トム ヨシダブログ


第7回 体力測定 その2

  ユイレーシングスクールのドライビングスクールは2月から始まる。その前に、そのうち受講生も操るだろうトゥインゴGTに対する理解度を深めるため(と理由をつけて)2回目の体力測定に連れ出した。
  今度の舞台は、F1グランプリも開催されたことのある富士スピードウエイレーシングコース。先日の筑波サーキットコース1000では基本的な操縦性を確認することが目的だったが、今回は、まだ本来の力ではないのを承知で、動力性能と制動性能を確認することをテーマとした。
  最終コーナーを立ち上がって1コーナーに行くまでのストレートが1.5kmもある世界屈指のハイスピードサーキット。小さなトゥインゴGTがどんなたち振る舞いをするか、ターボをおごられているとは言え、1,200ccの小さなエンジンを載せたかわいらしいホットハッチがどんなポテンシャルを秘めているか、ワクワクしながら、快晴だけれど空気がとても冷たい富士スピードウエイに乗り込んだ。


ゲートをくぐって坂を上っていくと。なんと、絵に描いたような富士山がお出迎え。

  今回はもうひとつ大事なテーマも抱えていた。
  実は、ルノー京都CADONOでトゥインゴGTを受け取った時にトラクションコントロールが解除できないことがわかった。つまり、走らせている間はずっとトラクションコントロールのお世話になることになる。この、常に介入しているトゥインゴGTのトラクションコントロールがどうしつけられているか確認することも、5速全開のコーナーのある富士スピードウエイのレーシングコースに繰り出した理由のひとつ。
  
  ご承知の通り、トラクションコントロールとはある条件下では運転手がスロットルを開けても、開けた分のパワーが駆動輪に伝わらないように制御する装置だ。その時に駆動力がかかると、クルマのバランスを崩す可能性があるとクルマ自身が判断して、スロットルペダルと吸気装置の関連を絶つ。駆動輪にそれ以上の駆動力を与えないか、場合によっては駆動力を減らし、それによって、クルマが思いもよらない動き(これはほとんどの場合危険につながる動きなのだが)をしないようにコントロールしてくれる装置だ。
 
  ここではトラクションコントロールの是非を問うつもりはないし、功罪を語るつもりもない。日本でも遅まきながら数年後には全ての乗用車に備えなければならない装置なのだから、不確かな人間がクルマという能力拡大機械を操る時には必要だと世の中は判断しているのだろう。
  いずれにしろ、  トラクションコントロールが働くということは、それが不注意でそうなったのか、確信犯的にそうしたのかは別として、運転手の意思がクルマに伝わらない瞬間がおとずれる可能性があるということは、クルマを運転する人全てが意識しておくべきだと思う。


富士山は無条件にいい。特に冬の姿はステキ。

  しかし、クルマの運転を教える立場からすると、トラクションコントロールをもろ手を挙げて歓迎するわけにはいかない面もある。  ABSブレーキもそうなのだが、それらのセーフティデバイスが介入することを前提とした運転をする人がいることだ。クルマが運転手のミスを補ってくれるからと、およそ理論的とは言えない運転をしたり、介入することを利用してサーキットを速く走ろうとする。
  クルマの楽しみ方という面からすれば、それを否定することはできないのかも知れないが、『セーフティデバイスに頼らなくてもすむドライビングポテンシャルを身に付けて下さい』と言っている側としては、「ちょっとなぁ」なのである。
 
  幸いなことに、ユイレーシングスクールに来てくれる人達はクルマも自分も、そしてクルマの操り方もとても大切にしてくれる。お行儀の悪い人はいないし、むしろ、もう少し積極的にクルマを走らせてほしいと思う人の割り合いが高い。
  そんなドライビングスクールだが、トラクションコントロールが装着されているクルマで、それが解除できる場合には解除して練習をしてもらう。クルマを思い通りに動かすコツを習いに来ているわけで、そこはそれ、「機械に頼らなくてもクルマのバランスを崩さないような操作を身につけて下さい」と、なかば強制的にトラクションコントロールを切ってもらうことにしている。
 
  クローズドコースとは言え、トラクションコントロールを解除して走らせて危なくないのか、って声があるかも知れない。それだったらユイレーシングスクールには行かない、という人も現れそうだ。しかしご安心を。
  ユイレーシングスクールのカリキュラムではクルマを限界近くで走らせることもあるが、だからといって絶対的な速度が高いわけではない。クルマの特性を考えて、速くなくても運転手が失敗しやすいようなコースを設定しているし、クルマの挙動を見れば何を考えながら走っているかがわかる。全てを把握した環境で練習するのだから、危ないことはない。

  トラクションコントロールを解除して走ってもらうのにはふたつの理由がある。
  ひとつは、当然のことながら、トラクションコントロールに頼らなくてもクルマを速く走らせる方法、それはすなわちクルマをどんな時にもどんな状態でもクルマをコントロールすることにつながるのだが、その方法を学んでもらうこと。
  もうひとつは、自分の意思でトラクションコントロールを解除することで、『ドライビングをミスっても、もうクルマは助けてくれない』という意識を持ってもらうことだ。
 
  「運転中は誰も助けてくれません。どうすれば安全に運転できるか、自分で決めて下さい。自分で無理だと思う速さで走る必要はありません。他人と比較する必要もありません。どんな速度で走るか、いつスロットルを開けるか、いつブレーキをかけるか、自分が確信を持てる範囲から始めて下さい。」と走行前に話すことにしている。
  もちろん、最後に「いざとなればセーフティデバイスに頼ろう、なんてヨコシマなことは考えないように」、とつけ加えるのは忘れない。
  最初は躊躇していた人も、少し走ればその環境に慣れる。人間の学習能力は偉大だ。最後には、『トラクションコントロールを解除しないで走っても、トラクションコントロールが介入しない運転ができるようになる。トラクションコントロールがついているのを忘れるほどに』。すなわち、ある程度の練習は必要だが、人間がミスを犯さなくなる。機械に頼らずに、人間が自立してクルマを運転することができるようになる。


ピットにて。とにかく寒かった。

  話が横道にそれてしまった。
  トゥインゴGTのトラクションコントロールは、できれば解除した時の走りを体験してみたかったのだが、結論としては解除できないほうがいいかな、と思い始めている。
  小さい割に低回転からトルクの盛り上がるトゥインゴGTは、FFということもあって高速コーナーのスロットルオンオフに鈍感ではない。多分、トラクションコントロールではステアリング角度も拾って制御しているのだと思うのだが、万が一、ステアリングを戻さないでスロットルを全開にする人がいたらと考えると、運転手が解除したくてもできないほうがいいかも知れないし、それで不都合があったわけでもない。


陽がかげり、たたずむトゥインゴGT。

  結局、つごう1時間の走行をトゥインゴGTはこともなげにこなしてみせた。全くのノーマル。空気圧だけ5%あげただけ。
  最終コーナーの立ち上がりのできによって、1コーナーのブレーキング手前の到達速度はかなり違ったが、最も速かったのはメーター読みで174キロ。この速度でも外乱を受けずに、神経質ではなく直進性を保っていたシャーシは◎。
  5速170Km/hから2速60km/hまでの減速を25回繰り返しても、フェードもせず悲鳴を上げなかったブレーキに◎。
  3速全開の100R。小さな身体をひねりながら、4本のタイヤで路面をしっかりつかみ、排気量の大きいクルマとの差をつめることができたサスペンションに◎。
  いいことばかりのようだが、気になった点がなかっただけのこと。宣伝をするわけではないが、ドライビングインストラクターの視点からすると、道具としてのトゥインゴGTの完成度は極めて高いと見た。
  ちなみに、ラップタイムはベストで2分35秒ほど。ごくふつうのタイヤを履いた小さなホットハッチとしては悪くない。


頑張った小さなエンジン。まだオイル交換はシ・テ・ナ・イ。
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  ユイレーシングスクールでは2月、3月に以下のドライビングスクールを開催します。クルマの使い方に興味のある方は参加してみませんか?トゥインゴGTもお待ちしています。(詳細は以下の案内頁をご覧下さい。)
  特に3月19/20日に開催するツーデースクールはクルマの動きを理解し、操作と挙動の因果関係を把握するための短期集中カリキュラムとして好評です。
   
■ 2月20日(日)YRSドライビングワークショップ FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=dwf

◆ 2月24日(木) YRSドライビングスクール 筑波
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=tds

■ 3月4日(金) YRSオーバルスクール FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=os&p=osf

■ 3月19、20日(土、日) YRSツーデースクール FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=2ds


第6回 道具を使う

  『包丁という道具があります。モノを切るための道具です。道具としては、包丁を持った人間が直接モノにあてて切るという、極めて単純かつ原始的な機能を備えています。ですがこの包丁にも、これからお話するクルマの運転同様に、理にかなった使い方があります。』
  ドライビングスクールの座学で、そんな話をすることがある。


   
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ほう‐ちょう〔ハウチヤウ〕【包丁/×庖丁】
1 料理に使用する刃物。出刃(でば)包丁・刺身(さしみ)包丁・薄刃包丁などがある。包丁刀。
2 一般に薄刃の刃物の称。畳包丁・紙切り包丁・裁縫用の裁ち包丁など。
3 料理をすること。料理。割烹(かっぽう)。「―始め」
「折ふし御坊は、見事なる鯉を―して御座ある」〈咄・きのふはけふ・上〉
[出典:デジタル大辞泉]
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  さて。みなさんは包丁をどのようにして使うだろうか。包丁を引くか、押すか。どちらかに動かしながら切るのではないだろうか。お刺身のような柔らかいモノを切る時には、ゆっくりと引きながら切るのではないだろうか。
  上から下に切り下ろすよりも、引くか押すか、包丁を動かしながら切る方が切りやすい。経験的にそうしているのかも知れないし、そうすることを誰かに教わったのかも知れない。板前さんの真似をしているのかも知れないが、包丁の使い方としては、それが正解だ。
 
  ところが、なぜそうすると切りやすいのか、その理由を知っている人は意外に少ない。そうすることに疑問を抱いている人はもっと少ない。それは、包丁を使うことが我々の日常の中でごく当たり前の行為になっているからに他ならない。なぜそうするのか理屈を知らなくてもとりあえず包丁を使うことはできるし、知る必要はないと言えなくもない。

  しかし一方で、包丁を動かしながら切ると切りやすい理由を知っていれば、どんな場合でも間違った使い方をしなくてすむのではないか。包丁に対する興味が増すかも知れない。包丁を使うことがもっと楽しくなるかも知れない。包丁の使い方をもっと研究したくなるかも知れない。
 
  という訳で、高校の時に先生に聞いたことの受け売りではあるが、包丁を動かしながら切ると切りやすい理由。
  『包丁を動かしながら切る。つまりモノに対して真下に切り下ろすのではなく、モノに対して包丁が斜めに入るように切ることによって、包丁の刃の厚みを薄くしている』のだ。
  もちろん包丁の刃が現実に薄くなるわけではない。が、動かすことによって実際にモノを切る刃の角度を小さくすることはできる。

 包丁の刃を模した三角柱。実際には刃と直角をなすのが刃の厚みだが、同じ刃でも斜めに計れば角度は小さくなる。

 
  モノを切るにはカミソリのようにごく薄い刃のほうが切りやすい。モノの形も崩れにくい。しかし、包丁がカミソリのようであったならば、刃こぼれをするかも知れないし、耐久性も期待できない。そこで、刃が薄くはない包丁を動かすことで、「人為的に刃の薄い包丁でモノを切っている」、これが包丁を動かす理由にあたる。


 
 時間に余裕のある人は実際に体験してみてほしい。
  りんごを8等分する。くし型になったひとかけらが45度の刃をした包丁だと考える。モノに対して真っ直ぐに切り下ろした場合を想定して、りんごの切れ目に直角に切ってみてほしい。どうだろう。断面は変わらず45度をしているはずだ。
  今度は切れ目に対してできるだけ平行に近くなるように切り、その断面を見てほしい。どうだろう。先ほどより角度が小さくなっているずだ。切れ目に対して浅い角度で切れば切るほど、断面が表す「包丁の刃の厚み」も薄くなる。

  おわかりだろう。なぜ刺身包丁が長いのか。柔らかなお刺身の形を崩さずに切るために、できるだけ浅い角度で、しかも一回のストロークで切るために長めに作られている。
  逆に、出刃包丁は短くて刃に厚みがある。出刃包丁はモノを切るというよりくさびを打ち込むように分断するためのものだから、それなりの形をしている。

  包丁は、それが高級品でなくても、よく研がれていなくても、とりあえずはモノを切る時に引くなり、押すなりして『包丁の長さ』で切ることを意識すれば、その機能を最大限に発揮させることができる。
  道具は、その機能を発揮するための工夫がされている。その機能を引き出すのは使う人の役割だ。

 
 クルマの運転も同様だ。包丁と異なりクルマは複雑な道具ではある。使い方はそれほど難しくはないとも言えるし、ある条件下ではかなり難しいとも言える。どう思うかは、使う人がクルマに対してどういう意識を持っているかで異なる。

  クルマの機能は三つ。加速と減速と旋回。三つしかないとも言える。これらを組み合わせて我々はクルマを目的に応じて走らせている。
  しかし、加速と言ってもただスロットルを開ければいいかというと、そうではない場合がある。ブレーキにしても、どんな時にも同じように踏めばいいというわけではない。ステアリングも、ただ回せばいいというものではない。目的によって回し方は異なる。

  最近の、よくできたクルマは運転することを意識しないで、まるで家電製品を扱うような感覚で走らせることもできる。ある意味では運転という行為から人間が解放されるのだから、道具が進化する方向としては否定できない。
  しかし、『スロットル、ブレーキ、ステアリングをどうやって操作すればクルマの機能を発揮させられるか』ということを知れば、サーキットで速く走りたい人はより速く、安全運転を心がけたい人はより安全にクルマを動かすことができるのも事実だ。
  思い通りにクルマを動かす。その扱い方を知ってほしくてユイレーシングスクールは10年を過ごしてきた。これからも、少しでも多くの人に「なぜそうするとクルマが思い通りに走るのか」を知ってもらうために2巡目の10年を走っている。
 
  クルマは高度な機能が詰め込まれた道具だから、運転は包丁を使うほど単純な作業ではない。しかし、元々が人間の能力を拡大してくれる道具でもあるわけで、間違った使い方は避けたほうがいい。自身のためにも周囲のためにも、自分の運転と一度は向き合ってみる価値はあると思うのだが。いかが。


兄貴分にガレージを占拠され、あわれ雪の下。
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  ユイレーシングスクールでは2月、3月に以下のドライビングスクールを開催します。クルマの使い方に興味のある方は参加してみませんか?トゥインゴGTもお待ちしています。(詳細は以下の案内頁をご覧下さい。)
   
■ 2月20日(日)YRSドライビングワークショップ FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=dwf

◆ 2月24日(木) YRSドライビングスクール 筑波
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=tds

■ 3月4日(金) YRSオーバルスクール FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=os&p=osf

■ 3月19、20日(土、日) YRSツーデースクール FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=2ds


第5回 体力測定に挑戦

 オドメーターがそろそろ3000を刻もうとするある日。トゥインゴGTをサーキットに連れ出した。走行距離から言って「まだ早いかな」とは思いつつ、赤いコンパクトハッチの実力をどうしても試したくなって1回目の体力測定に挑んでみた。
 

走行前に記念撮影。遠くに1コーナーがかすむ。

 舞台は筑波サーキットのコース1000。ここは、2000年からユイレーシングスクールがドライビングスクールに使用しているコース。全長は1,039メートルとサーキットとしては短い部類に属するが、コース幅は全域に渡って11メートルと広く、奥の深いコーナーがほとんどなのでドライビングポテンシャルを向上させるにはうってつけのコース。

 茨城県下妻市にある筑波サーキットにはコース2000と呼ばれる全長2,045メートルのコースもあるが、『クルマの挙動を知る』、『操作と挙動の因果関係を検証する』、『クルマを操るコツを学ぶ』にはコース1000のほうが適している。
 理由は明快だ。コース1000はコーナーの半径に対するコース幅が広いので、とりあえずどこを走ってもそこそこの速さで走ることはできる。別の見方をすれば、それだけ安全でもある。
 しかし、例えば足を(サスペンションを)硬めただけのロードスターで1周43秒で走ろうとすると、広いコースの中で走行ラインを絞り込み、かつクルマを前へ前へと進めなければならなくなる。
 つまり、手軽に楽しむことのできるコースであると同時に、速く走るためにはドライビングテクニックはもちろん、冷静に状況を判断する能力を養うことができる。実際、コース1000のYRSドライビングスクールでサーキットデビューを果し毎日の運転を楽しんでいる人もいれば、YRSドライビングスクールで腕を磨いて本格的なレースに挑戦している人もいる。

・筑波サーキット コース1000レイアウト
http://www.avoc.com/renault/t1ck_layout.jpg

 ストレートエンドでは速いクルマでも時速150キロほどしか出ないコースだが、サーキットに変りはなく、街中や高速道路を走るのとは違い、それなりに車を動かす方法を身につけている必用がある。
 クルマを運転する人全てがサーキット走行を経験することは不可能に違いないが、サーキットは一部の特別な人たちのものでもなく、モータースポーツに興味のない人にも運転の楽しさやクルマを動かす時の決まりごとを教えてくれる場所だから、できるだけたくさんの人がサーキットに興味を持ってもらえると嬉しい。
 日本では「スピードを出すと危険」というイメージが定着しているから、サーキットを走っていると言うと眉をひそめる人が多いがそんなことはない。公道でもサーキットでも運転という操作自体に変わりない。むしろ、運転の奥深さを知るためにもクルマの限界で走ることのできるサーキットの存在は大きい。


兄弟も参加していた。

  1周1キロメートルのコースには設計上のコーナーが14個ある。しかもコース幅が広いので、初めてコース1000を走る時にはどこをどう走っていいかわかりにくい。控えめな速度で走っていると、なおさら走行ラインを見つけることが難しい。なにしろコース幅11メートルというのは一般道の4車線近くの広さだ。そこを自由に走ってもかまわないと言われても、クルマをどこに向けたらいいのか困惑して当然。実際には5回しかコーナリングしないのだから、もっともな話だ。
  しかし、速く走ろうとするとラインが見えてくる。そんなもんだ。
 
  速く走ろうとする。1周のラップタイムを短縮しようとすると、コーナーもストレートもスロットル全開で走ればいいと考えがちだ。ところがサーキットと言えどもコーナーの手前では減速をしなければならないし、コーナリング中はスロットルを全開にすることができない場合が多い。
 
  しかしテーマを絞り、速く走ろうとすると、必然的にクルマの性能を引き出すことを優先しなければならなくなる。速さを実現するのはクルマだからだ。クルマの性能を引き出すためには、4本のタイヤを常に路面に押し付けておかなければならない。そのためには、いかなる場面でもクルマが安定するように走らなければならない。この思想が理解できれば、サーキット走行は格段に楽しくなるし、速く走れもする。
  走行中のクルマが最も安定しているのは直進状態だ。しかしコーナリングをする必要もある。では、コーナリング中にはどうすればいいのか。そこから導き出されたのがアウトインアウトの走行ラインだ。コーナーの手前でコーナーのアウト側により、コーナーの中でコーナーの中心に近づき、コーナーの出口でコーナーのアウト側にはらむ。これを一筆書きのような走りで実践できれば、コーナリング中のクルマを安定させることができる。つまり、アウトインアウトとはコーナーの直線化という概念から生まれたテクニックなのだ。
  かくして、走る前にコース図とにらめっこしてクルマが最も安定するラインを見つけることができれば、実際に走る段になってアタフタする必要はない。


サーキット走行後のタイヤ。決してサーキット向きではないが頑張ってくれた。

  サーキットを走ると言っても、プロドライバーのように速く走る必要はない。その人の経験と、その人のクルマの速さに応じて『それなりの速さ』で走ればいい。
  サーキットを走るのだからと自分の実力以上の速さを追いかける人がいるが、あれはもったいない。サーキットで遅いと恥ずかしいと言う人がいるが、それももったいない。
  サーキットをたった一人で走ることはまれだから、他人への配慮を忘れないのなら誰もが自分のペースで走るべきだ。


プラスティック製のレンズカバーには必要ないが、昔は飛散防止のためにテープを貼るのが決まりだった。ちょっと雰囲気。

 
 コースに慣れてきたら、少しだけペースを上げてみる。冷静に観察すると、ペースを上げるとクルマが落ちつかない場面に出くわすはずだ。クルマが不安定になるのは、タイヤが路面をつかむ力が弱まった時だ。それが1本のタイヤで起きたのか、それとも2本のタイヤでか。なぜそうなったのか。
  間違いなく、そうなったのはペースを上げた時の操作をクルマが受け付けてくれなかったからだ。その時の操作を思い出し、ペースを上げる時に調整すべき点を想像することができれば、それだけでドライビングポテンシャルは向上する。

  クルマの運転は人間本位に行わないほうがいい。クルマが意図したように動いてくれなければ目的を達成することはできない。クルマを思い通りに動かしたければ、クルマが走行中にどんな状況にあるか感じ取ることが大切だ。クルマは常にどうなっているかを語り続けている。あとは貴方が聞く耳を持っているかどうか、それが運転のうまさと楽しさへの入口だ。


全長3,600mm。およそサーキットに似つかわしくないトゥインゴも元気いっぱい。

  体力測定の結果はというと、エンジンをいたわりながら走ったコース1000のラップタイムが49秒8。決して遅くない。それよりも、あらゆる状況でリアがブレークしなかったのは特筆ものだ。クルマ自体の安定性が高い証拠。
  トラクションコントロールをオフにして走れなかったのが残念だが、それもトゥインゴGTの欠点ではない。(トラクションコントロールについては別項で)
  小さなホットハッチは筑波下ろしが吹きすさぶコース1000を元気に走り回った。次回の体力測定ではもう少し速さを見つけることができるはずだ。

・YRSオリジナルビデオ 筑波サーキット コース1000
http://www.avoc.com/5media/video/movie.php?t=go_racing

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  ユイレーシングスクールではウエブサイトにドライビング理論を学ぶための教科書を公開しています。クルマを安全に走らせたい、クルマの運転を楽しみたいと思っている方にお勧めです。

・ユイレーシングスクール教科書
http://www.avoc.com/5media/textbook/textbook.php?page=0