トム ヨシダブログ

第706回 続・クルマとの対話が楽しい

705回 クルマとの対話が楽しい』を読まれた方から、「4輪操舵車の場合はどうなんだ」という話があった。第349回 4コントロール 同位相でも触れているけど、改めてメガーヌRSに搭載されている4輪操舵システム、4コントロールのコーナリングについて自分の経験を。

ルノー・ジャポンから借りているメガーヌRSトロフィーには4輪操舵装置である4コントロールが備わっている。高価な装備の目的は、前輪操舵車がコーナリングする際に起きる可能性のある前後タイヤのグリップの不均衡を是正するためだ。

前回説明したようにターンイン直後や高速コーナリングではクルマの向きを変えるために前輪が猛烈に働いている。特にアウト側前輪。タイヤが働くということは路面との間にズレが生じ、簡単に言えばそれがそのままタイヤのグリップの増加につながる。一方の後輪は他力本願的に遠心力を受けるまで路面とのズレを生じないから、どうしても前輪に比べるとグリップが不足がちになる。前後輪にグリップの差が生まれるとクルマがバランスを崩す可能性が高まる。それを補おうというのが4輪操舵の思想だ。

もちろん、だからと言って前輪操舵車の旋回特性が4輪操舵車に全面的に劣るかというとそんなことはない。100年以上も前から馬車の系統を引き継ぎクルマは前輪がステアするのが当たり前だった。現代の前輪操舵装置、例えばダブルアクシスストラットなど完成の域に達していると言ってさしつかえない。繰り返しになるけど、クルマが曲がらないのは運転手が曲げ方を知らないだけなのだ。

改めて簡潔に言えば、4輪操舵装置はクルマを曲げるということに対してフールプルーフ思想を実現したものだと言える。

さて、メガーヌRSトロフィーの4コントロールはある速度で後輪のステアが逆になる。低速域では後輪は逆位相に、高速域では同位相に変位する。

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主に低速時
4輪操舵車逆位相コーナリングでのタイヤの軌跡
 
現実にはあり得ないけれど視覚的な理解のために

それぞれに目的がある。後輪が逆位相で転舵した場合、舵角が同じだとすると(そんなことは現実にはないけど)後輪は前輪の軌跡を踏みながら転がる。つまり理論的には内輪差がなくなる。車両間隔がつかみやすくなる。後輪もクルマの向きを変えるから小回りが効くことになる。

実際のところはどうか。湖西道路を降りてからわが家へ向かう途中に十字路を左折する。変形の交差点で左折は鋭角に曲がることになる。ある時メガーヌRSトロフィーと以前借りていたルーテシアRSでは明らかにハンドリングが異なることに気が付いた。どこが違うかと言うと・・・。
引手でステアリングホイールを回すので左手を時計の11時あたりに持っていって、それを7時くらいまで引き下げる。違いは、ルーテシアRSの場合は手を引いてから1拍ぐらいホールドする間があったのだけど、メガーヌRSトロフィーの場合は7時まで引いたとたんに戻し始めないとイン側に巻き込むような挙動を見せたのだ。ステアリングホイールを引く速度を速めると7時まで引く必要がない場合もある。腰で感じるリアのロールに起因する横Gが少ないから、4コントロールがクルマのコーナリングに積極的に関わっているのがわかった。


メガーヌRSでYRSトライオーバルFSW走る。4コントロール逆位相が見てとれる。

 

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高速走行時
4輪操舵車同位相コーナリングでのタイヤの軌跡
 
同位相の場合は旋回中心があいまい
クルマ任せになるけど
クルマが平行移動する感じ
 
あくまでもイメージです

高速域で後輪が同位相にステアするのはクルマを安定させることが第1目的。高速で走っている時にステアリングを切る。高速だから舵角のついた前輪には比較的大きなズレが生じる=前輪のグリップが極端に高まる≒後輪のグリップは低いままではクルマがバランスを崩す可能性が高い。具体的に言えば、急なステアはオーバーステアにつながるはずだ。
そこで後輪を同位相にステアさせることにより前輪に舵角がつくと後輪にも舵角がつき、後輪に遠心力がかかるのを待たずに後輪のグリップを前輪のそれにみあった大きさにしてバランスをとる。換言すれば本来前輪駆動車では他力本願的に後輪に遠心力が働くのを期待するしかなかったのを、自立本願で必要なだけのスリップアングルを手に入れることができるようになり4本のタイヤでのコーナリングを実現できることになる。

大津の自宅に最初のメガーヌRSを配車してもらい初めてFSWに向かった時のこと。新名神の草津ICから東に向かうと高速道路にしては曲率の小さなコーナーがひとつある。登りの左コーナーでこれまた高速道路にしては大きめのカントがついている。
初めてのメガーヌRSだったが少しばかりオーバースピードでターンイン。どんな場合でも一発でステアリングを回さずに探りながら切り足すのだけど、いつもなら切り足していく過程で腰で感じる横Gが増えるはずなのにそれがない。横Gが抜けたと言うか、ある程度ステアリングを切った段階でクルマが旋回ではなく、何と言うか、円運動をしながら平行移動したと言うか。横Gが増えなかったのには戸惑ったけど、よくよく考えればアウト側前後輪の負担も増えなかったのでこれが4輪操舵が目指すところなのだと納得。逆に、このコーナリングを自分の手柄だと勘違いする人が出なければいいなとも思った。

ということで最後に一言。

自動車技術の進化はめざましい。人間は昔に比べれば安直にクルマを運転できるようになった。クルマの性能に助けられて運転している人も多いはずだ。でも今までもこれからもずっと、クルマを手放しで運転できるわけがない。やはり我々の生活を豊かにしてくれるクルマに畏怖の念をいだき、自分も運転を上手くなろうという気持ちを持つことが大切ではないかと改めて思う。



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