トム ヨシダブログ


第79回 クルマを動かすということ

先日開催したYRSツーデースクールに参加していただいた方々からメールをいただいた。そのいくつかを紹介したい。

★ Sさんからのメール
ツーデースクールありがとうございました。
ビジネスマンとして或いは個人として色々な種類の研修を経験しましたが、トップレベルだと思いました。特に実技の時間がほとんどなので、体感から学ぶというか、身体経由でブレーンストーミングされる経験だったと思います。結局、「意識によってのみ運転が変わりうる」ということだと思いますが、身体から得た感覚がないと、知識だけではその意識を継続することが難しく、その意味で、サーキット走行の繰り返しがやはりこのレッスンのハイライトだと感じました。トムさんが講義された内容や、アドバイスを頂いたことの意味というか言葉そのものが、後になって響いてくるという不思議な経験をしました。またお世話になると思います。

★ Tさんからのメール
この度は、大変お世話になりました。
事前に想像した以上に内容に充実感があったばかりか、長時間の走行にも拘わらず終始楽しくかつ有意義に過ごすことができ、皆様の技術はいうまでもなく、お人柄にも、大変心打たれました。これまでいくつかのドライビングレッスンに参加してきましたが(いずれも、海外自動車メーカーの名前を謳ったプログラムでした)、安全ということをこれほど前に押し出しつつ、かつ、速く楽しく走ることをきちんと教えていただけたことはありませんでした。ご教示いただいた理論、技術を普段の安全運転に生かすとともに、自らの理解、技術の向上に努め、近い将来、再び皆様のレッスンを受講させていただきたく存じます。本当にありがとうございました。

★ Tさんからのメール
先日は色々とご指導頂きまして誠に有り難うございました。
運転に対する意識改革の機会として、大変有意義な時間を過ごす事が出来ました。サーキットで走る事と普段の運転は無縁・・・と今まで思い込んでいたのは、車人生において大きな損失でした。今後はいつものカーブや坂を上り下りする時にも自分の感覚を総動員して円滑な運転操作を目指す様に努めます。サーキット走行には(面白いと思いつつも)まだ踏み込めませんが、スクールにはまた参加したいと考えております。再びお会いできるのを楽しみにしております。

他の参加者からも感想やご意見をいただいたのだが、それはまたの機会に。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

さて、ユイレーシングスクールではYouTubeにオリジナルビデオを掲載させてもらっている。少しずつ視聴してくれる方が増えているようで、過去30日間の再生数は2,350余り、再生時間合計は3,000分を超えた。
サーキットを走ったりYRSオーバルコースを走っている動画ばかりだが、注意深く見ると運転操作のヒントになるようなものが見つかるはずだ。

その中で1ヵ月前にアップした動画の視点を変えたのがこれ。
題して、「タイヤは働く その2」

こちらも感想などお聞かせいただければ幸いです。


第78回 仲間とともに

スクールで使うコースを作っていると、沈みゆく太陽が富士山の陰を雲に…。

クルマ好きがたくさんたくさん集まってくれた2004年の年間68回には及ばないが、今年、ユイレーシングスクールは32回のドライビングスクールを開催。運転がうまくなりたい方たちがユイレーシングスクール独自のカリキュラムに挑戦している。

8月に富士スピードウエイで開催したYRSオーバルスクールには、ルノー メガーヌRSに乗るHさんが千葉から参加してくれた。


YRSオーバルスクール参加者と記念撮影。ADバンで参加してくれた方も。


メガーヌRSに乗るHさんと

9月のYRS+エンジン誌のドライビングレッスンには横浜のIさんがトゥィンゴ ゴルディーニ ルノー・スポールで参加してくれた。


エンジンドライビングレッスンの記念撮影を撮影


同じトゥィンゴ ゴルディーニRSに乗るIさんと

9月末に開催した富士スピードウエイで2日間走りづめのYRSツーデースクールには水戸市からTさんがトゥィンゴRSで、MさんがルーテシアRSで宮城県白石市から参加してくれた。

ユイレーシングスクールに遠方からの参加者が少なくない。今回も水戸市、名古屋市、豊田市、西宮市、和歌山市から、理にかなった運転を身につけるためにはるばる駆けつけてくれたのが嬉しかった。

特にTさんは、このブログを読んでトゥィンゴRSの購入を決められたそうで、その上実際にユイレーシングスクールに参加してくれたのだからとても、とても嬉しい。

HさんもIさんもTさんもMさんも、もちろん。スクールが終わる頃には朝一番で走った時よりもずっとずっと、クルマとの対話を楽しみながら粋に走らせていましたとも。


YRSツーデースクールの1日目は広い駐車場で…


YRSツーデースクールの2日目はサーキットを歩くことから… (背景に見えるのが30度バンクの名残り)


YRSツーデースクールの記念撮影


ルノー・スポール兄弟とTさん、Mさんと記念撮影

※ユイレーシングスクールは12月初めまでドライビングスクールを開催しています。カングーでの参加も大歓迎です。ぜひ一度運転の楽しさを味わいに来てみて下さい。


第77回 タイヤは働く

クルマは4本のタイヤでその機能の全てを路面に伝えている。駆動力、制動力、遠心力を4本のタイヤが『分担しながら』クルマの走行状態を保つ。
4本であることが必要条件だから、4本のタイヤのうちの1本でもグリップを失うことになれば、クルマはその機能を発揮することはできない。

スクールで毎回説明していることだが、クルマはひとつの機能だけを使っている時には非常に安定しているものだ。加速なら加速、減速なら減速、旋回なら旋回。その動きが始まってしまえば、そしてその動きを続けている限りクルマのバランスはまず崩れない。

しかし、その動きが始まる瞬間、その動きに移る瞬間にタイヤがグリップを失うことは大いにあり得る。特に対角線上に加重移動が起きる場合、すなわちターンインがその典型。
グリップを失う原因は様々だが、四隅にタイヤが付いているクルマの宿命で、1本のタイヤのグリップを損なうとその対角線上、反対側のタイヤのグリップも損なわれる。つまり、クルマが4本のタイヤで支えられているという常識が通用しない事態が起きる。

クルマを思い通りに動かすことが目的ならば、アウト側前輪のグリップに最大限の注意を払うべきだし、そのグリップの限界を探る方法もある。(どうするかは実際にユイレーシングスクールを受講してみて下さい)

ということで、一生懸命働いてくれる前輪をフィーチャーした動画がこれ。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

スクールで行うリードフォローのリードカーとして、動画撮影のカメラカーとして大活躍のルノー トゥィンゴ ゴルディーニ ルノー・スポール。こんなこともやりました。


於:富士スピードウエイレーシングコース


リアウインドにカメラをセット

※ 詳細は近日公開です。


第76回 あなたは?


掲載写真と本文は関係ありません

手元に財団法人交通事故総合分析センターがこの7月に発行した「交通統計平成23年度版」がある。全171頁に及ぶそれには、日本全国で起きた交通事故に関する数字がこれでもかというほどにならんでいる。
交通事故がどんな道で、どんな時間帯に起きたか、当事者の年齢、仕事中だったのか私用だったのか、何に乗っていたのか、事故の原因は何か、事故の状況は等々、過去に起きた交通事故の全体像を把握するには十分な情報が収められている。

それによると、日本国内で動いているクルマの総数(自家用および業務用の乗用車と貨物車と特殊車、原付以上の二輪車の合計)は2010年時点で約9,029万台。その年の人口が1億2千8百万人。運転免許保有者数が8千百万人となっている。日本人の63.3%がクルマの運転をする計算になる。

同じ年。725,773件の交通事故が起きているから、国内にあるクルマの1,000台に8台がなんらかの事故に関係したことになる。この年、事故が原因で事故発生から24時間以内に亡くなった方が4,863名。交通インフラの整備が進み、救急救命医療が発達し、なによりもクルマそのものが安全な乗り物になったから、一時の悲観的な数字というほどではないが、だからと言って、我々に利便性をもたらすはずのクルマが原因でこれだけの方が亡くなっているという事実から目を背けることはできない。

ちなみに、交通戦争という言葉が生まれた時代の1970年。1946年に統計が始まって以来最多718,080件の事故が発生し16,765名もの方が亡くなっている。クルマの安全性が叫ばれ始めた頃、1992年には近年最多の695,345件の事故が起きて11,451名の方が亡くなっている。統計上の数字がある2011年までで最も事故が多かったのが2004年。952,191件の事故が起き7,358名の方が亡くなっている。(以上の数字はいずれも24時間死者)

事故件数に対する死者数の割合は1970年が2.33%、1992年が1.65%、2004年が0.77%だから、クルマの安全性が向上し交通環境が整いつつある中で、事故が起きた場合でも最悪の結果に結びつきにくくなったと見るのが自然だろう。実際、最も新しい数字が得られる2011年では691,937件に対して4,863名だから0.70%となる。

クルマが好きで運転が好きな人間として、クルマを壊すことはもちろんのこと、クルマが原因で人が傷つくのは耐えられないという思いがある。クルマは乗り手にとって良き友達であってほしいと思いこそすれ、牙をむくなんてことはあってほしくないと思う。
しかし現実はそうではない。日本でドライビングスクールを始めてからできるだけ目を通すようにしているのだが、統計にはいささか残念な数字がならぶのも事実。

統計では交通事故を人対車両、車両相互、車両単独の3つに分けているのだが、車両単独事故での死者数が突出して多いのだ。

車両単独の事故は、駐車車両衝突、転倒、路外逸脱、防護柵衝突、分離帯・安全島衝突、その他工作物衝突に分類され、さらにその他が電柱、標識、橋梁等に分類されているが、表現が不適切なのを承知で書けば、要は乗り手が対象物とひとり相撲をとったのが車両単独事故の実態だ。だから、相手がいるわけでも不確定要素があるわけでもない。つまり乗り手がそうなることを避けることができれば、事故にはいたらなかった性格のものだ。なのに人対車両や車両相互の事故よりも悲惨な結果にいたることが多いというのは、なんともやるせないものだ。

2000年。この年の交通事故件数は931,934件。このうち車両単独に分類される事故が52,866件。事故全体に占める割合は5.64%。なのにである。同年の事故死者数は8,707人なのだが、車両単独の事故による死者数が2,092人で24.0%を占める。事故全体から見ると単独事故は多くないのに、死亡事故にいたったのは車両単独で事故を起こした場合が多い。
しかも、交通事故そのものが減り死者数も減少しているのに、死者数全体に占める車両単独事故による死者数は、この統計が始まった1999年が23.15%(5.36%=事故全体に対する車両単独事故の割合)、2000年が24.0%(5.67%)、2001年が23.45%(5.64%)%、2002年が22.92%(5.66%)、2003年が22.04%(5.60%)というように毎年20%を上回る数字が並ぶ。
最近の例を見ても2008年に19.60%(5.05%)、2009年に20.66%(4.84%)、2010年に20.99%(4.49%)と車両単独事故が原因の死者数は横ばいだ。2011年にしても車両単独事故は全体の4.18%なのに、車両単独事故死者は全体の19.77%を占める。交通事故で亡くなられた方の5人にひとりが車両単独の事故の犠牲者になる。

交通事故の総数が減少し交通事故全体に対する車両単独の事故件数も減っている。24時間死者の数字ではあるが事故死者数も減っている。しかし、車両単独事故が死亡事故につながることが多いのは昔も今も同じだ。避けようとすれば避けられる種類のものだけに・・・。

交通事故が起きるにはそれなりの理由がある。統計にはなぜ事故にいたったかの分析も載っている。
しかし、うっかりが原因であろうと速度の出しすぎが原因であろうと、つまるところ乗り手の運転のしかたに根本的な原因があるのは間違いない。少なくとも車両単独の事故は、乗り手の意識ひとつで回避することができると思うのだが。

街中を走っていると、本人にしてみればそれが当たり前で自覚はしていないと思うのだが、危険から遠ざかる努力をしながら運転している人と、たまたま偶然が重なって危険な目にあわずにすんでいる人の2種類の人がいる。
さらに言えば、この人は運転というものがわかっているなという人と、この人はクルマに乗せられているだけだなという人がいる。何も考えないで運転している人がいる一方で、刻一刻と反応して運転している人がいる。自分の得だけを状況判断の基軸にしている人がいて、他方、交通の流れに逆らわずに自己主張ができる人がいる。

どんな運転をしようと勝手だろ、と言われるかも知れないが、クルマをなめないほうがいい。クルマが内包するエネルギーは人間が推し量れるようなものではない。

たかが運転だろ、と言われるかも知れないが、ほんの少しだけクルマの運転にテーマを持ってみてはどうだろう。
運転に飽きたら、集中力が途切れがちだなと思ったら、燃費を稼ぐための運転をしてみるとか、速度を可能な限り一定に保てるように運転してみるとか。人間、何かに興味を持てば視界が開けるし意識が覚醒するものだ。その方法がわからなければユイレーシングスクールでいくらでも教えることができる。

とにかく、クルマという人間が自由を手に入れるための最高の伴侶を傷つけたくない。同時に、本来の主役である人間がクルマによって傷つくことも避けたい。どちらも不幸なことだ。

こんなことがいつも頭にあるものだから、ワインディングロードのの下りのコーナーで長々と真っ直ぐに続くブラックマークを見た時など、「あ、その人に運転を教えることができていたならなぁ」と、後悔のしようがないことを悔やんだりもする。


第75回 トゥィンゴ ゴルディーニ RS 躍る

ユイレーシングスクールでは、元社団法人日本オートスポーツセンターの委託で開催した筑波サーキットコース2000を使った筑波サーキット公式ドライビングスクールと、YRS卒業生を対象として鈴鹿サーキット西コースで開催したYRS鈴鹿サーキットドライビングスクール以外は、いわゆるミニサーキットと呼ばれる全長1キロ未満のサーキットでドライビングスクールを開催してきた。

理由はみっつ。ひとつは最高速度が高くないのでクルマへの負担が少なく、全くのノーマルカーでも必要なだけ走行を続けることができること。もうひとつは1周にかかる時間が短いのでサーキットの各コーナーを通過する回数が増えるため反復練習にうってつけなこと。
最後のひとつは、ミニサーキットでもモータースポーツを実践するために十分な施設であることを証明すること、だった。
実際、筑波サーキットコース1000や富士スピードウエイショートコースでは長年短距離レースのYRSスプリントや耐久レースのYRSエンデューロを開催し、多くのユイレーシングスクール卒業生が参加してくれた。

高性能のクルマを持っていると最高速度の高いサーキットを走りたくなるものだが、ミニサーキットこそドライビングポテンシャルの向上や、クルマを道具としたスポーツを満喫するのに最適だと考える。
アメリカのモータースポーツが盛んなのも、1,300ヶ所以上あるサーキットの中の半数を占めるミニサーキットで週末ごとにレースが開催されているからに他ならない。

話が横道にそれたが、NAエンジンがどんな振る舞いを見せるか試したくて、ルノー トゥィンゴ ゴルディーニ ルノー・スポールを富士スピードウエイショートコースに連れ出した時の動画を紹介したい。

スロットルペダルの動きにリニアに反応するエンジンは、実に快適に小さなホットハッチを走らせた。同じ向きのコーナーを走るオーバルコースでは足の粘りが印象的だったが、ロードコースを走らせてみると切り返し時に起きる逆ロールに対して滑らかに動く懐の深いリアサスペンションに感銘を受けた。
ビデオでは速度感が乏しいが、実施は全てのコーナーでリアタイヤはフロントタイヤに見合うだけスライドしていて、前後のスリップアングルの均一化が簡単にできたことを報告しておきたい。


第74回 人の振り見て

ある事情で30分ほど時間をつぶすことになった。次の用事を先に片付けてしまうには時間が足りないし、その日はノートパソコンを持って出なかったのでデータの整理もできず、そこで待つしかなかった。

そこは4階と5階が駐車場になっているスーパーマーケット。駐車場にはひっきりなしにクルマが入ってきては出ていく。日影なのだがクルマが発する熱のせいだろう、どんよりとした暑い空気があふれている。
買い物をする予定はなかったのだがせめて涼しいところで待とうと歩き出したのだが、脇をかなりの速度で通り過ぎる1台のクルマを見ているうちに考えが変わった。ここはひとつ、暑いけれど駐車場を走るクルマを観察する時間にしようと。

今から40年以上前のことなのだが、鈴鹿サーキットの1コーナーのポスト長として旗を振っていた時。30m先を時速270キロからターンインするレーシングカーの走りを見ながら「速いクルマの動き」を観察することができた。

4番ポストは1コーナーに向けてターンインする場所にあり、2コーナーに続く半径のより小さい3コーナーまでが守備範囲。その先は3コーナーにある5番ポストの受け持ちだった。
当時、改修前の鈴鹿サーキットの1コーナーと2コーナーの間には短いけれど明確な直線があった。3コーナーまでをひとつのコーナーと考えることもできるが、ほとんどのドライバーは1コーナーのターンイン後に加速していた。で、2コーナー手前で再度ブレーキングする。
速いドライバーは1~3コーナーも速かった。しかし走り方は同じでもクルマの動きはドライバー毎に異なっていた。1コーナーにとんでもない速度で飛び込むドライバーがいると思えば、2コーナー手前のブレーキングが誰よりも早いドライバーもいた。
マシンはあっと言う間に3コーナー先のガードレールの影に消えていくから、ほんの数秒の間に走り方の違いを見つけることは簡単ではなかった。それでも耳と目でイメージを造ることができるようになってからは、わずかな差を見つけることができるようになった。クルマが高速で移動する時に理想とする動きを、連続的に捉えることに慣れることができるようになった。

今から30年以上前のことなのだが、同じクラスのレースに参加するドライバーが「有料の練習」をしているのを目を皿のようにして見ていた。タイヤ代にも事欠く我がチームは事前の練習に使う予算がなかった。

しかし、それが良かった。練習する時間はなくても、同じような性能のクルマが速く走ろうとする時にどうあるべきか理解が進んだ。
あるドライバーは4速全開のコーナーにノーブレーキとも思えるほどの速度で進入していた。しかし、彼はその登っているコーナーの脱出は速くなかった。サーキットのコーナーの数は限られている。全てのコーナーで観察することも不可能ではないが、速く走る時にキモとなるコーナーに重きをおいた。
あるドライバーは下りきったところにあるヘアピンコーナーで、自分の想像を超えるほどの減速をしていた。減速は速さに逆行するといぶかしがった記憶があるのだが、実際にはそのドライバーが続くストレートでの到達速度が速かったことでブレーキングのもつ意味がわかった。
どうするとどうなる、ああするとああなる、こうするとこうだ、という因果関係がわかってくると、自分で走り出した時にやるべきことが見えるようになった。

自分にとって観察は先生を探す手段だった。何度も何度も見ているうちに、もちろん先生足りえる場合とそうでない場合があったのだが、徐々にそこであるべき姿が見えるようになる。あるべき姿がわかっていれば、それに足りないか足りているかが瞬時に判断できるようになる。同時に自分がすることを俯瞰できるようになる。観察することは、それが人の運転であれ自分の運転であれ、実際に練習をするのに等しく重要だと思ってきた。

さてさて。その駐車場ではさまざまな運転が繰り広げられていのだが、残念なことに「先生足りえる例」にはお目にかからなかった。
※絶対に真似したくない例
・進路を逆走するクルマ
・後続車が待っているのに通路の真ん中に止めて家族を待つクルマ
・一旦停止の標識があるのに止まらずに速度さえ落とさないクルマ
・携帯電話をしながら片手運転で坂を登ってきたクルマ
※もう少し運転に興味を持ったらもっと安全に走れるのに、と思った例
・ステアリングの初期にいっぱい切るから内輪差が大きく柱にこすりそうなクルマ
・同乗者と会話している時に相手の顔をみてしゃべっている人
・遠くを見ていないから先の状況を把握するのが遅れる人 等々

十人十色と言うし、みんな運転免許は持っているはずだから、いろいろなスタイルがあってもいいのかも知れないが、安全に対する配慮だけは欠かしてほしくないものだ。

ユイレーシングスクールでは全てのカリキュラムにリードフォローを組み込んでいる。インストラクターが運転するクルマに車間距離5mでついていくというものだ。
参加者には事前にこう説明する。『とにかく習うより倣えです。自分であれこれ考えないで、とにかく前のクルマの真似をすることだけに集中して下さい』と。

もうひとつ。スクールの最初に『自分の番ではない時は人の走りを見て下さい。初めはわからないかも知れませんが、慣れれば中の人が何を考えどう操作しているか想像できるようになります』と、観察眼を養うことの大切さを説くことにしている。


第73回 人かクルマか

まったくもって個人的な意見ではあるのだが、昔から「クルマより速く走れるようになりたい」と思ってきた。

正確に表現するのは難しいが、要は、『クルマの性能を余すところなく発揮できる運転技術を身につけたい』といつも思っていた、ということになろうか。
アメリカでレースをやっていた時も、勝敗を度外視して走っていたわけではないが、常にクルマの性能を十分に引き出すことをテーマにしていた。

そんな、思想と言ったら大げさだけれど、そんな考え方は米国ジムラッセルレーシングスクールの創始者であるジャック・カチュアの説くドライビング理論と通じるものがあった。ジャックは3日間のスクールの冒頭で、「クルマの性能より速くは走れません。クルマの性能より速く走った人もいません。まずクルマも性能をどうすれば引き出せるかを考えて下さい」といつも言っていた。
だから、日本語クラスを作ってほしいともちかけたのは、スキップバーバーレーシングスクールではなしにジムラッセルレーシングスクールだった。

時は移り1990年代後半。日本ではクルマが速ければ速く走れるという考え方がサーキットに蔓延していた。ジャックが知ったら眉をしかめる状況だった。

だからユイレーシングスクールが誕生したといっても過言ではない。
だから、端的に言えば、ユイレーシングスクールが掲げたテーマは『道具に頼らず自分の速さを追及しましょう』だったし、14年目の今も同じ。
だから、速く走るための必須アイテムだと誰もが思っているSタイヤは、当時からご法度だった。禁止とは言ったことがないけど、雰囲気をさとってくれたのだろうか、今までSタイヤで参加した人は10人もいない。

『クルマの性能を高めれば速く走れて当たり前。クルマにつぎ込む余裕があるのなら自分に投資してクルマととことん付き合って下さい。運転は一生モノです』なんて面倒くさいドライビングスクールだからか、参加者の4割近くは全くのノーマル。極端に改造したクルマで参加した人はいない。

7月のある日。そんなSタイヤに縁のなかったユイレーシングスクールがついにSタイヤがテーマのプログラムを実施したのだから、常連から「宗旨変えしたのですか?」と問われる始末。そうではなく、ある卒業生がタダでSタイヤを手に入れたことがことの発端。
とにかく、YRSオーバルレースでブイブイ言わせている常連にしてもSタイヤ経験者はいない。ならばみんなで味見するのが良かろうと、有志に協力してもらい1台のロードスターにラジアルタイヤとSタイヤの両方を履かせ、乗り比べをすることになった。

その時の車載映像がこれ。

味見をした後の感想はというと、「転がり抵抗が大きいから無条件に速いということはないね」、「Sタイヤは美味しいところがどこにあるのかわかりづらいな」、「速く走るためにどうしても必要ってことはないよね」、「割高でライフの短いSタイヤの費用対効果って疑問だな」等々。ジャックが聞いたら喜びそうだな、と思ったものだ。


第72回 トゥィンゴ ゴルディーニ RS 舞う

ちょっと残念なことがふたつある。

ひとつは、「このアングルから撮ればトゥィンゴRSの粘っこい足の動きがわかるよね」と期待していたのだが、撮影当日が昼間だというのに雲に覆われて暗かったせいか、タイヤの踏ん張りもあまりわからず終い。編集時に画面を明るくしてみたのだけど、確かに足の動きはわかるようになるものの、他の部分が飛んでしまって断念。結局「照明が必要かな?」と再挑戦を決意したこと。

もひとつは、レヴ トゥー ザ リミットの時にインテークマニホールドから音を拾ったのだが、少しばかり機械音がやかましかった。それで、マイクに防音を施し「今度こそ」と期待していたのだが、アメリカ製の古いICレコーダーが機嫌を損ねてオーディオファイルはなし。しかたがないので有料の音楽でごまかしたこと。

そんな少しばかり欲求不満なビデオがこれ。

それでも、絵的には面白い迫力のある動画が撮れたと思うのだが。

※ 吸気音も排気音もないので想像しがたいですが、コーナリングスピードに勝るツーシーターのカメラカーに追い立てられていたので、実は、かなり全開で走っています。


第71回 嬉しいメール

YRSドライビングスクールを受講された方からメールをもらうのはすごく嬉しい。ドライビングスクールを続けていて良かったと思える時でもある。
最近届いたメールを2通紹介しよう。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


写真と本文は関係ありません

『栃木の○○です。この前の日曜日はお世話になりました。

何をどう言って良いのかよく分からないのですが、この前のオーバルスクールの最後の左周りの8分間はとても不思議で独特な感覚でした。全てが「自動的」というか、運転を意識しなくても勝手に身体がクルマを操作している感じでした。

視界が、ものすごくワイドでカントがついているコーナーに向かって行く時も、ずっと遠い景色まで見えて、遠い山の裾野辺りまで見ている様な独特な視界でした。
いつもなら赤いコーンを見てそこの進入に集中してしまいステアリング操作やヒールアンドトゥなどの操作を意識してしまうのに、なんと言うかそういう事も無意識で操作している感じでした。

あの時どう走っていたかについては不思議と思い出せません。そういう意味では再現性はないと思いますし、あの走り方やラインが正しかったかも分かりません。ただあの独特の感覚をふとした時や寝る前に思いだしています。

またあの感覚が再現できるかどうかは分かりませんし、次にスクールに行った時もいつも通りトムさんに怒られると思いますが(笑)再びあの感覚を体験できる様に頑張らないで頑張ります。』

○○さんにどんなアドバイスをしたかをここで再現するのは難しいけれど。
もう6年も通って来てくれている○○さんの運転にはある傾向があった。操作自体は間違っていないし、オーバルコースを走っても遅くはないし何も問題はないように見えるのだが。
オーバルコースを走る○○さんの走りを目で追っていると、クルマの速さとエネルギーの方向が一致しないことがある。そんな場合、ほとんどの人が同じような理由で先に進むことができないでいる。そこで、操作ではなく意識の持ち方のアドバイスをしたというわけだ。
○○さんが無意識に走れたのはアドバイスのおかげばかりではもちろんないのだけど、一人で走っていると、特にそこそこ走れる段階になると、自分自身で天井を作ってしまうのが人間の性。

YRSのカリキュラムやアドバイスがきっかけで○○さんが無意識行動で操作できる領域に達したとしたら、これほど嬉しいことはない。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

『トムさん こんにちは。先日オーバルスクールに参加いたしました□□です。そのせつはありがとうございました。とても勉強になって、しかもとっても楽しかったです!思いがけず食事までご一緒させて頂いて、ごちそうにまでなってしまい……本当にありがとうございました。とても楽しい時間を過ごさせて頂きました。

今回、ヒール&トウを教えてもらったのが自分にとっては特にうれしくて……

できるようになりたくて自分で何度か練習しようとしたのですが、そのたびに、すんごいブレーキかかるし、イヤんなっちゃって、挫折してたんです。でも教えて頂いたやり方だと、ガッツンってブレーキかからない!スゴイ!!
というわけであれ以来、調子に乗って練習しております(^^)

運転ってホント我流になりやすいし、ふつうは直す機会もあまりないので、正しい、努力する方向が分かっているというのは、幸せなことですね。
スクール、行きたいと思いつつ引越しやら生活の変化などで、エンジンドライビングレッスン以来ちょっと間があいてましたが、またぜひ参加させて頂きたいと思います。

厳しい暑さの日が続いておりますが、ご自愛くださいませ。またお目にかかれるのを楽しみにしています。』

□□さんは、YRSドライビングスクールを受講される多くの方と同じで、シフトダウンの時のヒールアンドトウに苦手意識があった。
で、ヒールアンドトウはドライビングテクニックのひとつではあるけれど、それができないからと言って、クルマを走らせられないわけではないことをまず最初に理解してもらった。
次に、ヒールアンドトウを使うとどんなメリットがあるのかを説明し、その目的からさかのぼってブレーキング中のどの時点でシフトダウンすることが好ましいか確認してもらった。最後に、実際にヒールアンドトウの操作をする時のコツを「止まっているクルマのシートを一番後ろに下げ」て右足の動きを見てもらいながらイメージしてもらった。
ヒールアンドトウができる人は簡単にこなしてしまう。けれど、最初から誰もが流れるようにできるわけではない。だから、できないことが恥ずかしいことではないことも付け加える。

ヒールアンドトウに限らず運転操作というものは、理論的な理想形を具体的に説明することが必要だと思っている。クルマを運転するにはやらなければならないことがゴマンとある。個々の操作も大切ではあるけれど、最も大切なのは全ての操作をまんべんなくこなすことを最優先にしてもらい、運転する本人が自ら進化しようとする流れを作ってあげることだ。

その時のアドバイスがその人の中でずっと息づいていてくれれば、そんな嬉しいことはない。

余談になるが、そんなユイレーシングスクールの教え方の基本を形成した出来事がある。

今から四半世紀前のこと。双子の息子を幼稚園に送り迎えをする日が続いていた。ある時期、迎えにいくと親の顔を見るなりふたりしてベソをかくことが多くなった。最初のうちはその原因がわからなかったのだが、しばらくして、英語が得意でない息子たちなのに先生が頻繁にディベートの指名をするからだとわかった。
我が家は家庭内では日本語を使っていたが、将来英語圏で生活するであろう息子たちは保育園から英語漬けにした。おそらく我が芽生え始めた時に、ふたつの異なる言語に翻弄された結果の涙だったようだ。

で、息子たちを泣かすとはけしからん、とばかり幼稚園に乗り込んでいった。完全な親ばかである。自分がつたない英語しかしゃべれない負い目もあったのだろう。自分のことのように思えたのかも知れない。

しかし実際は、鼻の穴を広げているボクに向かって先生が言った言葉に打ちのめされたものだ。
その時にどういうやりとりがあったか思い出せないが、先生はこういうようなことことをよどみなく言った。

・あなたの息子は確かに英語が得意ではない
・アメリカ人の中にもしゃべるのが得意ではない人もいる
・しかしアメリカに住む限り英語をふつうに話せることが自然だ
・ここ(幼稚園)での時間は彼らにとって快適ではないかも知れない
・ここにいる時間は彼らの将来のためにある
・私は、彼らが自ら自分の能力を引き出す方法を教えるためにここにいる

まさにグーの音も出ないとはこのことだ。日本に来るたびにたくましくなる息子たちの顔を見るたび、名前は失念したが、あの先生に今でも感謝している。そして、その感謝の気持ちを表すためにユイレーシングスクールを続けている。


第70回 アイドリングストップ


掲載が遅れてしまったが、筑波サーキットで開催したエンジンドライビングレッスンに岡崎市から駆けつけてくれたTさんのウインドと

* * * * * * * *

トゥィンゴ ゴルディーニ ルノー・スポールを点検に出した。お世話になったのはルノー京都。今回は代車に新車のマーチを貸してくれた。そして、これがアイドリングストップの興味津々初体験。


アイドリングストップ機構付きマーチ

と言っても、アイドリングストップ自体は何年も前から実用に供されている技術だし、町を走ればアイドリングストップバスが青信号になってエンジンをかけて(?)発進するのを目にするし、スクールに来たアルファロメオジュリエッタのStart&STOPシステムをパドックで試させてもらったこともあるから、興味の対象はもっぱら、アイドリングストップ付きのクルマを日常的に乗った時に自分がどんな反応をするか、だった。

マーチのアイドリングストップはスイッチの切り替えでで機能させないようにできること、アイドリングストップ中にステアリングを動かすとアイドリングストップが解除されることを教えてもらい、ちょっと安心して八条通りに乗り出した。

で、結論から言うと、「アイドリングストップという技術は確かにクルマの進化として認められるけど、違和感を感じることは避けられない」だった。

誤解のないように付け加えておくと、マーチのアイドリングストップのことを行っているのでは決してない。自宅から御殿場インターチェンジまでの400キロ強の間に信号機がひとつしかないユーザーにとってアイドリングストップが有益なのか、という議論をするつもりもない。
「アイドリングストップ機能がついていれば排気ガスの排出が減って環境にやさしく、燃費性能も向上するのでおさいふにもやさしい」と、あたかも排気ガスをたれ流すクルマが悪者で、アイドリングストップ装着車が善人だと言わんばかりの売り方に疑問を感じるのだ。そう。短期間ながら自分で体験して、今までもやもやしていたものが晴れた。技術そのものは拍手ものなのだが、もやもやの原因はその技術の伝達の仕方だった。

自動車技術として燃費向上を図るのでであればエンジン内部や駆動系の開発によってそれが達成されるべきであろうし、短時間エンジンを停止するという対症療法的な方法で声高に数値の改善を謳うのはいかがなものか、という話だ。使う環境によっては乗り手の利便性が大いに高まるのだから、もったいない話だと思う。
アイドリングストップ付きのクルマに乗っていてもその効能にあずかれない人もいる。アイドリングストップ自体を嫌う人もいるだろう。逆に、カタログに書かれた数値だけを比較して、個人の嗜好を抑えてアイドリングストップ装着のクルマを選んだ人がいるかも知れない。

やはり、この手のデバイスは、特にアイドリングストップに関しては「アイドリングストップという技術を搭載しています。通常の走行では特別に意識していただくことはありません。ただアイドリングストップを行うことで環境への負荷を減らすことはできます。機会があればそんな運転を試されてはいかがでしょう」というようなメッセージと『対』になるべきものだと思う。

ある日。スタッフで食事をしている時に絶対にぶつからないクルマの話になった。レーダーが人間の代わりをして障害物の手前で完全に停止させるデバイスを内蔵したクルマだ。一度試乗会に行こうかということになりあるスタッフが言った。「トムさんなら絶対にぶつけてみせるでしょ」と。「もちろん」と答えた。冗談だが、その場に居合わせたみんなが、クルマは安全な乗り物ですというイメージだけが一人歩きしなければいいがな、と願っていた。

その昔。米国日産が『Z』をアメリカ市場に投入するにあたりCMを流した。サーキットをさっそうと走るZの姿が目に焼きついたころ「You own the road]という刺激的な文字が現れる、そんなCMだった。が、そのCM、1週間もしないうちに画面から消えた。NHTSA(運輸省道路交通安全局)がユーザーに誤解を生じさせる可能性があるとして、放映の自粛を勧告したからだった。

アメリカと比べると概して日本のマスコミは、CMを含めての話だが極めて情緒的だ。クルマは乗り手の人生を増幅させる側面を持つから、メーカーもマスコミも情報の伝達方法には合理性を軸にして気を配るべきだと考える。も少し配慮があれば、喜んで技術を享受する人が増えると思うのだが。

ま、クルマが今よりもずっとプリミティブが機械であったころから運転の楽しさを追い求めてきた人間にとっては、最近のクルマの動きを制御するデバイスに馴染めないというか、おせっかいだとすら思ってしまう。
時代を考えれば最新技術に身を任せられるようにならなければならないとは思うのだが、クルマに任せたゆえに起きた悲惨な出来事をたくさん知っているし、任せたとたんに自分の運転が下手になってしまうような気がするし、運転に対する緊張感が薄らぎ老け込むような気がして、いまだにこの手のデバイスを受け入れるのが難しい。


ルノー京都CADONO

話が横道(?)にそれたけど、グランドオープニングの招待状をもらっておきながらなかなか行けなかったルノー京都CADONOにおじゃました。


ドアを開けると


ショールームにRSが3台


嬉しくなった


工場には入庫中のルーテシアRSが2台


外には納車待ちのトゥィンゴ ゴルディーニ ルノー・スポールが1台

まぎれもなくこの日のルノー京都CADONOはルノー・スポール占拠率が極めて高く、こんなディーラーがたくさんあればナ、と思わずにはいられなかった。
そんなディーラーでユイレーシングスクールの座学をやってみたい!