トム ヨシダブログ

第328回 スリップアングル

クルマが旋回運動を始めると弾性体であるタイヤは遠心力を受けてよじれる。よじれるとタイヤの接地面ではズレが生じる。ズレが生じることでタイヤはグリップを発生するのだけれど、その結果タイヤが回転しながら進む方向は、実はタイヤが向いている方向と一致せずにその外側に軌跡を描くことになる。この差をスリップアングルと言う。クルマの操縦性を語る時に非常に重要な要素だ。

328-1


スクールでこんな話をする。

片側2車線で右折車線のある交差点。右折車線から対面交通の隙間をぬってUターンしようとしたクルマ。しかし1回で回りきれずに停止。切り替えしてUターンしたものの運転というものがわかっていないことを露呈してしまった、という話。

なぜ1回でUターンすることができなかったのか。その原因を考える。

対向車が来る前にUターンしてしまおうと思ったご仁はステアリングを切りながら加速した。過重は後方に移動し前輪の荷重が減少。車輪にかかる荷重こそグリップの源だというのにそれが抜けたのだから、前輪のグリップが減った状態でステアリングを回したことになる。グリップが減少しているのだからいくら大きな舵角を与えたとしても、フロントが逃げクルマの向きは変わらない。

こんなことが実は起きていた。その時、4本のタイヤの接地面を見ることができれば、前輪のスリップアングルがとてつもなく大きく、後輪のそれは無に等しかったはずだ。それではクルマが向きを変えるわけがない。アンダーステアとも言う。そんな状況をこのご仁は知る由もない。

スクールではどうすればUターンが成功したかを説明する。1発でUターンを成し遂げるためには、右折車線で直線的に加速しスロットルを閉じるか、あるいは軽くブレーキングをしながらステアリングを切り始めなければならない。要するに回頭性がよくなければUターンはかなわないのだから、理論的には前輪よりも後輪のスリップアングルが大きければ回頭性がよくなるのだから、必然的に前輪のグリップを高め後輪のグリップを弱めるために前過重でステアリングを切らなければならない。結果としてフロントが逃げないから前輪ののスリップアングル < 後輪のスリップアングルの状態を維持できる。だから回頭性が高まり小回りできることになる。

328-2


深夜の交差点でちょっとオーバースピードで飛び込んだ時。アウト側前輪に荷重が集中する前にクルマが旋回運動を開始した。

湖西道路から自宅へ続く道にある左の鋭角コーナーで、いつものように左手で迎えにいってステアリングを切る。「あれぇ、変だな。切っている途中で戻し始めないとならないね。ルーテシアRSだと切った後にホールドしている時間があったのにねぇ」。

もっといろいろな場面で確かめないたい気が湧いてきたところで。理論的には、前輪にしか操舵装置のついていないクルマはの旋回中心は、後車軸の延長線と舵角のついた前輪に対する垂直線の交点だからあくまでも後ろより。常にホイールベースの長さ分だけ後輪が前輪を追いかける図式になる。だからアンダーステアから逃れることができないし内輪差も生じる。人間がなんとかしないと前輪のスリップアングル > 後輪のスリップアングルという呪縛がつきまとう。

前輪にある条件で舵角が与えられた場合、間髪を入れずに後輪にも舵角がつく4コントロールでは、クルマの旋回中心が前後タイヤに対する垂直線の交点になるから、言ってみればホイールベースの中心付近のどこかを軸にクルマが円運動をすることになる。だから前輪だけ操舵のクルマに比べて少ない舵角でコーナリングができるし、アンダーステアが出やすい状況でもそれを抑制することが可能になる。これが逆位相の効果のひとつだ。

対向車の直前でUターンをするなど品のないことをしてはいけないけど、例のご仁も新型メガーヌRSに乗っていたら1発でUターンが成功したかも知れない。


【追記】 個人的な話ですが、4コントロールの効用が少しずつわかってきました。しかしながら4コントロールに頼り積極的に利用して走ろうとはしないほうがいいと思います。ユイレーシングスクールは4コントロールの恩恵にあずかれるのは、クルマをきちんと動かせる技術があってのことだと思っています。新型メガーヌRSのオーナーの方はクルマとの対話を進めるためにぜひユイレーシングスクールに遊びにきて下さい。



Comments are closed.