トム ヨシダブログ


第21回 クルマと自分を制御する


トゥインゴGTで筑波サーキットコース1000のインフィールドを走る。
トゥインゴの足はたいしたもんだ。ちゃんと動くし破綻することがない。
(画像は全て中沢隆志氏撮影)

今年のF1グランプリはいつになく面白い。理由はいくつかあるが、外撮りにしろオンボード映像にしろドライバーがとてつもない次元でクルマをコントロールしているのを見て、ついついソファから立ち上がってしまう。特にセバスチャン・ベッテルのブレーキングやカウンターステアは汗ばむほど刺激的だ。
なぜ彼らはあれほどの速度であのような操作ができるのか。他のスポーツのトップアスリート同様、むしろそれ以上に反射神経がすぐれているからだろう。限界で走りながらも数秒後、いやコンマ何秒後に起きるだろうことを予測する想像力にも秀でているに違いない。最大4Gと言われる加速度にも翻弄されない強靭な身体を持ち、それでいてクルマの動きを連続的に把握することもできるのだろう。
日本のメーカーがF1から撤退してからというもの我が国での露出は減ってしまったが、F1ドライバーの運転はクルマが好きな我々にとってあこがれであることに変わりはない。


富士でも筑波でもサーキットを使ったドライビングスクールではスラロームの練習をする。
狙いはローリングとピッチングを自分の操作で制御すること。

しかし、我々も彼らのようにクルマを思いのままコントロールすることはできる。
もちろん速さも加速度もはるかに及ばない次元での話ではあるが、逆に、彼らの日常にある速度は我々にとって現実的ではない。我々が経験できる速度域ならば、我々もF1ドライバーよろしくクルマを自由に操れるという意味だ。

クルマの運転は、F1も含めて、陸上競技などのスポーツと決定的に違うことがある。それは運転している間は身体のどの部分も地面に接していないことだ。
足が地面に接していれば地面が滑りやすいかどうか感じることができる。スキーをする時もスキー板を通してゲレンデの勾配を感じられる。歩いていれば、向かい風なのか追い風なのか自分が置かれている環境も把握することができる。
ところが、いわば密室であるクルマに乗っていて、なおかつ身体のどこも地面に接していないとなると、自分が動いているという状況を感じることすら難しい。まして、路面の状況を知り、タイヤのグリップの限界を探ろうとすることなど至難の業だ。

そんな現実から逆算すれば、クルマの運転に大切なことが見えてくる。
我々はF1ドライバーではないのだから、類稀な反射神経を備えている必要はない。大切なのは自分が何かの操作をしようとする時に、クルマの状況が把握でき、どれだけの操作をどのタイミングですればいいのか正確に判断ができることだ。
だから、クルマの運転で最も大切なのがドライビングポジションということになる。


もちろん、走行の合間にミーティング。
操作とクルマの動きの因果関係をわかりやすく説明する。

地面に触れていないのだから、クルマの状態や路面の状況を判断するにはシート、床、ステアリングホイールからの圧力の変化と、自分自身で感じる加速度を頼りする以外にない。それなのにシートの上で身体が踊っていたり、ステアリングホイールをぎゅっつと握りしめていたらどうだろう。
少なくとも路面からの情報が正確に伝わらないばかりか、どれだけの操作をしたらいいのか判断もつかないだろう。

速く走ろうとする人が陥る罠がここにある。頑張ろうとする気持ちが身体を硬くして加速度に翻弄されてしまうのだ。
S字コーナーで切り替えしが遅れる人は、まず背骨がシートバックとずれている。オーバルコースや長いコーナーを走っている時に、それまでより肩の位置が高くなる人も同じ。操作をする時に身体も動いてしまっているから、操作のタイミングが遅れるし、操作量も適切ではなくなってしまう。


参加者を乗せての同乗走行。コース1000の最終コーナーを立ち上がる。
同乗走行の目的はクルマが常に安定している状態を身体で覚えてもらうこと。

自動車レースの職業運転手を目指すのでなければ反射神経の鈍さを嘆く必要はない。正確な操作をしやすいドライビングポジションを探し続ける努力をすれば、クルマと一体になれる可能性はある。クルマと一体になった時、クルマの動きがよくわかり、どんな操作をすればいいかが見えてくる。
だから、ユイレーシングスクールではサーキットでのドライビングスクールで高速スラロームをカリキュラムに取り入れている。速い切り替えしを目指すことで力の入れ所、入れ具合がわかってくる。

この高速スラロームを体験した人はいちように「面白かった」と言う。せひ皆さんも体験してほしい。


コース1000の1コーナーを抜ける。写真ではわかりにくいが1G以上の横Gがかかっている。

※ユイレーシングスクールでは運転にまつわる質問にお答えします。匿名でかまいません。クルマの動かし方に疑問のある方は以下のアドレスにお送り下さい。このブログで回答させていただきます。
・ユイレーシングスクール03ma@avoc.com

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ユイレーシングスクールでは以下のドライビングスクールを開催します。クルマの使い方に興味のある方は参加してみませんか?トゥインゴGTもお待ちしています。(詳細は以下の案内頁をご覧下さい。)
特に10月のツーデースクールはオススメ。1日目にジムカーナ場で基本操作を反復練習し2日目にショートサーキットで少し速い速度での走行を体験します。2日間でクルマとの対話が進むことは請け合いです。

○ 9月8、9日(土、日)YRSツーデースクールFSW 案内頁

http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=2ds

○ 10月16日(日)YRSドライビングワークショップFSW 案内頁

http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=dwf

○ 10月20日(木)YRS筑波ドライビングスクール 案内頁

http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=tds

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●クルマはよくできた道具なので、性能を発揮させるためにはそれなりの使い方を知る必要があります。ユイレーシングスクールが10周年を記念して制作したCDを聞いてみて下さい。バックグラウンドミュージックもないナレーションだけのCDですが、クルマを思い通りに動かすためのアドバイスが盛りだくさん。クルマ好きにとっては一生ものの5時間34分です。
YRS座学オンCD案内頁:http://www.avoc.com/cd/


第20回 姿勢を正す


渡米する前からお世話になっていた扇屋旅館。4階にある富士山の全貌が一望できる大浴場がスキ。

クルマを運転するということは、クルマに乗って自分自身も移動しながらスロットル、ブレーキ、ステアリングを操作してクルマを走らせることだ。当たり前のことだが、運転とはそういう行動を指す。
よくできた機械であり無機質のクルマを、あいまいさが身上(?)の人間が操るのが運転でもある。だから運転は楽しいし、奥が深い。

ユイレーシングスクールではクローズドコースを使って速く走るための練習をしている。操作とクルマの動きの因果関係を経験するには、とりあえず速く走って見ることが近道だからだ。
そして過去11年間。ほぼ毎年新しいカリキュラムを導入してきた。リピーターに飽きられないよう(!)に次のステップを用意するためだ。今回、あるクラブ向けにドライビングスクールを行ったのを期に、来年導入を予定している8の字型コースを使ったカリキュラムを試してみた。題してフィギュア8。

ユイレーシングスクールの目玉であるオーバルスクールと異なり左右の切り返しが必要になる分、参加者がどう対応するか少しばかり不安があったが、これが大成功。参加者はクルマの運転を楽しみながら、かなりのレベルまでクルマを安定させて走ることに成功していた。


時間の節約のために2台ずつ走る。

操作自体にも言えることだが、安全な運転と速く走るための運転には共通した思想がある。クルマを常に安定させて走らせなければならない点だ。
クルマは動き出すとスロットル、ブレーキ、ステアリングの操作に反応し、ピッチング、ローリング、ヨーイングの3つの動きをする。結論から言うと、クルマが不安定になるのは2つ以上の動きが重なる場合がほとんどで、操作が重ならないように運転することができればクルマは安定して走るように作られている。
速さをテーマに走ることで少しばかりクルマを不安定にして、そこから逆算してどんな操作がクルマを安定させるかを体験するのがフィギュア8の目的だ。


必要に応じてスタッフが引っ張る(リードフォロー)。

1周27秒ほどの周回の中に2回ないし4回のブレーキングと、少なくとも4回のステアリングワークをしなければならないのだから忙しさは確かにある。しかし人間の学習能力というものは大したもので、周回を重ねるうちに速さに逆行するような操作を自然にひかえるようになる。
つまり、速く走ろうとするからこそ、クルマを安定させるコツがわかるという次第。


走行中のタイムを1000分の1秒まで計測してリアルタイムアドバイスとともに伝える。

ところが、慣れてくると走行中に読み上げられるタイムを縮めようとしたくなる。欲を出して頑張ると、途端にタイムが落ちる。どこかで操作が重なり、クルマが不安定になって失速してしまう。言うまでもなく、速く走ろうとしたあまり、クルマの状態を無視した操作をしてしまったからだ。
それでも広い場所に作ったパイロンコースを走っているのだから危険はない。


追う方と追われるほうがそれぞれにクルマをコントロールする。

2台連なって走ると、これまたクルマのバランスを崩しやすくなる。前を走るクルマに追いつこう、後のクルマを引き離そうとクルマの状態おかまいなしに欲を出した時だ。クルマはよくできた機械だから、操作(入力)された通りに動く。操作が理にかなったものでなければクルマがバランスを崩すのは当然のこと。人間の勝手な欲を受け入れてくれるほどクルマは寛容ではない。

ユイレーシングスクールは安全に配慮した会場でしか開催しないから、操作を間違ってもクルマが傷つくことはない。傷つくのは欲を出した当人の自尊心ぐらいなものだから心配は無用。免許取り立ての人も運転経験豊富な人もぜひ一度ユイレーシングスクールに遊びにきてほしい。

自分でこうしたい、と思ってもクルマがそうならない場面というのは無数にある。そうしたいのならば、クルマがそうなるような手続きを踏む必要がある。その手続きこそ安全運転につながるものであり、ユイレーシングスクールがクルマ好きの人に身につけてほしいと思っている思想だ。
今年12月18日(日)。今回試したフィギュア8を一般向けに開催しようと思っているところだ。

※ユイレーシングスクールでは運転にまつわる質問にお答えします。匿名でかまいません。クルマの動かし方に疑問のある方は以下のアドレスにお送り下さい。このブログで回答させていただきます。
・ユイレーシングスクール03ma@avoc.com

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ユイレーシングスクールでは以下のドライビングスクールを開催します。クルマの使い方に興味のある方は参加してみませんか?トゥインゴGTもお待ちしています。(詳細は以下の案内頁をご覧下さい。)

○ 9月18日(日)YRSオーバルスクールFSW 案内頁

http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=os&p=osf

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●クルマはよくできた道具なので、性能を発揮させるためにはそれなりの使い方を知る必要があります。ユイレーシングスクールが10周年を記念して制作したCDを聞いてみて下さい。バックグラウンドミュージックもないナレーションだけのCDですが、クルマを思い通りに動かすためのアドバイスが盛りだくさん。クルマ好きにとっては一生ものの5時間34分です。
YRS座学オンCD案内頁:http://www.avoc.com/cd/