トム ヨシダブログ


第813回 GPSLaps その後

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ブログ811回 GPSLapsで四者四様 の続き
 
画像はスタッフYのベストラップ23秒545の周
速度と加速度のグラフに走行ラインを加えたもの
今回は走行ラインから4人の走り方の違いを検証
 
計測ライン(白線)でグラフは始まり
1周500m余のコースを走行したデータ

 

・走行ラインの色は
・緑色が濃いほど加速度が大きく
・赤色が濃いほどマイナス加速度が大きく
・その中間の黄色は加速度がイーブンかわずかにマイナス

・走りを俯瞰すると
・計測ライン手前で3速にアップシフトしているので瞬間加速Gがマイナスに
・加速直後にラインが赤くならないのはトランジッションの分
・直進状態で-0.7Gほどのブレーキングを短く
・直進状態で踏力を抜き始め
・ターンイン後は失速しないように限りなく薄いブレーキを引き摺る
・ステアリングを戻すのに比例してスロットルを開ける
・2速で加速しキンクまでに3速にアップシフト
・パーシャルスロットルでキンクを抜け加速
・トランジションを取りながらブレーキングし2速にダウンシフト
・舵角がつく前にブレーキを抜きフロント荷重を減じる
・長い直線での加速を有利にするため
・ブレーキを奥まで引き摺ってヨーモーメントを発生させる
・2速で引っ張り3速にアップシフトで1周

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比較のために4人の走行ラインを並べてみた。左からワタクシ、スタッフY、スタッフF、参加者Fさん。

・ワタクシ
ウエットだとは言えなぜこんなヘロヘロの走りしかできなかったのか記憶にないのだけど、4人の中で1人だけキンクを抜けた後で直線的に加速し直線上で減速するラインをとっている。意図してやっているのだけど横向き加速度のグラフを見ると、キンクで右向きの加速度がかかった直後に左向きの加速度が現れている。ステアリングを戻して直線的に加速した証。その方が速いしクルマの挙動がわかりやすい。

・スタッフY
ワタクシよりコンマ547秒速かったY。下のコーナーはワタクシよりブレーキングが奥で踏力も強い。キンクは踏んでいってるけどキンクを抜けた時に一瞬スロットルを戻しているのはなぜ。

・スタッフF
ワタクシもそうだけどFもYよりアップシフトの時間がYに比べて長いか。下のコーナーのブレーキングを見ると緑から黄色の部分が少なくて赤に変わっているから、ブレーキを蹴とばす傾向にあるのかも。

・参加者Fさん
走行の手順はセオリー通りなので、加速度のグラフで加速度の大きさと立ち上がり方や収束のしかた、走行ラインで各パートの流れを検証すれば次回は間違いなく1秒アップです。また走りに来て下さい。

モニターに映さないと見にくいかもしれないけど、走行ラインの色分けからいろいろなものが見えてくる。スタッフのYとFとはグラフを見ながらあ~でもない、こ~でもないと重箱の隅をつつき合ったものだ。

走り終わった後でどんな操作をしていたか振り返ることができるのは大いに楽しい。掛け値なしの自分と向き合える。理論的に正しいと思ってやっていたことがその通りではなく微妙にズレていたり、何よりも失敗したことが正しく記録に残る。理論とのズレが起きた原因を探り当て、失敗した原因がおおかた欲をかいたからだと自戒することができれば、このワタクシめでもまだ伸びしろがあると確信できるというものだ。

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ユイレーシングスクール25年目の活動は、10月のエンジンドライビングレッスンと12月のポルシェクラブ東京銀座のドライビングレッスン、それとYRS独自のプログラム、YRSツーデースクールFSWとYRSドライビングワークショップFSWを残すのみになりました。

YRSツーデースクールFSWは1日目が駐車場での基礎練習で2日目がショートコースを100周以上走る短期集中型のドライビングスクールです。運転はある意味操作に慣れることが大切なので2日間運転にドップリ浸かることは非常に有効です。

9月21,22日に開催するYRSツーデースクールFSWの申し込みは以下のリンクから行えます。
・9月21/22日(土日)開催 YRSツーデースクール開催案内 & 申し込みフォームへのリンク

YRSドライビングワークショップFSWはクルマを動かす基本操作の質を高めるのが目的で、富士スピードウエイ駐車場を使って午前中はブレーキング練習を2種類とスラローム練習。午後は加速減速旋回を高いレベルでまとめるためのオーバル走行を行います。全ての練習はFMラジオからリアルタイムでアドバイスを受けながら行います。クルマを思い通りに動かすコツを体験できます。

11月2日(土)に開催するYRSドライビングワークショップFSWの申し込みは以下のリンクから行えます。
・11月2日(土) YRSドライビングワークショップFSW開催案内

ルノー乗りの方はぜひ一度参加してみて下さい。ルノー車の良さを再認識すること請け合いです。



第798回 GPSLaps

Kさんは2003年9月の筑波サーキット公式ドライビングスクールで初めてユイレーシングスクールを体験してくれた。その後本職が忙しくなる2019年までYRSエンデューロやYRSスプリント、YRSオーバルレースなどをメインに延べ80回近く走りに来てくれた。

そのKさんが開発したのがラップタイムと加減速/横Gと速度に加えて走行ラインが記録できるアプリのGPSLaps。サーキット走行をする人の間で高い評価を得ている。ユイレーシングスクールに来る人の中でも装着率は高い。

先日のYRSオーバルスクールでスタッフFがGPSLapsとGPSレシーバーを持ってきたので、トレイルブレーキングとイーブンスロットルがキチンとできているか検証することになった。そこでFのルーテシアⅢRSでFと、GRヤリスに乗っているスタッフMとラップタイム勝負をしてみた。
結果は。もちろんどちらもボクの勝ち。ただし彼らの名誉のために付け加えると、ボクのデータを見てから再度走ったら、ふたりとも遜色ない速さを見せていた。速度と加速度を照らし合わせると、クルマがどこでどう失速しているかどうかが検証できるので、その部分を意識して操作をするとクルマが前に進むようになる。下の画像はルーテシアⅢRSで半径22m直線130mのYRSオーバルFSWロングを4周したうちのベストラップ。

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ルーテシアⅢRSでのベストラップで上段の赤線は速度
スタート後100m付近がYRSオーバルロングの下のコーナーで
330m付近が上のコーナー
下段の加減速度を表す青線の同じ区間でイーブンスロットル
コーナーのボトムスピードを維持している
緑線は横Gでどちらのコーナーでも瞬間的に1Gを記録している

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画像右が下のコーナーで進入が下りで脱出が上り
走行ラインを見るとクルマの動きがわかる
緑色の部分が加速で黄色が定速で赤色が減速
2本のストレートの真ん中あたりで
瞬間的に黄色になっているのは3速へのシフトアップ
トレイルブレーキング区間の色が赤ではない

 

時間が許せば7月18日のYRS筑波サーキットドライビングスクールで、将来的に開催したい参加者の走行データを解析してアドバイスするスクールのベースラインを作るためにGPSLapsを使ってみようと思う。

7月18日(木)開催 YRS筑波サーキットドライビングスクール開催案内へのリンク



第769回 荷重移動をコントロールする

3速の最大トルク発生回転あたりでイーブンスロットルを保ちつつコーナリング。立ち上がりでステアリングを戻す量と正確に反比例するだけスロットルを開けて4速に。そのまま加速すると速度超過になるから4速に上げてからはスロットル一定。もちろん上り坂になれば開けるし下り坂ならば閉じる。
次のコーナーが迫る。イニシャルブレ ーキングで減速Gを立ち上げてから踏力を抜く。パッドとローターが離れない範囲の最小限の踏力を維持。前後荷重が均等になるのを確認してから右足をブレーキペダルに置いたままターンイン。最初はごく微舵角。直進方向に進んでいた運動エネルギーがステアと連動しているのを確認してから切り足す。ブレーキは、まだパッドの摺動抵抗を感じながら引き摺り続ける。ターンインの瞬間にわずかに肩で感じた遠心力がややあって腰で感じられるほどにクルマがロールする。

ヤッタ!   直線を走っている時に合致していたクルマの向きと運動エネルギーの方向を、クルマを曲げてもなお、ほぼ一致させ続けることができた。

クルマの運転でこれほど楽しいことはない。本来ならば人間が御しきれない大きな力を高い感性と繊細な操作で自在に操る。

それが何だ、と言われればそれまでだけれど、周りはみんながクルマの動きなど意に介せずにクルマ任せで走っているのを見るにつけ、もったいないと心から思う。ユイレーシングスクールのスタッフと比べてもボクが最も奥までブレーキを引き摺る。なぜ奥まで引き摺るのか。なぜって、クルマは一度も失速することなくブレーキングからターンイン、コーナリングから加速へと流れ続ける。その筋道をつけているのが自分自身だと認識できることが楽しい。

まぁ、人から見ればそんなたわいのないことを楽しむのが富士スピードウエイから須走の定宿、扇屋さんに行くまでのワインディングロードの往復。基本的に須走に向かって登り、FSWに向かって下りだけど、どちらもそれなりの楽しみがある。

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YRSツーデースクールFSWの時に
扇屋さんに泊まる参加者に配る地図
 
東ゲートを出て須走に向かうと
将来小山スマートインターができるあたりにラウンドアバウトができたから
若干実情とは異なるけど
富士霊園から先のワインディングロードはそのまま

 

今のクルマは良くできているしタイヤもしっかり路面をつかむから、なにげなく運転してもクルマの動きはほとんどが運転手の手柄になる。運転手は自身の操作に疑問を持たない。

しかしクルマは動き出した瞬間にエネルギーを蓄え始める。速度が上がるほどにそれは巨大な力になる。それは人間ひとりでは絶対に手に負えないシロモノ。それを味方につけるための努力が、イコール運転を楽しむことと言っても言い過ぎではないだろう。それを味方につければ安全にクルマを走らせられるし、速く走ろうと思えばそれも可能だ。それを味方につけるためには荷重移動のコントロールが極めて重要になる。

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ターンイン時に左右前輪に荷重がかかっていないと
ステアした瞬間に直進しようとしていた運動エネルギーが
アウト側前輪に集中しイン側前輪はロールによってリフトする
 
ターンイン時にイン側前輪の荷重が抜けていなければ
フロントのロールが抑えられると同時に
リアのロールも抑制されるから
結果としてクルマは向きを変えやすい

 

ユイレーシングスクールでは次のドライビングスクールを開催します。ロールコントロール、荷重移動のコントロールを実際に体験してみませんか。
・2月22日(木) YRS筑波サーキットドライビングスクール 開催案内
・2月24日(土) YRSドライビングワークショップFSW 開催案内
・3月31日(日) YRSトライオーバルスクールFSW 開催案内



第761回 YRS25年目始動 Nさんの場合

昨年暮れのYRSトライオーバルスクールFSWに参加してくれたルノー仲間に感想文を頼んでおいた。全員分が揃ってからと思っていたけれど届いた順に。

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次はNさん
顔出しNGなのでYRS流に後ろ向きで

 

昨年の夏に参加させて頂いてから、およそ1年半ぶり、2回目の参加となりました。前回はオーバルコース、今回はトライオーバルコースにルーテシア3で参加です。しっかり3速に入るコース、かつ、久しぶりのアクセル全開!、い0やぁ楽しかったです。

以下、走ってみて自分なりの感想です。(思い違いもあるかと思います。また次回の自分に向けた備忘録的なところもありますのでご容赦ください。)

まず事前にトム・ヨシダさんのブログを読んでいたのですが、キンクのコースを想像出来ていませんでした。実際、走ってみると、キンク以外のコーナーの地面の傾きやキンク付近がややゆるい丘のようになっているように感じました。(自分はその辺の感覚が鈍いので間違っているかもしれません。)

朝の走行、早速スピンをやらかしました。シフトダウンが苦手なので、キンクでないコーナーを試しに3速でゆっくりまわったつもりだったのですが、コーナー中盤からリアがでて止まらなくなりました。タイヤ冷えているとこんなにもグリップしないものなのね0。
一緒に走っている方々にはご迷惑をお掛けし失礼しました。

今回、話題のキンクを全開することを特に意識しました。ハイパワー車ではないですが、それでも左回りでキンクから次のコーナの侵入が怖かったです。全開でゆるい丘を乗り越えたようなキンクの後、1番スピードが出ていると思われるところからすぐ減速です。少しロールが残る中、姿勢を乱さないように直線的なブレーキを心がけていましたが、ついつい減速しすぎて、次のコーナーにむけてロールを再び作るのが遅れスピードが遅くなったように思います。

また、もう一つのキンクの前のコーナーは、直線からのアプローチですが、ツッコミ過ぎ、かつ、シフトダウン時のブレーキが強すぎて失速していました。コーナーでシフトダウンして2速で4000から5000回転で走っていました。3速のままでまわってみたら4000回転近くで回れていたので、ギア比から考えると2速5000回転以上でコーナリングができたらいいなぁと思いました。
実際、失速しているので、割と小回りして立ち上がり、そのままキンクをアクセル全開でぬけます。それでも小回りしすぎてキンクが全開で抜けれなくなるのは避けたつもりです。(そもそも失速しなければ小回りしないでいいはずなのですが、、、)

またキンク前のコーナーを割と大きくまわってキンクへの侵入を楽にすることを試みてみましたが、コーナリングしている時間が長く駆動輪が空回りするのでなかなかアクセルが踏めません。(コーナーリングスピードが乗っていればいいのでしょうが、失速してかつ大回りになってしまいました。)

立ち上がりの駆動輪の空転を抑えるため、ロールをなくす位置を探りたかったのですが今回それはできませんでした。次回、できれば立ち上がりラインとともにロールをなくす位置を変えて、どれぐらいタイム差が変わるか確認し、自分の中の時間感覚を補正したいと感じました。

今回、複数の講師の方々に同乗頂く機会があり、普段得られることがないような貴重なアドバイスと体験をいただいたのがありがたかったです。大変お世話になりました。
また、トム・ヨシダさんはじめ講師の方々のドライビング操作は、スムーズであり、何事もなかったかのように楽してコーナリングしているように見えつつも、実はスピードが乗っているというのが印象に残りました。ある一方のタイヤのグリップが急に破綻することなく、スキール音も急に発生したり収まったりするような雑なものではありませんでした。

前回の参加から間が空いてしまったのでツッコミ過ぎて失速し、車の姿勢変化を待つ余裕を作ることやトレイルブレーキ、特にイーブンスロットルを忘れていて、ラジオからの指示があってもなかなかできなかったのが反省です。また、スムーズで繊細な操作を意識する必要があると感じました。

自分の走りとそのイメージを少しでもアドバイスに近づけるべく、次回ぜひまたよろしくお願い致します。

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Nさん 思い切りのいい走りはなかなかのものでしたよ。また全開しに来て下さいね。

 

※ ユイレーシングスクールの25年目は2月3日(土)開催のYRSオーバルスクールFSWで始まります。ルノー乗りの方はぜひ走り初めに来てみませんか。
2月3日(土)開催 YRSオーバルスクールFSW開催案内&申込みフォームへのリンク



第744回 ブログ記事へのコメント それから

ブログ 第716回 続・人間の操作がクルマを動かす を読まれたユイレーシングスクール卒業生が記事にコメントを寄せてくれていた。気づくのが遅くなってしまったけれど。

  いつもお世話になっております。 スクールだけでなく、ブログの内容もいつも興味深く拝読させていただいています。 今回の比較、とても勉強になります。 前半のブレーキング操作の違い(特に抜き方)も大きいですが、更にコーナリング中のイーブンスロットル操作の差が大きいように感じます。 私もよくやってしまいますが、Sさんの6-7.5秒あたりのGの落ち込みに対して、トムさんはずっと加速Gを保つようにイーブンスロットルから全加速につなげていますが、このような操作の違いを生む要因は何だとお考えですか?

次の画像がコメントで指摘のあった2人の操作の違い
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以下がコメントへの返信。
  無意識に身体が動いてくれるのでどういう操作をしているかあまり認識はしていないのですが、強いてあげるのならば、
・スロットルペダル(ブレーキペダルも)を戻すことを前提に踏んでいる
・オンオフのオフ時に100%オフにしないで、スロットル一定でも回れる位置までしか戻さない、でしょうか。
トレイルブレーキングが終わった時点で、それ以降マイナス加速度が発生しないようにすることがイーブンスロットルの目指すところだと思います。

 

改めて読み返して、回答がありまいで中途半端だったような気がする。自分でどのような操作をしているか、ホントに無意識というか条件反射的に身体が動いているので流れが止まることはなく、行動そのものを認識してはいないようだ。ただ、振り返って自分の操作を俯瞰するとこんなことではないかと。
・スロットル、ブレーキ、ステアリングの各操作がON/OFFにならないように意識している
・ボリューム(可変抵抗器)を回したり戻したりするようなイメージの操作をするように意識している
・具体的には各操作において操作の開始から操作の終了まで同じ速度で行わない
・操作の速さから見た場合に操作の最初は遅くその後クルマの動きを感じながら加速度的に速くする
・クルマの動きを細大漏らさず感じることができるようなドライビングポジションをとる
・走行中に身体がシートの上で少しもズレないようなドライビングポジションになるよう修正を続ける
・加減速Gでお尻が前後にずれないように床の上に置く踵を意識して座る
・横Gに負けて背骨がシートバックの中心からずれないように膝を開いて座る
・下半身だけで上半身の動きを制限して上半身の力を抜く
・ステアリングホイールはにぎらず手のひらの摩擦で重さを感じながら回す
・ステアリングホイールを左右の手の力五分五分では回さない

以上、「操作の違いを生む要因」に対する回答になっているかどうかは?だけど、自分なりに思いめぐらせてみた。

あと付け加えるなら、敢えて操作の開始を早めて常により効率的=理論的に理想だと思われる操作を過不足なくできるように心掛けているのと、どんな場合でも100%ではなく手を抜いて走った上で速さを得ることを目指す、くらいだろうか。
要は、速さに対するイメージより早めに操作を開始しすることを躊躇せず、その代わりにできるだけ速度を落とさないことに集中する。なにしろ加速度から見れば、クルマは減速より加速のほうが苦手なのだから。

頑張ってしまうと、クルマさんの言っていることを聞き逃しかねないことを経験的に知っている。だから、アメリカでレースをやっていた頃を含めてサーキットを走る時に必死になった覚えはない。なにしろ臆病なもので。でも、それが奏功しているのかも知れない。だからスピンもしたことがなかったのが自慢だ。



第730回 コーナリング考察

クルマはコーナリングが苦手だ。直進状態から旋回に移る時に起きる荷重移動。それは直進方向の加速度をコントロールすることに集中できる加速や減速とは異なり、それらに加えてターンインの瞬間から横方向の加速度もコントロールする必要が生まれるからだ。しかもクルマは巨大な運動エネルギーを抱えて走っているからその向きを変えることは容易ではない。ターンインの速度が速くなると、かかる横Gの大きさは速度の上昇の二乗に比例して大きくなるからさらにやっかいだ。

ユイレーシングスクールがトランジッションにこだわるのは4輪を使ってできるだけ高い速度からターンインしたいから。コーナリングを始めたクルマは前輪の舵角が走行抵抗になって速度を殺がれる傾向にあるから、速く走ることが目的ならばターンイン時の速度はできるだけ高いほうがいい。しかしながら、高い速度でターンインをしても次の瞬間にアンダーステアを出したりオーバーステアに陥っては本末転倒だ。そこでターンイン時のクルマの姿勢=4本のタイヤにかかる荷重=タイヤのグリップをコントロールすることが重要になる。

次のふたつの動画は加速から減速、ターンインからコーナリングに移る加速度の変化をGセンサーで可視化したものだ。

最初の動画はトレイルブレーキングを使ってターンインをする時に、可能な限り前荷重にならないように。そしてコーナリング中に失速しないように明確なイーブンスロットルを心がけている。

次の動画はラップタイムの向上を狙ってスロットルオフを遅らせ強いブレーキをかけ、踏力を抜きながらターンインをした場合。走っていてアンダーステアは感じないものの、クルマの向きと運動エネルギーの方向が一致していない瞬間がある。つまり現象としてはアンダーステアの手前にあるのも事実。

速く走るためにはタイヤのグリップを有効に使う必要があるのは事実だとして、グリップの限界を維持するために摩擦円の円周をなぞることを目指すのがいいのかどうかは検証してみる必要がある。     【参考リンク】YRS教科書 37頁摩擦円回答

最初の動画はブレーキング後に極力前荷重を抜きターンイン時に前輪に負担がかかっていない状態を実現しようとしている。前後輪のグリップが均等な状態からターンインすることによって、ターンイン後はブレーキを引き摺っているにも関わらず減速Gは発生せず横Gだけが増えることになる。タイヤのグリップをコントロールする際に摩擦円の円周をなぞるのではなく、操作と操作の間に4本のタイヤに均等に荷重がかかっている状態を挟んでいるため、結果的に荷重は摩擦円の内側で十字型のように移動することになる。クルマの性能を引き出しやすいように、ユイレーシングスクールが進めているトランジッションを設ける=挙動と挙動の間でクルマをフラットにする、がこれに当たる。

次の画像は最初の動画に対応していて、横Gが立ち上がる瞬間にクルマが加速も減速もしていない状態にあることを示している。
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下の3枚は2番目の動画からキャプチャーしたもの。ターンインのはるか手前で強く瞬間的なブレーキングを行い、直進状態にあるうちに踏力をゆるめる。
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ブレーキをリリーズするタイミングが遅れた結果、前荷重のままターンインすることになる。
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踏力を減らしているのに前輪の舵角が抵抗になって再度減速Gが増加。ステアリングを切るほどに横Gは増えるものの、グラフ上の白い丸が示しているように加速度=運動エネルギーの方向は斜め前に。摩擦円の円周をなぞってタイヤのグリップを確かめようとする時に見られる対角線上の荷重移動だ。
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クルマは重いからヒョコヒョコとは動かない。減速に続いて加速をすることが速さにつながる保証はなく、減速と加速の間にコーナリングがあるのが普通で、コーナリング中は速度を維持するためにイーブンスロットルの状態=加速も減速もしない状態を高い速度で実現することが求められる。画像はコーナリング中に横Gを受けながらスロットルを小刻みに開けて前荷重になることを避けた瞬間。
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クルマにどういう荷重移動を起こさせるのが速さに結びつくのか。クルマによってもタイヤによっても運転手によっても正解はマチマチだろう。ただ、ユイレーシングスクールではまずクルマの高い性能を見極めるためにも、摩擦円の中で直線的に限界に近づくことができる十字型の荷重移動を練習してもらっている。それがタイヤのグリップ限界をさぐりやすくするからだ。速さを手に入れることができれば、速度が低ければそれだけ安全性が増すことになる。タイヤのグリップを探りながらクルマの限界特性を経験する。それがユイレーシングスクールがオーバルスクールを続けている理由だ。

 

ユイレーシングスクールではいわゆるミニサーキットでこれからサーキットを走る方にうってつけのドライビングスクールを開催します。イーブンスロットル、トレイルブレーキングの練習を徹底しクルマの性能を引き出すコツをお教えします。ワンボックスカーでなければどんなクルマでも参加できます。事前に資料をお送りしますしサーキットを走る際のアドバイスも豊富です。愛車でサーキットを走ってみませんか。

・6月22日(木)開催 YRS筑波サーキットドライビングスクール開催案内
・7月20日(木)開催 YRS富士スピードウエイドライビングスクール開催案内



第728回 ABS考察

ABS。Anti-lock Brake System。アンチロック・ブレーキ・システム。今やほとんどのクルマが装着しているであろうABS。

ブレーキング時に制動力がタイヤのグリップを上回った時や路面の摩擦係数が極端に小さい場合にタイヤがロックすると、タイヤは回転しないで路面上を滑走することになりステアリング操作をしてもクルマの向きが変わらなくなる。結果として危険回避の可能性が減少する。そこで、機械的に制動力を低下させタイヤに回転力を与え、タイヤが回転したら再度制動力を高める。これをごくごく短いサイクルで繰り返すことにより可能な限り平均的に高い制動力を維持しながらもタイヤのロックを防ぎ、かつステアリング操作でクルマの向きを変えることを可能にするのがABS。

経験的に、ミリセコンドの単位でもブレーキラインの油圧を減らすのだから減速Gは弱まるはずで、ABSが効いている間はそれが繰り返されるのだから結果として制動距離は伸びると思うのだけど、ABSの記述の中には『ほとんどの路面でABS非装着車と比較して制動距離が短くなる』と書いてあるモノがある。本当にそうなのか。

そこで、あくまでもユイレーシングスクール独自の方法ではあるけど、ABSが働いた時の減速Gの変化をGセンサーとパフォーマンスボックスを使って可視化してみた。
方法はこうだ。とにかく100キロ近くまで加速しユイレーシングスクールで言うところのブレーキを蹴とばす。操作としてはトランジッションを挟まず、スロットルオフと同時にブレーキペダルを一気に踏みこむ。ジムラッセルレーシングスクールで言うところのブレーキペダルをスクィーズするのではなくスタンプする。その結果が次の動画。

蹴とばしブレーキの減速Gの立ち上がり方をGセンサーで捉えたもの。開始8秒くらいのフラッシュ後は4分の1スローで再生。26秒くらいからバーが上下に大きく振れ落ち着かない。下に掲げたパフォーマンスボックスのグラフの④に該当すると考えられる。

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上の図はパフォーマンスボックスから速度と加減速Gを拾ってグラフにしたもの。赤い線が左目盛の速度。青線が右目盛の加減速G。そこには、経験的にこうだろうなとうABSが介入した時の減速Gの増減が見てとれる。

・加速して最高速が110キロプラスになるあたりでスパッとスロットルオフしてブレーキペダルを瞬時に踏みこむ=①左端
・たちまち減速Gが立ち上がありマイナス1Gを記録=②左端
・その後速度の低下は続くが減速Gの増加は見られない。タイヤのグリップを使い切っているのか=②
・ブレーキペダルを力いっぱい踏みこんでいるが減速Gが減少を始める=③左端
・1秒の間に加減速Gはプラスマイナスゼロに=③右端
・ABSが作動し加減速Gは2秒ほど横ばいで速度も13Km/hあたりで変化なし=④
・再度減速Gが立ち上がり速度も低下し始める=④右端
・速度がゼロになる直前に減速Gが減っているのは停止に備え踏力を抜いているから=⑤

ブレーキング中に何が起きているか正確に検証する術は持たないけど、パフォーマンスボックスが拾ったデータから、ブレーキを蹴とばすした場合ブレーキペダルを思いっきり踏み続けABSが介入している状態においては、クルマが減速をしていない=速度が低下しない時間があることがわかった。すなわちABSが介入せず速度が低下し続ければもっと短い距離で停止できたであろうことは想像に難くない。

ユイレーシングスクールではどのカリキュラムでも希望される方にはブレーキングの練習をしてもらっています。まだABSを働かせたことのない方、ご自身のブレーキングが蹴とばしているか確認したい方、直近のスクールは6月10日(土)開催のYRSオーバルスクールFSWです。
YRSオーバルスクールFSW開催案内をご覧の上、ぜひご参加下さい。クルマとの対話が進むこと請け合いです。



第719回 ローンチコントロール

駐車場だから加速距離は長くないしスタート地点には砂が浮いているからメガーヌRSトロフィー本来の性能ではないと思われるけれど、ローンチコントロールを可視化したらいろいろ見えてきた。


トライは2回だけ。1回目は完全に止まる前録画中にしゃべってしまいボツ。記録は1回目が良かったのだけれど。

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横軸が経過時間
左目盛の赤線が速度を表し右目盛の青線が加減速Gを表す
 
グラフ左端から0.19秒で速度ゼロから発進

YouTubeにあげた動画と同じランだけど記録した数値に違いがあるのはパフォーマンスボックスやiPhoneの取付位置や取り付け方によるものか、それぞれのデバイスのデータの拾い方によるものなのか現時点では不明。

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発進から1.21秒で最大加速度0.586Gを記録
その時の速度が」13.68Km/h
 

発進時は明確なホイールスピンが起きた。しかし昔ながらの高出力のマニュアルシフト車でクラッチをドンとつないだ時のようなホイールスピンではなかったような気がする。経験からすると、エンジン出力から考えれば空転に近いホイールスピンが起きてもおかしくはなかった。何かが介入していた?

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0.5G以上の加速が4.5秒ほど続く
スタート後4.46秒で72.27Km/hを記録
 

この間、時間の経過とともにエンジン回転が上昇しそれに見合った加速度の増加があるはずなのだけど、それが見られなかった。それでも速度が確実に上昇していることを考慮すると、滑りやすい路面、あるいは大きなエンジン出力に対応するため、加速度を押さえる方向でなんらかの制御が入っているものと推察される。
スタート後3.4秒あたりで速度の上昇によどみがある。1速から2速へのシフトアップだろう、加速度にもわずかな落ち込みが見てとれる。対して2速から3速へのシフトアップは5.3秒あたりか。こちらは動画の音声からもわかるが一瞬加速度の鈍化が感じられる。いずれにしろシフトアップ時に加速度がマイナスに振れないシームレスなシフトアップはさすがEDC。

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スタート後7.40秒でこのランの最高速度110.30Km/hを記録
この時の加速度はプラス0.062G
加速度がマイナスになるのは7.46秒時で110.22秒/-0.002G
 

スタートから7.3秒あたり。最高速度に達する前に加速度は大きく減少を始めている。と言うことは、それ以前にスロットルが閉じられていることになる。換言すればスロットルオフ後もクルマは加速した、ということになる。しかも最高速度を記録してからコンマ5秒ほど110Km/hあたりを維持している。運動エネルギーが持つ一面。
スロットルを開けつづければそれだけ運動エネルギーが増加する。スロットルオフと同時にクルマが減速を始めることがないとすれば、状況によってはスロットルを閉じてもクルマがさらに加速する可能性があるわけで、サーキットでブレーキを我慢してスピンしたりコースアウトする人やブレーキをオーバーヒートさせる人はブレーキを遅らせることで短くなった減速区間で速度を落とそうとクルマが加速状態のまま=荷重がリアにかかり前輪のグリップが低下している状況で過大な制動力を立ち上げているのではないか、ユイレーシングスクールで言うところの『蹴とばしブレーキング』をやっているのではないかという仮説がなりたつ。スピンやコースアウトは速度が十分に落ちなかったかターンイン時にクルマが前のめりだったのが原因だろうし、オーバーヒートはブレーキローターの回転が落ちなかったせいだろう。
ブレーキを我慢すれば周回路を速く走れると思うのは錯覚にすぎない。

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最大の減速Gはスタート後8.30秒で-1.004G
その時の速度が96.42Km/h
 

と書いてきて、穴があったら入りたい! 猿も筆の誤り! (笑)
効率的なブレーキングは、加速中リアにあった荷重をフロントに移動させ前輪の輪荷重を増やすように制動力を立ち上げなければならない。輪荷重が増えれば増えるほど前輪のグリップが増加するから本来の制動力を発揮することができて減速Gも大きくなる。だから、最大減速Gは減速区間の後半で記録されるはずだ。つまりグラフの加速度を見る限りこれは明らかに『蹴とばしブレーキング』なのだ。実際、
・スタート後8.5秒から10.5秒までの間、速度は落ちているが減速Gの大きさが横ばい
・11.3秒から13.2秒の間、速度が一定と言うかわずかではあるが上昇している
・減速加速度が跳ね上がり11.5秒から13.6秒の間加速度ゼロ、つまりブレーキをかけているのに速度が落ちていない時間があった
・その後減速Gが回復し速度も低下
これはABSなりなんらかのデバイスが介入した結果だと言わざるを得ない。その原因を作ったのはボクだけど。ブレーキング中に速度の落ちていない時間があれば制動距離が延びるのは自明の理だ。だからブレーキングは上手くなったほうがいい。

※ 加速距離を稼ぎたかったので、このランはスロットルオフを遅らせクルマが完全に下り坂に降りてからブレーキングを開始した。下り坂で前輪に急な荷重がかかった結果である可能性もある。 って、言い訳ですけど。

『蹴とばしブレーキング』の動画

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スタート後14.91秒で-0.374Gを記録した直度に停止したはず
 

しかしグラフを子細にいてみると、速度がゼロになった瞬間がない。最も速度が低下したのは記録によるとスタートから14.91秒後に時速0.04キロになった瞬間だった。速度が落ちて止まったなと思ったからブレーキをリリースしたのだけど、クルマが完全には止まっていなかった=運動エネルギーを開放しきってはいなかったってことになる。もっとも、その前の減速度の大きさにもよるだろうけど。以前、ドライブレコーダーを使った運転診断で「一旦停止ではもっと確実にしっかり停止しましょう」と言われたのはこのことだったのかも知れない。一旦停止で切符を切られるのはこういう運転かも知れない。

クルマの運転って楽しい。クルマの機能、性能を味わうのも面白いし楽しいけど、やっているつもりでやっていなかった自分とか、できていると思ってやっていたのにできていなかった自分を発見するのも楽しい。運転は学習の連続。まだまだ先は長い。

ところで、4月29日(土)に富士スピードウエイ駐車場でYRSドライビングワークショップアドバンストトレーニングを行います。Gセンサーを使って参加者全員のブレーキング、オーバル走行のデータを記録し、教室でモニターに映してアドバイスします。言葉のアドバイスに加えて視覚的にも理解を深められるカリキュラムです。興味のある方は 開催案内 をご覧下さい。ぜひ多くの人に体験してほしいと思います。



第716回 続・人間の操作がクルマを動かす

第708回加速度と速さ 第709回人間の操作がクルマを動かす で取り上げた、YRSオーバルFSWロングを走った時のSさんとボクの走行データ。今回はブレーキングの仕方と減速Gの立ち上がり方の関連を比較検証。と言っても、たった1周の操作を比較するのだからもちろん厳密なものではないし、こうするとこうなるという因果関係みたいなものが導き出せればと思う。
ちなみに選んだラップは2人が下のコーナーのターンイン手前で最も大きな減速Gをたたき出した周。下のふたつの図は速度と減速Gを同じ座標軸に置いた。赤いグラフが速度で左目盛、青いグラフが減速Gで右目盛。右の楕円形の線図はこの周に走った軌跡で線上の小さな緑の丸がスタート/フィニッシュライン。それぞれのX印が下のコーナー前に最大減速Gを記録した地点。図は上がSさんで下がボク。

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Sさんはスタートから0.99秒でマイナス0.889Gのブレーキングをして99.33キロまで減速。トレイルブレーキングを使いながらターンイン。第709回でも触れたけど、加速から減速へも、強りブレーキングからの抜き方にもトランジッションが不足している印象を受ける。

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ボクはスタート後1.1秒でマイナス0.972Gのブレーキングで97.10キロまで減速。ボクはというと、フロントが跳ねないようにブレーキのリリースに時間をかけ、その後のトレイルブレーキの効果を高めようとしている。それぞれのブレーキングがそれがその後のトレイルブレーキで相対速度という視点からどんな影響を与えるか。

下の図は比較しやすいように1周のラップをスタート後10秒で2分割して並べた。図中の赤い横線が減速Gゼロを示す。
※ Sさんの赤線がイラストレーターで制作中に少しズレたのに気づかないまま画像にしてしまった(泣)。

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・Sさんは最大減速Gを発生させた強いブレーキングの後でブレーキを抜いて2秒強引き摺っていると思われるが、減速Gの減少がゆるやかでしかない。減速Gがマイナス0.3Gまで減少するのが2秒後。と言うことは、この間も速度も低下していることになる。3秒後に減速Gが1瞬プラスマイナスゼロに戻るけどその後が安定していないからいぜんとして速度の低下が続く。ボクの場合は強いブレーキのリリース後すぐに減速Gがマイナス0.3Gまで減少し、減速Gは安定しないものの最大でもマイナス0.5Gを超えない範囲で推移しているから、トレイルブレーキング中に速度の低下が緩やかになっている。
・結果として下のコーナーのボトムスピードは60キロ対55キロでSさんの方が速い。Sさんの場合スタート後4.5秒あたりで1瞬60キロになってから速度が上昇を始めるけれど、ボクの場合はスタート後4秒あたりから約1.5秒の間55キロを維持している。
・ボトムスピードを記録してからSさんは加速を続けるけど下のコーナーの立ち上がりで70キロに達したのはスタート後約8秒。対するボクは7.3秒あたり。Sさんのグラフはその後急に立ち上がりプラス0.3~0.4Gの加速を10.7秒あたりまで続けるけど、ボクはイーブンスロットルを始めた4秒からは減速Gが大きくマイナスに振れることなく加速を続けそれに見合った速度を得ている。

・周回路のラップタイムは距離が決まっているので平均速度の裏返しになる。そして周回路ではコーナリング速度より直線での速度のほうが圧倒的に高い。何よりもほとんどの周回路では直線を加速している時間よりコーナーの中にいる時間のほうがずっと長い。例えばYRSオーバルFSWロングを20秒で走るクルマを数えてみると、直線を「1、2、3・・・」くらいで駆け抜けるのに、コーナーを回っている時間は「1、2、3、4、5、6、7・・・」となる。だからコーナリングではボトムスピードを高く維持することも大切だけど、コーナリング区間の平均速度を上げるのがもっと重要になる。
・コーナリング区間というのは直線でスロットルから足を放した時から、コーナーを抜けて立ち上がり舵角がゼロになってフルトラクションをかけられるようになるまでのことを言う。この区間でクルマが失速せずに前に前に進めば平均速度は上昇する。速く走りたい人が陥りがちなブレーキを遅らせることや、立ち上がり速度よりもスロットルを全開にすることを優先することが、果たして平均速度を上げることにつながるかは絶えず検証が必要だ。

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・結果、裏のストレートでSさんが100キロを超えたのはスタート後10.5秒あたりで到達速度が105キロ弱。対するボクは9.7秒あたりで100キロに達し108キロまで加速。
・そこから上のコーナーへのアプローチが始まるのだけど、ターンイン手前でSさんが強いブレーキングをしていないのが見てとれる。対してボクは1瞬だけだけどマイナス0.9G付近までしっかりと減速している。
・上のコーナーはフラットに見えるけど実はうねりがある。それでも下のコーナーほど神経質になる必要はない。減速の後には加速という流れを作りやすい。
・Sさんもボクもスタート後同じように14.5秒あたりで同じ様なボトムスピード57キロを記録。ボクはイーブンスロットルにして加速に備えるけど、Sさんはスロットル瞬間開けたのかも知れない。15.2秒あたりで0.7Gに達しようかという加速度のスパイクが記録され瞬間的に速度も上昇している。この瞬間、加速度もマイナスを示していてコーナーの脱出速度に影響したものと思われる。
・結果、ロールを残しながらコーナーを脱出するのだけど、Sさんが70キロに到達したのが約17.3秒でボクが約16.8秒。直線に出てからの加速については、#2 横Gと速度のグラフ―後半スタート後11.5秒から にも表れているけどSさんはスロットルをステアリングを戻すのよりスロットルを開ける量が多いのかロールを消せないまま加速している。1周20秒のコースでコンマ3秒の差がつくということは、ここに書いたことだけではなく実に様々な要素=クルマを前に進めるための操作がからんでいる。

 

時間のある方はぜひ、709回で触れた横Gと速度の関係のグラフも、『どうするとこうなるのか?』 という観点から見ていただければ幸いです。
#1 横Gと速度のグラフ―前半スタート後11.5秒まで
#2 横Gと速度のグラフ―後半スタート後11.5秒から

 

繰り返しになるけど、運転とは走行中のクルマの状態を把握し、自分の経験なり知識を基にして目的を達成するためにはこういう操作が必要だという仮説を立て、それを実行に移す作業だと考えている。ところが仮説がいつも正しいとは限らないから、間違いを犯さないためにも知識と経験を積み重ねる努力を続ける必要がある。また仮説が正しくてもわずかな操作の違いで結果が目的から外れたり、場合によってはそのつもりなのに自分の立てた仮説通りに操作できていないこともあるだろう。その場合には修正が必要になるのだから、どちらの方向に修正すべきかを瞬時に判断するための知識と経験も必要だとユイレーシングスクールは考えてオリジナルのカリキュラムを展開している。

 

最後に、ここ数回に登場してくれたSさん。ブログの手伝いをしてくれたことを感謝します。ありがとうございました。文中ではあれこれ言いましたが、Sさんが目指す運転の方向性は間違っていません。新たらしい仮説を探すための経験を積みにまたスクールに遊びに来て下さい。



第709回 人間の操作がクルマを動かす

第708回 加速度と速さ で取り上げたSさんとボクの走行データ。

速さから見ればSさんが20秒10でボクが19秒70で高齢者(!)の勝利となったけど、この時は5周した中のベストタイム。Sさんの名誉のために付け加えれば、間際になって「データロガーを積んで走ってみて!」と言われたSさんが実力を発揮できなかった可能性は十分にある。それにYRSオーバルレースFSWでもYRSオーバルスクールFSWでも200周近く走る人もいるから、ラップタイムだけを見て一喜一憂するのはあまり意味がない。Sさんも無心に走っていた時は20秒を切っていたと想像できる。データを取るということは、むしろ子細を見てどうやって走っているか想像できることに価値がある。

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グラフはどちらも速度と横Gを同じ座標軸に置いている。グラフは赤が速度、緑が横Gを表し、赤の横線が横Gゼロを示す。コーナリングの比較のためにスタート後11.5秒で本来ならつながっている1ラップのグラフを2分割して横に並べてみた。どちらも左側がSさんで右がボクのグラフ。何が見える?

・Sさんの速度変化を見るとスタートからコンマ5秒あたりで加速から減速に転じているが、グラフが尖がって折れている。おそらくスロットルオフと同時にブレーキペダルを踏み込んでいるので、加速の終わりに続いて減速が始まっているものと思われる。ボクの場合はSさんより加速が終わっている地点が手前(スタート後コンマ3秒)でトランジッションを意識してブレーキをかけ始めているから速度が落ち始めるのが1テンポ遅い。
・Sさんは加速から減速に移る区間で横Gが減少している。コースは左回りだったのでクルマが右に流れたのだろうか。スタートから4秒あたりまではコーナーのアプローチでおそらく3秒ぐらいまではトレイルブレーキングを使っているのだが、Sさんの横Gの立ち上がり方が急だ。クルマが前に進まずに横(右方向)に流れている可能性がある。それに対しボクの場合は速度の低下に反比例するように横Gが増えウづけている。
・このグラフは進入が下り坂で脱出が上り坂の通称「下のコーナー」の走りを表しているが、Sさんはスタート後4.5秒の地点でボトムスピードを記録している。その後速度は上昇するのだが、横Gがほぼ一定の状態なのに速度が低下してから上昇に転じるのはクルマが前に進んでいない可能性もある。ボクの場合は4秒から5.5秒くらいの間で速度がほぼ一定だからイーブンスロットルの効果だろう。ボトムスピードはSさんのほうが速いがクルマの向いている方向と運動エネルギーの方向が一致しているか検証する必要がある。
・ボトムスピードを記録した後の加速もボクの方は横Gの減少にともない滑らかだが、Sさんの場合は横Gが急激に減少するのにフルトラクションでの加速開始が遅れている(Sさんがスタート後8秒あたりでボクが6.5秒付近)。結果、スタート/フィニッシュ地点と反対側の通称「裏のストレート」での到達速度はSさんが10.8秒あたりで100キロなのに対し、ボクは10.5秒手前で108キロ弱まで達している。

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・裏のストレートでスロットルオフから瞬間的なブレーキング。踏力を抜いてトレイルブレーキングでフロントのロールを抑えてアプローチ。ここでもSさんの横Gの立ち上がり方が急なように見える。パフォーマンスボックスをフロントウインドの真下に取り付けた結果、ヨーモーメントの中心より前にセンサーがあるので前輪にかかる横Gを拾いやすくなったせいなのかも知れない。
・上のコーナー(下のコーナーの反対側でほぼフラットなコーナー)でのSさんのコーナリングは、やはりボトムスピードがある地点だけで記録されているようだ。その後速度は上昇するがアンダーステアが出ていたのか19.5秒まで横Gが残っているのでストレートに出てスロットルを開けてもフル加速には及ばなかったはずだ。対してボクは19秒で横Gを消すことができているのでしっかり加速できたということになる。
・結果として、この周に限ってみれば1周20秒ほどの周回路で、Sさんより1.1キロ速い到達速度と0.4秒速いラップタイムを刻むことができたことになる。

閑話休題。運転とは走行中のクルマの状態を把握し、自分の経験なり知識を基にして目的を達成するためにはこういう操作が必要だという仮説を立て、それを実行に移す作業だと考える。ところが仮説がいつも正しいとは限らないから、経験と知識を積み重ねる努力は続けたい。また特にタイヤへの負担が大きい高速で走る時とか小さなコーナーを回る時など、仮説が正しくてもわずかな操作の違いで結果が目的から外れることが多くなる。場合によってはそのつもりなのに自分の立てた仮説通りに操作できていないこともあるだろう。つまり目的を達成するためには、必然的に操作の修正が求められる場面が無数にあるということだ。

YRSオーバルスクールFSWに参加する人はラインから外れそうになるとなんらかの方法で修正する。10秒後に同じ曲率のコーナーに、20秒後には全く同じコーナーにアプローチするのだから、操作を修正する回数は天文学的になるはずだ。しかし、だから徐々に仮説の正確さが増し、修正の幅が少なくなり、冷静に走ればクルマを前に前に進めることができるようになる。それこそ前後輪のスリップアングルの均等化を目指すこともできる。ユイレーシングスクールがオーバルスクールを潜在的ドライビング技術向上ために勧める理由だ。

 

このブログをお読みのみなさん。ぜひ1度YRSオーバルFSWロングを走ってみませんか。仮説の立て方を理論的に説明します。FMラジオを使ったリアルタイムアドバイスで理論と操作の乖離を指摘します。仮説に見合う修正の方法をアドバイスします。クルマとの対話が間違いなく進みます。

・4月2日(日) YRSオーバルスクールFSW開催案内 へのリンク