トム ヨシダブログ


第4回 ちょっぴりスポーツしてしまった

  オドメーターの数字が3,000を超えた。正確に言うと、このブログの原稿を書き終えたところで3,276キロ。記録を見ると、走行距離の93%が高速道路を利用している。極力3,000回転を守って走ったから、個人的には理想に近いブレークインができたと思っている。
  最近のエンジンは部品の工作精度が高い上に組み付け時のばらつきがなくなったから、例えそれがレーシングエンジンだとしても、昔みたいに神経質な『慣らし』は必用がない、と著名なエンジンビルダーに聞いたことがある。それでも、しばらくは自分とスクールの足になってくれるトゥインゴだから、できることはやってあげたかった。

慣らし運転のために真夜中の高速道路を走ったりも。

  とは言うものの、全行程でお行儀がよかったわけではない。一度は富士スピードウエイで開催したYRSオーバルレースの時にコースを走ってみたし、3,000キロ間近のとある日にはサーキットを走ってもみた。
 
  YRSオーバルレースとは、YRSオーバルスクールを卒業して、クルマを使って人と競争してみたいと思った人が参加できる日本で一番敷居の低いモータースポーツのことだ。楕円形のコースをぐるぐる回るだけの自動車レースだが、本場アメリカのオーバルレースを知る人間としてはロードレースより奥が深く楽しいと断言できる。
 
  YRSオーバルレースはパイロンを並べて作った半径22メートルの半円を130メートルの直線で結んだコースを使う。コース幅は13.1メートル。3車線の高速道路より2メートルほど広い。ユイレーシングスクールでは便宜上、YRSオーバルFSWロンガーと呼んでいる。そこを何台ものクルマがテールツーノーズ、ドアツードアで走るのだから見ていておもしろいし、走っている当人達はもっと楽しい。
  このコース、1.6リッタークラスのクルマでもコーナリング速度を高く保つことができれば、到達速度は3速100Km/hを超える。そこからブレーキングしながら、シフトダウンしながらステアリングを切り込むことになる。言葉で説明すると難しく聞こえるかも知れないが、1周19秒のコースを何周も何周も走るうちに自然に身体が動くようになるものだ。
 
  トゥインゴのYRSオーバルFSWロンガー初体験はと言うと、慣らし中ということもあって3,000回転を保つにはストレートを4速で走らなければならず、本格的に攻めるのまでにはいたらなかった。とは言うもののコーナリング速度まで遠慮する必要はないわけで、ターンイン直後に失速しないようにできるだけ薄いトレイルブレーキングを心がけた。
 
  YRSオーバルレースに参加するクルマは様々だが、共通しているのはふだん足に使っているクルマであることと、レース用の特別な改造はしていないこと。それでもクルマはよくできた道具だから、理にかなった操作さえすれば想像以上に高い性能を発揮するし安全でもある。そんな卒業生対象のレースだが、1代目、2代目のロードスターが台数的に多い。ツーシーターでコントロールがしやすいという利点の他に、ランニングコストが安いというメリットもあるからだろう。
  そのロードスター。YRSオーバルFSWロンガーをアウトインアウトで走ると、コーナーのアプローチさえ間違わなければコーナーの最も速度が落ちるところでも60Km/hを維持することができる。では、同じくYRSスクールレースに参加しているポルシェカレラやランサーやインプレッサはどうかというと、彼らも60Km/hを割らなければ上出来の部類なのだ。
  1周の速さで計ると、スピードが出るクルマが必ずしも速くないのがオーバルコースの面白いところ。
  加速がよくてロードスターより到達速度が高くても、その分ロードスター以上の減速をしなければならない。加速がよいクルマというのは重たいものだから、いかにロードスターより太いタイヤを履いていてもコーナリングの限界速度は同じようなものになる。
  だから。YRSオーバルレースはクラス分けはない。たった2周で行われる予選のタイム順にクラスを分けることにしている。場合によっては10台ぐらいがコンマ5秒ぐらいの間に並ぶこともある。区切りのよいところでクラス分けを行い、少なくても10台、多ければ20台以上のレースになる。
 
  さて、オーバルレースとなると虚々実々の駆け引きが必用になる。どうやってクルマを使って人と競争するか、ということは別の機会にゆずるとして、まずはオーバルコースを速く走ることを想像してみて欲しい。
 
  走っているクルマはエネルギーの塊だ。慣性力とか、勢いとも言う。
  クルマを思い通り動かそうとすると、このエネルギーと仲良くならなくてはならない。厄介な相手でもある。しかもスピードを出せば出すほど大きくなるからなおさらだ。
 
  60Km/hでエイペックスをかすめて徐々に加速する。クルマが真っ直ぐを向いたらスロットルを床まで踏みつける。2速から3速。クルマは加速を続ける。同時にエネルギーも肥大し続けている。
  この直進方向のエネルギーの向きを換えることが、実は、コーナリングなのだ。ステアリングを切れば確かにクルマは曲がるが、それはあくまでも人間側から見た場合の話であって、クルマの立場からすればエネルギーの方向を変えることこそコーナリングなのだ。
  コーナーが迫ってくる。むろんその速度でコーナリングに移れるわけがない。ブレーキングが必用だ。2速にシフトダウンもしなければならない。どこで、何を、どうする?
  まず考えなければならないのは、タイヤのグリップ。タイヤが路面をつかまえる力だ。加速にしても、減速にしても、旋回するにしてもタイヤのグリップ抜きには実現しない。4本あるタイヤのグリップを損なわないようにすることが、クルマの運転の第一歩。

ブレーキを引きずりながらコーナリングを開始するトレイルブレーキング。

  YRSの卒業生にはいないが、操作に慣れていない人の場合。ステアリングを切ってもクルマが曲がらないことがある。いわゆるアンダーステアの状態だ。逆にステアリングを切った瞬間にテールがスライドすることがある。これをオーバーステアと言う。どちらもクルマのバランスを崩してしまった結果だ。
  もし、その時にその人が速く走ろうとしていたなら、アンダーステアやオーバーステアにおちいることは避けるべきだ。そうならない運転を覚えることが先決だ。やみくもに速く走ろうとするのは、安全性の面からも決して褒められることではない。
 
  直進状態でブレーキング。ある程度スピードを殺す。ブレーキを緩めて前にかかった荷重を抜く。ステアリングをわずかに切り、さらに踏力をゆるめながらシフトダウン。ステアリングを切り足し、リアがロールを始めたのを感じて右足をスロットルに移す。
  リアのオーバーハングが極端に小さいせいなのか、あるいはリアのサスペンションのストロークが十分なのか、トレイルブレーキングを使っている最中の挙動は非常におだやか。FFということもむろん計算に入れる必要はあるが、どちらかというとトゥインゴの「足」はアンダーステア傾向にある。正確には、『極限状態になってもオーバーステアにならないような味付がしてある』と言うべきだろう。 
  来年のオーバルスクールでFFに乗っている受講者に味わってもらう楽しみが増えた。

晩秋に訪れた富士山は雪の装い。

 

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 2011年2月6日(日)。富士スピードウエイでYRSオーバルスクール上級編を行います。他のオーバルスクールとことなり、YRSオーバルFSWロンガーをアウトインアウトで走る練習をします。原則としてYRSオーバルスクールを以前に受講した方が対象ですが、サーキットを走ったことがあり、かつヒールアンドトーができる場合に限り、このブログの読者の参加を歓迎します。
・YRSオーバルFSWロンガー歴代ラップ一覧
http://www.avoc.com/3result/pt10/yof-longer.shtml
・2011年2月6日YRSオーバルスクールFSWロンガー案内頁 
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=os&p=osf


第3回 トゥインゴGTとの対話が進む

  今年最後のスクールでデモンストレーションをしてやろうという目論見は崩れてしまったが、高速道路を使った慣らし運転と片道400キロ近い富士スピードウエイまでの道のりで、ずいぶんとトゥインゴGTが身体になじんできた。
 
  オートマチックトランスミッション(AT)全盛の時代だが、マニュアルシフトは嫌いではない。確かにATは必要な操作を省くことができるから楽ではある。当然、シフトをする必要がなければないほうがいいと言うが人が多数だろうし、それを否定するつもりもないが、運転を教えている立場からすると、シフトをすることで運転しているという意識が高まるという側面があるということを付け加えておきたい。
 
  いつも走っている道を、あえてゆっくり走ってみる。他人の迷惑にならないような時間に、わざとゆっくり走って見る。その時。いつも目に入ってくる景色はどう映るだろうか。自分の意識の変化に敏感であれば、いつもより集中力が落ちていることに気づくはずだ。ゆっくり走ることによって、速さに対する緊張感が薄れるのが原因だ。人間の行動は環境に大いに左右される。マニュアルシフトが運転力を高めるなどとは言わないが、クルマを選ぶ時、マニュアルシフトが有力な選択肢のひとつであってほしいと思う。
  アメリカで乗っていたシボレーのクルーキャブとサバーバン以外、今まで所有したクルマは全てマニュアルシフト。やがてやってくる新しい相棒も、もちろんマニュアルシフトだ。
 
  マニュアルシフトが好きな理由は他にもある。よほど高級なATでないと、エンジンの力と駆動力がダイレクトにつながっていないもどかしさ、はがゆさを明確に感じてしまうことだ。自動変速機らしくないATはおいそれとは手に入らない。昔で言うところのトルコンスリップを無視して割り切ってしまえばどうってことのない問題なのだが、マニュアルシフトのクルマしか走っていなかった時代に運転の洗礼を受けた者にとっては、ヒールアンドトーができるかできないかはクルマの重要な機能だ。

すっかり色づいた京都。色彩豊か。

  排気量が小さいから下のトルクを期待することは難しい。レバー比の関係なのか、若干ミートポイントがあいまいなクラッチと相まって、ある程度回転を上げておかないと発進時にギクシャクすることがある。実際、ディーラーの敷地でエンストすること4回。いささか自己嫌悪におちいった。
  とは言うものの、「クルマを発進させる時はネ、できるだけ低い回転でクラッチをつなぐのが粋なんだヨ」と教えられた世代だから、低回転での発進を意識し過ぎるのかも知れない。

  走り出してしまうと、この赤い小さなホットハッチの元気さを味わうことができる。
  まだ慣らしが終わっていないので全開にしたことはないが、早く回してみたくなる。そんな気持ちにさせられるのは久しぶりだ。
  40キロぐらいの流れに乗るには、3速で2,100回転まで回せばこと足りる。4速では1,500回転。5速にいたっては1,200回転しかエンジンは回っていない。「どんだけ前の話?」と突っ込まれそうだが、昔の小さなエンジンだと2,000回転は回していないとからきしだらしがなかった。それが5速1,200回転からでもスロットルをゆっくり開けてやるとキチンと加速を始めるのだから、エンジンにとっていいことかどうかは別にして、常用範囲の広さは特筆ものだ。
  1,800回転も回っていればスロットルの開度に反応してターボが効きだす。過給されている加速であることは明確にわかるが、多少スロットルを多めに開けてもドッカンという加速はしない。ただし、3,000回転までしか回していない現時点でも2,500回転を超えてからの加速はこの大きさのクルマのものとは思えないから、加速する時にはいつでも、閉じる準備をしてからスロットルを開けたほうがいい。

街中でなにげなく撮っても絵になる。これがエスプリ?

  料金所を抜けてランプを駆けあがり、合流車線を3速で加速する。2,000回転から3,000回転までの時間は瞬く間。シフトアップが遅れないように気をつける必要がある。4速に上げて3,000回転。77キロ。5速にシフトアップしてメーター読みで3,000回転まで引っ張ると、デジタル数字が100を示す。
  3,000回転をできるだけ維持しながら慣らし運転を行ったが、5速に入れっぱなしでも何の問題もなく、トラックに前をふさがれて80キロに落ちても視界が開ければ5速のまま、他のクルマをリードしながらペースを戻せる。ずぼら運転ができるから長距離も苦にならない。あとは、回せるようになった時にどんな動力性能を感じさせてくれるかだ。

  まだトゥインゴGTの性能の一端を味わっただけだが、ルノージャポンはドライビングスクールにとって理想的な教材を提供してくれた。うまい運転とは、最終的にクルマの性能を自由に引き出したり、制御したりできることと同義だ。少しばかり元気のいい小さなホットハッチは運転の本質を教えてくれるかも知れない。

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  ユイレーシングスクールはスピードを出すことを教えているのでも奨励しているのでもありません。クルマを運転する時、それが公道であろうとサーキットであとうとその場、その時の秩序を守る必要があるのは言うまでもありません。しかし、一方で速度を出さないことが安全だとする風潮には反対です。制限速度を守っていれば安全かと言うと、そうではないと思うのです。
  制限速度を守っていては、ドライビングポテンシャルはそれ以上にふくらみません。制限速度を守り安全に走行していると思っていても、実はポテンシャルの100%で運転しているわけです。クルマは人間が実現できる以上の速さで走ります。速さに畏怖の念をいだくためにも、ドライビングスクールなどでクルマの性能を引き出すことに挑戦してみる価値はあると思います。

どうやったらクルマと一体になれるか。アドバイスが練習走行で生きる。