トム ヨシダブログ

第8回 温故致信

  今から30数年前の話なんて、興味がないかも知れないけれど。

  確か1977年ぐらいのことだったと思う。まだ、日本の道にターボチャージャーで過給された乗用車が走っていなかったころの話。
  大阪のある会社がアメリカからターボチャージャーのキットを輸入し、国産車用に転用して販売することになった。その試作品を搭載したスカイラインにドライバー誌の記事を書くために試乗した。もちろんターボチャージャドエンジンは初体験。ずいぶんと前のことだから詳しいことは覚えてないが。それでも、初めて体験したターボチャージャーの『底力』には大いに驚かされ、ますますクルマの運転が楽しくなったことが記憶の片隅に鮮明に残っている。

トゥインゴGTのターボチャージド1,148ccエンジン。くねる吸気パイプ。


ルーテシアRSの1,988ccNAエンジン。

  それはこんなことだった。

  「ターボチャージャーで加給されたレシプロエンジンが、加給されない、いわゆるナチュラルアスピレーションのレシプロエンジンより大きな馬力を発生することは情報として知っていた。排気ポートの下流にタービンを備え、排気ガスの圧力でタービンを回す。同軸上に設けられたコンプレッサーが空気を圧縮して吸気ポートに送り込む。結果として大量の空気が送り込まれることになり、それに見合った燃料が供給されればナチュラルアスピレーションのそれよりも大きな爆発圧力がシリンダー内で発生する。すなわち、ターボチャージャーを装着することで、エンジン本体の構造を大幅に改造することなく大きなパワーを得ることができる」。
  そんな予備知識があって、多分ノーマルのスカイラインよりもパワーが出ているんだろうな、ということは想像で来たが、では実際に大きくなったパワーが何をもたらすのかは未経験ゆえにわからなかった。

  試乗は一般道で行った。御殿場周辺だったはずだ。
  その会社の人からステアリングをまかされ、五感をスロットルペダルに集中して走り出す。レシプロエンジンという原動機は、電気モーターと異なり回転が上がるに連れてパワーが幾何級数的に大きくなるのが特徴で、それが人間の感性をくすぐるところがある。
  回転を上げないで走っている分にはふつうのスカイラインだったクルマが、加速中に少しだけスロットルを開ける時間をながくしたとたんにお尻が沈み込むような加速度をもたらす。2速で回すと手がつけられないような加速を見せる。しかも、3速でも、4速でも回転を上げるようにスロットルを開ければ、それまで感じたことのない頭が後に引っ張られるような加速度を感じる。
  ふつう、低い回転からスロットルを踏み込んでもナチュラリーアスピレーテッドエンジン(NAエンジン)は反応しない。エンジンの回転が上がって、空気を吸い込む量が増えないとだらしないところがある。

  ターボチャージャーをおごられていても、回転が低いとまだるっこしい部分はある。しかしスロットルを踏み込み始めてから、ちょっと辛抱すると突如としてモリモリとパワーが出てくる。これがタイムラグというやつか、と納得。スロットルの開け方いかんによって、その後に続くパワーの出方も異なる。それまでの大きくなったパワーを見てやろうという期待感が、どうすればエンジンの『ツキ』をよくすることができるかという興味に変わった。
  コツが、ガバッとスロットルを踏み込むのではなく、そろっと開けて待つ。回転が上がりだしたころ、探りながら開ける。リニアに反応するのを確かめたら、ドバッと開ける。燃費を考えなくてもいいのなら、ターボチャージャーの目を覚ます方法はこれだと思った。
  過給が始まってからのパワーは、もちろんスカイラインのものではなく、ふたまわり排気量の大きなエンジンを載せたような荒々しささえあるものだった。

  しかし、その試乗で最も感銘を受けたのはターボチャージドエンジンが見せる登坂での『底力』だった。絶対的なパワーが大きくなったことよりも、そのエンジンの『力の出し方』に心を打たれた。

  クルマがいかによくできた道具だとしても、坂を登る時にはそれまでより大きな駆動力がいる。駆動力の源がトルクだ。トルクが細いと坂道にさしかかると回転が落ちてしまう。するとシリンダーが混合気を吸い込む量がすくなくなるから、ますますトルクがやせてしまう。そこでギアを落としてエンジンの回転をあげ、シリンダーに活力剤を注入してしのぐことになる。ところが、ターボチャージドエンジンは、ギアを落とさなくても、一瞬のもたつきはあるものの、ガバッと開けずに少しずつタービンの回転が上昇するようにスロットルペダルを操作すれば、ギアを落とすでもなく、坂道を加速して登ってしまう。
  これには驚いた。パワーが何馬力アップしているとか、トルクの数値はこうなっていますとか言う前に、走行抵抗を受けた時のトルクの出方はNAエンジンでは味わえない開放感だった。
  平坦地や下り坂はストレスがないから、それほどターボチャージャーの恩恵を感じることはない。単に「パワーがあるじゃない」という感じだ。NAエンジンもエンジン回転が上がりやすい状況であればそれなりに加速する。ところが、ターボチャージドエンジンはタイムラグさえ味方につけてしまえば、登坂でさえスロットルを戻さなくてはならないほどキチンと加速する。むしろ負荷がかかっているほうが「力強く」感じる。
  当時の記事が残っていれば書いてあるはずだ。ターボチャージャーの本質はパワーアップとか数値的なことはもちろんだが、エンジンの性格を変えてしまうところにある、と。
  そして、これは書いたかどうか忘れたが、ターボチャージドエンジンを搭載したクルマに乗る時はスロットルコントロールをより繊細にする必要がある。スロットルを開ける時は、常に「戻す」ことを前提にスロットルを開けるようにするべきだと。

  トゥインゴGTのエンジンのことを書こうとあれこれ考えていたら、結局、自分自身のターボチャージドエンジン原体験にいきついてしまった。
  思うに、この時にスロットルをオン/オフ的に操作するのでは、エンジンの特性によってはそぐわない場合があるということに気がついた。加給されたエンジンをコントロールするには、壁についている電灯をつけるオンオフスイッチではなく、ラジオのボリュウムコントロールを回して音を大きくしたり小さくしたりするような、連続的で間断のないスロットル操作が求められることを学習した。おそらく、このことは今に続く自分のドライビングポテンシャルの向上を大いに助けてくれたはずだ。


トゥインゴ3兄弟のエンジン性能曲線。どれも個性にあふれる。

  ドライビングスクールの同乗走行で実に様々なクルマに乗る。軽自動車からSUV。レース仕様に武装したポルシェGT3まで、いろいろなエンジン特性のクルマに乗る。しかし、同乗走行はお手本を示すのが目的だから、走りながらの説明に忙しいこともあり、とりあえず走ってしまうのでそれぞれの性格まで正確に覚えていることは少ない。
  しかし今回、トゥインゴGTがやってきてじっくりと付き合うようになった。そこはそれ、長い付き合いになるのだから相手の性格も知たくなるというもの。
  そこで、ルノー・ジャポンに頼んでカタログを送ってもらった。トゥインゴ3兄弟と兄貴分のルーテシアRSのだ。ついでに最近発表されたばかりのメガーヌRSのカタログも送ってもらった。

  トゥインゴ3兄弟のエンジンは、それぞれ1,000ccNA、1,200ccターボ、1,600ccNA。最大出力はこの順番に75、100、134馬力。最大トルクは同じく、10.9、14.8、16.3Kgm。それぞれ数値は異なるが、クルマを押し出すトルクの出方が違うのがわかる。ちなみにそれぞれの車重は、980、1、040、1,120Kg。(数字は全てカタログ値)

  パワーもトルクも最も小さいトゥインゴは、小さなエンジンをブンブン回してクルマを活発に走らせるのが向いているかも知れない。NAエンジンだからスロットルレスポンスも素直なはずだ。
  エンジンが上まで回るトゥインゴRSは、回るけれどもトルクの山が険しいのでこまめにシフトしてエンジン回転に意識すると運転が楽しいかも知れない。
  エンジンが2,000回転も回っていれば最大トルクの9割がたを発生するトゥインゴGTは、タコメーターを見ずに加速度を感じながら、できるだけ低い回転でシフトアップするとターボチャージドエンジンの快感を覚えることができるかも知れない。

  どんなクルマにもそれぞれの性格があって、それぞれの味付けがなされている。目的に応じた使い方ができれば、クルマという道具を使いこなすことができれば、パワーがあろうとなかろうと、それは問題ではない。この、エンジン性能に結構ドラスティックな違いがある3モデルが用意されたトゥインゴは、どこか、将来のユーザーに対して「あなたはどれをお選びになりますか?それはどんな理由からですか?」なんて聞いてくれているようで心地よい。

  で、3兄弟の中で唯一過給されているトゥインゴGT。カタログを見て思ったのだが、トラクションコントロールを解除できなくて正解だと確信を致した。
  排気量が小さいから絶対的なトルクが小さいとは言え、どんなところからでもクルマを加速させることができるトルク特性だから、間違って開けてはならない場面でスロットルを開けてしまうかも知れない。確信犯的にそうした場合でも、トラクションコントロールの介入がなければ、ひょっとすると操縦性を大きく変えてしまう可能性もある。
  我々がクルマを使う場合、ずっと加速しっぱなしという状況はまずないわけで、加速の後には減速がある。トルクがあり余っていて加速のいいクルマは、少しスロットルを開けている時間が長いだけで内包するエネルギーを増加させる。速度の上昇に対して二乗で、クルマは止まらない、曲がらない道具に変貌する。走行中のクルマが最も安定するのは加速も減速もしていない時だから、もしスロットルを戻すのが遅れて加速の直後に減速という事態になれば、クルマがバランスを崩す可能性が高い。
  うん。やはり、トゥインゴGTには解除できないトラクションコントロールがふさわしい。


ルーテシアRSの1,988ccNAエンジンとメガーヌRSの1,988ccターボチャージドエンジンの性能曲線。

  ターボチャージドエンジンと言えば、今度発表されたメガーヌRSにも搭載されている。魅力的なクルマなので、ぜひオーナーになる方はトルク特性を意識しながら運転してみてほしい。より快適にメガーヌRSを走らせられるはずだ。

  これはターボエンジンに限ったことではないが、スロットルの開け方にちょっとだけ注意を払ってみてはどうだろう。
  右足のかかとをしっかり床につけて、靴の中で足の指を開くようにして、ふくらはぎが緊張する感じでつま先だけを動かしてみる。ベタッとペダルに足を乗せているよりも、自分の意思がダイレクトにスロットルに伝わるような気がするはずだ。
  もちろん、運転中いつもそうしているとくたびれてしまうから、時々やってみればいいし、峠道を走る時とかある条件の時だけでもかまわない。慣れてくると意識しなくてもペダルの操作がこなれてくる。
 
  そして、ターボチャージャーで過給されたクルマに乗る時は、戻すタイミングを間違えないようにスロットルを開けてほしい。よくしつけられた最近のエンジンは、昔みたいな『ドッカンターボ』ではない。しかし、人間の生理で計るのが難しいほどに加速する場合があることを覚えておいておきたい。「確信のもてる範囲」でスロットルをコントロールするのが粋というものだ。


半年ぶりの自宅。いつもの405(フォーオーファイブ)は、
車間距離もそこそこに80マイル/時(120Km/h)で流れる。
速度を出すと危険?車間距離をとらないと危険?

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  ユイレーシングスクールでは2月、3月に以下のドライビングスクールを開催します。クルマの使い方に興味のある方は参加してみませんか?トゥインゴGTもお待ちしています。(詳細は以下の案内頁をご覧下さい。)
  特に3月19/20日に開催するツーデースクールはクルマの動きを理解し、操作と挙動の因果関係を把握するための短期集中カリキュラムとして好評です。
   
■ 2月20日(日)YRSドライビングワークショップ FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=dwf

◆ 2月24日(木) YRSドライビングスクール 筑波
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=tds

■ 3月4日(金) YRSオーバルスクール FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=os&p=osf

■ 3月19、20日(土、日) YRSツーデースクール FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=2ds
□クルマはよくできた道具だから、性能を発揮させるためにはそれなりの使い方を知る必要があります。ユイレーシングスクールが10周年を記念して制作したCDを聞いてみて下さい。バックグラウンドミュージックもないナレーションだけのCDですが、クルマを思い通りに動かすためのアドバイスが盛りだくさんです。
YRS座学オンCD案内頁:http://www.avoc.com/cd/


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