トム ヨシダブログ


第806回 続々・GPSLapsから見るコーナリング

おさらいをしておきましょう。ロードコースと呼ばれる周回路を速く走るためには、何よりも優先すべき攻略法がふたつあります。
まず長い直線に続くコーナーの脱出速度を上げること。結果的にストレートエンドの到達速度が速まりストレートの所要時間が短くなります。次に高速コーナーをできるだけ高い速度で旋回すること。単位時間あたりの移動量が多い区間を速く走れれば平均速度の向上=ラップタイムの短縮につながます。

このふたつののアプローチを練習するためには筑波サーキットのコース1000がうってつけです。コーナーの曲率の割にはコース幅が広く、なにしろ回り込んだコーナーが多いので操作の工夫次第ではロードスターがポルシェと同じようなタイムで周回することも不可能ではありません。クルマの速さとは別に、セオリー通りに走ることのできる人が速い、ドライバーズサーキットだとも言えます。最高速度は大きなサーキットほど速くはありませんが。

狭い敷地にレイアウトしたミニサーキットはどこも同じような傾向を持ちますが、例えば富士スピードウエイのショートコースはというと、直線が長くしかも5%とかなり下っているので馬力の大きなクルマが明確に有利になります。その点、コース全体がフラットな筑波サーキットコース1000は周回数も稼げるので操作の理論的合理性を追い求めるのに適しています。

コース1000の全体像を俯瞰するために、 1、2コーナーでイーブンスロットルとトレイルブレーキングの練習をして ドッグレッグでコーナーを捨てることの練習 をしたついでにフルラップした時のデータも取ってみました。

805-3
1周1,039mで使うギアは2速と3速のみ
最終コーナーを2速で立ち上がって3速に
1コーナーはブレーキングだけで進入
ヘアピン手前でブレーキングと2速にダウンシフト
インフィードの左を2速のまま薄いブレーキで
インフィールドのストレートで3速に
ドッグレッグまで3速
外周に出る手前でブレーキングと2速にダウンシフト
最終コーナーはボトムスピードを意識して

さて、あなたなら 筑波サーキットコース1000 をどのように走りますか。

ストレートエンドの到達速度を上げる。高速コーナーの通過速度を上げる。どちらもラップタイム短縮には有効ですが、実現するためには常にクルマの性能を引き出す操作が行われていることが前提になります。

例えばコース1000の1コーナーは突っ込みすぎてもバキ切りをしてもコースアウトせずにクリアすることを許してはくれます。しかしながらアンダーステアが出ている状態ではクルマは間違いなく失速しています。前荷重=前後荷重の不均衡=前後輪のグリップの相違はコーナリングスピードを低下させます。速さを追うのならば、クルマの性能をスポイルしていないか=クルマの動きを妨げる操作をしていないか、常に意識しながら操作することが大切です。
どういう操作をしたか、クルマの運動エネルギーが有効に使われていたか、走行後に走行軌跡と合わせて速度とその瞬間の加減速/横向き加速度を検証するにはGPSLapsが有効かも知れません。

8月24日(土)に富士スピードウェイ駐車場で開催するYRSトライオーバルスクールFSWでアプリの開発者を招き GPSLaps の使い方のセミナーを行います。アンドロイド搭載のスマホかタブレットがあれば世界中のサーキットの走行データを収集することができます。ご自身の操作を見直すためにもお勧めです。

当日はトライオーバルの走行データをモニターに出力してご覧いただきます。操作とクルマの動きの因果関係を解明するためにもぜひ参加してみて下さい。

・8月24日(土)開催 YRSトライオーバルスクールFSW開催案内と申込みフォームへのリンク

 



第805回 続・GPSLapsから見るコーナリング

ブログ 「第804回 GPSLapsから見るコーナリング」 でイーブンスロットルとトレイルブレーキングを駆使した時のクルマの動きが確認できる。

筑波サーキットコース1000攻略の第1歩は1、2コーナーだから、トレイルブレーキングとイーブンスロットルはこの区間のタイム短縮に欠かせない。

2番目の攻略ポイントは最終コーナー。2コーナー同様の長いコーナー区間=所要時間の長いコーナーをできるだけ速く駆け抜けたい。そのためにはインフィールドから外周に出た時の速度を高く保つ必要がある。高い速度で外周に飛び出すためには手前のブレーキングとクルマの姿勢制御が鍵になる。

で、スクールで「ドッグレッグ」と呼んでいるインフィールドのストレートエンドにあるゆるい左コーナーから外周に出る右コーナーまでのデータもGPSLapsで押さえておいた。この区間は左から右への切り返しがあるS字コーナーのようなもの。鈴鹿サーキットレーシングコースではS字の走りがラップタイムに大きく響くように、筑波サーキットコース1000ではドッグレッグの抜け方が速さにつながる。

そこでドッグレッグを2種類の方法で走ってみた。1つはドッグレッグを全開で回り、もう1つはドッグレッグを「捨てコーナー」とみなした走り方。

コース図上の色のついた走行ラインの始点・終点がグラフの左端・右端と対応。走行ラインの色は赤が減速で緑が加速で黄色系はその中間。グラフの赤線が速度。青線が加減速Gで緑線が横Gを表している。

805-2
ドッグレッグを全開で抜けてからブレーキング
到達速度は速いが直後のブレーキングで大きな減速G
右に切り返して外周に出て
横Gは立ち上がるが加速Gはマイナスのまま
速度は低下し続けボトムスピードは60キロ/時を下回る
※外周に出てからのラインが橙色は減速を表す

805-1
インフィールドのストレートを全開で加速
3速でドッグレッグにアプローチしながらスロットルを抜いて
左コーナーの横Gを早めに消して直線的にブレーキング
減速区間が長くなるので減速Gを大きくせずにすむ
外周に出てアウト側縁石の最後にクリップする頃
加減速Gはプラスに転じそれ以降
最終コーナーの通過速度は60キロ/時以上を維持

 

ここでおさらい。
・コーナーは直線よりも速度が低いからコーナーに入る前には減速が必要になる
・ターンインまでの減速に加えターンイン後は走行抵抗が増えるのでクルマはますます速度を低下させる
・ブレーキを遅らせてより高い速度からターンインすることも可能だが効果は疑問
・切り返しのあるコーナーは切り返し地点で瞬間でもいいからクルマをフラットにする
・コース1000の場合はゼロロールにしてから加速→ブレーキングが理想
・ブレーキをできる限り抜きながら外周へ
・前後輪とも外荷重になったら間髪を入れずにイーブンスロットル
・コーナーを速く走るのにはコーナリングのボトムスピードを高く維持することが鍵になる
・コーナリングスピードを上げるためにはコーナリング中のクルマの前後輪のグリップバランスが均等であることが望ましい

切り替えしのあるコーナーや所要時間の長いコーナーほど手前から走り方を構築する。ターンイン時の前荷重を可能な限り少なくし、高い速度からターンインした時にヨーモーメントが発生しやすいようにトレイルブレーキングを使い、コーナリング中に前後輪のスリップアングルが均等に近くなるようにイーブンスロットルの状態を維持する。ユイレーシングスクールが教えるコーナリングのセオリー。

 

8月24日(土)に富士スピードウェイ駐車場で開催するYRSトライオーバルスクールFSWでインストラクターの走りをGPSLapsでデータ取りし、教室に戻ってモニターに出力し参加された方とデータを共有したいと考えています。加えてGPSLapsの開発者でYRS卒業生でロードスターパーティレースに参加していたKさんのセミナーも行います。

いつもの減速してターンインするコーナーが2つだけのオーバルと違って、加速しながらステアリングを切るコーナーが加わるおむすび型のオーバル。クルマの動きを理論的に理解し合理的な走らせ方を知るためにも、みんさんの参加をお待ちしています。

・8月24日(土)開催 YRSトライオーバルスクールFSW開催案内と申込みフォームへのリンク



第804回 GPSLapsから見るコーナリング

先日のYRS筑波サーキットドライビングスクールの時にスタッフFのルーテシアⅢRSにGPSLapsとGPSレシーバーを取り付けて走行データをとってみた。
このアプリの良さは、タブレット上のコース図をなぞるとその地点その地点の速度と加速度の推移を見ることができるから、カーソルを動かすことにより操作がクルマの動きにどう反映されているか連続的かつ視覚的に確認できること。走行中に「突っ込み過ぎは損ですよ」、「ボトムスピードが落ちすぎですね」とラジオでアドバイスしてもイメージしにくいかも知れないけど、このアプリを活用すれば操作の結果クルマがどう動いていたかが明白になりそうだ。

そこでYRS筑波サーキットドライビングスクールの売りでもある1コーナーだけを使ってコーナリング速度の向上を狙ったイーブンスロットルとトレイルブレーキングの練習でデータを収集。今後のスクールの時に活用できないか理論的合理性を検証した。

・コーナーは直線よりも速度が低いからコーナーに入る前には減速が必要になる
・ターンインまでの減速に加えターンイン後は走行抵抗が増えるのでクルマはますます速度を低下させる
・減速量を少なめにしてより高い速度からターンインすることが理想だがターンイン後にアンダーステアやオーバーステアを誘発しては意味がない
・コーナーを早く抜けるのには早くスロットルを開けるのが理想だが、重いクルマは減速から加速へと瞬時には移らない
・コーナーを速く走るのにはコーナリングのボトムスピードを高く維持することが鍵になる
・コーナリングスピードを上げるためにはコーナリング中のクルマの前後輪のグリップバランスが均等であることが望ましい

高い速度からターンインした時にヨーモーメントが発生しやすいようにトレイルブレーキングを使い、コーナリング中に前後輪のスリップアングルが均等に近くなるようにイーブンスロットルの状態を維持する。ユイレーシングスクールのコーナリングのセオリー。

804-1
イーブンスロットル(ノーブレーキ)で
1、2コーナーを回った時のグラフ
 
グラフからはイーブンスロットルの効果が見てとれる
 
赤線が速度で青線が加減速Gで緑線が横G
コントロールライン付近が座標0
走行ラインの始点・終点がグラフの左端・右端と対応

804-2
1コーナーに全開でアプローチして減速
トレイルブレーキングを使ってターンインした時のグラフ
 
グラフからはトレイルブレーキングの効果が見てとれる
 
赤線が速度で青線が加減速Gで緑線が横G
コントロールライン付近が座標0
走行ラインの始点・終点がグラフの左端・右端と対応

 

スタッフないでは評判上々のGPSLapsだけど、スクール参加者の意見も聞いてみたいので、8月24日(土)に富士スピードウェイ駐車場で開催するYRSトライオーバルスクールFSWで走行データを収集し、教室に戻ってからモニターに出力して参加者と一緒に検証してみたいと思う。
いつもの減速してターンインするコーナーが2つだけのオーバルと違って、加速しながらステアリングを切るコーナーが加わるおむすび型のオーバル。クルマの動きを理論的に解釈し合理的な走らせ方を知るためにも、みんさんの参加をお待ちしています。

・8月24日(土)開催 YRSトライオーバルスクールFSW開催案内と申込みフォームへのリンク



第730回 コーナリング考察

クルマはコーナリングが苦手だ。直進状態から旋回に移る時に起きる荷重移動。それは直進方向の加速度をコントロールすることに集中できる加速や減速とは異なり、それらに加えてターンインの瞬間から横方向の加速度もコントロールする必要が生まれるからだ。しかもクルマは巨大な運動エネルギーを抱えて走っているからその向きを変えることは容易ではない。ターンインの速度が速くなると、かかる横Gの大きさは速度の上昇の二乗に比例して大きくなるからさらにやっかいだ。

ユイレーシングスクールがトランジッションにこだわるのは4輪を使ってできるだけ高い速度からターンインしたいから。コーナリングを始めたクルマは前輪の舵角が走行抵抗になって速度を殺がれる傾向にあるから、速く走ることが目的ならばターンイン時の速度はできるだけ高いほうがいい。しかしながら、高い速度でターンインをしても次の瞬間にアンダーステアを出したりオーバーステアに陥っては本末転倒だ。そこでターンイン時のクルマの姿勢=4本のタイヤにかかる荷重=タイヤのグリップをコントロールすることが重要になる。

次のふたつの動画は加速から減速、ターンインからコーナリングに移る加速度の変化をGセンサーで可視化したものだ。

最初の動画はトレイルブレーキングを使ってターンインをする時に、可能な限り前荷重にならないように。そしてコーナリング中に失速しないように明確なイーブンスロットルを心がけている。

次の動画はラップタイムの向上を狙ってスロットルオフを遅らせ強いブレーキをかけ、踏力を抜きながらターンインをした場合。走っていてアンダーステアは感じないものの、クルマの向きと運動エネルギーの方向が一致していない瞬間がある。つまり現象としてはアンダーステアの手前にあるのも事実。

速く走るためにはタイヤのグリップを有効に使う必要があるのは事実だとして、グリップの限界を維持するために摩擦円の円周をなぞることを目指すのがいいのかどうかは検証してみる必要がある。     【参考リンク】YRS教科書 37頁摩擦円回答

最初の動画はブレーキング後に極力前荷重を抜きターンイン時に前輪に負担がかかっていない状態を実現しようとしている。前後輪のグリップが均等な状態からターンインすることによって、ターンイン後はブレーキを引き摺っているにも関わらず減速Gは発生せず横Gだけが増えることになる。タイヤのグリップをコントロールする際に摩擦円の円周をなぞるのではなく、操作と操作の間に4本のタイヤに均等に荷重がかかっている状態を挟んでいるため、結果的に荷重は摩擦円の内側で十字型のように移動することになる。クルマの性能を引き出しやすいように、ユイレーシングスクールが進めているトランジッションを設ける=挙動と挙動の間でクルマをフラットにする、がこれに当たる。

次の画像は最初の動画に対応していて、横Gが立ち上がる瞬間にクルマが加速も減速もしていない状態にあることを示している。
730-1

 

下の3枚は2番目の動画からキャプチャーしたもの。ターンインのはるか手前で強く瞬間的なブレーキングを行い、直進状態にあるうちに踏力をゆるめる。
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ブレーキをリリーズするタイミングが遅れた結果、前荷重のままターンインすることになる。
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踏力を減らしているのに前輪の舵角が抵抗になって再度減速Gが増加。ステアリングを切るほどに横Gは増えるものの、グラフ上の白い丸が示しているように加速度=運動エネルギーの方向は斜め前に。摩擦円の円周をなぞってタイヤのグリップを確かめようとする時に見られる対角線上の荷重移動だ。
730-4

 

クルマは重いからヒョコヒョコとは動かない。減速に続いて加速をすることが速さにつながる保証はなく、減速と加速の間にコーナリングがあるのが普通で、コーナリング中は速度を維持するためにイーブンスロットルの状態=加速も減速もしない状態を高い速度で実現することが求められる。画像はコーナリング中に横Gを受けながらスロットルを小刻みに開けて前荷重になることを避けた瞬間。
730even

 
クルマにどういう荷重移動を起こさせるのが速さに結びつくのか。クルマによってもタイヤによっても運転手によっても正解はマチマチだろう。ただ、ユイレーシングスクールではまずクルマの高い性能を見極めるためにも、摩擦円の中で直線的に限界に近づくことができる十字型の荷重移動を練習してもらっている。それがタイヤのグリップ限界をさぐりやすくするからだ。速さを手に入れることができれば、速度が低ければそれだけ安全性が増すことになる。タイヤのグリップを探りながらクルマの限界特性を経験する。それがユイレーシングスクールがオーバルスクールを続けている理由だ。

 

ユイレーシングスクールではいわゆるミニサーキットでこれからサーキットを走る方にうってつけのドライビングスクールを開催します。イーブンスロットル、トレイルブレーキングの練習を徹底しクルマの性能を引き出すコツをお教えします。ワンボックスカーでなければどんなクルマでも参加できます。事前に資料をお送りしますしサーキットを走る際のアドバイスも豊富です。愛車でサーキットを走ってみませんか。

・6月22日(木)開催 YRS筑波サーキットドライビングスクール開催案内
・7月20日(木)開催 YRS富士スピードウエイドライビングスクール開催案内