第836回 交通人
正直、これは見たくなかったなぁ。
ある日の都内の幹線道路。遠くからサイレンの音が聞こえてきた。やがて流れるクルマの列の向こうに消防車の赤色灯が見えてきた。消防車はクルマをかき分けながら歩みを早めたり遅めたり。
それでもようやく幹線道路が交わる交差点に近づいた時のこと。消防車が突然止まってしまった。赤色灯は赤く回っているけどサイレンは沈黙した。何が起きたいのかと振り返ると、停止している観光バスがじゃまになって消防車が前に進めない。まるで観光バスと消防車がにらみ合っているかのよう。
現場は2車線の交互通行。パナソニックの看板のあるあたりから中央分離帯が始まりやがて右折車線が加わる。観光バスが停まっているのは右折車線が始まる手前のところ。写真からわかるように観光バスと歩道の間が空いているから左に寄れるはずだ。前方にも前に進んで左に寄るスペースは十分にある。それなのに観光バスは微動だにしない。遠目に運転手がじっと前を見据えているのがわかる。動く気配もない。消防車に勝手に迂回していけと言わんばかりに。看板もしょっているのに観光バスの運転手は何を考えているのだ、と毒づきたくもなる。
なんとか観光バスの横をすり抜けた消防車は、次は2車線/3車線の交差点に入ってから停まっているトラックを右から大回りして左折しなければならなかった。トラックの運転手、キョロキョロあたりを見合しているけど何かできることはないかと考えないのだろうか。片側3車線の交差点内で2車線をまたいでふさいでいるというのに動く気配がなかった。
緊急車両に対して進路を譲らない人は一定数いるけど、なぜ譲らないのだろうか。自分は関係ないと思っているのだろうか。譲る必要はないと考えているのだろうか。譲る方法がわからないのか。この消防車は、ひょっとすると知人の家の消火に向かっているのではないかと想像することはできないのだろうか。
仮に、こじつけ気味だけど自動車にしろバイクにしろ運転を生業にしている人を交通人と呼ぶなら、交通人たるもの交通の安全かつ円滑な流れに積極的に関わろうとする明確な意思が必要だと思う。青臭いことを言うようだけど。
ボク自身が優れた交通人かどうかは置いておいて、クルマの運転で恩恵を被っている人間として交通の流れを乱さないように最大の努力はしているつもりだし、この点で人後に落ちることはないと思っている。
後日、大津の郊外の見通しの良い片側1車線の道を走っていると遠くから赤色灯を回転させながら救急車がやってきた。ルームミラーを見ると後続車はいない。救急車との距離があるうちにハザードランプを点けてできるだけ左に寄ってウルティムを停めた。やがてやってきた救急車が横を通過する時に、短く『プッ!』と鳴らすもんだからこちらも無条件に反応して間髪を入れずに『パッ!』。慣れとは恐ろしい。ハザードランプを消してクルマをスタートさせながら、救急車もこういうことをやってくれるのかと嬉しくなって思わずニヤリ。同時に『あれっ! 救急車だよな!』。
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