第125回 クルマだからできること 2
受講生や卒業生に白い目で見られながらも、スクールレース実現のために語り続けました。
『地面に書いた幅10cmの白線があとします。「その上を踏み外さないでできるだけ速く歩いて下さい」と言われても躊躇する人は少ないと思います。しかし高さ50mで幅10cmの平均台をできるだけ速く走りきって下さいと言われたら、かなりの人が戸惑うのではないでしょうか。クルマの運転とはそんなものです。自分の足が地面についているわけではありませんから、それなりの慎重さが必要になります』。
『サーキットで速く走るということは、平均台が10mの高さにおいてあるのと同じようなものです。日常ではできることができない。日常で培った知識と経験を生かすことができない。しかしやることは日常と同じ。だから錯覚が起きるのも当然なのですが、思い違いをしたまま走って自らを危険にさらしたら、そんなサーキット走行が楽しいわけがありません。平均台を渡るのが目的ならば、早く渡ることはできないかも知れませんが跨って渡ったっていいはずです。他人の目を気にするのはナンセンスです』。
『サーキットは対向車が来ない、歩行者が歩いていないなど一般の道路とは異なる環境にあります。ここにひとつの落とし穴があります。ひょっとすると無意識の中でサーキットは自由に走れるところだと決めてかかっていることはありませんか。サーキットではクルマの限界とみなさんの限界を超えて速く走ることはできません。速く走ろうと思うのならばクルマを動かす手続きを省くことはできませんし、あなた方一人ひとりの実力以上に頑張っても速くは走れないのです。つまりサーキットを走るということは決して自由ではありません。クルマの限界を超えた自由ははなから存在しないのですから、まずクルマをキチンと走らせることを心がけるべきです』。
『サーキットを走っているのにレースで他人と競争するのが怖いと思っている人がいます。ですが、他人と一緒に走るのが怖いと言う人がサーキットを限界で走ることのほうが危ないと思いませんか』。
『レースに参加する時、最も大切なのはスピンやコースアウトをせずに安全に走行を終えることです。レースではひとつの目的に向かってたくさんの人が走っています。あなたのスピンが原因で、あるいはあなたのクルマの故障が原因で何かが起きてしまったら、と想像してみて下さい。ひとりよがりは駄目です。そういう人に限って運転も自分本位で、クルマ本来の性能を使えていないものです』。
『自分の意識と自分の速さを認識した人は、間違いなく安全に速く走ることができます。後はみなさんがが自分を追い詰めた時にも、その認識を持ち続けることができるかどうかだけです』。
『ある走行会で整備不良のクルマがオイル漏れで燃えてしまった例もあります。傍若無人な運転をする人がスピンやコースアウトする場合も少なくありません。日本のモータースポーツには手軽さが必要ですし、少しずつ垣根は低くなってきているようですが、逆に手軽さを気軽さとはき違えてることがないようにしたいものです』。
『モータースポーツに参加するのも、クルマを運転すること自体も危険をはらんでいます。ですがクルマの運転がはらむ危険のほとんどは人間の意識で回避できます。レースの安全を確保するためにも施設やクルマの装備を充実するだけでは十分ではありません。レースに参加する人全員の意識の持ちようが最も大切です』。
『モータースポーツはもともと不公平なスポーツです。絶対的なイコールコンディションはありえません。だから結果を求めるよりプロセスを楽しむべきですし、そこに価値があるはずです。プロではないのですから財産や身の危険を冒してまで先を急ぐ必要はありません』。
『モータースポーツ、特にアマチュアのモータースポーツは善意の上に成り立っています。無意味なブロックをしたり強引にインに入ったり、他人を犠牲にして自分が優位に立つのが許されるのならばそれはモータースポーツではありません。ライバルより上位でフィニッシュするより、ライバルに「あの人とはもうレースはしたくない」と思われないようにレースを終えるのがグラスルーツモータースポーツのボトムラインです』。
『なぜレースに出たほうがいいのかと言うと、自分とまじめに向き合う機会、それもかなりの極限状態で自分と対峙する機会が持てるからです。今の世の中、自分しか頼れない、という状況に身を置くことは少ないでしょう。それを実現できるのがレースです』。
『サーキットを走るにしても、一人で走るぶんには自分本位で走ることができます。追い求めるものは絶対的な速さだけですから、疲れたら休めますし、タイムが出なくても自分で納得すればいいのであって、全てを自分のペースで進めることができます。
それはそれでいいのかも知れませんが、逆の見方をすれば、一人で走っているので自分の本来のポテンシャルに気づいていない可能性もあります。もしそうならば、もったいないと思いませんか。
ひとつの目的に向かって他人と走る時にはラップタイムよりも大切なことがあります。レースに求められるものは相対的な速さです。その人が競り合いという流れのなかで、その瞬間、その場で、その状況で何ができるかを連続して判断できるかが勝敗を分けます。自分の都合で走っていては追いつかないものです。流れの中で判断し、流れにまかせる。それが、本来運転に必要な無意識行動を育てることにつながります。
現代のクルマはレースをしたぐらいでは壊れません。あなたが何をクルマに求めているかを確かめるためにも、一度ヨーイドンをしてみませんか』。
※掲載した写真は2007年1月27日に開催したYRSエンデューロ&スプリントの模様です
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YRSスクールレースの案内は以下の頁にあります。
・2月7日(土)YRSエンデューロ規則書&申込みフォーム
・2月7日(土) YRSスプリント規則書&申込みフォーム
ユイレーシングスクールのグラスルーツモータースポーツ礼賛は次号も続く