トム ヨシダブログ

第97回 目線×視野=情報処理速度

あるテレビ番組で、弓道の学生チャンピオンという女性に弓道を経験したことのあるテレビタレントが挑戦するという企画をやっていた。スポーツ番組と言うよりもエンターテイメント性の高い構成だった。
結果はと言うと、もちろん勝者は学生チャンピオン。にわか仕込みだったり現役を離れて久しい人が、その道を邁進する人に勝てる訳がない。ま、タレントが奮闘した場面もあったから、そのあたりが企画の狙い目だったのだろう。

で、内容は別にして、番組を観ながらいつの間にか真剣になっている自分に気がついた。学生チャンピオンの動作が印象的だったのと、自分にもそんな経験があったからだ。

もちろん弓道の経験はない。弓矢といえば、小さい頃に細く割いた竹とタコ糸で弓を作り割り箸の矢を飛ばした記憶があるぐらい。
それでも「的を射るのは大変なんだろうな」ぐらいの想像はつく。実際、チャンピオン以外の出演者はみな、これでもかと穴の開くほど的を凝視し続けてから矢を放っていた。
が、その女性は的に向かって姿勢を作るところまでは同じなのだが、矢を引く段になると目線を上のほうに泳がせるのだ。つまり的から目を背けることになる。的を見ないで矢を引いてゆき、矢を目一杯引いて静止する頃、矢を放つ寸前にその女性の目線が再び的とらえているように見えた。

サーキットや高速道路など速い速度で運転している時、自分も意識的に目線を目標から外すことがある。もちろん外したままなのではなく、ある時点で目標たるべきものを視野に入れるために目線を戻すのだが、その一連の動作に女性チャンピオンのふるまいが重なった。
その昔。初めは意図せずに無意識のうちに目線をそらせたと思うのだが、戻した時の目に飛び込んでくる景色があまりに鮮明だったので、今ではそのほうが効果的だと思う時にはそうするような段取りを意識してできるようになった。

女性チャンピオンが目線をそらす理由を知るべくもないし、彼女が何を得るためにそうしているのかもわからないが、ひょっとすると自分と同じことを狙っているのではないか、と興味がつのったわけだ。

それにしても、放たれた矢があれほどワナワナと震えながら、しかも矢の先端があれほどブレながら飛んでいって的を射るとは知らなかった。矢の軌跡は理論的に説明がつくようなものではないはずで、ならば最後には人間の感覚が的への道筋を探っているのだとすれば、弓道もとんでもない人間技なんだと思い知しることができた番組だった。


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