加齢に伴う身体機能や認知機能の低下によって運転操作を誤りやすくなり、交通事故を起こしてしまう可能性が高くなるので高齢者は自主的に免許証を返納しましょうという空気が蔓延しているように思う。いくつかの調査機関のデータを見るとおおむね返納には賛成で、あちこちのデータを見ると8割弱の人が将来的に返納しようと考えているようだ。
しかし、免許証の返納と言っても住んでいる地域によってクルマの運転に依存する度合いは大きく異なるし、まして運転技術のレベルは年齢によらず人によってまちまちだし、ひとくくりにして高齢になったら返納しろと言うのは少し乱暴だろう。
で、自分だったらどうするか考えてみた。結局、言葉は少々きたないかが 「 くたばる前の日まで運転していたい 」 から返納はしないという結論になるのだけど、そんな気持ちを後押ししてくれるような文章に出会った。
精神科医の和田秀樹さんが書かれた『老人入門』に掲載されている『免許は返納しなくていい』の講だ。1部引用(太字部分)させてもらって紹介したい。
まして地方に住んでいて、週に1度の買い物や通院に車を使っているような人は、免許返納をしてはいけません。不便になるだけでなく、生活の自由度が大きく低下して、老いを一気に加速させる可能性があるからです。
そしていちばん見逃してならないのは、免許を返納することで高齢者が要介護になるリスクが高まるということです。筑波大などの研究チームは、運転をやめた高齢者は運転を続けた高齢者に比べて6年後には要介護と認定される人が約2.2倍になるという調査結果をまとめています。
言うまでもなく、運転ができなくなることで家に閉じこもりがちの生活になり、運動機能も脳機能も衰えてしまったからです。自発的な免許返納は良識的な判断のように思われがちですが、実際には老いを加速させ、生きる楽しみを高齢者から奪ってしまうことにしかならないのです。
たかが運転ぐらいでと思うかもしれませんが、それくらい高齢者は危ういバランスを保ちながら生活しています。
運転をやめることで外出の機会が減り、人と会ったり話したりすることも減ると、活動量もどんどん減ってしまいます。とくに外出の手段が限られる地方に暮らす高齢者ほど、車の運転をやめてはいけません。たったそれだけのことでも、維持できるさまざまな機能や楽しみや意欲があります。免許返納は、それをすべて自分から手放すことになりかねないのです。
個人的なことになるけど、ボクはクルマの運転を自分が自立する手段だと思っている。自家用車以外の交通機関では陸海空を問わずその道の資格を持った人が運転する。いわば移動は人任せでかまわない。しかしクルマは誰にも頼らずに、運転中の出来事の全責任を負いながら、誰も助けてくれない状況で運転する。ボク自身の場合は日常生活とは違った緊張感を持ってステアリングホイールを握っている。自分がそういう自覚のもとに運転ができる限り、ボクは、人に頼らず生活を続けられると思っている。
ボクはこう思う。高齢者になって事故を起こす可能性が高くなる人は、もともと潜在的に事故を起こしかねないような運転をしていたのではないかと。スクールでも言う。クルマは機械だけど家電とは違う。使うにはそれなりの知識と覚悟が必要だと。
クルマが発達し運転が特別なことではなくなり操作自体も簡単になったけれど、手軽になったことを気軽に運転できるとはき違えてはならない。実際、運転に真剣味が足りない人もいるだろう。でも、だからこそ、年齢を問わず、クルマを運転する人全員がもっと一生懸命運転すれば事故が減る可能性はある。まずは運転に興味を持つことだと思う。次に運転を楽しむことだと思う。クルマを単なる移動の道具にしておくのはもったいない。考えようによっては自分の人生を拡大してくれる相棒になりうるのだから。
昨年暮れの調査で免許証返納義務化に反対する人が23.9%いたらしい。それぞれが反対した動機は定かではないけれど、その人達はいつも覚悟を持って運転しているから返すことに抵抗があるのではないだろうか。
現状を認識するために改めて年齢層別に交通事故の数字をまとめてみた。左の表が交通事故件数で右が死に至った交通事故件数でともに令和3年度の数字だ。
事故発生件数から見れば決して高齢者の事故が多いわけではない。参考のために全人口に占める年齢別構成比と交通事故総件数に占める事故件数を調べてみた。30~59歳が人口の38.9%を占め交通事故の48.1%を起こしている。一方60~89歳は人口の32.8%で起こした事故は30.8%だ。
ただ、表からはいったん事故が起きた場合に亡くなる人の数は圧倒的に高齢者が多いのが読み取れる。重大事故に至る例が多いのだろう。高齢者の安全を考えるなら免許返納を促す流れは間違いではないかも知れないが、返納すれば片付く問題でもないだろう。運転の仕方によっては事故を防げる。免許証返納問題を機に、免許保有者の多くが運転を見直す風潮が生まれるといいのだが。
※数字は公益財団法人 交通事故総合分析センター発行の交通統計令和3年版より引用した