トム ヨシダブログ


第15回 YRSオーバルスクール奥伊吹

  ゴールデンウィーク中の最後の土曜日。奥伊吹スキー場の駐車場でYRSオーバルスクールを開催した。昨年9月に試験的に開催したことはあったが、正式には関西で初めてのYRSドライビングスクール。
  山を切り崩して整地したこの駐車場。地形通りに作られているから、かなり形はいびつ。それでも最も長い部分で175.1m.幅が112.3m(数値は奥伊吹スキー場提供の工事図面から)あるから、走路の幅は多少狭いが富士スピードウエイで開催しているYRSオーバルスクールFSWと同じ大きさのオーバルコースを設定することが可能だ。だから、延べ1,070名のYRSオーバルFSWのデータと比較することができる。
  もちろん。オーバルスクールでは速く走ることだけが目的ではないが、どんなクルマでどんな運転経験のある人が、どのくらいのラップタイムを記録しているのか参考になる。ロードコースとは異なり、ちょっとしたミスでも直接速さに影響するオーバルコースでは、速く走ろうとしても速く走れるわけではない。ラップタイムはあくまでも、1周の間ずっとクルマの性能を引き出す操作ができたかどうかの結果だ。1周のラップタイムが良くても、セッションを通じての平均ラップが遅ければどこかにクルマの性能をスポイルしている部分があるいはずだ。
  高いお金を払って参加してくれる人が、自分なりの目標とテーマを持てるように、この歴代ラップタイムは重要な意味を持つ。

奥伊吹スキー場の駐車場にパイロンでオーバルコースを設置。

  連休中の開催だったので申し込みは低調。1名がクルマのトラブルで不参加だったので最終的に8名で開催。24名までは消化できるカリキュラムなのだが、今回は人数が少ないので大サービス。とにかく徹底的に走り込んでもらった。
  ちなみに、8名中4名が過去にユイレーシングスクールに参加したことがあるのでオーバル走行を経験済み。残りの4名はオーバルコースを見るのも走るのも初めて。

YRSルノー・スポールゼミに参加してくれたWさんも愛車とともに。

  ユイレーシングスクールではYRSオーバルスクールに参加してくれた方が記録したラップタイムを表にして送っている。計測した全てのラップタイム、ベストラップタイム、アベレージラップタイム、ワーストラップタイムをはじき出してある。さらに、ベストとアベレージの差、アベレージとワーストの差も計算してある。どんな表なのかは下の画像を見てほしいのだが、セッションの欄にあるRは右回り、Lは左回りを示している。

<参考>YRSオーバルFSW1733名の記録
http://www.avoc.com/cgi/laptime.cgi?yof,b,01


参加者に送った計測データの1部。

  ユイレーシングスクールでは参加してくれた方に、折りに触れてアンケートを行っている。みなさんがどんな感想を抱いたか知ることによって、カリキュラムの修正や追加をすることができるし、公開することでユイレーシングスクールの有り様もわかって欲しいからだ。
  今回はそのアンケートの回答をそのまま引用する。ユイレーシングスクールの実態に触れてもらえればと思う。

トゥインゴGTもリードフォローで大活躍。

  アンケートの設問は以下の通り。
(1)ユイレーシングスクールのオーバルスクールをどう思われますか?
(2)ユイレーシングスクールの教え方をどう思われますか?
(3)ユイレーシングスクールはあなたの運転の上達に役に立ちましたか?
(4)役に立ったとすればどんなところでしょう?

  少し長くなりますが、以下が参加者からの回答(参加8名中7名が回答)です。設問の番号を回答の頭につけてあります。お名前の後のデータは、参加車両/改造の有無/サーキット走行時間/YRSオーバルスクール参加歴、です。

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○ Tさん GTR/有(サスペンション他)/レース経験/有
(1)昨日はお世話になりました。自分の次のステップが見つかったような気がします。関西ではまだ知名度は低いですが、一見単純な様で実はかなり奥の深いスクールだと思います。スポーツ走行未経験者から上級者まで、根本とするところは同じでもそれぞれのレベルに合った課題を提供してもらえて、その課題をクリアしていく。とても効果のある練習方法だと思います。関東ではリピーターが多い理由が納得できました。
(2)自分は公道での安全な運転技術を学ぶ為にスポーツドライビングを始めたので、自分の考える所とピッタリと合いました。また、あまり語られる事の無かった「ドライビング理論」について、実技を通してここまで詳細に学べる所は無かったのではないでしょうか。
(3)とても役に立ちました。
(4)荷重のコントロールをみっちり練習したことによりイーブンスロットルはひたすら我慢することでは無く、微細な荷重移動を行って積極的に向きを変え、脱出時のアクセルオンの開始位置を手前にすることができました。
今まで自分の車は、トルクバンドがかなり高回転よりになっているので、脱出後にトルクバンドから外れることが多く、車のせいにしていましたが、運転の方法で脱出時にトルクバンドに乗せる方法がある事を知りました。

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○ Yさん スバル ヴィヴィオ/ノーマル/11時間/初めて
(1)単純なコースレイアウトだが、上手に走行するのが中々難しく奥が深い。1日中走っても飽きることなく楽しく走行できた。
(2)ラジオを使用して、その都度指摘してもらえるので、良かった所、悪かった所が印象に残りわかりやすい。
(3)役に立った。
(4)ブレーキ、ハンドル操作等自分の運転の仕方の間違っている箇所がわかった。

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○ Wさん ルノー メガーヌRS/ノーマル/経験なし/初めて
(1)土曜日はとてもよい経験をさせていただきました。どうもありがとうございました。今になって思い返せば、せっかく丁寧なアドバイスを頂いたのに、ガツンとブレーキを踏みグイッとステアリングを切りドカンとアクセルを踏む、全く悪い見本のような走りだったように思います(苦笑)。でも楽しくって(笑)。もう自由に走らせていただいてありがとうございました。
次回はタイムの呪縛から解かれもっとジェントルな運転を身につけるべく周回を重ねたいと思います。ただ今回も、スムーズに周回出来た周の方がギリギリまで頑張った周回よりタイムがよい、ということの片鱗を見たような気はしました。
ホームページの印象からは、理論的な、悪く言えば堅苦しいスクールをイメージしそうですが実際はむしろエモーショナルな、本能に訴えかけるようなスクールでした。それは「内燃機関のおもしろさ」をまず最初に語られたことに通じるように思いました。
(2)今回は参加者の構成に合わせられたのか、理論よりは実践!的な進行だったのでしょうか。確かに運転は実践であることからしても、また私個人的にもたくさん走れて充実の一日でした。ただ、もし可能であれば、自分の走行をビデオで見てそれにコメントをいただく、というような機会があればもっとわかりやすいかなと思いました。もっとも1日のスケジュールでは難しいかもしれませんね。
(3)非常に役に立つと思います。
(4)車と自分の限界付近での挙動を垣間見れたこと、逆に雑多な目的とレベルの混在した一般公道で限界に近づくことの危険性を再認識したこと。思い通りに車をコントロールするためにはやはりそれなりの訓練を積み重ねないと難しいということがよくわかったこと(頭でわかっていてもその通りに行うことは、いろいろと、難しいものですね。精神修養が必要です(笑)そして同じ課題に取り組む他のドライバーの走りを間近にみられたこと。

参加車はGTRからワンボックス、SUV、軽自動車まで多彩。

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○ Fさん シルビア/有(シート)/11時間/初めて
(1)オーバルコース走行により、基本的な動作の確認ができる(悪い部分を確認できる)ので良いと思います。
(2)FMでのリアルタイムな指摘があるのがよいと思います。
(3)役に立つと思います。
(4)タイヤ4輪を使った(安定した)車の動作が重要である点。また、コーナリング出口でのインストラクターのハンドルの戻し方(一気に戻すことで車のロールを消す)が印象的でした。

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○ Hさん スズキ スイフト/有(サスペンション他)/10時間/有
(1)ブレーキング、コーナリングの技術向上、に非常に役に立つと思います。
(2)実際に車を運転しているときに、リアルタイムでアドバイスをいただけるので、その場で悪い操作を修正できる良い指導方法だと思います。
(3)私にとっては非常に役に立ったと思います。
(4)車の挙動や、姿勢をコントロールする方法、スムーズに走る方法など、独学ではまず理解できない事を教えていただきました。まだ、頭では理解できても、体で理解できていないところがあるので、体に覚えさせる練習をしていき、またスクールに参加していきたいと考えています。

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○ Nさん スバル アウトバック/ノーマル/経験なし/初めて
(1)レース経験のない人でも参加できる所が良いと思います。私は友人から教えてもらって参加したのですが、それまでまったくこのスクールの事を知りませんでした。なんとかもっと幅広く宣伝できればもっと参加者が増えると思うのですが・・・
(2)同乗してくれるのが、とても良かったです。運転操作を見ることが出来る機会はなかなか無いので、それを見ることが出来るのは、自分の中でイメージを作りやすかったですね。
(3)とても勉強になりました。だれかに運転を教わるのは、自動車教習所以来です(笑)オーバルということで、複雑な操作が必要なく、反復練習し易かったです。教わった技術は普段の運転時に練習出来るし、その場だけでは終わらないのが良いですね。
(4)特にアクセルワークとステアリング操作の相互関係でしょうか。早めにトラクションをかけることが、安定性に結びつく事は感覚的に解っていますが、より洗練出来そうです。

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○ Hさん トヨタ ノア/ノーマル/2時間/有
(1)ドライビングスキルアップに非常に役立つスクールだと思います。
(2)悪いところをすぐにフィードバックしてもらえるところが良い。それと説明がわかり易いのも良いです。もうひとつ、自分の車を運転してもらえるところがわかりやすくて良いです。
(3) 間違えなく役立ちます。
(4)特にトレイルブレーキングとステアリング操作について役立ちました。

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パイロン、光電管、送信器、机、椅子、パソコン、巻尺などなど。必要な機材を全て積んでもまだ余裕。トゥインゴGT大活躍の図。
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  ユイレーシングスクールでは以下のドライビングスクールを開催します。クルマの使い方に興味のある方は参加してみませんか?トゥインゴGTもお待ちしています。(詳細は以下の案内頁をご覧下さい。)

□ 5月29日(日) YRSオーバルスクール FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=os&p=osf

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●クルマはよくできた道具なので、性能を発揮させるためにはそれなりの使い方を知る必要があります。ユイレーシングスクールが10周年を記念して制作したCDを聞いてみて下さい。バックグラウンドミュージックもないナレーションだけのCDですが、クルマを思い通りに動かすためのアドバイスが盛りだくさん。クルマ好きにとっては一生ものの5時間34分です。
YRS座学オンCD案内頁:http://www.avoc.com/cd/


第14回 YRS ルノー・スポールゼミ


YRSルノー・スポールゼミに集まったRS。

このブログでも紹介したように、ルノー・スポールオーナーを対象としたYRSゼミを開催した。開催日がゴールデンウィークの最中だったこともあり参加者は3名。さみしくはあったけれど、それはそれで充実した時間を過ごせた(と思う)。


白がWさんのメガーヌ。

 納車されてから2週間しかたっていない白いメガーヌRSで現れたWさんは、このブログでゼミの開催を知り申し込んでくれた。ごくふつうのセダンや、ごくふつうのSUVを乗り継いできたというWさん。クルマの運転を楽しみたいという思いに駆られて購入を決めたそうな。だから、メガーヌは大切に乗っていきたいと。だから。通勤にクルマを使うのを止め、運動を兼ねて自転車で通っていると言う。
  いいね。こういう話は。クルマとの付き合い方に覚悟がある。クルマさんも幸せだ。

 ユイレーシングスクールの「座学オンCD」も買ってくれたWさん。実は連休中に開催される関西で2回目のYRSオーバルスクール奥伊吹にも参加してくれる。そのWさんからのメール。

  『湖畔のカフェレストランを会場に、様々なエピソードを交えつつお話いただいたドライビング理論の講義は大変充実したものでした。YRSの講義CDにも匹敵するような4時間超にも及ぶ(!)お話の内容は、一度聴いたぐらいでは消化しきれるものではありませんでしたが、その中でも繰り返しお話され印象に残ったのが「走る・曲がる・止まる」を「荷重移動」という観点から連続的なものとしてダイナミックに解説されたことでした。ややもすると「点」でとらえそうになる運転技術を、一連の流れのものとして意識することが、なめらかかつ安全なドライビングにつながるものなのだと理解できました。
 最後に場所を駐車場に移して各自の車でドライビングポジションのチェックを受け、基本的な操作の注意点を説明してもらいました。オーバルスクールまで日常の運転で感じ取るべき宿題もいただき、当日が楽しみになりました。理論の後は実践あるのみと心ははやりますが、本日はここまで。実践は1週間後の奥伊吹オーバルスクールまでお預けです。』


青がUさんのルーテシア。

 マニュアルシフト車は3台目。レガシイB4から乗り換えたというUさんは、ルノー京都の案内を見て参加してくれた。青いルーテシアRSに乗り換えた理由は、試乗した時のカッチリした操作や動きが気に入ったからだとか。昨年7月の納車以来既に1万キロ以上を走行。聞けば、毎日の30キロに及ぶ通勤の足として使っているとのこと。

  いいね。こういう話は。大好きなクルマが日常の生活に溶け込む。クルマさんも幸せだ。

  以下は、YRSオーバルスクール奥伊吹の日が仕事で参加できないUさんからのメール。

  『荷重の話やドライビングポジションの話は日ごろ聞く機会がなかったので、大変勉強になりました。帰路和邇から自宅まで運転する中で今日教わったことを意識しながらステアリングの切り方やアクセルの踏み方を注意すると、車の動きがいつもと違うような感じがしました。今までは漫然と運転することも多かったですが、これからは課題を持って運転していきたいと思います。機会があれば実際のスクールにも参加してみたいと思います。
  今日はヨシダさんの運転するルーテシアRSの助手席に乗せていただいて「こういう風に運転したら良いのか!」と思う点も多く、大変勉強になりました。またこのような機会があれば是非参加させて頂きたいと思います。』

 実はUさんからのメールの中にギアシフトについての質問も含まれていた。ボクのルーテシアに4人乗車でカフェ・スマイルの付近を走り、ユイレーシングスクールシニアインストラクターが公道でどういう運転をするか見てもらったのだが、その操作の方法についての質問だった。
  早速思いつく限りのアドバイスを送ったところ、Uさんからは通勤時に試してみますとの返事。どんな質問で、どんなアドバイスだったかはナ・イ・シ・ョ・だけれど。


銀がボクのルーテシア。

  スバルフォレスターで参加したKさんは、社用車がルノー・カングー。ルノー・スポールでなくてもいいですか、という問い合わせをもらい、ぜひぜひと参加してもらった。
  当日の話の中で、「4本タイヤがついていれば背の高いクルマだって基本的な操作は同じです」、「背の高いクルマだから運転が楽しくないということはありません」、「理由はかくかくしかじかです」と説明すると、次は実際のスクールに参加してくれると約束してくれた。


今回の会場となったカフェ・スマイルの駐車場に羊の皮をかぶった狼が3台。

  ユイレーシングスクールの拠点がまだ完成していない部分もあり、カフェ・スマイルさんに無理を言って関西初のYRSゼミを開催した。拠点が完成すればビジュアルな情報も盛り込んだゼミを開催する予定だ。
 
  最後にもう一度Wさんのメール引用する。

  『さて今回は試験的なカフェでのイベントとのこと。ゴールデンウィーク最初の土曜ということもあってか参加者はやや少なかったようです。ルノースポールをブランドイメージの中心に据えるのであれば、ルノージャポンにも積極的にコミットしていただいて、このようなドライビングスクールを応援していただきたいと、ルノースポールオーナーの一人として感じました。』
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2月のYRS筑波サーキットドライビングスクールに参加してクルマを操る快感の虜になったKさん。4月末に富士スピードウエイで開催したYRSオーバルレースにもはるばる宇都宮から参加してくれた。もちろん。ルーテシアの性能を満喫していたのは言うまでもない。
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 ユイレーシングスクールでは以下のドライビングスクールを開催します。クルマの使い方に興味のある方は参加してみませんか?トゥインゴGTもお待ちしています。(詳細は以下の案内頁をご覧下さい。)

□ 5月29日(日) YRSオーバルスクール FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=os&p=osf

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●クルマはよくできた道具なので、性能を発揮させるためにはそれなりの使い方を知る必要があります。ユイレーシングスクールが10周年を記念して制作したCDを聞いてみて下さい。バックグラウンドミュージックもないナレーションだけのCDですが、クルマを思い通りに動かすためのアドバイスが盛りだくさん。クルマ好きにとっては一生ものの5時間34分です。
YRS座学オンCD案内頁:http://www.avoc.com/cd/


第13回 クルマの運転は科学だ

富士スピードウエイの周りの桜は散りかけていたが、

それでも桜はいい。

満開の桜には空間を、

地面に舞う花びらには時間を感じる。

 ===> 以下、過去に発行したユイレーシングスクールメールマガジンからの転載 です===>

 ある日のスポーツ新聞に興味深い記事が載っていた。それは競争馬の速さにまつわる話なのだが、クルマの運転ともまんざら関係なくはなさそうだった。筆者は競馬をやらないし見たこともないので、競馬に関しては全くの無知だ。競馬が速さを競うものなのは知っているが、その速さはどうやってはかるものかはわからない。だからあくまでも記事を元にしてしたためてある。

 自動車レース同様に、競馬も当時の裕福な人たちが自慢の馬で速さを競い合ったのが始まりだと言われている。もちろん、その始まりは競馬の方が先なのだが。
  近代競馬の発祥の地はイギリス。有史以前から競馬に似たようなものはあったらしいが、馬を使って純粋な速さを競う近代競馬は16世紀に始まったという記述があるらしい。やがて1620年代。競馬がイギリスの植民地だったアメリカに渡った。現存する記録では1540年にイギリスで世界初の競馬場が建設され競馬が行われ、イギリスの植民地であったアメリカでは1665年に初の常設競馬場が完成したとある。

 イギリスで生まれた競馬だが、当初騎手は馬の背中にべったりと座って乗っていたという。アメリカに渡った競馬は、そこで騎手が中腰で乗る方法があみ出される。その乗り方が革新的だったのか、結果としてレース記録が短縮したと言う。
 1897年。アメリカで生まれた中腰の前傾姿勢で乗馬する方法がイギリスにも普及し、1897年~1910年の間に7%ものレース記録を短縮。アメリカでは1890年から1899年までの間に5%のレース記録が短縮されたとある。
 
  イギリスのロンドン大学の研究チームは乗り方に記録短縮の鍵があるとの仮説を立て、騎手と馬にGPSと慣性センサーを取り付けて計測した。その結果、仮説が正しいものであるとの裏づけを得たという。
  時速約70キロで走る競馬馬の重心移動は上下約15センチ、前後約10センチ。あの巨体がこれだけの重心移動だけで疾走していることにも驚かされるが、これに対し騎手にいたっては上下約6センチ、前後約2センチというごくわずかな重心移動しかしていなかったという。馬の上で騎手が自らの重心移動を少なくすると同時に、馬の重心移動と逆向きの動きで馬の重心移動そのものも軽減し走行を安定させていることがわかった、とあった。
  馬体重は440~552キロ(今年の天皇賞から筆者が引用)。騎手は規定により54~57キロ。10分の一の質量の騎手が馬の上で微妙な重心移動を心がけることにより、馬自体の重心移動が減り馬本来の脚力が発揮された、と見ることはできないか。

 馬は騎手が乗らなければ走らない。馬は当然のことながら、騎手という重量増を抱えて走らなければならない。馬にとっては負担になる。その騎手が乗り方を変えたことにより馬の負担が減り、馬がより速く走れるようになったという話だ。

 それにしても、500キロはある馬にまたがり70キロ近くで走りながら馬の動きに翻弄されることなく、自らの動きを最小限にとどめるのは正直言ってすごい話だと思った。騎手によって馬が速くなるという話を聞いた時に半信半疑だったが、もし仮に騎手の最大の役目が『馬の重心移動の制御』にあるのだとしたら、それは大いにありえる話だ。

 クルマを運転するのは馬を走らせることとは違うが、それぞれの機能を発揮させるという意味では共通したテーマがあるようだ。重心の移動が少ないということをクルマに例えれば、ピッチングが少ないことに置き換えられる。クルマが前後のタイヤのグリップレベルを変化させてアンダーステアやスピンにおちいりバランスを崩すのは、状況としてはクルマがピッチングしているからだ。言うまでもなく、ピッチングはクルマの重心が前後に移動することによって起きる。ピッチングにより前後タイヤのグリップが変化することで、どちらかのタイヤの路面をつかまえる力が不足することが直接の原因だ。

 もし、クルマの重心が動かないように気をつけながら運転したらどうだろう?クルマの場合は馬のように重心の上下動は無視できる範囲だろう。その代わり、クルマを走らせる時にはヨーモーメントの発生が不可欠になる。それでもできるだけ重心が動かないような操作に集中すれば。

  もちろん、加速、減速、旋回を繰りかえすクルマは、ある瞬間には大きな重心移動が起きていて不思議ではない。ただその重心移動がふたつ以上重なるとクルマはバランスを崩しやすくなる。スクールで「トランジッションを意識して」と口を酸っぱくして言うのも、別の言い方をすれば「操作を重ねないで下さい」、という意味だ。

  『クルマがある動きして重心が移動したらその移動した重心を元の位置に戻すような操作をして、あるいは重心が元に戻るのを待ってから次の操作をする。クルマを安定させるためにはそんなイメージが大切だ』。こじつけに近いかも知れないが、的外れでもないだろう。次のスクールではそんなアドバイスをしてみるのも悪くはないな、とあれこれ想像しながらスポーツ紙の小さな囲み記事を何度も読み直した。

【余話】
  近代競馬の発祥の地はイギリスだが、自動車のオーバルレーシングが生まれたのはアメリカだ。1896年9月7日。ニューヨーク郊外ロードアイランドにある1周1マイルの競馬場を使って初めての自動車レースが開催された。イギリスより先にオーバルコースで自動車レースが行われた。自動車の国アメリカならではの話だ。
  同じ楕円形のコースを使う競技だが、競馬のようにオーバルレーシングが全世界に普及するようなことはなく、カナダとオーストラリアで開催されているのが現状だ。
  アメリカのオーバルレーシングには様々な形態がある。大別すればインディ500に代表されるオープンホイールレーシングとデイトナ500が有名なストックカーレーシングだ。コースにいたっては、1周320mのダートコースから2.66Kmのスーパースピードウエイまで多様。全米に1,000ヶ所以上のオーバルコースがある。
 
  アメリカでは全てのオーバルレーシングが左回りで行われる。最初に競馬場でレースを行うことになった時、競馬場の馬をつないでおくピットが走路に対して斜め左を向いていた。当時のアメリカの競馬が左回りで行われていたからだという。ピットに入れるのが馬ではなく自動車になっても、便宜上同じ方向に走ったのでアメリカのオーバルレーシングは左回りになったのだとものの本には書いてある。
  カナダのオーバルレーシングは左回りだが、オーストラリアのそれは右回り。オーストラリアが長く競馬発祥の地イギリスの植民地であったことに関係があるのか、左側通行だからなのかは調べていないのでわからない。
  ちなみに、ツインリンクもてぎにある1周2.4Kmのスーパースピードウエイ。日本で唯一のオーバルコースも左回りで使われている。しかし日本で売られている自動車が右ハンドルなので、運転する人がコーナーの内側にくるように右回りも計画段階から考えられていた。そのためコースにある信号機が回転軸に取り付けられていて反転するようになっていて、左回りでも右回りでも対処できるようになっている。

                                           <=== ここまで転載 <===

  最近、テレビでやっている競馬のCMをご覧になった方もいるだろう。疾走している競馬馬を横から撮ったものだ。ボクは見るたびに、その美しさに感動している。

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  ユイレーシングスクールでは以下のドライビングスクールを開催します。クルマの使い方に興味のある方は参加してみませんか?トゥインゴGTもお待ちしています。(詳細は以下の案内頁をご覧下さい。)

□ 5月29日(日) YRSオーバルスクールFSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=os&p=osf

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●クルマはよくできた道具なので、性能を発揮させるためにはそれなりの使い方を知る必要があります。ユイレーシングスクールが10周年を記念して制作したCDを聞いてみて下さい。バックグラウンドミュージックもないナレーションだけのCDですが、クルマを思い通りに動かすためのアドバイスが盛りだくさん。クルマが好きな人には一生ものの5時間34分です。
YRS座学オンCD案内頁:http://www.avoc.com/cd/