第54回 俯瞰 客観 達観
パイロットになりたいと模型飛行機作りにいそしむのだが、小学校にあがる前から眼鏡をかけていたほど視力が弱く断念。ならばレーシングドライバーになろうと心に決めたものの・・・。教科書の後ろに隠した自動車雑誌の写真、高橋国光選手が鈴鹿サーキットのヘアピンをフルカウンターで立ち上がっている写真、を見つめながら、「自分にもカウンターステアなんて切れるものなのだろうか」などと夢よりも不安でいっぱいだったものだ。
そんな少年が人にクルマの運転を教えているのだから人生は面白い。
そうしなければと意識する前にカウンターステアを切ることができる。なによりも、なぜテールがブレイクするかを理論的にも体験的にも知っているから、まずオーバーステアにおちいることがない。テールが流れなければカウンターステアを当てる必要もない。流れる時は4輪一緒だ。
ユイレーシングスクールでは操作のコツを理論と実践面からアドバイスしているが、それは全てここにいたるまでに吸収したことを体系的に説明しているだけだ。
しかし、「ステアリングは最初ゆっくり、クルマが円運動を始めるまで回し続けて下さい」と言っても手アンダーになってしまう人もいる。本人が「ゆっくり回しているのですが」と言うだけあってステアリング操作は丁寧なのだが、加減速が加わると荷重の移動が前後方向ではなしに対角線上で起きてしまう。
そんな時。目線の持っていき方の話をするのだが、実は、どこを見て運転するかというよりも、なにを拠りどころに運転すると楽に操作できるかを伝えるのが目的だ。話が抽象的だからすぐには理解できない場合が多いのだが、運転はクルマとの共同作業なのだから、運転手の主観は可能な限り排除されるのが好ましい。だから、スクールでは常に「運転している自分とクルマを見下ろす『本当の自分』を見つけて下さい」とアドバイスしている。
で、トゥインゴGTにYSST(ユイレーシングスクールスペシャルスクーリングツール)の第10弾を取り付けて、操作と挙動の因果関係を可視化しようとしたのが下の動画。
操作によってウエイトトランスファーがどのように起きるかアナログ的に見るために外撮りもしたのだが、残念なことに用意したボールとボウルの相生が悪く思っていたほどの結果は得られなかった。それでも、ボールの動きが一定であることはなく、どんな操作をしているか想像することはできる。
※速さだけに特化した操作を求めるのならばデータロガーやGセンサーのようなツールも有効かも知れないが、運転の本質は人間の曖昧さを物理法則に変換することにある。だから、ユイレーシングスクールとしてはあくまでもアナログ的な情報を提供したいと思っている。現在YSST-11を開発中なので乞うご期待。