トム ヨシダブログ

第5回 体力測定に挑戦

 オドメーターがそろそろ3000を刻もうとするある日。トゥインゴGTをサーキットに連れ出した。走行距離から言って「まだ早いかな」とは思いつつ、赤いコンパクトハッチの実力をどうしても試したくなって1回目の体力測定に挑んでみた。
 

走行前に記念撮影。遠くに1コーナーがかすむ。

 舞台は筑波サーキットのコース1000。ここは、2000年からユイレーシングスクールがドライビングスクールに使用しているコース。全長は1,039メートルとサーキットとしては短い部類に属するが、コース幅は全域に渡って11メートルと広く、奥の深いコーナーがほとんどなのでドライビングポテンシャルを向上させるにはうってつけのコース。

 茨城県下妻市にある筑波サーキットにはコース2000と呼ばれる全長2,045メートルのコースもあるが、『クルマの挙動を知る』、『操作と挙動の因果関係を検証する』、『クルマを操るコツを学ぶ』にはコース1000のほうが適している。
 理由は明快だ。コース1000はコーナーの半径に対するコース幅が広いので、とりあえずどこを走ってもそこそこの速さで走ることはできる。別の見方をすれば、それだけ安全でもある。
 しかし、例えば足を(サスペンションを)硬めただけのロードスターで1周43秒で走ろうとすると、広いコースの中で走行ラインを絞り込み、かつクルマを前へ前へと進めなければならなくなる。
 つまり、手軽に楽しむことのできるコースであると同時に、速く走るためにはドライビングテクニックはもちろん、冷静に状況を判断する能力を養うことができる。実際、コース1000のYRSドライビングスクールでサーキットデビューを果し毎日の運転を楽しんでいる人もいれば、YRSドライビングスクールで腕を磨いて本格的なレースに挑戦している人もいる。

・筑波サーキット コース1000レイアウト
http://www.avoc.com/renault/t1ck_layout.jpg

 ストレートエンドでは速いクルマでも時速150キロほどしか出ないコースだが、サーキットに変りはなく、街中や高速道路を走るのとは違い、それなりに車を動かす方法を身につけている必用がある。
 クルマを運転する人全てがサーキット走行を経験することは不可能に違いないが、サーキットは一部の特別な人たちのものでもなく、モータースポーツに興味のない人にも運転の楽しさやクルマを動かす時の決まりごとを教えてくれる場所だから、できるだけたくさんの人がサーキットに興味を持ってもらえると嬉しい。
 日本では「スピードを出すと危険」というイメージが定着しているから、サーキットを走っていると言うと眉をひそめる人が多いがそんなことはない。公道でもサーキットでも運転という操作自体に変わりない。むしろ、運転の奥深さを知るためにもクルマの限界で走ることのできるサーキットの存在は大きい。


兄弟も参加していた。

  1周1キロメートルのコースには設計上のコーナーが14個ある。しかもコース幅が広いので、初めてコース1000を走る時にはどこをどう走っていいかわかりにくい。控えめな速度で走っていると、なおさら走行ラインを見つけることが難しい。なにしろコース幅11メートルというのは一般道の4車線近くの広さだ。そこを自由に走ってもかまわないと言われても、クルマをどこに向けたらいいのか困惑して当然。実際には5回しかコーナリングしないのだから、もっともな話だ。
  しかし、速く走ろうとするとラインが見えてくる。そんなもんだ。
 
  速く走ろうとする。1周のラップタイムを短縮しようとすると、コーナーもストレートもスロットル全開で走ればいいと考えがちだ。ところがサーキットと言えどもコーナーの手前では減速をしなければならないし、コーナリング中はスロットルを全開にすることができない場合が多い。
 
  しかしテーマを絞り、速く走ろうとすると、必然的にクルマの性能を引き出すことを優先しなければならなくなる。速さを実現するのはクルマだからだ。クルマの性能を引き出すためには、4本のタイヤを常に路面に押し付けておかなければならない。そのためには、いかなる場面でもクルマが安定するように走らなければならない。この思想が理解できれば、サーキット走行は格段に楽しくなるし、速く走れもする。
  走行中のクルマが最も安定しているのは直進状態だ。しかしコーナリングをする必要もある。では、コーナリング中にはどうすればいいのか。そこから導き出されたのがアウトインアウトの走行ラインだ。コーナーの手前でコーナーのアウト側により、コーナーの中でコーナーの中心に近づき、コーナーの出口でコーナーのアウト側にはらむ。これを一筆書きのような走りで実践できれば、コーナリング中のクルマを安定させることができる。つまり、アウトインアウトとはコーナーの直線化という概念から生まれたテクニックなのだ。
  かくして、走る前にコース図とにらめっこしてクルマが最も安定するラインを見つけることができれば、実際に走る段になってアタフタする必要はない。


サーキット走行後のタイヤ。決してサーキット向きではないが頑張ってくれた。

  サーキットを走ると言っても、プロドライバーのように速く走る必要はない。その人の経験と、その人のクルマの速さに応じて『それなりの速さ』で走ればいい。
  サーキットを走るのだからと自分の実力以上の速さを追いかける人がいるが、あれはもったいない。サーキットで遅いと恥ずかしいと言う人がいるが、それももったいない。
  サーキットをたった一人で走ることはまれだから、他人への配慮を忘れないのなら誰もが自分のペースで走るべきだ。


プラスティック製のレンズカバーには必要ないが、昔は飛散防止のためにテープを貼るのが決まりだった。ちょっと雰囲気。

 
 コースに慣れてきたら、少しだけペースを上げてみる。冷静に観察すると、ペースを上げるとクルマが落ちつかない場面に出くわすはずだ。クルマが不安定になるのは、タイヤが路面をつかむ力が弱まった時だ。それが1本のタイヤで起きたのか、それとも2本のタイヤでか。なぜそうなったのか。
  間違いなく、そうなったのはペースを上げた時の操作をクルマが受け付けてくれなかったからだ。その時の操作を思い出し、ペースを上げる時に調整すべき点を想像することができれば、それだけでドライビングポテンシャルは向上する。

  クルマの運転は人間本位に行わないほうがいい。クルマが意図したように動いてくれなければ目的を達成することはできない。クルマを思い通りに動かしたければ、クルマが走行中にどんな状況にあるか感じ取ることが大切だ。クルマは常にどうなっているかを語り続けている。あとは貴方が聞く耳を持っているかどうか、それが運転のうまさと楽しさへの入口だ。


全長3,600mm。およそサーキットに似つかわしくないトゥインゴも元気いっぱい。

  体力測定の結果はというと、エンジンをいたわりながら走ったコース1000のラップタイムが49秒8。決して遅くない。それよりも、あらゆる状況でリアがブレークしなかったのは特筆ものだ。クルマ自体の安定性が高い証拠。
  トラクションコントロールをオフにして走れなかったのが残念だが、それもトゥインゴGTの欠点ではない。(トラクションコントロールについては別項で)
  小さなホットハッチは筑波下ろしが吹きすさぶコース1000を元気に走り回った。次回の体力測定ではもう少し速さを見つけることができるはずだ。

・YRSオリジナルビデオ 筑波サーキット コース1000
http://www.avoc.com/5media/video/movie.php?t=go_racing

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  ユイレーシングスクールではウエブサイトにドライビング理論を学ぶための教科書を公開しています。クルマを安全に走らせたい、クルマの運転を楽しみたいと思っている方にお勧めです。

・ユイレーシングスクール教科書
http://www.avoc.com/5media/textbook/textbook.php?page=0


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