第238回 中里さんはチャンピオン その2
資料として9,995字の「ドライビングポジションの重要性」と10,222字の「タイヤのグリップの探り方」と
2種類のショートコース走行ラインを事前に送るから、参加者はかなりの基礎知識を持って座学に臨むことができる
座学ではクルマの性能を発揮させるための操作方法とやってはならない操作とやったほうがいい操作説明して
あらかじめ見てもらったスラローム、ブレーキング、フィギュアエイトの動画を元に実際に目指すべきところを確認して
あとは練習を繰り返し目指すところと実際のギャップを埋めることだけに集中する
3班に分かれて実技の開始
A班がスラローム、B班がブレーキ、C班がフィギュアエイトで中里さんはフィギュアエイトから
フィギュアエイトを練習する目的はコーナリングとコーナリングの間で直線的に加速すること
ステアリングを戻さないとスロットルを開けてもクルマは加速しない
どこでどれだけどういうふうに戻すのが理想か つまりロール制御がテーマ
ノーマルのアクアが激しくロールする
次に中里さんはスラロームへ移動
20m間隔で置かれたパイロンをできるだけ速いペースでクリアするのだけれど切り返しがあるので加速には限界がある
そこで加速減速イーブンスロットルのローテーションとステアリングワークを操作がふたつ重ならないようにすると
前後輪のグリップ変化を利用して明確に直線的な加速ができる区間を作り出すことができる
つまりピッチング制御がテーマ
外から見ていて操作とクルマの挙動がちぐはぐな場合は職員室(!?)に来てもらってアドバイス
もちろん自主的に職員室を訪れる参加者も
中里さんがスレッショルドブレーキングに挑戦
緑のパイロン付近でブレーキングを開始
止まれる速度の手前まで減速して赤のパイロン付近でノーズを拾い前後均等加重にもっていく
踏力の増加に比例して減速度が大きくなるようなブレーキングを目指す
思う以上に踏力をかけて大き目の前加重にしておけばフロントを拾うのが楽になる
交差点で止まる以外はブレーキングの後にコーナリングが控えるのだからその準備もブレーキング区間内で行う
基本的にユイレーシングスクールのスクールは走りっぱなしでトイレ休憩も自主的に
とにかく繰り返し走ることで再現性のある操作を身につける
頭で考えるのはクルマを止めている間だけ
動き出したら情報処理に専念する
全体の傾向と対策のためのミーティングは必要に応じて
基本的なテーマはできるだけ速いペースでコンスタントに走る
そのためには何をしたほうがいいのか
なぜそうしたほうがいいのか
できない場合はなぜできないのか
理論的かつ合理的に説明するのがユイレーシングスクール流
クルマの運転は物理学 グレーエリアは存在しない
1台ずつ走るなんて時間がもったいない
初めての人もみんなと一緒に走って距離をかせぐ
大勢で走るのが怖いという人はそもそも実力以上の速さを追いかけているから
自分の速さを自覚することがスポーツドライビングの第一歩
直線で目一杯加速するとか できることから始めるのが上達の第一歩
少しの路面の傾斜で操縦性は劇的に変わる
ほんの少し操作を変えると劇的に挙動が変わる
それに気づくかどうかはあなた次第
反応できているかもあなた次第
運転の醍醐味
YRSツーデースクールに毎回桑名から来てくれるKさんのメガーヌRSとつるんで中里さんが走る
駐車場での練習の合間に記念撮影
兵庫県、三重県、愛知県からも参加してくれた
今回は比較的年齢層が高かった
富士山は残念ながら雲の中
2日目は終日1周880mのショートコースをただひたすら走る
中里さんも初めてのショートコースをアクアで走る
ハイブリッドだからと言って直線だけ速い(!?)わけではない
4輪を使えばコーナリングも遜色なく
中里さんには失礼だけどタイヤの使い方を見せてもらうためにマーキング
さすがチャンピオン
躊躇しないところはさすが
前輪の向きに注目
ルーテシアRSで峠を走ってみたいという中里さんの気持ちは大いにわかる
チェッカー!!
走った人は走りも走り、計測ラップだけで160周
YRSツーデースクールが終わって時間が経つが、まずは中里さんが感じたルーテシアRSの要約から
・気に入ったのは変速スピードが素早くスムーズなデュアルクラッチ式トランスミッション
・ステアリングホイールから手を離さずに変速できるパドルシフトも◎
・町乗りにはスポーティと思える足回りもサーキットでは少しやわらかいか
・回頭性がよくターンイン速度を上げていってもFF特有のアンダーステアはきわめて軽微
・タイヤのトレッド面をキッチリ使うことが若干難しい
・峠を走るのに向いている足回りのようなので機会があれば峠を走ってみたい
とのことでした。
次いで、『改めてクルマの運転の奥深さを知ることができた。YRSツーデースクールを受けて本当に良かった』と言ってくれた中里さん。お世辞半分にしてもチャンピオンからそう言われるのは悪くない気分だ。
スラロームではてこずったらしいイーブンスロットルも、コーナリング理論ともどもその重要性を認識できたとか。1日目が終了するころには心地よい疲れを感じていたと言うから、ベテランにとっても十分な練習ができたかなと。
YRSツーデースクールでの経験が中里さんのレース活動に生きてくれると嬉しいのだけれど、ドライビングスクールを主宰する者としては運転の速さと上手さについて考えるところが多かったのも事実。今回の経験を次のカリキュラムに生かそうと思う。
さて、さすがチャンピオンだけあってクルマがどんな姿勢になってもコントロールしてしまうし、その反応の早いこと早いこと。要するに高い速度におけるクルマの挙動を受け入れることができる幅が広いのだけれど、それは同時に、ターンイン直後に対角線に加重が移動するような操作をしてアウト側フロントが沈みこんでも、その次の瞬間には何事もなかったように修正してしまっているということでもある。実際、ある時点でアウト側前輪のショルダーがホイールの下に回りこんだ痕跡があった。それはどうなのか。
乗ったクルマがFFだったからかも知れないが、トランジッションを意識してダイアゴナルロールを押さえるとまだまだ速く走ることができると思った。
FF車で高い速度からターンインすると、様々な理由でまずアンダーステアが発生する。アンダーステアはクルマが曲がらないことであると同時に失速につながっているから、速く走るためにはそれをできるだけ回避したい。アンダーステアを軽減する方法はただひとつ。後輪にもスリップアングルを生じさせることで対角線に加重が移動することを防ぐしかない。
FSWのショートコースを一緒に走った時、ロラン・ウルゴンさんはターンインの手前でフェイントをかけることでヨーモーメントの中心をホイールベースの間に収めていた。
ロールもしない、アンチダイブ/アンチスクワットのサスペンションのVITAで中里さんの走りを、一度間近で見てみたいものだ。
FSWショートコースで中里さんとルーテシアRSと一緒に
お互いに得るところの多かった2日間でした
中里さん ありがとうございました
今年もチャンピオン目指して
応援しています
◎
第237回 中里さんはチャンピオン その1
第113回でも紹介した鈴鹿のウエストレーシングカーズが作るVITA。FF1500ccのエンジンをそのままリアに持っていってミッドシップにしたレーシングカーだけど、このVITAの勢いが今すごい。
生産台数は今日の時点で149台(レーシングカーでだよ)を超え、台湾、中国にも輸出され(作っているのは一介のコンストラクターだよ)、日本では西は岡山サーキットから北は十勝スピードウエイまであらゆるサーキットでレース(単発じゃなくてレースシリーズだよ)が組まれていて、ついにはVITAを駆る女性だけのプロレース、競争女子選手権が富士スピードウエイで始まった。
今回登場する中里紀夫さんは、そのVITA使い。鈴鹿のシリーズで2度のチャンピオンに輝いている歴戦の兵。そのレースで幾多の荒波を乗り越えてきた中里さんが「一度ドライビングスクールがどんなものか見てみたかった」と、ちゃんと受講料を払ってユイレーシングスクールのツーデースクールを受講してくれた、という嬉しい話。
言うまでもなく、レースでは何十人参加しようと勝者はたったの一人。勝敗の決め手となるのは純粋な速さ。人よりもクルマを速く走らせることができた人だけが勝者となり得る。
VITAはタイヤを含めたワンメイクレースのだから車両の性能差はないに等しい。それでも『速い人』と『速くない人』の差が出る。なぜ差が出るのか? 乗り手の速さに差があるのか? それはなぜなのか?
速い人は運転が上手いのか? 運転が上手くないと速く走れないのか? それとも、上手さと速さは別のものなのか?
サーキットでの速さと運転の上手さの間に相関関係はないのか? サーキットの運転といわゆる公道での運転に共通点はあるのか、ないのか?
ユイレーシングスクールを受講する人たちの中にも、サーキットは特別な所、自動車レースは自分と関係ない世界、ととらえていることが少なくなくて、これはジムラッセルレーシングスクール時代からの課題でもあったのだけど、同じ運転なのだからクルマを動かすという一元的な視点で見られないものかと常々思っていた。
だからと言うわけでもないのだが、中里さんがユイレーシングスクールのツーデースクールを受講してどんな走りを見せてくれるか、カリキュラムから何を感じるのかに大いなる興味があった。
で、ふだんの足のアクアで参加した中里さん。ハイブリッド車は操作がダイレクトに挙動につながらないけど、ブレーキング、スラローム、フィギュアエイトと小さなオーバルは乗り慣れていて自然な操作ができるであろうアクアでやってもらった。速度が高くないと運動エネルギーが溜まらなず目指す操作ができない大きなオーバルは、ルノー・ジャポンから借りているルーテシアRSに乗ってもらった。
昨年の鈴鹿クラブマンレースVITAクラスのシリーズチャンピオンの中里さん
中里さんはあまり笑わない人なんです
怖い人では決してありません
近日アップ予定のその2に続く
※ 写真は中里さんに提供してもらいました。
※ 1884年から1889年までアメリカのSCCAというレース統括団体がスポーツルノーというクラスを設けていた。VITAと同じコンセプトで開発され、ルノーがパワーユニット単体を供給し初期には当時の価格で1万ドルで販売された。瞬く間に全米に広がり、その数400台とも言われた。ルノーの供給契約終了にともないパワーユニットをフォードに換装。現在もスペックレーサーとして永らえてはいるけれど、ルノーには日本のグラスルーツモータースポーツの底上げにも力を貸してほしいものだ。