トム ヨシダブログ


第104回 ホットハッチ考 3


エンジンが官能的でM3はいいクルマだった

クルマは動けばいいと思っているし、特にLAでの生活ではクルマはあくまで移動の道具。好きな人はスポーツカーを買ってマリブに走りにいったりするが、個人的には無目的にクルマをころがすのは好きではないから、もっぱらクルーキャブやサバーバンを足に使っていた。
ただ奥さんは乗用車がないのが不満だったので、アメリカではほんとうに貴重なE30型のM3も所有していた。日本でドライビングスクールを始めてからは子供の足になっていたが、そのうちにMTは面倒くさいという理由でクルマ好きにもらわれていってしまった。なんという親不孝。

M3はハッチバックではないけど、乗用車に乗るのならこういうクルマ以外は考えられない、という自分のポリシーに則って選んだ。
要するに、コンパクトで、交通の流れを安全にリードできる動力性能を備えていて、全ての操作に対してリニアに反応するクルマ以外には食指が動かないのだ。
ついでに言えば、E30以降のM3は自分の中ではM3ではない。もちろん世の中が変わっているのだから受け入れるのがふつうなのだろうけど、だんだんと大きくなってきたM3にはもはや触手が伸びることは絶対にない。


自分の目に狂いはなかった

2010年5月21日。その年2回目のエンジンドライビングレッスンにルノー・ルーテシアRSに乗ったIさんがやってきた。その日、日常ではほとんど縁のない所有欲が顔をのぞかせた。
実はその日まで、ルーテシアRSの存在を知らなかった。と言っても、ルノーのモデルだけではなくNA型とNB型のロードスターだってごちゃまぜにしてたし、ポルシェにいたっては何型だろうとGT3以外はポルシェ911と参加者名簿に記入してしまうぐらいのクルマ音痴だから他意はない。

が、この日はルーテシアRSを同乗走行する機会がなかったものの、かなり気になった。
「え、NAで200馬力」
「このルーバーってダミーじゃないの」
あちこちから見回すと、いかにも踏ん張りそうなタイヤの配置が気に入った。


足としての完成度は抜群

聞けば、近い将来、日本への輸入が途絶えるという。「じゃ急がなくちゃ」というわけで筑波サーキットから注文を入れてしまった。試乗もせずに。
結論から言うと、これが大当たり。自分の思想にピッタリ。昔から『狼の皮をかぶった羊のような』クルマがお気に入りだったけど、それを現代のクルマで達成できたことがすごく嬉しかったし、FRとFFの違いはあってもM3を走らせていた時のような気持ちの良さを感じることができた。


こんなシーンもあった

ルーテシアRSの購入を期に、ルノー・ジャポンのサイトでブログを書かせてもらうことになった。これにはおまけがあって、ルノー トゥィンゴGTを貸してくれるという。トゥィンゴGTの活躍は今までのブログに書いてきたが、この弟分も、低速トルクが少しばかり細いのとトラクションコントロールを解除できないのを除けば、個人的な要求を満たす立派なホットハッチだった。


トゥィンゴGTが収まる好きな景色


トゥィンゴRSを教材に

トゥィンゴGTの販売終了にともなってやってきたのがトゥィンゴ ゴルディーニ ルノー・スポール(以下トゥィンゴRS)。トゥィンゴGTより少しばかりこわもてでタイヤがさらに突っ張っているトゥィンゴRSは、その軽快さにおいて、自分の歳を考えなければルーテシアRSに劣らない現代版ホットハッチの雄だった。
その活躍もブログにつづったけど、とにかく乗っていて思わずにやけてしまうほど。


購入前にAさんから相談を受けた
もちろん、買わないと後悔しますよと勧めた


トゥィンゴRSは走りにこそ価値がある

これはずっと昔からのことなのだけど、クルマを運転する時には荷重の移動を強く意識している。荷重の移動がクルマの姿勢変化に大きく影響しするので、クルマの性能を引き出すのもスポイルするのもひとつに荷重移動のさせ方にあると思っているからだ。

目指すのは、いかなる場合もトレッドとホイールベースが作り出す長方形の範囲に移動を続ける重心をとどめておくことだ。クルマに求めるのもこの1点。間違った操作をしていないのに、重心が長方形からはみでようとするクルマは好きになれない。どこかで、いずれbeyond controlになる。
クルマを走らせる時。いつもトランジッションで重心がホイールベースの中心に位置するように、「タメ」を作ることにしている。そうすることで、次の操作に移る前に4本のタイヤを均等に地面に貼り付けておけるし、タイヤが路面をとらえている状況がわかりやすいから操作の過不足を回避できる。

ルノーの3台は、決してお世辞ではなく、自分が目指す運転に完璧に応えてくれる性格の持ち主で、まぎれもないホットハッチだった。


ルノーの足を受け継ぐカングー

代車に借りたカングーは、ホットハッチではないけどルノーの思想を垣間見ることができた貴重な足の持ち主だった。
以前にも書いたと思うが、ホットハッチ3台と同様にノーズダイブの際の振る舞いがいい。多分リアサスペンションの伸び側に秘密があるのだろうが、荷重が前に移動する時に長方形の前端を超えるような動きを一切見せない。背の高いクルマとしては、実にしつけが行き届いている。

だから、ルノーがそばに来てからの3年半でますます運転がうまくなった、と実感できるのがとても嬉しい。

ホットハッチ考 続く


第103回 ホットハッチ考 2

GD1フィットをそう呼ぶのには異論があるだろうが、1.3リッターSOHCエンジンにCVTの動力性能であっても自分にとってはまぎれもないホットハッチだった。
移動の道具として、機材を運ぶ手段として、現在の日本の交通事情を考えて、なおかつ燃費とか税金とかを含めた効率を考慮に入れればクルマとして十分な価値を備えていた。しかも、9万キロ余りドライビングスクールを支えてくれたのだからお互いに良い出会いだったと思う。


最後に撮った写真 タイヤは14インチのスタッドレス

そんなGD1フィットなのだが、最初に乗った時には少しばかり戸惑ったことがある。減速中に停止寸前の速度になると、フットブレーキ以上の減速度が立ち上がるのだ。CVTの構造からしておおよその想像はついたが、どう踏力を変えてもその性癖は治まらなかった。
技術的に確かめたわけではないのだが、おそらくある一定の速度まで減速するとドライブ側のプーリー径が機械的(電気的?)に小さくなる設定なのだろう。それで、車速に忠実なドリブン側のプーリーの回転に抵抗が生じて急激なエンジンブレーキがかかったような速度の落ち方をしたのだろう。特に減速の直前までしっかり加速をしていた時にその傾向が強かった。

そんなCVTだったが、非力な1.3リッターエンジンを補う活躍をしてくれたのも事実。これがGD1フィットをホットハッチだらしめた大きな理由でもある。
CVTとしては初期のデザインに属するのだろう、急加速が必要な時にスロットルを開けてもエンジン回転が上がるだけで車速が伸びない。スロットルを開けても、まるで駆動力が必要だと判断されたかのようにドライブ側のプーリーが小さくなる、当然ギア比(?)が大きいままなので加速しない、そんな感じだ。
そこで一計を案じた。急加速が必要な場合にはローレンジにダウンシフトする。当然エンジン回転はそれ相応に上昇する。それを待って、少しばかりスロットルを開ける。開け続けても車速は伸びないので、ある程度開けたところで止める。セレクタをドライブレンジに戻してから、今度はスロットルをゆっくり少しずつ戻す。すると、GD1フィットは2クラス上のセダン並みの加速をしてみせる。

ストットルを開けてもドリブン側のプーリーが小さくならないようなので、エンジン回転を下げることでドライブ側のプーリーが大きくならないかなと考えたのだ。

そんな使い方が正しいのかどうかわからないが、時たまそんな使い方をしながらもエアコンのコンプレッサー以外に不具合もなく走り回ってくれた。

なにしろ全くのノーマルで乗り続けていたのだが、重い機材を乗せて走っていると踏ん張りが足りないと思っていた。それで、純正のタイヤの溝が少なくなってきたのを期に、タイヤとホイールを換えることにした。
ホイールは純正の5.5Jx14のスチールから6.0Jx13のアルミホイールに。オフセットは15mm小さくした。タイヤは純正の175/65R14からごくふつうのBSスニーカーの185/60R13に換えた。

これが大当たり。踏ん張りがきくようになり、ごくわずかな舵角でも前輪にかかる応力が診てとれるようになった。もっとも、ハイトが高くなった分だけほんの少しだけ応答性は悪くなったが、そこはそれ、操作の開始を手前にもってくることでなんなく修正した。
コーナーの続く道ではサスペンションに手を入れたロードスターになんなくついていけたほどにロードホールディングが高まり、タイヤ幅の増加に合わせて空気圧を5%ほど高めていたから、燃費はついぞ16キロを割ることはなかった。

結局、オイル交換以外はエアコンのガスを1度、ブレーキパッドとブレーキシューを1度交換しただけ。タイヤとホイール以外はショールームストックの状態での9万キロだから、クルマの使い方としてはそれほど悪くはなかったかなぁ、と思っている。

ホットハッチ考 続く


第102回 ホットハッチ考 1

日本でドライビングスクールを開校してからというもの、スクールのたびにパイロンや計測器を運ぶのにクルマはなくてはならない存在で、2010年秋にルノー・ジャポンからトゥィンゴGTをお借りするまではGD1フィットがその足だった。
とにかく、一時は年間50回以上のドライビングスクールやスクールレースを開催していたから、それこそ八面六臂の大活躍。

動力性能は1.3リッターなりのものだったが、車格以上に働いてくれたし、使い倒したことでYRSフィットの価値はすごく高まった(と思ってる)。

しかし2003年2月に初年度登録の彼は、寄る年波には勝てずオドメーターが9万キロを超えるあたりから衰えが目立つようになってきた。それで、足腰はしっかりしていたのでもっと活躍してほしかったのだが、大病を患う前に一線から退いてもらうことにした。

次にやってきたのがGK5フィット。印象とインプレッションは次回に譲るとして、慣らしもそこそこにYRS鈴鹿サーキットドライビングスクールの時に先導車として連れ出した。その時の動画がこれ。

ホットハッチ考 続く