トム ヨシダブログ


第335回 結果はついてくる

あるテレビ番組でホームセンターの特集をしていた。本来はアメリカでいうところのハードウエアストアだけど、今や家電は当たり前、日用品はもちろん、衣料や食料品を置いている店舗もあるので、その意味では和製英語ではあるけれどホームセンターがしっくりくるのか。日本独特の業態。番組では、競争が激化する業界で躍進を続けるそのホームセンターの65年余りにわたる成長の過程を、創業者の教えとともに紹介していた。

334-1
日本で最も店舗数の多いホームセンターだとか
その社長が語る創業者の言葉

334-2
お客に評価してもらえているか
お客の役に立っているか

334-3
それが結果として
”数字”になって出てくるだけなので

334-4
「数字」は追うな とよく言っていた
「数字は結果だ」と


番組を見ながら、『あれぇ、運転と同じじゃん!』と思った。

ユイレーシングスクールは様々な運転経験の方が受講する。例えば延べ468名が受講した今年。申し込みフォームに受講時の経験を記入してもらうのだけど、サーキットを走ったことのない方が84名で17.9%。レース経験者が101名で21.6%。サーキット走行の経験が1時間から11時間以上の方が283名で60.5%になる。もっとも、リピート率が95%近くなのでレース経験者ほど重複している度合が大きく、この比率はあくまでも参考値ではあるけれど。

2001年ぐらいから、ユイレーシングスクールを受講して運転が面白くなり、スクールレースに出てヨーイドンが楽しくなった人は少なくなく、JAFライセンスを取ってマツダタイムトライアルやロードスターパーティーレースやFSWクラブマンレースに参加した人がいて、今も参加している人もいる。手前味噌になるけれどユイレーシングスクールの卒業生は優秀で、優勝は数知れずシリーズチャンピオンになったのもい2度や3度ではない。

と言っても、彼らや彼女らが最初から飛びっきり速かったわけではない。ひとりでサーキットを走っている分には遅くても言い訳ができるけれど、勝者が一人しかいないレースとなると話は別。勝つためにはやらなければならないことがゴマンとある。どこでブレーキングするとか、どこでステアリングを切るかなんて操作そのものを悩む時間などあるわけがない。悩んでいては先に進まない。

そこでスクールでは、レース参加を目指す人にだけではないけど、サーキットでラップタイムを短縮できずに悩んでいる人にはこんなことを話すことにしている。

『 クルマが走りやすい状況を作っていますか?   クルマを前に前に進める努力をしてますか?
それらの結果が ”速さ” という数字になって表れるだけなので、
目先の 「速さ」だけを追うのは意味のないことです。   速さとは、あくまでもどういう操作をしたかの結果です。   クルマの性能以上には速く走れないのですから、クルマの性能を十分に引き出すためにはどうすればいいのか、模索し続ければ結果はついてきますヨ 』
と。

ね、似ているでしょ。



第334回 秋深く なお色彩豊か

今の時期、暖かい色がいいなぁ。



第333回 YRSメールマガジン創刊号

333-0
”Go Circuit” 創刊号
バックナンバーの頁から


20年目の活動になる来年。3月まではカレンダーを決定済だけど、何か面白いことができないかなと考える毎日。
初心に戻ってみるかとユイレーシングスクールのメールマガジン”Go Circuit”の創刊号を開いてみた。   『ん~、昔からちゃんとしたことを言っていたんだな』 と妙に感心したりして。
発行は1999年9月1日となっているから、まだアメリカに住んでいて、メールマガジン配信サービスを利用して送信したものだ。   『あぁ、そんな時期もあったね』 と懐かしくなったので全文を掲載。 今さらながら、誰がなんと言おうと、ユイレーシングスクールのボトムラインです。興味のない方はスルーして下さい。


≡≡ Yui Racing School presents ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

○○○○○○○○○○○○○ Go - Circuit No.1 (09/01/99)

—————————————————- from California, USA ——
●クルマを走らせるのは楽しい。速く走らせるのはもっと楽しい。●しかし安
全に速く走らせることが難しいのも事実。走らせ方を理解していないと楽しく
もないし危険でさえある。●クルマをもっともっと楽しむために「クルマさん
との正しいお付き合いの仕方」を学びませんか。●当サイトからの提案です。
<<標語>> 公道では安全運転、サーキットではそれなりに。
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◆ はじめまして
トムヨシダです。最近サーキットを走る人が増えていると聞きました。嬉しい
ことです。オジさんもクルマを速く走らせるのが大好きです。でも制約のない
サーキットに行くと上手く走れない人がいるんですネ。なぜだかわかります?

◆ 当レーシングスクールの考えを聞いて下さい。
日本のメディアを見ていると、時々「スピードを出さないことが安全運転につ
ながる」という意見に出会うことがあります。確かに交通事故の多くがスピー
ドの出しすぎに起因することは事実ですが、逆にスピードを出さなければ安全
だという話でもないのです。

むしろ、「スピードを出さないことが安全運転につながる」という考え方が蔓
延すると、「制限速度を守ってさえいれば安全なんだ」という解釈を生む可能
性の方が高く危険ですらあると考えます。そうではないんですヨ。

何百倍もの能力のある機械を非力で間違いを犯しやすい人間が操作するのです
から、クルマを走らせること自体がそもそも非常に危険なことです。事故はど
んな状況でも起きる可能性があります。制限速度以下で走っていても事故は起
きます。スピードに関係なく事故は起きます。ちゃらんぽらんに運転していれ
ば、事故が起きない方が不思議なのです。

事故(もちろんサーキットでの事故も含みます)を防ぐには、正しいクルマの
運転の仕方を身に付けるのが一番効果があります。洗濯機やコンピュータの扱
いを間違っても人間が傷つくことはまれですが、クルマの場合は動かすことに
既に危険をはらんでいるからです。

サーキットを走っている人やこれから走ろうという人は運転が好きで、比較的
運転に自信があると思います。ただ町の中には運転がきらいだけどしょうがな
く乗っている人や、運転に自信のない人も走っています。クルマを運転する人
全てが運転に興味を持ち自分の運転を見直すことができれば交通事故は減ると
思うのですが、そうもいきません。ぜひ町の中では運転に関しては後輩の面倒
を見てあげて下さい。そしてサーキットでこそ、君自身の限界に挑戦して下さ
い。応援します。
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◇ 最初に
サーキットに限らず町中でも、クルマの運転には守らなければならないルール
があります。基本的なものは、1)スムースに運転することと、2)状況に応
じて運転することです。
読者の中にも同乗者から「アンタの運転は恐い」とか「まわりを見て運転して
いない」といわれたことのある人もいるのではないですか。

まずスムースに運転すること。なぜ必要なのかと言うと、クルマは運転する人
間よりずっとずっと図体が大きく重いからです。君がこうしよう、こうしたい
と考えて操作してもクルマが反応しないことがあります。それはクルマの責任
ではなく君が「クルマさん」の事情も考えずに一方的に行動しようとするから
です。<どこかに同じような例がありましたっけ>

状況に合わせた運転も重要です。サーキットだけでなく町中を走っていてもオ
ットットとなった経験があるでしょう。それは状況の把握が足りないのではな
くて、君が見込みで(確信がないのに)運転しているからです。何かあってか
ら「こんなはずじゃなかった」とか「クルマがねェ・・・」という人がいます
が、それはその人が「そうなるはず」、「こうなるはず」で運転しているから
です。クルマの運転は連続操作です。刻一刻と変わる状況に常に反応して運転
する必要があります。

どうでしょう。思い当たるフシはありませんか。そう、ふたつとも運転手の身
勝手から起きているのですネ。

実際には君が運転するわけですけど、本当のところは「クルマさん」が走って
くれているんですヨ。ここが大事。つまり運転するということは、教習所では
教えてくれなかったかも知れませんが、実はクルマさんとの共同作業だったわ
けです。ですから、一人よがりはいけません。授業が進む前に、君の「クルマ
さんとの付き合い方」がどうだったか思い出してみて下さい。

レーシングテクニックは1)スムースな、2)状況の変化に対応できる運転の
上に成り立ちます。サーキットに行かなくても、あるいは食事をしている間に
でも運転が上手くなる「安全に速く走るための秘伝」(?)を掲載しておきま
す。これは
ユイレーシングスクール教科書の4頁
でも読むことができます。
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◇ 秘伝「安全に速く走る」
運転手がどんなに頑張って速く走ろうとしても、絶対にクルマさんの性能以上
には速く走れない。

速く走るためには、クルマさんが性能を発揮しやすい状況を運転手が作れ。

運転手が速く走ろうとあがいてみても、クルマさんの意向にそっていなければ
速くは走れない。

速く走るのはクルマさん。運転手までもが速い操作(慌てた操作、雑な操作)
をする必要はなし。

クルマさんは人間よりずっと重い。小回りが聞かないのは当たり前。運転手の
操作とクルマさんの反応には時間的なズレがある。クルマさんは自分の手足で
はない。

サーキットを走る場合、クルマさんを振り回して楽しむのか、それともクルマ
さんとの共同作業で(自分の)限界に挑戦するのか、はっきりとどちらかに決
めろ。

ラップタイムを基準に速く走るのが目的とするならば、ドライバーの操作は必
要最低限に限れ。

速く走るためには、クルマさんが性能を発揮しやすい「直線」を重視した走り
を組み立てろ。

タイヤのおいしいとことろを存分に使わせてもらうためには、ブレーキングは
できるだけ直進状態で行い、コーナリングはイーブンスロットル(加速も減速
もしない状態)で行え。

直進状態でのフル加速とフルブレーキング以外、サーキット走行は常に妥協(
折り合い)の連続。加速する、曲がる、止まるの3要素を瞬間瞬間にどう妥協
させるか常に気を配れ。

失敗したらすなおに非を認めろ。テクニックがないのにミスをリカバリーしよ
うとするとしっぺ返しを食らう。

クルマさんが不安定になるのは運転手の操作が間違っている場合がほとんどだ
。自分のミスをクルマさんのせいにするナ。
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◆ どうですか?
創刊号を読んでみて、何か思うところがありましたか?

ない? それは「クルマが速く走るのは俺が上手いからだ」と思い込んでいるか
らでしょう。そうじゃないですヨ。「クルマが速く走ることができるのは、君
のすることをクルマさんが理解できる場合に限る」ことをお忘れなく。

クルマの運転はそれほど複雑な操作が必要なものではありません。ですから余
計に大切なところを見落としている場合が多いのです。安全に速く走るために
は練習も必要ですが、練習時間が多ければいいってもんじゃありません。クル
マに乗る時間、いやそれ以上の時間を「運転の仕方を考える」ことに費やすこ
とのほがよほど重要です。(お金はかからないしネ)

イメージトレーニングに役立つように、
ユイレーシングスクール教科書の13頁
に各種の左コーナーの図を掲載してあります。自分がいつも「どこで何をやっ
ていたか」を思い出してみて下さい。速さと安全は、あくまでも理論的な走り
ができて達成することができます。

* * * * * * * * * * * * * * *
さぁ、次号からは徐々に具体的なテクニックに触れたいと思っています。君が
知らなかった速く走るコツやヒントが山盛りになって出てきます。
それでは、今日も安全運転を! サーキットで会いましょう。

**************************************** 奥付け ******
Mail Magazine ” Go - Circuit ”
発行元:AVOC Fountain Valley, CA 92708 USA
発行人:トムヨシダ
投書宛先:publisher@avoc.com
オリジナルサイト:http://www.avoc.com
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ユイレーシングスクールhttp://www.avoc.com/ の創
刊号として、このメールマガジンは発行されています。
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覧は、http://www.avoc.com/mm/intro2 で行えます。
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このメールマガジン(ID:0000016855)は、インターネットの本屋さ
ん『まぐまぐ』を利用して発行しています。( http://www.mag2.com/ )
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第332回 進めユイレーシングスクール

12月8日。YRSオーバルレース最終戦をYRSトライオーバルで開催。ふだん使っているクルマでYRSオーバルスクール卒業生同士がヨーイドンを楽しんだ。
その時の動画がこれ。※IE(Internet Explorer)でビデオを視聴するのが困難なようです。Chromeやsafari、Firefoxなどのブラウザをご利用下さい。


奇しくも、19年前のこの日、ユイレーシングスクールは埼玉県の桶川スポールランドで初めてのドライビングスクールを開校した。
アメリカからパソコン通信で受講者を募集。それに応じてくれた15名が荒川の河川敷に集まってくれた。寒い日だった。

サーキットを走るのにはクルマを改造しなければならない、サーキットを走るのには特殊な技術が必要だ、サーキットを走るのは特別な人だと思われていた90年代。「そんなことはない、ノーマルのクルマでも経験がなくても、誰でもサーキットは走れる。サーキットを走るのもその人の運転の一部。サーキットをきちんと走るには公道でもキチンと走れなければならない。公道でちゃんと走れるならサーキットだって安全に走れる。それなりに走ることができるのを運転がうまいと言う」と訴えたくて。

理にかなった運転をすればノーマルカーでもすごい性能を発揮するのも証明したくて始めたユイレーシングスクールも、19年目の活動を終えた。今年開催したドライビングスクールとスクールレースは合計39回。ユイレーシングスクールを受講してくれた方は延べ468名にのぼる。
次へ進むためにデータを整理したら、今までに開催したドライビングスクールとスクールレースは839回に、延べ受講者は16,367名になっていた。

今までもそうだったし、今年もそうだった。クルマを楽しみに、運転を楽しみにやってきてくれる方々のおかげでユイレーシングスクールは歴史を刻めている。ありがたいことだとつくづく思う。心から感謝しつつ、これからもクルマと運転と真剣に向き合うコツと方法を広めていきたいと、改めて思っている。


≪ユイレーシングスクール19年の歩み≫
2018開催数
ユイレーシングスクール累計開催数詳細

2018参加者数
ユイレーシングスクール累計参加者数詳細


20年目を迎える2019年。ユイレーシングスクールのカレンダーは3月まで決定済。クルマを思いのままに動かしたいと思う方、どんな場面でも安全に走りたいと思う方はぜひ遊びに来て下さい。お待ちしています。



第331回 あ~あっ

ユイレーシングスクールのカリキュラムでは駐車場に並べたパイロンで作ったコースを使うことが多い。サーキットより近くでクルマの動きを観察できるので参加者がどんな操作をしているか把握しやすいからだ。反復練習がたくさんできるから練習にはうってつけなのも理由だ。

いくつかあるパイロンコースのひとつにYRSトライオーバルというのがある。トライオーバルというのは、ストックカーのデイトナ500が開催されるデイトナインターナショナルレースウエイに代表されるおむすび形のコーナーが3つあるオーバルコースのこと。
アメリカのそれは左右対称に作られているけど、YRSトライオーバルは練習のためにデザインしたので3種類のコーナーを設定した。2速に落とすコーナーが2つと3速全開のコーナーがひとつ。

どんなコースなのか、動画が用意してあるので興味のある方はご覧下さい。

・YRSトライオーバル(車載動画:屋根にカメラを固定)
・YRSトライオーバル(車載動画:左サイドにカメラを固定)

で、実は12月に開催したYRSオーバルレースがYRSトライオーバルを使ったので、新型メガーヌRSの4コントロールの動きを可視化してやろうと意気込んでレースの合間にビデオカメラを積んで走ったのはいいのだけど、なんと、なんと、室内に固定したWi-Fiで操作するカメラがこともあろうに走り出したとたんに停止してしまっていた。

左後輪の後ろに取り付けたカメラのほうはしっかり録画していたので、がっかりしながらもなんとか編集したというおそまつ。ステアリング操作と後輪の動きがどう関連しているかを絶対に見てみたいので、また来年、機会があればやりますとも。


というわけで、コーナリング中のクルマのサスペンションは動きっぱなし。タイヤは上下動するしトー変化もする。だから、タイヤのショルダーとフェンダーの距離が変化するのが4コントロールによるものだと断定はできないけど、まぁ、YRSトライオーバルを走っている時、メガーヌRSの左リアタイヤはこんな動きをしていますよ、ということで。

331_1
動画から直線とコーナーでキャプチャーしてみたけど
静止画ではわかりにくい
どうすればいいかどなたかアイディアをお願いします


YRSトライオーバルを走るメガーヌRS (2周目にスローモーションを挿入)




第330回 ヨーモーメント

日常ではめったに(!?)経験することはないけれど、厳密に言うとターンイン直後、すなわちコーナリングを開始した瞬間、実はアンダーステアが発生してる。

タイヤは路面とズレることでグリップを発生する。まず最初に舵角のついた前輪に横力が働いてズレ、スリップアングルがつき ≒ グリップが発生する。この瞬間に後輪には横力が働いていないからスリップアングルはついておらずグリップも大きくなってはいない。前後輪のグリップの大きさに差がある状態。
前2輪で操舵するクルマの宿命で、次の瞬間に後輪にもスリップアングルがつけばスムーズな旋回運動に入れるのだろうが、クローズドコースでちょっと速く走ろうとすると、『前輪のグリップが後輪のそれより大きい』のだからステアリングを切った通りに動きそうなものだけど、ステアリングワークが雑だったりターンインで過度の前過重になっていると、『特にアウト側前輪が悲鳴を上げてた結果』グリップの限界を越え見事な『手アンダー』が発生してしまう。

もともと、前2輪の操舵だけだとそのクルマの旋回中心は図のように後車軸の延長線上にあるわけで、クルマのフロントは外に逃げやすい傾向にある。まして前後の重量配分に差があるクルマでは前輪が悲鳴を上げやすくアンダーステアも発生しやすい。

330-1
ある半径のコーナーを前輪にしか操舵装置がついていないクルマが回っている
旋回中心は後輪の回転面に対する垂線の延長線上にあるから
後輪より先を行く前輪は軌跡の外側を通ることになり
図のようにフロントが外に逃げやすい


だからYRSオーバルスクールで、はでなアンダーステアを出している受講生には「切り初めに一瞬手を止めてみたらどう?」と言うことにしている。前輪に舵角を与えた瞬間、前輪のスリップアングルがそれ以上大きくならないようにステアリングホイールを回す手を止めて、後輪が前輪のいた位置に到達するのを待つ。後輪が遠心力を受けスリップアングルを生じグリップが増す。前後輪のスリップアングル ≒ グリップが均等になることを期待する。それから改めてステアリングを切り足す。そうすることでアンダーステアを発生を押さえ、クルマによっては低減することができる。

要するに、ホイールベースの分だけ反応が遅れる後輪を『待つ』。待つことによってクルマの後方で発生しがちなヨーモーメントを、ホイールベースの間で発生させるようにしむけ、人的努力でニュートラルステアを実現しようというわけだ。


一方、そのクルマの運動特性を解析し機械的にアンダーステアを回避しようという試みが4コントロールの逆位相。図のように前輪に舵角がつくと同時に後輪に逆方向の舵角をつけ、前後輪同時にスリップアングルを生ませようという仕組み。理論上は『待つ』ことをしなくても前輪のスリップアングルだけが増加することを避けられる。

330-2a
前後輪が逆位相でステアする場合には
4輪の回転面に対する垂線の交点が旋回中心になる
結果4本のタイヤが描く軌跡はそのコーナーの半径と相似形をなすから
図のようなニュートラルステアが実現できる


まだ新型メガーヌRSを走らせた時間が少ないので4コントロールの効能は少ししか感じていない。後輪がどんなタイミングでどのようにステアするのかわからないし、ルノーに聞いても教えてくれないだろうし、教えてくれても理解できないだろうから、ここでは後輪が逆位相にステアすることでホイールベースの長さがないに等しくなり、単純に前輪操舵のクルマより、コーナリングの際に舵角が少なくてすむことと、内輪差が少なくなることを確認しておこう。

それにしても、これだけの技術だからクルマの運動特性を理解したほうが4コントロールの利点が明白になる。かと言って、他力本願的な運転を勧めるわけでは決してなく、人的努力も怠らないようにしたいものだ。だから、みなさんユイレーシングスクールに来て下さい。


◎ YRSオリジナルビデオ 『待つ』
※ IE(Internet Explorer)でビデオを視聴するのが困難のようです。Chromeやsafari、Firefoxなどのブラウザをご利用下さい

・トライオーバルを走る(26秒に最終コーナーの『待つ』ステアリングワークが)

・筑波サーキットコース1Kを走る(1分6秒に1コーナーでの『待つ』ステアリングワークが)



第329回 自転軸

329-1
2018年最後のYRSオーバルスクール
参加者全員で記念撮影


ユイレーシングスクール一押しのカリキュラムがYRSオーバルスクール。
「楕円形のコースをグルグル回るだけで面白いの?」という声があるのは知っているけど、それはオーバルコースを走ったことのない人が言う言葉。オーバルコースを走るのは間違いなく面白いし楽しいし、ためにもなる。

なぜか。一方向にしか走らないオーバルコースでは、速く走ろうとすると全周にわたってタイヤの限界を余すところなく使い続けなければならない。左右のコーナーがあるロードコースではどこかで妥協しながら平均速度を上げていくという作業が必要だけど、オーバルコースでは限界の線上でクルマを操り続ける必要がある。

クルマが加速、減速、旋回を繰り返す時、タイヤは駆動力、制動力、コーナリングフォースを発生する。クルマを限界で走らせるには、例えば10のグリップがあるタイヤを履いていた場合、タテとヨコに使うグリップの和が常に10になっていなければならない。摩擦円の理論だ。タイヤに余力が残る9.5でもだめだし、限界を越えてしまう10.3でもだめだ。その上、走行中のタイヤのグリップはタイヤにかかる荷重とタイヤの滑る量で変化する。設計上はグリップ10のタイヤでも、走行中は8になったり13になったりする。すると今度は増えたり減ったりするグリップに応じてタテとヨコの和が常に100%になるように操作する必要がある。しかも、クルマにはそんなあやふやなタイヤが4本もついているのだ。

YRSオーバルスクールは常連の参加が多いけど、彼ら彼女らはまずアンダーステアを出さない。速く走っているのにアンダーステアとは無縁だ。それは駆動方式に関係なく後輪を使ったコーナリングができるからだ。つまりターンイン後に、後輪にもスリップアングルがつくような操作をしているから、ちょうど4コントロールの逆位相が機能した時のようにホイールベースの中心あたりに自転軸をおいたようなコーナリングができる。

329-2
クルマは自転しながらコーナリング(公転)をする
(写真はカタログから拝借)


4コントロールが装備されていないクルマの場合、操舵装置のついていない後輪にスリップアングルがつけるのには遠心力に頼るしかない。速度が上がれば遠心力も増すから、フロントが逃げない範囲でより高い速度からターンインすれば後輪にも十分なスリップアングルをつけることができる。この時、舵角を必要以上に増やさないのがコツだ。前輪のスリップアングルがアンダーステア方向に大きくなっていくと後輪のそれはそれ以上大きくならないからだ。

4コントロールがついていれば、コーナリング中にステアリングを切り足せば旋回半径を小さくできるから、真っ直ぐ進入して真っ直ぐに出て行くような走り方も可能なはずだ。いずれにしろ、クルマは後輪を使って曲げなければならないのは同じだ。

ある程度クルマを速く走らせないと『 どうするとどうなる 』といった人間の操作とクルマの挙動の因果関係を理解しにくい。だから、慣れれば100キロ超からターンインできて、10秒に1回同じコーナーが現れるオーバルコースでの反復練習がうってつけなのだ。

もちろん、常連組も最初から速かったわけではないし、失敗なしで走っているわけではない。失敗はするけど大きな失敗はしないし、失敗してもごまかす方法を知っているからクルマを前へ前へと進めることができる。そのうちにとんでもなくうまくいく時がある。そのうちにタイヤの限界を越すすれすれの状況を維持できるようになる。そんな、自分とのやりとりを延々と続けられるのだからオーバルコースが面白くないわけがない。


◎ YRSオーバルスクール動画
IE(Internet Explorer)でビデオを視聴するのが困難のようです。Chromeやsafari、Firefoxなどのブラウザをご利用下さい。

↑ ブレーキングで前に荷重がかかりすぎている場合はターンインして下り始めると右前輪が悲鳴を上げる。前過重を抜かないようにフロントを拾う。

↑ 下のコーナーのアプローチは斜滑降のようなもの。外に逃げようとするクルマの向きを変えるのは永遠の課題。

↑ 下りかけるとフロントがストンと落ちる。その直後、前過重になり軌跡が変わる。




第328回 スリップアングル

クルマが旋回運動を始めると弾性体であるタイヤは遠心力を受けてよじれる。よじれるとタイヤの接地面ではズレが生じる。ズレが生じることでタイヤはグリップを発生するのだけれど、その結果タイヤが回転しながら進む方向は、実はタイヤが向いている方向と一致せずにその外側に軌跡を描くことになる。この差をスリップアングルと言う。クルマの操縦性を語る時に非常に重要な要素だ。

328-1


スクールでこんな話をする。

片側2車線で右折車線のある交差点。右折車線から対面交通の隙間をぬってUターンしようとしたクルマ。しかし1回で回りきれずに停止。切り替えしてUターンしたものの運転というものがわかっていないことを露呈してしまった、という話。

なぜ1回でUターンすることができなかったのか。その原因を考える。

対向車が来る前にUターンしてしまおうと思ったご仁はステアリングを切りながら加速した。過重は後方に移動し前輪の荷重が減少。車輪にかかる荷重こそグリップの源だというのにそれが抜けたのだから、前輪のグリップが減った状態でステアリングを回したことになる。グリップが減少しているのだからいくら大きな舵角を与えたとしても、フロントが逃げクルマの向きは変わらない。

こんなことが実は起きていた。その時、4本のタイヤの接地面を見ることができれば、前輪のスリップアングルがとてつもなく大きく、後輪のそれは無に等しかったはずだ。それではクルマが向きを変えるわけがない。アンダーステアとも言う。そんな状況をこのご仁は知る由もない。

スクールではどうすればUターンが成功したかを説明する。1発でUターンを成し遂げるためには、右折車線で直線的に加速しスロットルを閉じるか、あるいは軽くブレーキングをしながらステアリングを切り始めなければならない。要するに回頭性がよくなければUターンはかなわないのだから、理論的には前輪よりも後輪のスリップアングルが大きければ回頭性がよくなるのだから、必然的に前輪のグリップを高め後輪のグリップを弱めるために前過重でステアリングを切らなければならない。結果としてフロントが逃げないから前輪ののスリップアングル < 後輪のスリップアングルの状態を維持できる。だから回頭性が高まり小回りできることになる。

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深夜の交差点でちょっとオーバースピードで飛び込んだ時。アウト側前輪に荷重が集中する前にクルマが旋回運動を開始した。

湖西道路から自宅へ続く道にある左の鋭角コーナーで、いつものように左手で迎えにいってステアリングを切る。「あれぇ、変だな。切っている途中で戻し始めないとならないね。ルーテシアRSだと切った後にホールドしている時間があったのにねぇ」。

もっといろいろな場面で確かめないたい気が湧いてきたところで。理論的には、前輪にしか操舵装置のついていないクルマはの旋回中心は、後車軸の延長線と舵角のついた前輪に対する垂直線の交点だからあくまでも後ろより。常にホイールベースの長さ分だけ後輪が前輪を追いかける図式になる。だからアンダーステアから逃れることができないし内輪差も生じる。人間がなんとかしないと前輪のスリップアングル > 後輪のスリップアングルという呪縛がつきまとう。

前輪にある条件で舵角が与えられた場合、間髪を入れずに後輪にも舵角がつく4コントロールでは、クルマの旋回中心が前後タイヤに対する垂直線の交点になるから、言ってみればホイールベースの中心付近のどこかを軸にクルマが円運動をすることになる。だから前輪だけ操舵のクルマに比べて少ない舵角でコーナリングができるし、アンダーステアが出やすい状況でもそれを抑制することが可能になる。これが逆位相の効果のひとつだ。

対向車の直前でUターンをするなど品のないことをしてはいけないけど、例のご仁も新型メガーヌRSに乗っていたら1発でUターンが成功したかも知れない。


【追記】 個人的な話ですが、4コントロールの効用が少しずつわかってきました。しかしながら4コントロールに頼り積極的に利用して走ろうとはしないほうがいいと思います。ユイレーシングスクールは4コントロールの恩恵にあずかれるのは、クルマをきちんと動かせる技術があってのことだと思っています。新型メガーヌRSのオーナーの方はクルマとの対話を進めるためにぜひユイレーシングスクールに遊びにきて下さい。



第327回 新型メガーヌRSドライビングアカデミー

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ユイレーシングスクールのカリキュラムのひとつ、YRSオーバルスクールを舞台にルノー・ジャポンが新型メガーヌRSドライビングアカデミーを開催した。

座学ではいつものビークルダイナミックスをひと通り解説した後、新型メガーヌRSに搭載された4コントロールやハイドロリック・コンプレッション・コントロールがなぜ有効なのかを操り手の視点から説明した。
実技ではいつもの小さいオーバルでのイーブンスロットルとトレイルブレーキングの練習をした後、大きいオーバルの直線部分に20m間隔で立てたパイロンでスラロームを体験。次いで100km超からのターンインができる大きなオーバルをインベタとアウトインアウトで走る練習。参加した新型メガーヌRSのオーナーとメディアのみなさんは、これでもかっていうぐらい元気に走り回っていました。

新型メガーヌRSを購入された方は、4コントロールと4HCCとダブルアクシスストラットと40Kgmのトルクで押し出される強烈な加速を味わいに、ぜひYRSオーバルスクールにおいで下さい。座学ではその効果の理由を理論的に説明します。実技ではその効果を実際に体験してもらうことができます。

新型メガーヌRSドライビングアカデミーの模様は近日中にウェブメディアでご覧になれると思います。



第326回 新しいスクールカー

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2010年からユイレーシングスクールの活動を応援してくれているルノー・ジャポンが
新しい相棒を送ってくれた
今までに
トゥィンゴGT
トゥィンゴRS
ルーテシアRSシャシースポール
ルーテシアRSシャシーカップ
楽しいクルマばかりだった


今回は、 メガーヌⅣRS 。嬉しい限り。感謝、感謝です。

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速さの異なる3種のホットハッチが巣くう


今週末はこのクルマで新型メガーヌユーザーを対象としたドライビングアカデミーを開催します。
来年1月19日(土)の2019年第1回YRSオーバルスクールではこのクルマに試乗する機会を作ろうと画策中です。

まだスロットルを全開にしたことはないから、どんな走りをするか今週末が大いに楽しみ。