トム ヨシダブログ

第6回 道具を使う

  『包丁という道具があります。モノを切るための道具です。道具としては、包丁を持った人間が直接モノにあてて切るという、極めて単純かつ原始的な機能を備えています。ですがこの包丁にも、これからお話するクルマの運転同様に、理にかなった使い方があります。』
  ドライビングスクールの座学で、そんな話をすることがある。


   
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ほう‐ちょう〔ハウチヤウ〕【包丁/×庖丁】
1 料理に使用する刃物。出刃(でば)包丁・刺身(さしみ)包丁・薄刃包丁などがある。包丁刀。
2 一般に薄刃の刃物の称。畳包丁・紙切り包丁・裁縫用の裁ち包丁など。
3 料理をすること。料理。割烹(かっぽう)。「―始め」
「折ふし御坊は、見事なる鯉を―して御座ある」〈咄・きのふはけふ・上〉
[出典:デジタル大辞泉]
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  さて。みなさんは包丁をどのようにして使うだろうか。包丁を引くか、押すか。どちらかに動かしながら切るのではないだろうか。お刺身のような柔らかいモノを切る時には、ゆっくりと引きながら切るのではないだろうか。
  上から下に切り下ろすよりも、引くか押すか、包丁を動かしながら切る方が切りやすい。経験的にそうしているのかも知れないし、そうすることを誰かに教わったのかも知れない。板前さんの真似をしているのかも知れないが、包丁の使い方としては、それが正解だ。
 
  ところが、なぜそうすると切りやすいのか、その理由を知っている人は意外に少ない。そうすることに疑問を抱いている人はもっと少ない。それは、包丁を使うことが我々の日常の中でごく当たり前の行為になっているからに他ならない。なぜそうするのか理屈を知らなくてもとりあえず包丁を使うことはできるし、知る必要はないと言えなくもない。

  しかし一方で、包丁を動かしながら切ると切りやすい理由を知っていれば、どんな場合でも間違った使い方をしなくてすむのではないか。包丁に対する興味が増すかも知れない。包丁を使うことがもっと楽しくなるかも知れない。包丁の使い方をもっと研究したくなるかも知れない。
 
  という訳で、高校の時に先生に聞いたことの受け売りではあるが、包丁を動かしながら切ると切りやすい理由。
  『包丁を動かしながら切る。つまりモノに対して真下に切り下ろすのではなく、モノに対して包丁が斜めに入るように切ることによって、包丁の刃の厚みを薄くしている』のだ。
  もちろん包丁の刃が現実に薄くなるわけではない。が、動かすことによって実際にモノを切る刃の角度を小さくすることはできる。

 包丁の刃を模した三角柱。実際には刃と直角をなすのが刃の厚みだが、同じ刃でも斜めに計れば角度は小さくなる。

 
  モノを切るにはカミソリのようにごく薄い刃のほうが切りやすい。モノの形も崩れにくい。しかし、包丁がカミソリのようであったならば、刃こぼれをするかも知れないし、耐久性も期待できない。そこで、刃が薄くはない包丁を動かすことで、「人為的に刃の薄い包丁でモノを切っている」、これが包丁を動かす理由にあたる。


 
 時間に余裕のある人は実際に体験してみてほしい。
  りんごを8等分する。くし型になったひとかけらが45度の刃をした包丁だと考える。モノに対して真っ直ぐに切り下ろした場合を想定して、りんごの切れ目に直角に切ってみてほしい。どうだろう。断面は変わらず45度をしているはずだ。
  今度は切れ目に対してできるだけ平行に近くなるように切り、その断面を見てほしい。どうだろう。先ほどより角度が小さくなっているずだ。切れ目に対して浅い角度で切れば切るほど、断面が表す「包丁の刃の厚み」も薄くなる。

  おわかりだろう。なぜ刺身包丁が長いのか。柔らかなお刺身の形を崩さずに切るために、できるだけ浅い角度で、しかも一回のストロークで切るために長めに作られている。
  逆に、出刃包丁は短くて刃に厚みがある。出刃包丁はモノを切るというよりくさびを打ち込むように分断するためのものだから、それなりの形をしている。

  包丁は、それが高級品でなくても、よく研がれていなくても、とりあえずはモノを切る時に引くなり、押すなりして『包丁の長さ』で切ることを意識すれば、その機能を最大限に発揮させることができる。
  道具は、その機能を発揮するための工夫がされている。その機能を引き出すのは使う人の役割だ。

 
 クルマの運転も同様だ。包丁と異なりクルマは複雑な道具ではある。使い方はそれほど難しくはないとも言えるし、ある条件下ではかなり難しいとも言える。どう思うかは、使う人がクルマに対してどういう意識を持っているかで異なる。

  クルマの機能は三つ。加速と減速と旋回。三つしかないとも言える。これらを組み合わせて我々はクルマを目的に応じて走らせている。
  しかし、加速と言ってもただスロットルを開ければいいかというと、そうではない場合がある。ブレーキにしても、どんな時にも同じように踏めばいいというわけではない。ステアリングも、ただ回せばいいというものではない。目的によって回し方は異なる。

  最近の、よくできたクルマは運転することを意識しないで、まるで家電製品を扱うような感覚で走らせることもできる。ある意味では運転という行為から人間が解放されるのだから、道具が進化する方向としては否定できない。
  しかし、『スロットル、ブレーキ、ステアリングをどうやって操作すればクルマの機能を発揮させられるか』ということを知れば、サーキットで速く走りたい人はより速く、安全運転を心がけたい人はより安全にクルマを動かすことができるのも事実だ。
  思い通りにクルマを動かす。その扱い方を知ってほしくてユイレーシングスクールは10年を過ごしてきた。これからも、少しでも多くの人に「なぜそうするとクルマが思い通りに走るのか」を知ってもらうために2巡目の10年を走っている。
 
  クルマは高度な機能が詰め込まれた道具だから、運転は包丁を使うほど単純な作業ではない。しかし、元々が人間の能力を拡大してくれる道具でもあるわけで、間違った使い方は避けたほうがいい。自身のためにも周囲のためにも、自分の運転と一度は向き合ってみる価値はあると思うのだが。いかが。


兄貴分にガレージを占拠され、あわれ雪の下。
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  ユイレーシングスクールでは2月、3月に以下のドライビングスクールを開催します。クルマの使い方に興味のある方は参加してみませんか?トゥインゴGTもお待ちしています。(詳細は以下の案内頁をご覧下さい。)
   
■ 2月20日(日)YRSドライビングワークショップ FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=dwf

◆ 2月24日(木) YRSドライビングスクール 筑波
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=tds

■ 3月4日(金) YRSオーバルスクール FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=os&p=osf

■ 3月19、20日(土、日) YRSツーデースクール FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=2ds


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