トム ヨシダブログ


第735回 Nさんの場合

Nさんは2007年2月のYRS筑波サーキットドライビングスクールにRX-8に乗って初めて参加してくれた。ご自身がロードスターのパーティレースの常連でもあったたから頻繁に通ってくれていたわけではない。それでも2018年7月までエンジンドライビングレッスンを含めていろいろなスクールに合わせて20回参加してくれた。けれど、そのれきり顔を見なくなった。
ところが昨年7月。エンジン編集部から送られてきたアルピーヌ・ドライビングレッスンの参加者名簿にNさんの名前を見つけた。車両欄にはアルピーヌA110リネージとあった。「あ、やっぱり走り屋の虫がうずいたのね!」と。

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つい最近
A110リネージュからA110Sに乗り換えたNさん
慣らしもそこそこにYDOに駆けつけてくれた
 
そこで例によってNさんにも感想文をお願いした

 

久しぶりにYRSのレッスンに戻ってきました。私にとってトムさんのレッスンは、運転練習の始まりでもありますが、運転に行き詰ったときに振り返る場所という意味で「ふるさと」のようなところです。

今回は新しい車両であることと、サーキット走行も含めて1年以上まともに走っていませんでしたので、あらためて、身体と頭の記憶を呼び起こすことを目的に参加を決めました。
また、今回のレッスンでは、Gセンサーを搭載したデータロガーで、運転の可視化ができるという内容が含まれていました。今まで感覚として捉えていた運転について、どこまでできるのか、またできていないのかを自分の目で見れること、さらにそのデータから、トムさんにしっかり怒られてみようという、密かな期待(?)も参加した理由です。

実は今回まだ慣らし中の車でしたので、FSWに到着するまでは全開走行をどうするか躊躇っていましたが、午前中の最初に行われた加速してフルブレーキングのレッスンから、慣らしのことなどすっかり忘れて全開走行となりました。
さらに、初めての車で初めての全開・フルブレーキングは、身体の目覚ましにはうってつけのレッスンで、ABSの掛かり方や、パドルシフトの使い方を知ることができましたし、そもそも「車の運転ってどうやるんだっけ?」ということ自体を頭から引っ張り出すことにもなりました。

その後は、
・定速(70キロ)からのブレーキング(同乗あり)
・スラローム練習
・イーブンスロットル
・トレイルブレーキング(同乗あり)
と、途中から雨が降り続き、靄もかかる中、一日中レッスンを楽しみました。

今回のレッスンの収穫として、ブランクがあったからこそ気づいた点がいくつもありました。
一つ目は、「運転は上手くいかないことの方が多い」ということです。
トムさん曰く「だから誤魔化す方法を考える」とのことですが、上手く操作しようとせず、トライ&エラーを繰り返しながら引き出しの数を増やしていくことの重要性を再認識しました。スロットルオフのポイント、ブレーキングポイントやターンインポイントをここと決めてかかると、ポイントがズレてしまうことがある。早めに操作を開始して、クルマの動きに合わせて修正、修正を繰り返すことで理論的な正に近づけることができるという意味でした。

二つ目は、「オーバルのレッスンはサーキットに通ず」です。
私は15年以上レースに参戦していましたが、オーバル練習とサーキットのラップタイム向上にどのような関係性があるのか、今一つ掴み切れていなかったことに気づきました。オーバル練習を行う際、私にはどうしても前の車を追いかけてしまう悪癖?があり、速く走ろうとするあまり、結局遅くなるという悪循環に陥ることがよくあります。
今回はトムさんに何度か同乗していただき、コーナー入口、中、出口での走らせ方の違いを肌で感じ、素人が速く走らせる(=車を前に進める)には、オーバル練習がいかに大事かということを思い知りました。

三つ目は、「やっぱり運転は面白い」です。
トムさんの同乗走行で思ったことですが、操作の仕方次第で、車の動きが大きく変わることで、車が生き生きとしていることに今更ながら驚きました。以前のレッスンでトムさんから「車は公転しながら自転している」と言われたことがありますが、車は宙に浮いている訳ではないので、そこに摩擦が加わります。地面とはタイヤでしか接していない訳ですから、いかに車の性能を最大限利用しつつタイヤの能力を発揮させるかが大事になると思います。勿論そのキモは腕次第なわけですが、残念ながらすぐには「正しく操作できない」ことが、逆に運転の楽しみを増やし、面白味に繋がっていることを興味深く感じました。

このようなことで、久しぶりのレッスンは得るものばかりで、少々お高いレッスン代の元は取ったと思っています(^^♪
後から送っていただいたオーバルの走行ビデオもとても参考になりました。

今度は今回の復習と、更なる引き出し増産のため、あまりブランクを空けることなく参加したいと思います。今後とも、宜しくお願い致します。

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メガーヌRSトロフィーのリードカーに続いて
ブレーキ練習の完熟走行

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1組目のコーンと2組目のコーンの間は30m
この間で踏力を永遠に増やし続ける
前輪のタイヤをひしゃげさせるように
前輪にどんどんどんどん荷重をかけ続ける
 
クルマ固有の制動性能を上回る減速Gを立ち上げるのが目的
これをブレーキング区間の半分までに終える

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写真のピンが甘いけど
NさんのA110がこれでもかっていうほど
ノーズダイブしているのがわかる
 
前車軸ではなく
後車軸を中心にノーズダイブしているから
上昇した前輪のグリップと相まってABSは介入しない

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加速からのブレーキ
定速からのブレーキ
イーブンスロットルでのオーバル走行
トレイルブレーキを使ったオーバル走行
 
各パートを走り終えるたびに教室へ
モニターにiPhoneのデータを再生して
参加者全員で全員の操作の見直し

 

Nさん また走りに来て下さい。待ってます。



第734回 MさんとGセンサ

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先日のYRSドライビングワークアウトFSWアドバンストコーチング
iPhoneのGセンサーアプリで収集した参加者のデータを
解説を交えながらモニターで再生
巻き戻したり進めたり
モニターを食い入るように見つめる面々

 

最近Gセンサーでデータを取ることが多い。プラスマイナスの加速度と横向き加速度の変化を連続的に見ることができるので、具体的にどのような操作をしているか確認できる。もっとも検証するのに時間がかかるから走行時間が削られるという負の面もあるけれど、自身の操作を俯瞰する癖をつけるのにはうってつけ。

今回は加速性能に優れるクルマで参加したMさんのデータからどのような操作をしているか想像してみたい。当日は雨。滑りやすい路面でタイヤのグリップを有効に使う方法を探ります。
最初の動画は全開加速からトランジッションを意識したフルブレーキング。次の動画は半径22m直線160m幅員14mのYRSオーバルスクールFSWロンガーをトレイルブレーキングを使って全開で走行した時のモノ。

画面に現れる白い丸が運動エネルギーの方向を示しています。バーグラフの増減と白い丸の動きを追うと、操作がクルマにどのような荷重移動を引き起こしているかがよくわかります。結果としてタイヤのグリップに余裕を残した操作を想像することができます。

 

タイヤのグリップを使い切るには摩擦円の円周をなぞればいい、という話もあるようですが、ダイナミックな摩擦円自体が真円ではありませんし、円周をなぞること自体が対角線の荷重移動を伴うことでもあるのでユイレーシングスクールとしては否定的です。

その代わり、とりあえずクルマの高い性能を味わうことを目的に操作を重ねない運転を勧めています。加速、減速、旋回のそれぞれを単機能で扱い、次の操作に移る前にいったんクルマをフラットな状態にします。言ってみれば円周をなぞるのではなく、摩擦円の縦軸横軸の限界に達するように操作し、次の操作に移る前に原点に戻る。イメージ的には荷重を十文字に動かす、とでも言いましょうか。とりわけ、今のタイヤのグリップの高さとクルマの自己収れん性の高さからすれば、運転の上達には欠かせないアプローチだとユイレーシングスクールは考えています。



第697回 YRSドライビングワークアウト

ユイレーシングスクールとしての新しいカリキュラムを実施した。題してYRSドライビングワークアウト・アドバンストコーチング。

この12月で23年目の活動を終えるユイレーシングスクール。過去の経験を踏まえて一歩も二歩も進んだカリキュラムを模索してきた。もっとこちらが意図することを効率良く正確に伝える手立てを探していたのだけれど、スタッフYが見つけてきたGセンサーを手にして腹が決まった。これがあればアドバイスを口頭だけでなく受講者の視覚にも訴えることができるだろうと、「あなたの運転を科学します」を副題にしアドバンストコーチングの名(Yが名付け親)を付した。

コミュニケーションの時間を十分に取りたいから定員を12名にしぼった。その分受講料が高くなってしまったので果たして申し込みがあるか不安ではあったけど、結果的には8名の申込みがあった。

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この日集まったのは8名8台
さまざまなクルマが富士山の元に

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いつもの座学はそこそこに
まず運転の基本
正確な操作の源である
ドライビングポジションの話と
検証の仕方の説明

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スタッフYのクルマを借りて定員乗車でデモ
クルマの動きに身体が翻弄されてないか確認してもらう
 
お尻の後ろに空間を作らないように奥深く座って
膝を開いて下っ腹に力を入れて顎を引いて
そして・・・

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「こんなこと考えたことがなかった」とは同乗した人の声
 
これは好評だった
参加した人はクルマと一体になって
クルマと同じ速度でロールし
クルマと同じ量だけロールすることを覚えたはずだ
ステアリングワークの正確さが増したはずだ

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ドライビングポジションの方向性が見えてきたところで
教室に戻り
 
ブレーキング練習のために
ブレーキングのXと〇を録画した
YRSオリジナルビデオを見てもらって
イメージ作りを

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聞いてみると
 
Xと〇違いはわかるけど
実際にどういう操作をしたらいいかとつながらない
 
という声が

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なので
スタッドレスタイヤを履いているスタッフYのクルマを借りて
 
タイヤのグリップが低い分
クルマの挙動がよくわかるから

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いいブレーキと悪いブレーキを実際に見てもらう
 
今やった操作はこうなので×
今度は〇の操作をします
クルマの姿勢変化を見ていて下さい
リアが伸びずにフロントが沈みます

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今回
とりつけ方はまだ試行中だけど
とりあえず動かないように
Gセンサーを水平方向に固定

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参加者全員にできるだけ短い距離で減速する
できるだけ大きな減速Gを発生させるをテーマに
ブレーキングしてもらう
 
だから
ABSがついていないクルマだと
たまにはこんなシーンも

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67年製のクルマもABSはなし
それでもスレッショルドブレーキングができないわけではない
 
タイヤロックするとわずかにリアが流れる
オーナーはリアブレーキが片効きなのをご存知だった

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全員のブレーキングでのマイナス加速度の測定が終わり
教室へ戻ってモニターに
 
このグラフの伸び方はこうだよ
グラフの本数が急に増えているよね
ということは・・・と説明

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コースに戻りドライビングポジションの確認を兼ねてスラローム
 
ステアリングを切り返し続けるとロードホールディングは低下する
ステアリングを戻して戻した分だけ加速して
スロットルを閉じてステアリングを切れば
スラローム区間全体の通過速度を上げることができる

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ドライビングポジション、ブレーキング、スラロームで基本を押さえたから
舞台を半径22m直線160mのYRSオーバルFSWロンガーに
 
最初にリードフォローで
インベタのラインとアウトインアウトのラインを
徐々にペースを上げながら

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リードフォローのコツは
何も考えずに前のクルマの真似をすること
車間距離はもっと近いほうがいい
 
前のクルマのリアウインドウを通して
その前を見て運転する

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YRSオーバルFSWロンガーを走り込んだところで
再度Gセンサーを取り付けて測定し教室に持ち帰り
全参加者の縦Gと横Gの立ち上がり方を検証してアドバイス
 
こうなっているということは・・・
これは・・・しているから
これはいいねできている

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スロットルブレーキステアリングの操作で
クルマの向きと運動エネルギーの方向を一致させているか
対角線の荷重移動が起きていないか
確認したところで体力測定
 
ルーテシアⅢRSのOさんが光電管を切ります

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100分の1まで計測し
コントロールラインを通過するごとに
ラジオでラップタイムを伝えます
周回ごとにタイムが縮まれば〇
 
メガーヌⅢRSのSさんが光電管を切ります

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Oさんは5、6、7、11月のYRSオーバルFSW
今回のYRSドライビングワークアウトFSW
そして翌日のYRSオーバルスクールFSWロンガーにも参加
 
Oさん来年も遊びに来て下さい

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Sさんは
4月のYRSオーバルスクールFSWとYRSドライビングワークショップ連荘
9月のYRSオーバルレースとYRSオーバルスクールFSW連荘
10月のYRSツーデースクールFSW
今回のYRSドライビングワークアウトFSW
そして翌日のYRSオーバルスクールFSWロンガーにも参加
 
Sさん来年も楽しみにきて下さい

 

参考のために参加した方に感想を聞いた。初めて開催したYRSドライビングワークアウト・アドバンストコーチングがどのように受け入れられたか、寄せられた感想文から抜粋してお届けする。

Mさん:今回のレッスンは大変良かったです。
自分のイメージしていた走り方がどのようにデータとして表現されるのか期待して参加しましたが、想像通りでした。やはりイメージとデータには違いがありました。
つまり車を上手く乗りこなしていないことが分かった訳です。今までのレッスンではトムさんによる言葉でのアドバイスのみでしたので、例えば、「タメを作る」とかのアドバイスでもトムさんの意図するタメと私が理解するタメは同じ言葉でも違うことが分かったりします。データの見てコメント頂いたときに気づきました。そうすると恐らくトムさんの言葉でのアドバイスを頂いただけでは、認識違いのままになってしまうケースも多々ありそうです。このあたりが今回の収穫でした。

Wさん:良かった点
・自分の運転操作をGセンサーの画面を通じて客観的に確認することができた
→たまたまかもしれませんが、いつも座学で説明されている事が自分なりにできていることがわかって少し安心しました。
→GoPro等で撮影した車載動画と組み合わせて確認できると更に面白いかなと思いました。
・台数が少ないため、指導の密度が濃かった。

Wさん:
Gセンサーによる可視化は、
・自分の走り方を知れた点(減速Gと横Gが同時にかかっている等、言い訳できない事実が突きつけられる)、
・Gセンサーを想像することで自分の操作による車の動き(正しく走れているか?)がイメージし易くなった点

Oさん:
スマホアプリによる簡易計測とはいえ、運転を可視化するには十分でした。蹴飛ばしブレーキの方が止まらないのは体験として持っていますが、数値で比較すると納得感ありますね。みなさんの運転と対比することで、何が違うのかではなく、どの程度違うのか。度合いを測れたことが、今回の肝であり、価値なのだと思います。

誤解のないように付け加えますが、MさんもWさんもWさんもOさんも速さから見ればかなり高いレベルにあります。ボクはまだ伸びしろがあると思うのでスクールで褒めることはありませんが、一般的にはスゴイね、となるはずです。ですが参加された方全員がもっとうまくなりたいと思っている点は共通していて、YRSドライビングワークアウトFSWアドバンストコーチングを始めて良かったと思っています。進行上の課題の対策をして、次回は来年4月に開催予定です。