潮が生まれるといいのだが。

 

※数字は公益財団法人 交通事故総合分析センター発行の交通統計令和3年版より引用した



第677回 視界

1979年にアメリカに渡り、日本にいてはできないような仕事を広範囲に渡ってさせてもらってきた。例えば日系メーカーのモータースポーツ部門を立ち上げたのが2社。公共放送で6年間デトロイトモーターショーのコメンテーターもやった。アルミホイールメーカーの商品開発もやった。インディカーレースを日本に招聘する交渉役もやった。コマーシャルフィルムのドライバーをやったのは1度や2度ではない。ジムラッセルレーシングスクールで日本語クラスを創設しインストラクターもやった。でもこれらはごく一部。まだまだあるけどとてもここでは全てを書ききれない。
2017年に永住権を返納するまで40年あまり、日米をちょうど100往復した記録がある。今思えばアメリカでの経験は本当に得難いものだった。その経験を活かして自分のクルマ人生を集約しようと1999年暮れに始めたユイレーシングスクールも24年目を迎えている。これだけ長く同じことを続けたことはなく、スクールの合間にアメリカ時代に経験した類い稀な思い出がよみがえる。歳のせいか。 (笑) ほとんどが楽しかったことや嬉しかったことなのだけど、実はあの時ほど悔しくて情けなかったことはないという 『1日』 もある。我が人生で最大の汚点、と言っても過言ではない。

アメリカに仕事を求めたのには他にも理由があった。中学生のころに貪り読んでいた自動車雑誌に載っていたアメリカのモータースポーツに直に触れてみたいというのもあったし、クルマが好きというより運転するのが大好きだったから、日本人では誰も乗ったことのない速いクルマに乗りたいと思っていた。
ある日フロリダにあるフランク・ホウリ―・ドラッグレーシングスクールのスーパーコンプ・コースに申し込んだ。ゼロヨンを9秒台で走るいわゆるレールというマシンのクラス。座学に始まって反射神経の計測とかコクピットドリルが終わりスタートの練習になったのだけど、リアタイヤをホイールスピンをあまりさせないようにスタートの練習をするうちはまだよかった。ところが純ドラッグレース用のマシンはリアタイヤを派手にホイールスピンさせないと速くは走れない。ATトランスミッションがエンゲージした瞬間、リアタイヤが倍ぐらいの直径になったシーンを見たことがあるだろう。間近で見るとタイヤのサイドウォールに皺がよっているのがわかるほど。ロケットスタートの秘密。
しかし、しかし。ボクはスロットルを瞬時に全開にすることができなかった。おそるおそる開けようとすると、開け方が中途半端なのでリアタイヤがホイールスピンしない。しないから後輪が路面を捕まえて前輪が浮いてしまう。コンクリートウォールに挟まれたドラッグストリップ。どっちの方向に飛んでいくのかわからない。NASCARストックカーでもIMSAのGTPマシンでもそれなりに乗りこなしてきた自負はあるものの、次に何が起きるのか想像できない。生まれて初めて運転で身体がすくんだ。これはやってはいけない、と理性が語りかける。大げさではなく、クルマの運転で初めて自分にできないことがあることを自覚した。同時に受講していた人達はドラッグレースの経験者ばかり。できて当たり前。はでなスモークを上げてタイムを競っていた。乗りたいというだけで申し込んだ自分の判断が無謀だったことを痛感した。フランクにリタイヤする旨を告げ、傷心のうちに西海岸行きの飛行機に乗った。飛行機の中でもう1度自分の運転を見直そうとしみじみ思ったものだ。

けれど負け惜しみではなく、収穫がなかったわけではない。

座学でフランクの言った「運転は芸術だ」という言葉。運転の極意は無意識行動で操作ができるようになることだとも。それでなければドラッグスターは乗りこなせないと。ジムラッセ・レーシングスクール・カリフォルニアのジャック・カチュア校長も同じようなことを言っていたけど、目指すのはそこなのだろう。ただ運転するのではなく、どこへ向かおうとしているか、より深く考えるようになった。どうすればその域に到達できるかずっと考え続けてきた。身の回りにその域に達するためのヒントがないか、ずっと探し続けてきた。むろん今もだ。

ある日のこと。公道をかっ飛ぶラリーにはあまり興味がないのだけどWRCの動画を見ることがあって、目が釘付けになったことがある。現在はトヨタのドライバーで今年ランキング3位につけているエルフィン・エバンスの車載映像だった。これを芸術と言うのだろうか。 目からの情報がどうやって、どんな経路をたどってあのような速さで手足を動かしているのか想像できない。あの狭いダート路を思い通りにクルマを動かせるのかも、自分の経験からは推し量れない。あの日と同じ。口は開いたままだから身体は緊張していないはず。無意識行動だからこうしたいと思う通りに自然と身体が動くのか。

  果たして、彼の視界には何が映っているのだろう。
  どこにも焦点を合わせず、口を開けて脱力して無心に走ってみれば想像できるのかも知れない。

 

運転しているWRCドライバーの映像をYoutubeで探してみてはどうですか。現在ポイント1位のカッレ・ロバンペラ21歳のドライビングも運転という枠に収まらないほど刺激的です。

動画はWRCオフィシャルサイトから



第673回 数字から見えてくるモノ

公益財団法人交通事故総合分析センター発行の交通統計に載っている交通事故件数で最も古いのは昭和23年、1948年の21,341件。その年の交通事故死者数は3,848人とある。この年の死亡事故件数の記載はまだない。

交通事故件数、死亡交通事故件数、交通事故死者数、車両保有台数、人口、運転免許保有者数の数字がそろったのは昭和41年、1966年。今から56年前。この年、日本の道路には原付1種を含む2輪車から大型特殊自動車までありとあらゆる車両が1千8百万台走っていた。道路の総延長は98万9千キロ。乱暴な計算ではあるが全ての車両を1列に並べると549m間隔になる。
この年、42万6千件の交通事故が発生しうち13,257件が死亡事故。13,904人が亡くなっている。免許人口は2千3百万人弱。

車両保有台数が9千万台の大台に乗ったのは平成14年。今から20年前。道路の総延長は118万キロになったが、1列に並べた車両の間隔はおよそ13mに縮まる結果に。
この年、93万7千件の交通事故が発生し(過去最多は平成16年西暦2004年の95万3千件)、死亡事故は8,062件で8,396人の方が亡くなっている。免許人口は大幅に増加し7千6百万人強。

交通統計令和3年版に載っている最新の車両保有台数は91,253,654台。令和3年度の数字が掲載されていないので令和2年度の数字を借りると、道路の総延長は1,227,422キロ。全ての車両が日本全国の道路を13.5m間隔で走ることになる。
令和3年になると交通事故は大幅に減少し305,196件。死亡事故件数が2,583件。2,636人の方が亡くなっている。運転免許保有者は81,895,559人。

交通事故も交通死亡事故もひところに比べれば大幅に減少している。1966年より免許人口は3.6倍に増え車両の保有台数にいたっては5倍になったのだから、道路交通は間違いなく安全になっていると言ってもさしつかえないだろう。しかし死者数に関しては日本は24時間死者をカウントしているので救急医療が進み救急医療体制が整った現在、正確なところはわからない。もちろん死者数が減少傾向にあるのは歓迎すべきことだけど。
いずれにしろ交通事故そのものが減っているのは、クルマの運転を教えている者としては大いに喜ぶべきことではある。

しかしながら、事故を起こした人も起こそうとして起こしたわけではないのは百も承知だけれど、それでも事故は防げたのではないかと考えてしまう。

ここでは令和3年度にクルマと2輪車の交通事故がどのような状況で起きたかを知る手がかりとして、交通統計から引用した数字をまとめてみた。参考になるかどうかわからないがご覧いただければと思う。

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令和3年度事故類型別交通事故件数
 
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