トム ヨシダブログ


第120回 思いのままに

クルマの味わい方は人それぞれ。
希少なクルマを手に入れてニンマリする人。A地点からB地点への移動が快適ならばそれでいいと言う人。サーキットで速さを追求する人。自分だけのクルマに改造するこにいそしむ人。数えだしたらキリがない。

味わい方と言えば、ユイレーシングスクールは独自のカリキュラムを展開している。クルマを味わう方法としてどうですか、という提案。
どのカリキュラムも個人的な好みがその根底にあるのは否定しない。目指しているものは「思いのままにクルマを動かす」手順を提供すること。
速さとか快適とか安全は、全て人間がクルマを思い通りに動かすことができて、初めて求めることができるものだと考えているからだ。

今年から始めたYRSドライビングワークアウトとYRSタイムトライアル。水割りをなめながら悩んで作ったYRSストリートと呼ぶロードコースをできるだけ速く走ることをテーマとする。

3回のYRSドライビングワークアウトと1回のYRSタイムトライアルを終えたが、YRSストリートを作った意味は大いにあると確信することができた。
あるレイアウトのコースを速く走ろうとすると、どこをどう走れば速さにつながるかを分析し、全体の流れを構築しなければならない。ロードコースなら、そのコースの中で最高速に達するストレートに続くコーナーの脱出を大切にしなければならない。オーバルコースならば、コーナーリング中の速度最下点を少しでも高くすることを念頭に置かなければならない。

むろんそれだけではなく、考えなければならないこと、考えたほうがいいことはゴマンとある。
その中でも、YRSストリートで参加者に期待しているものは、4輪を使ったコーナリングをすることだ。

クルマには4本のタイヤしかついていない。このうちの2本には操舵装置がついていて向きが変わる。あとの2本にはついていないから、その2本のタイヤを働かせるためには外力が必要になる。
要するに、ステアリングを切れば前輪にはスリップアングルがついてくれるが、そのままでは後輪にスリップアングルがつくとは限らない。バキッとステアリングを切れば、前輪のスリップアングルが過大になり後輪のそれは増えないからアンダーステアが生じるという話だ。

だから、実はYRSストリート最大の眼目はほぼ2速全開で回る奥の長い左コーナーにある。ラップタイムを無視する必要はないが、参加者がここをどう走るかに注目している。
条件を整えれば、クルマのセットアップ→ターンイン→コーナリング→脱出の一連の動きの中で、前後のスリップアングルが増えたり減ったりを繰り返すのを感知できる。

もちろん、後輪にスリップアングルを生じさせるのは遠心力だけだから、それ相応の速度が出ていなければならないが、それ以上にクルマのバランスが保たれていなければそれを達成することはできない。目指すのは、コーナリング開始からコーナリング終了までの前輪と後輪のスリップアングルの総和が、限りなく等しくなるような操作だ。

YRSストリートの動画をリニューアルしたので紹介します。

それにしても、トゥィンゴRSのリアサスペンションが粘ること粘ること。フロントとのバランスが取れているからスロットルとステアリングで前後輪のスリップアングルの増減を思いのままに調整することができる。
リアが粘るからと言ってアンダーステアが強いクルマではない。オーバーステアやニュートラルステアのクルマでは危なくて走っていられない。

速く走るためには、基本的にアンダーステア気味のクルマを人的努力でオーバーステアにできて、しかもその両方の間を行き来することができなければならないものだ。

来年もYRSストリートを使ったカリキュラムを行ないます。思いのままにクルマを動かす糸口を見つけたい方はぜひ参加してみて下さい。


第119回 見た。触った。乗った。

来春発売されるメガーヌ ルノースポール トロフィーRに乗る機会があった。

当日は助手席にゲストを乗せてトロフィーRのパフォーマンスを体験してもらうのが目的だったのだけれど、楽しくて楽しくて、白状すると、その目的を忘れるぐらい本当に久しぶりに「気持ちの良い時間」を過ごすことができた。

パフォーマンスを体験してもらうために最初から最後まで手を抜かずに4時間、富士スピードウエイのショートコースを200周近く走ったのだけれど、トロフィーRはもちろん音を上げなかった。中盤から水温が少し上がりぎみだったがその後は安定していたし、ブレーキフィールも変わらなかった。そんな任務をまじめに遂行しながらの個人的インプレッション。

たぶん、軽量化がトロフィーR最大のアドバンテージだと思っていたから、走行の初めにスレッシュホールドブレーキングとダブルコーンスラロームを体験してもらった(白状すると、自分でそれを試したかったという気持ちが大きかったのだが)。

これが大正解。

タイヤトレッドがかなり磨耗していたのでスレッシュホールドブレーキングではABSが介入する場面もあった。しかし確かめてはいないけど、その介入の仕方がメガーヌRSより少ないというか、細かく制御されているように感じた。その領域に入っても減速度は変わらなかったし、その領域から抜け出すことも簡単だった。
ゲストに「今介入した」と説明はしたけれど、おそらくその違いはわからなかったと思う。

一人目のゲストを乗せてダブルコーンスラロームを抜けた時、思わず「やったぁ」と声が出そうになった。トロフィーRならではの動きが明確にわかったからだ。

軽量化がクルマにもたらす恩恵はレーシングシーンでも日常でも同じ。が、それはあくまでも一般論に近く、相対的な感覚では計ることが難しい。しかし今回はメガーヌRSという物差しがある。
もともと懐の深い足回りを備えるメガーヌRSに対してトロフィーRがどんなそぶりを見せたか。言葉で表すのが難しいけれど、走っていて笑顔にしてくれる、そんな感じ。
それでは説明にならないので、感じたことを文字にすると、
・操作に対してクルマの動きに遅れがない
・ヨーモーメントの中心がどこにあるかわかりやすい
・『おつり』をもらうことが想像できない
・パワーがあるからピッチングの制御が簡単
ということになる。

3周目からタイヤとガソリンのことだけ頭に入れて可能な限り速く走り、その動きを体験してもらった。すると、ダブルコーンスラロームで感じたことがまさにドンピシャ。

3速と4速の加速度が同じだから4速で傾斜5度のストレートを駆け下り、ブレーキングしながら3速に落としコース幅の半分ぐらいまでトレイルブレーキングを使って1コーナーのイン目がけてステア。操縦性がシャープ、という表現はあたらない。とにかくフロントを押さえている限り、舵角とクルマの向きにズレが生じない。言葉を探せば忠実。その一言。

下のヘアピンを登ってインフィールドに入って切り返すところでも、思ったところにクルマを持って行くことができる。なんと言うのかな、前後左右に荷重は移動しているのだけど、4本のタイヤがずっと地面に張り付いていてくれる感じ。

最終コーナーのアプローチでトレイルブレーキングを使った時。意識的に踏力を強めてみても後輪の滑り出しはホントに穏やか。破綻する気配もない。トレイルブレーキングをあえて短くしても、瞬間、エネルギーの方向とクルマの進む方向がズレるように感じるけど、次の瞬間には前後均等に外荷重になる。

大人2人分軽くなるということはこういうことなんだな、と自分自身すごく勉強になった。おそらく、軽量化の過程で高いところの重量が削がれた結果、重心が下がって相乗効果もあるんだろうなと想像もしたり。

走行中、かなりのゲストに「安定してますね」と言われた。「そうですね。すごくいいクルマです」と正直な気持ちを伝えたけど、すぐに「運転手がいいからでもあるんです」と付け加えることも忘れなかった。みなさん、「そうですね」と運転の仕方にも興味を抱いてくれたようなのが嬉しかった。

どんなに性能の高いクルマでも性能をきちんと引き出す方法を知らなければ、速さは即危険とイコールになるし、第一楽しくない。実際、限界を試すことなど無意味なほどトロフィーRのポテンシャルは高い。

運転を教えている立場の人間のあくまでも個人的な意見なのだが、トロフィーRは運転の仕方を教えてくれる良き先生になると思う。だから、ずっとノーマルのまま乗り続ける覚悟があって、クルマの動かし方をずっと模索し続けようと思う方にピッタリ。飾っておくだけじゃもったいないし、限界を超えて走ろうとしても楽しくないし、トロフィーRの良さはわからない。たぶん、トロフィーRの良さは長い付き合いができる方にしかわからないと思う。

昔からクルマに乗っているせいか機械にお世話になるのを好まない。ルーテシアRSを買ったのも、おせっかいでないクルマがなくなってしまうという危機感からだ。今回、トロフィーRに乗せてもらって、今の時代にしてみればおせっかいではないクルマ、自動車の本質をついたクルマを作るルノーの潔さに拍手を送りたいと思った。そして、こんな得がたい時間を与えてくれたルノー・ジャポンに感謝したい。


第118回 運転の意識

自宅から650キロ離れた筑波サーキットや430キロ離れた富士スピードウエイに出向くので、1年間にかなりの距離を走る。今年は大阪でも鈴鹿でも開催した。スクールの時はトゥィンゴ ゴルディーニ ルノースポールの出番だ。
今年はそれ以外にも、私用で4回東京に行った。ルーテシアRSを引っ張り出したりフィットRSで楽をしたり。記録はつけていないからわからないが、どのくらいの距離になるのだろう。

スクールで「遠い所から大変ですね」と労わられることがあるが、本人は苦痛ではない。たった一人で新東名を走るのなら退屈もしてしまうだろうし、毎週のことなら飽きてしまうかも知れない。だけど目的はスクールを開催したり打ち合わせをしたり母に会うことだから、移動はあくまでも手段でしかない。移動が目的になるとちょっとつらいかも知れないが。

クルマを運転していると実にさまざまな場面に出くわす。それも運転が苦にならない理由かも知れない。

こんなことがあった。
最近は、追い越し車線をずっと走っていてはいけませんよ、という当たり前のことが告知されるようになったから、追い越し車線を延々と走るクルマは少なくなってきた。しかし・・・。
ある日、追い越し車線を淡々と(?)走っているクルマの後についた。しばらく後について行くとようやく、ウィンカーも出さずに走行車線に移った。追い越して間隔を確認してから走行車線に移動する。トラックが現れればウィンカーを出して追い越し車線に移り、追越が終わればまたウィンカーを出して走行車線に戻る。

そんなことを繰り返していると、抜いた後で再び追い越し車線を淡々と走っていたクルマが、ウィンカーを出して追い越し車線に移り追い越しを終わるとウィンカーを出して走行車線に戻るようになった。
「へぇ~」と思って走っていると、3回ほど走行車線に戻ったのだが、その後はまた追い越し車線を平然と占拠するようになってしまった。
「なんでかな?飽きたのかな?面倒くさいのかな?速いクルマが後に来た時だけ走行車線に戻ればいいと思っているのかな?」と想像しながらリアビューミラーに目をやっていたことが何回あっただろうか。

交通安全指導員になってから「模範的な運転を」と言われるのだが、自分の運転が模範的かどうか自信はない。ただ何があっても事故は起こさないように心がけてはいる。
そうするために自分なりのルールがある。市街地、高速道路、サーキット。走る環境ごとに自分で決めた手続きに従って運転している。
ひとつひとつを説明すると長くなるので省くけど、誰もがそんな自分なりのルールに基づいて習慣的に運転しているのではないだろうか。

結果として、自分で言うのもはばかられるが、行き当たりばったりの運転はしていないと思うし、その場しのぎの運転もしていないと思う。
そうすることによって周りがよく見えるようになる。市街地だろうと高速道路であろうと周りにはクルマがあふれているが、多分、こちらが定数になろうとすればするほど周囲の動きが変数として認識できるようになるのだと思う。

先にあげた例以外にも、運転中は本当にいろいろな場面に出くわす。
この人はこうしたいんんだろうな。あの運転の仕方はやめたほうがいいね。このまま行くとああなるな。こうすればあの人が楽になるかな。次から次へと自分が試される。それを楽しんでいる自分がいる。老化防止にいいかもね、とほくそ笑む自分に気づく。

そう感じられるうちは運転に飽きることはないだろうなと。
さて、このブログをアップしたら富士スピードウエイに向けて出発だ。