トム ヨシダブログ


第639回 息を飲む

生身の人間が自然の摂理と物理の法則との狭間をたどり続ける営みを、息を止めて凝視できる喜び。
航跡のように生まれ続けるブラックマーク ! はためくライディングウエア !

史上最多の22戦で争われるMotoGP2022シーズンは今週末カタールで開幕。日本GPは9月25日開催予定だ。

※ MotoGPの版権及び肖像権はDorna Sportに帰属します



第631回 2008MotoGP US

カリフォルニア州モントレー郊外にあるラグナセカレースウエイ。ボクがSCCAのレースで走っていた頃は1コーナーが、5速全開からノーブレーキで4速に落としてターンインという超ハイスピードコースだったけれど、1987年に二輪の世界選手権を開催するためにFIM公認のコースに生まれ変わった。かっては現在の2コーナーと5コーナーがつながっているレイアウトだったのだけど、規定に合わせるため全長を延ばすことになりインフィールドにコースが新設された。現在では1周3.6Kmになっている。
ラグナセカの名物と言えばターン8にあたるコークスクリュー。下りながら左、右と切り返すS字コーナーは4階建ての高さを駆け降りると言われている。

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ターン7までは空しか見えない登り。登り切って着地するやいなやブレーキング。ターン8へのターンインではターン9の出口が見えないコークスクリューは過去幾多の名勝負が繰り広げられた。

今回紹介するのは2008年MotoGP AmericaGPでの名シーン。この年ラグナセカで初勝利を収めたバレンティーノ・ロッシが3周目のターン8のブレーキングで先行するケーシー・ストーナーのインを刺し、切り返しで勢い余ってダートに飛び出しながらも追い抜きに成功する。4輪ではあるけれどコークスクリュー手前のブレーキングとターンインの難しさを知っている身としては、バレの走りはただただ驚きでしかない。

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ことの始まりは、

※ラグナセカを周回する動画は こちらです



第624回 Grazie Valentino

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2021MotoGP最終戦バレンシアGP
自身432回目で最後となる世界選手権レースを10位で終え
お約束のウィリーで観客に別れを告げる

 

バレンティーノ・ロッシが引退した。1996年から四半世紀以上、26年間にわたり二輪ロードレース世界選手権に参加。出走回数の実に55.3%にあたる235回で表彰台に上り、9回の世界チャンピオンを獲得した伝説のライダー。近年は往時の鋭さこそなりを潜めてしまったが、時折見せるレースに勝つための走り、レースの読み解き方は彼独特のものだった。個人的には、ワタクシを含め世界中で最もファンの多いGPライダーだと思っている。

F1ドライバーをして「MotoGPライダーは頭のネジが1本抜けている」と言わしめる彼らのバランス感覚と張りつめた雰囲気。その中でひとり、いつも笑顔を絶やさなかったバレンティーノ・ロッシ。いつもレースに勝つことを追い求めることに貪欲でありながら心底楽しそうで、チェッカーを受ければこれでもかと全身から無邪気さが漂う。

靴として160Kgは決して軽くはないけれど、彼にとってGPモーターサイクルは両足のようなものだったのだろうね。さしずめ後輪が軸足で、けんけんするぐらいにたやすいことだったのかも知れない。これからは見ることのできない彼のウィリーを。

そして彼の妙技を。

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どこかの動画にバレンティーノ・ロッシがインの段差のある縁石に肘をこするものだから腕が震えていたシーンがあった。肘もバンク角を計るセンサーなのだと解釈した。

とおの昔からF1マシンはダウンフォースを武器に速さを増してきた。今やオポジットロックを見ることもない。一方、MotoGPマシンは動力性能とタイヤの性能向上で速さを身につけてきたけど、操るのはむき身の人間。MotoGPライダーをなんと形容すればいいのか。言葉を失う。

・バレンティーノ・ロッシの引退を惜しむべくMotoGPを統括する Dorna Sport から彼の勇士を記録した動画が次々と配信されている。中でもチャンピオン経験8回のマーク・マルケスとの争いは見もの。  https://www.youtube.com/watch?v=pfmcMjB64NE

・ヤマハ発動機公式チャンネルも16年間ともに世界で戦ったバレンティーノ・ロッシへの感謝を綴っている。2輪ファンではない人にもぜひ見てほしい。稀代の英雄の姿を。  https://www.youtube.com/watch?v=2iVtflczNC8&t=21s

 

※ MotoGPの版権及び肖像権はDorna Sportに帰属します



第603回 340万回越え

保存していた2015年MotoGPアメリカラウンドの予選でワールドチャンピオンのマルク・マルケスが見せた感動的なライディングテクニック。やっぱりみんなにも見てもらいたくなって、編集してユイレーシングスクールのYouTubeにアップしたのが2017年5月。

予選終了3分前のストレートでマルク・マルケスのマシンがエンジントラブルでストップ。マシンを止めピットウォールに立てかけ、駆け足でピットに戻りスペアマシンにまたがり残り2分30秒でピットアウト。1周2分はかかるサーキットだから計測されるにはチェッカー前に一度コントロールラインを通過する必要がある。チェッカー8秒前(‼)にコントロールラインを越えたマルク・マルケスは、そこから鬼神の走りを見せる。結果、3つのセクション全てでタイムを更新し、当然ながらポールポジションを手にする。見どころは3点。編集ではその部分をスローモーションにして追加した。
・マシンのテールスライドを腰で止めた
・ハードブレーキングでスライドを始めたリアタイヤをカウンターステアとステップから左足を離してリアタイヤに荷重をかけて修正
・ハードブレーキングで後輪が宙に浮いた状態からバランスをとりながらターンイン

人間が操る乗り物を、我々のレベルではとうてい垣間見ることすらできない領域で操る人たちに対し純粋な畏怖の念を抱く。
自分にできないことを彼らがやってしまうからあこがれているのではなく、現実にそんな人たちが存在することを強く認識する。もちろん彼らに及ぶべくもないけれど、彼らを目指すのだという意識があれば、到底届くことなどないことはわかっているけど、彼らと比べれば笑えるほどわずかなものかも知れないけれど、少しは前に進むことができるのではないかと思い続けてきた。どうすればああゆうことができるのか。持てる知識と経験を総動員してイメージする。全ての乗り物は機械だから物理学的に考えると糸口にたどりつけた。

それ以来、『魂が震える』のタイトルを付けたこの動画。視聴回数が340万回を越えた。コメントも1,000件を越えた。中には動画に挿入した字幕に誤字があることを指摘されたのが何通かあってへこんだけど(泣)、ほとんどはそんなことを気にかけずにタイトルを肯定してくれる内容だったのは嬉しい限り。

 

昨年第2戦の怪我から復帰したマルケス。12日に行われた2021MotoGP13戦アラゴンGPでは今年2回目の表彰台にのぼったものの、「まだ元のように走れてはいない」とのコメントが気になる。

たくさんのファンがあなたの超人的なライディングをもう一度見たいと思っています。慌てなくても大丈夫ですから、またあの鬼神のような走りを必ず見せて下さい。待っています。

 

※ 誤字を訂正してアップした動画は https://youtu.be/FPTlfnzruB0 です
※ MotoGPの商標権者は Dorna Sports です



第236回 鬼神は実在する

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ルノーとも4輪自動車とも関係ないが、公開されているものに無断で手を加えたビデオを見て欲しい。
モーターサイクルレースの最高峰、2015MotoGPアメリカGPの予選の模様だ。最終的にポールポジションを獲得するマルク・マルケス選手の戦いぶりが収められている。

エンジンで動く乗り物が好きな人間にとって、速度の上昇に伴って加速度的に増加しながら眼前に立ちはだかる巨大な力、運動エネルギーのコントロールこそあこがれの最たるものだ。

予選残り3分でマシントラブルに見舞われたマルケス選手はピットロードを自身の足で駆け抜け、スペアマシンに飛び乗り、暴れるマシンをなにごともないように操り、3つ全てのスプリット区間でベストタイムをたたき出しながらコントロールラインを目指す。そしてポールポジション。

モーターサイクルに乗ったことのない人も4輪を運転したことがあれば、おそらく、なぜあのような高速で運動エネルギーを制御しながら、大胆とも言えるコントロールをごく自然に続けることができるのか不思議に思うに違いない。

 

ふつうの人にはできないことを簡単そうにやってのける人がいる。
ふつうの人には想像のできない領域でバランスを保てる人がいる。

自分にできるかできないかはどうでもいい。ただただ、同じ時代に同じ世界にいて、彼が成し遂げたことの証人になれたのだから、これほど幸せなことはない。

 

 

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