トム ヨシダブログ


第708回 加速度と速さ

先日のYRSオーバルレースFSWの空いている時間に、SさんのメガーヌRSにパフォーマンスボックスを取り付けて最近走りがスムースになったSさんとボクの走りを比較するために走行データをとってみた。

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データは速度とプラスマイナスの加速度と横向き加速度。右の楕円形の走行軌跡の直線部中間にある緑色の点がスタート/フィニッシュラインで5周したうちのベストラップのグラフ。上ふたつの緑色のグラフが横Gで赤いグラフが速度。下ふたつの紺色のグラフが加速・減速Gで赤色のグラフが速度。それぞれ上側がSさんで下がボクの走り。
Sさんの最高速は108.16キロ。最大横Gは瞬間的に1.131G。最大減速Gは-0.889G。ボクはと言うとそれぞれ109.26キロ、1.105G、-0.972G。ラップタイムはSさんが20秒10で19秒70のボクの勝ち。加速度の立ち上がり方に微妙なちがいがあって面白い。改めて詳しく検証してみたい。
1周20秒のコースで2回コーナリング。しかも同じ曲率でも下のコーナーにはかなりの傾斜がある。荷重のかけ方でラインが変化する180度コーナーを10秒に1回走るのだから意識しないでも運転がこなれる。多くの方にYRSオーバルFSWを走ってもらいたいと思っている。

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3月11、12日(土日)開催のYRSツーデースクールFSW はまだ申込み受付中です。



第706回 続・クルマとの対話が楽しい

705回 クルマとの対話が楽しい』を読まれた方から、「4輪操舵車の場合はどうなんだ」という話があった。第349回 4コントロール 同位相でも触れているけど、改めてメガーヌRSに搭載されている4輪操舵システム、4コントロールのコーナリングについて自分の経験を。

ルノー・ジャポンから借りているメガーヌRSトロフィーには4輪操舵装置である4コントロールが備わっている。高価な装備の目的は、前輪操舵車がコーナリングする際に起きる可能性のある前後タイヤのグリップの不均衡を是正するためだ。

前回説明したようにターンイン直後や高速コーナリングではクルマの向きを変えるために前輪が猛烈に働いている。特にアウト側前輪。タイヤが働くということは路面との間にズレが生じ、簡単に言えばそれがそのままタイヤのグリップの増加につながる。一方の後輪は他力本願的に遠心力を受けるまで路面とのズレを生じないから、どうしても前輪に比べるとグリップが不足がちになる。前後輪にグリップの差が生まれるとクルマがバランスを崩す可能性が高まる。それを補おうというのが4輪操舵の思想だ。

もちろん、だからと言って前輪操舵車の旋回特性が4輪操舵車に全面的に劣るかというとそんなことはない。100年以上も前から馬車の系統を引き継ぎクルマは前輪がステアするのが当たり前だった。現代の前輪操舵装置、例えばダブルアクシスストラットなど完成の域に達していると言ってさしつかえない。繰り返しになるけど、クルマが曲がらないのは運転手が曲げ方を知らないだけなのだ。

改めて簡潔に言えば、4輪操舵装置はクルマを曲げるということに対してフールプルーフ思想を実現したものだと言える。

さて、メガーヌRSトロフィーの4コントロールはある速度で後輪のステアが逆になる。低速域では後輪は逆位相に、高速域では同位相に変位する。

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主に低速時
4輪操舵車逆位相コーナリングでのタイヤの軌跡
 
現実にはあり得ないけれど視覚的な理解のために

それぞれに目的がある。後輪が逆位相で転舵した場合、舵角が同じだとすると(そんなことは現実にはないけど)後輪は前輪の軌跡を踏みながら転がる。つまり理論的には内輪差がなくなる。車両間隔がつかみやすくなる。後輪もクルマの向きを変えるから小回りが効くことになる。

実際のところはどうか。湖西道路を降りてからわが家へ向かう途中に十字路を左折する。変形の交差点で左折は鋭角に曲がることになる。ある時メガーヌRSトロフィーと以前借りていたルーテシアRSでは明らかにハンドリングが異なることに気が付いた。どこが違うかと言うと・・・。
引手でステアリングホイールを回すので左手を時計の11時あたりに持っていって、それを7時くらいまで引き下げる。違いは、ルーテシアRSの場合は手を引いてから1拍ぐらいホールドする間があったのだけど、メガーヌRSトロフィーの場合は7時まで引いたとたんに戻し始めないとイン側に巻き込むような挙動を見せたのだ。ステアリングホイールを引く速度を速めると7時まで引く必要がない場合もある。腰で感じるリアのロールに起因する横Gが少ないから、4コントロールがクルマのコーナリングに積極的に関わっているのがわかった。


メガーヌRSでYRSトライオーバルFSW走る。4コントロール逆位相が見てとれる。

 

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高速走行時
4輪操舵車同位相コーナリングでのタイヤの軌跡
 
同位相の場合は旋回中心があいまい
クルマ任せになるけど
クルマが平行移動する感じ
 
あくまでもイメージです

高速域で後輪が同位相にステアするのはクルマを安定させることが第1目的。高速で走っている時にステアリングを切る。高速だから舵角のついた前輪には比較的大きなズレが生じる=前輪のグリップが極端に高まる≒後輪のグリップは低いままではクルマがバランスを崩す可能性が高い。具体的に言えば、急なステアはオーバーステアにつながるはずだ。
そこで後輪を同位相にステアさせることにより前輪に舵角がつくと後輪にも舵角がつき、後輪に遠心力がかかるのを待たずに後輪のグリップを前輪のそれにみあった大きさにしてバランスをとる。換言すれば本来前輪駆動車では他力本願的に後輪に遠心力が働くのを期待するしかなかったのを、自立本願で必要なだけのスリップアングルを手に入れることができるようになり4本のタイヤでのコーナリングを実現できることになる。

大津の自宅に最初のメガーヌRSを配車してもらい初めてFSWに向かった時のこと。新名神の草津ICから東に向かうと高速道路にしては曲率の小さなコーナーがひとつある。登りの左コーナーでこれまた高速道路にしては大きめのカントがついている。
初めてのメガーヌRSだったが少しばかりオーバースピードでターンイン。どんな場合でも一発でステアリングを回さずに探りながら切り足すのだけど、いつもなら切り足していく過程で腰で感じる横Gが増えるはずなのにそれがない。横Gが抜けたと言うか、ある程度ステアリングを切った段階でクルマが旋回ではなく、何と言うか、円運動をしながら平行移動したと言うか。横Gが増えなかったのには戸惑ったけど、よくよく考えればアウト側前後輪の負担も増えなかったのでこれが4輪操舵が目指すところなのだと納得。逆に、このコーナリングを自分の手柄だと勘違いする人が出なければいいなとも思った。

ということで最後に一言。

自動車技術の進化はめざましい。人間は昔に比べれば安直にクルマを運転できるようになった。クルマの性能に助けられて運転している人も多いはずだ。でも今までもこれからもずっと、クルマを手放しで運転できるわけがない。やはり我々の生活を豊かにしてくれるクルマに畏怖の念をいだき、自分も運転を上手くなろうという気持ちを持つことが大切ではないかと改めて思う。



第705回 クルマとの対話が楽しい

クルマの機能は加速、減速、旋回の3つだけ。そのうち加速と減速はクルマが直進状態にある時に性能を発揮しやすいことがわかっている。逆に旋回中のクルマの加減速には大きな制約があることも周知の事実。ということは、クルマはそもそも旋回が苦手なんだ、と言えるかも知れない。という前提で原因と対策を考えてみる。

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旋回しているクルマの4本のタイヤの軌跡

前輪にステアリング装置がついているクルマがコーナリングをする時、その旋回中心は後輪の車軸の延長線と左右前輪それぞれの車軸の延長線が交わる点になる。ステアリングを切るとまずフロントが向きを変え始め後輪がその跡を追うが、旋回中心との位置関係で内輪差が生まれる。舵角が大きければ大きいほど内輪差も大きくなる。クルマがコーナリングを終えた時、最終的に最も長い距離を転がったのはアウト側の前輪。4本のタイヤのうち最も働いたことになる。これが第1の伏線。
図のようにクルマがコーナリングしている時、遠心力が働きクルマはコーナーの外側にロールし荷重はアウト側の前後輪に大きくかかっている。速度を上げれば上げるほど遠心力が大きくなるからアウト側前後輪への負担はますます増える。運動エネルギーは上昇した速度の二乗に比例して大きくなるから、クルマの向きを変える役割りをほぼ一手に引き受けているアウト側前輪の負担は他の3本と比べものにならないほど大きい。第2の伏線。
速度が速ければ速いほど、そして舵角が大きければ大きいほど負担は増すから、アウト側前輪が悲鳴を上げる可能性を無視することはできない。

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アンダーステア発生時の軌跡と前後輪のスリップアングル

ステアリングを切るとまず前輪がたわむ。直進方向に向いていた大きな運動エネルギーの向きを変えるために前輪はたわみ、路面とズレながら回転し徐々にクルマの向きを変え始める。この時タイヤの向いている方向と実際にタイヤが進む方向、正確に言えばホイールの向いている方向と実際にタイヤが進む方向のズレを生じる。ホイールが転がる方向に対するタイヤのズレをスリップアングルと呼ぶ。遠心力が働くからタイヤは本来の向きより外側に向かって転がり続ける。やがて前輪に遠心力が働き始めれば、遠心力もスリップアングルを増加させる源となる。
一方ステアリングを切った瞬間にはまだ後輪には遠心力が働いていない。後輪にはステアリング装置がついていないから後輪と路面のズレ=スリップアングルは遠心力に頼らなければ生じない。つまり、ある瞬間には前輪にはスリップアングルがついているが後輪にはそれがついていない、もしくは前輪のスリップアングルが後輪のそれより極端に大きいという状況が存在するということになる。

ここで注意すべきなのが、タイヤが路面との間にズレを生じた場合、あるところまではズレの増加がグリップの増加につながる点だ。だからタイヤにスリップアングルがつくことを否定する必要は全くない。タイヤのグリップ自体は向上するのだから。問題になるとすれば4本のタイヤそれぞれのスリップアングルの大きさだ。

もしコーナリング中のクルマの前後輪のスリップアングルの大きさ=タイヤのグリップに差があれば、前輪>後輪あるいは前輪<後輪を問わずクルマがバランスを崩しやすくなるのは明らかだ。バランスを崩さないまでも、図のように何らかの理由で前輪に過大なスリップアングルが発生してアンダーステアに陥った場合、グリップが大きくなってない後輪は働いていないのだからコーナリング速度自体が速くない。サーキットを走る時にアンダーステアを出してはだめだと言われる所以だ。

自動車学校で「急ハンドルは駄目ですよ」と言われるのも、前輪に比べてグリップが低くなった後輪が引き起こす不測の事態を避けるためだ。

さて、クルマが大なり小なりアンダーステアに陥る過程がわかった。クルマが曲がる時に常に大きな負担を負っているアウト側前輪が悲鳴を上げて役割を果たせなくなったのが原因だ。ではどんな操作をしたのか。大きく分けてふたつ。
ひとつはターンインの時に俗に言う『バキ切り』、一瞬にして大きな舵角を与えた時。ふたつ目はブレーキングで前輪に大きな荷重がかかっているのにステアリングを切った時だ。どちらもアウト側前輪のグリップが無限だと勘違いしている操作だ。運動エネルギーの方向を変えるには全くもってふさわしくない。

結局のところ、加速と減速についてはクルマ任せでも構わないが、ことクルマを曲げることに関しては4本のタイヤの使い方を正しく学ぶべきだろう。タイヤの路面を捕まえる力には限界があるのだから、練習して工夫して限界を越えずに限界を高める操作ができるようになれば、本来クルマが苦手であろう旋回の次元を上げられると言うものだ。クルマ固有の旋回性能をどれだけ限界近くまで引き出せるかは乗り手次第だと言える。

折に触れ、個人的に『発進から停止まで前後輪のスリップアングルを合計した時にそれぞれの和が限りなく等しい走り』を目指していると言ってきた。クルマを安全に速く走らせる唯一の方法だと思うからだ。長い間クルマと対話してきて導き出した結論だ。

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コーナリング特性3態

ブログの702回に登場してもらったKさん。改めて極端に冷たいウエット路面のYRSオーバルスクールFSWに参加した彼の感想を紹介したい。

「トレイルブレーキの1なんかはまさに中低速コーナーのコーナリングスピードを上げるには必須だし、フルブレーキの練習も大いに役立ちました。ドンブレーキのやり方を誤解しているところがありました。何よりも横乗りでのコーナリングは、FF車を早く走らせる為のベストな解を体感させていただいたと思っております、まさに私が求めている運転技術でした」。

あの日。半径22m直線60mのYRSオーバルFSWでトレイルブレーキングの練習をしていた時。Kさんの走りを見てふたつのことに気が付いた。ひとつはスロットルオフが奥でブレーキングが強いからターンインまでに車速が落ちすぎるのとターンインの瞬間の姿勢が前のめり。もうひとつはトレイルブレーキング中の踏力が強いのだろうブレーキを引き摺っている間に失速すること。路面が滑りやすいというのも影響しているのかも知れないから、Kさんを助手席に『前後輪のスリップアングルの合計が均等』な運転を目指す操作を見てもらうことにした。
・YRSオーバルFSWはインベタでの練習だから180度コーナーの後半120度くらいを積極的にイーブンスロットルを使ってボトムスピードを上げる。
・立ち上がりで瞬間的にステアリングを戻しできるだけ手前でフルトラクション。到達速度を速めスロットルオフを遅らせずに右足をブレーキペダルに。
・パッドとローターが触るか触らないかの位置を探りわずかに抵抗を感じたらそのまま速度を落とさずにターンイン。
・ステアリングホイールを手のひらの摩擦で回すように慎重に。最初の舵角はごく小さく徐々に大きく。
・右足の位置はそのままで赤いパイロンの3本目ぐらいまでトレイルブレーキング。前輪のインリフトがないからフロントが逃げることはない。
・ブレーキを残しつつ探りながらステアリングを回す。180度コーナーの最初の3分の1に達しようという頃リアが穏やかに流れ始める。
・右足をスロットルペダルに戻し少しだけ開けてリアを落ち着かせてからステアリングを切り足すと再びリアがアウトに出るからスロットルオン。
・これが目指す挙動。ゆっくりごくわずかにスロットルを戻せば舵角が一定でもリアにスリップアングルがつく。
・4輪ともアウトに流れる兆候がを感じたらステアリングホイールを持つ手に少しだけ力をこめてラインをタイトにする。
・微妙なステアリングワークとごくわずかでゆっくりなスロットルのオンオフでクルマは円運動を続ける。
◎舵角がついている駆動輪である前輪のスリップアングルが過大にならないようにしながら、同時にではなくてかまわないので後輪にも前輪と同様のスリップアングルがつくように十分な遠心力を受けられる速度を維持した結果だ。

KさんのルーテシアRSは明確にフロントが逃げるアンダーステアにもズルッとリアが出るオーバーステアにもならずインベタのラインも外さずにコーナーを回ったが、厳密に言うと実は穏やかで微妙なアンダーステアとオーバーステアを繰り返しながら円運動をしていたのだ。それをニュートラルステアと呼ぶべきかどうかは別にして、FF車であろうとアンダーステアでしかコーナリングができない訳ではない。おそらくこれをKさんは探し求めていたのだと思う。

4輪がコーナーのアウト側に流れながら狙った通りの軌跡をたどりクルマが前へ前へと進む。前後輪の流れる量が最終的に同じになるように操作すれば、クルマはバランスを崩すこともなく我々が想像するよりも高い速度でコーナリングをすることが可能だ。それを実現するためにも、前後輪のスリップアングルを意識することが大切になってくる。

そんな訳ですから、YRSオーバルスクールFSWでタイヤのスリップアングルを意識しながら走ってみてはいかがでしょう。ご参加をお待ちしています。
・2月11日(土)開催 YRSオーバルスクールFSW開催案内へのリンク

 

 

 

 

※ 内輪差の話が出たついでに。
ニュースで知ったのだけど左折する時、いったん右にステアリングを切ってから左に曲がる迷惑な左折方法があって『あおりハンドル』と言うらしい。ガードレールとガードレールの間に入るような左折の場合はクルマの側面をこすりそうな感じになり、そうしたくなる気持ちもわからないではないけど、右に切るのはやめたほうがいい。自分が『バキ切り』をするので内輪差を少なくするためにいったん右に振らざるを得ないのだ、と告白しているようなものだ。最初の舵角を少なく徐々に切り足していけば、あるいは速度を落とすかすれば解決するのだから。
交差点に立って他人のステアリングワークを観察するのも面白い。まずほとんどの人が探りもせず躊躇しないで一気にステアリングホイールを回している。パワーステアリングのない時代にはできなかったことだ。自動車技術の発展が人間を油断させているひとつの例と言ったら言い過ぎか。

 


第690回 Gセンサー その1

G-Sensorを利用してブレーキを蹴とばした時の減速Gの立ち上がり方を可視化した。
サーキットであれ公道であれ短時間でスピードを落とそうとブレーキを蹴とばすのだろうけど、制動力と減速度は別物。間にタイヤのグリップが介在していることを忘れてはならない。ここでは蹴とばした結果何が起きているかを検証する。

フラッシュの後の後半は25%のスローモーションで表示されるようにしたので操作と挙動の関係がわかりやすい
・ブレーキペダルを蹴とばしたので減速Gが瞬時に立ち上がっている
・減速Gの大きさを表すバーの数がある程度のところまで急進的に増えるが
・その後バーの数が減ったり増えたり減速Gが一定していないことがわかる
・これはABSが介入した結果で一定のサイクルで制動力が抜けていることを表している
・制動力が低下するということは減速Gも減っている
・必然的に制動距離が伸びることになる

ブレーキペダルは蹴とばさないようにしましょう。どのように踏力を加えればいいかは、12月10日(土)開催のYRSドライビングワークアウトFSWアドバンストコーチングで説明します。実際にどのように踏力をかければ最短距離で減速できるか体験していただきます。定員は12名。お申し込みはお早めに。
※ 最短距離で減速できるようになれば次の操作までに時間的な余裕が生まれるので、クルマを安定させた状態にしてから次の操作を行えます。クルマの性能を引き出す第1歩です。

➡ 12月10日(土) YRSドライビングワークアウトFSWアドバンストコーチング開催案内



第688回 Gセンサー

スタッフYが見つけてきたスマホアプリのGセンサー。すごくシンプルでクルマの加減速Gと横Gが見てとれる。録画もできるからモニターにつなげれば大人数でも操作の検証ができる優れモノ。これはスクールに生かしたい。

今回は初めて試したので便宜上写真のようにスタッフYのクリオRSのフロントウインドウに取り付けた。本来ならホイールベースの中心付近に取り付けるべきなのだろうけど、ここはアプリの作動を確認するのが目的なので。

いつもYと話しているのだけど、YRSオーバルを使ったスクールをやっているとほとんどの参加者がコーナリング中にクルマが前のめりになっている。つまりなんらかの原因でアンダーステア傾向が強いまま走行を続けている。その原因のひとつがクルマがイーブンスロットルになっていないこと。
状況を説明して、こうだからこうしてみてはどうですかとアドバイスするのだけど、言葉ではなかなかニュアンスを伝えるのが難しい場合もあった。そこでこのGセンサーを使って操作の可視化を図り、参加者に状況を把握してもらい操作を修正する手掛かりにしてもらおうというわけだ。理にかなったグラフと参加者のグラフを比べれば、操作の過不足が明確になるはずだ。

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最初の動画は半径22m直線60mのYRSオーバルFSWをイーブンスロットルでインベタで周回した時のモノ。反時計回りに周回した。
イーブンスロットルはいわゆるアクセルだけで走行中のクルマが加速もしない減速もしない状況を作る、テクニックと言うより走り方の思想。クルマは加減速することで前後輪にかかる荷重が変化するから、それにつれてタイヤのグリップも変化する。だからイーブンスロットルを実現できれば理論上は前後輪のグリップが均等になるわけで、イーブンスロットルでコーナリングすればアンダーステアやオーバーステアに陥ることはない。結果的に望むならコーナリングスピードを上げることができる。

 

次の動画は同じYRSオーバルFSWを同じくインベタでトレイルブレーキングを使ってできるだけ速く周回したモノ。イーブンスロットルじと同じ反時計回りに周回した。
トレイルブレーキングはいわゆる引きずりブレーキングだけど減速のためのブレーキングとは目的が全く異なる。原理としてはターンイン時にフロントに荷重を残すことによってタイヤのグリップを前輪>後輪にして回頭性を上げる=ヨーモーメントを立ち上がりやすくする。ただし前輪に荷重がかかり過ぎているとターンインの瞬間にアウト側前輪が限界を越えてアンダーステアに陥る可能性が高くなる。ターンイン時にブレーキペダルに足を乗せていても前後輪に同じような荷重が乗っている状況が作れればクルマは思いの他高い速度からコーナリングすることができる。
ただトレイルブレーキングは回り込んだコーナーや中速までのコーナーには有効だけど、高速コーナーや短いコーナーではクルマがバランスを崩しやすいので注意が必要だ。

 

YRSオーバルをイーブンスロットルで走る場合、直線もコーナーも同じ速度で走りながら徐々にペースを上げていくように指示する。半径22mのコーナーならどんなクルマでも60キロ/時ぐらいまでならアンダーステアを出さずにインベタで周ることができる(正確に言うとクルマはアンダーステアでコーナリングしているのだけどパイロンから離れずに、という意味)。しかしそれ以上の速度になると前輪のグリップが運動エネルギーに負けてフロントが外に逃げ出す。
一方トレイルブレーキングを使う前提だと直線で加速できるからより高い速度でターンインすることができる。直線の終わりで必要ならば減速しブレーキを残してターンインするのだけど、踏力が適正ならばトレイルブレーキングの効果で前後輪のスリップアングルを均等に近い状態にすることが可能だから4輪を使ってコーナリングを始めることができる。コーナーに入る速度が高いのだからアプローチが終わって舵角による走行抵抗が増えたとしても、イーブンスロットルを実現できればコーナリング速度を上げることができる。横Gを示すグラフがイーブンスロットルで走る時より伸びる理由だ。



第680回 何でしょう?

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いつもいろいろな情報をもたらしてくれるスタッフのY
新しい秘密兵器を持ってきた
運転操作が理にかなっているか一目瞭然
やったことが丸裸になるという優れもの

 

「やってみますか」と言うからやってみたら、久々に燃えてしまったね。(笑) で、動画を再生してみると見事に言行一致。有言実行とも言うらしいけどさもありなん。思わずニンマリ。

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このアプリはいい。その場で再生して何が足りないのか、何をやり過ぎなのかがわかる。具体的に言うと、バキ切りもバレるし、ブレーキを蹴とばすのもわかる。どんな使い方をするか鋭意検討中。乞うご期待。



第638 回 クルマは前に進めたい

紹介する動画は昨年のあるF1GPのあるコーナーを回るバルテリ・ボッタス選手の走り。録画しておいたものを再生中にテレビ画面を動画撮影したもの。
オーバースピードでターンインしたのか理由は定かではないけれど、マシンがオーバーステアにおちいってカウンターステアを当てているシーンだ。

以前からコーナリング中のF1マシンのタイヤがたわむのを見て、「あんなに変形するんだ」、「リムから外れないのかな」、「タイヤがかわいそうだよねぇ」、「ハイトが高いからああなっても前に進むのかな」、「タイヤがたわまなければサスペンションが壊れているね」、「ハイトの低いタイヤだと滑り出したらスパーッっていくのかな」、「たわみが反応を遅らせるから250キロのコーナリングができるに違いないね」、「だからF1はサイドウォールがたわみやすい13インチタイヤなのかね」、「F1パイロットでもミスはするんだなあぁ」、「クルマは前に前に進めなければだめだよな」なんて勝手に独り言ちて楽しんできた。

さて。シャーシから伸びるサスペンションアームの先にあるハブに取り付けられたホイールまでは剛体。一方、ビード部でのみでホイールに密着しているタイヤは弾性体だ。この共存する形の変わらないものと形の変わるものに力が加わった時、当然のことながら弾性体であるタイヤにまず変化が生じる。

円運動を始めると遠心力が働くのでクルマは円運動の外側に向かってふくらもうとするのだけど、4本のタイヤと地面の摩擦力=グリップが生むコーナリングフォースが求心力となって遠心力が相殺され、クルマはふくらむことなく旋回を続けることができる。コーナリングの仕組み。
ところが遠心力と求心力が釣り合っていたとしてもタイヤは形の変わる弾性体なので、実はタイヤが向いている方向と実際にタイヤが進む方向との間にズレを生じながらタイヤは回転している。タイヤは円運動の外側に向かってズレながら回転している状態にあって、このズレをスリップアングルと呼ぶ。スリップアングルは4本のタイヤ全てに発生している。このズレこそ弾性体であるタイヤに生まれる最初の変化。地面との間にズレが生じるということは摩擦力が増すことに他ならないので、結果的にタイヤのグリップもさらに高まる。だからタイヤが路面とズレること、すなわちはタイヤにスリップアングルが生じることは旋回性能の向上に寄与していることになる。ただし、それはある条件の元においてだ。

前輪のスリップアングルが後輪のそれより大きい走行状態をアンダーステア、後輪のスリップアングルが前輪のそれより大きい場合をオーバーステアと呼ぶことは度々触れてきた。前者はステアリングを切ってもクルマが曲がらない、後者はステアリングを切っている以上にクルマのリアが回り込む。いずれの場合も前輪なり後輪が横滑りを起こしているわけで、その間は駆動力なり制動力が進行方向に生かされていない。つまり失速していることになる。
この動画の場合、ある瞬間にリアタイヤが大きな横力を受けグリップを増して踏ん張るものの横力に押されて大きくたわむ。次に耐えきれなくなったリアタイヤがそれまでより大きくズレることで横力を開放するから元の形に戻る。グリップを回復したタイヤだけど横力に勝てず再びたわむ。その繰り返し。クルマが、タイヤが回転した分だけ前に進んでいないことが見て取れる。

この動画のような変形はしないにしても、我々が乗っているクルマのタイヤにも様々な力が加わって形を変えていることは容易に想像できる。タイヤがタイヤとして機能していない瞬間があるかも知れない。やはりタイヤをうまく使えるように心掛けることが運転の上達には欠かせないとつくづく思う次第。

2022年のF1GPはまもなく2月23日に行われるバルセロナでのプレシーズンテストで幕を開ける。新たに18インチ径のタイヤが採用されるなど車両規則が大幅に変更になり、史上最多の23戦を戦うという今年のF1GP。果たしてどんなシーンを届けてくれるのだろうか。開幕戦は3月20日のバーレーンだ。

 

それにしても、この動画に出会って思ったことふたつ。

本当にハイトの低いタイヤがいいのだろうか、というのがひとつ。技術の進歩がトレッドゴムを進化させて扱いやすくはなっているのだろうけれど、滑り出したらスパーッといきそうで全面的に肯定できないのが本音。おそらく時代の流れがそちらに行っても、自分にとっては永遠の課題なのかな、と。昔運転の下手だった自分でもテールが流れればカウンターステアを当てることで速さを手に入れることができたバイアスタイヤ。思い出は尽きない。

もうひとつは、クルマをスタートさせてから止めるまでどんなコースを走ろうと、たとえ速く走ることが目的であったとしても、まず速さに優先して、動き出してから止まるまでの前後輪のスリップアングルの合計が等しくなるような運転を目指してきたことは間違いではなかったし、これからもそうしたいなと。



第539回 腰で曲がる

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YRSオーバルスクールFSWロンガーでIさんのポルシェ911に同乗
 
Iさんのポルシェはタイプ991Ⅱの7速マニュアル
1,440キロの車重の60%が後輪荷重
タイヤはフロントが245/35ZR20でリアが305/30ZR20
ホイールはフロントが8.5Jでリアが11.5J
最高出力は420hp

 

RRだからリアが重い上にリアのオーバーハングマスが大きくて、リアの荷重を吸収するのと大パワーを受け止めるためにリアタイヤがフロントタイヤに比べてかなり幅広で、成り立ちとしてはインバランスなクルマでも4本のタイヤの限界を使って速いコーナリングをすることは理論的に可能だし、できない話ではない。それは、タイヤの幅に関わらずコーナリング中常に前後のタイヤのスリップアングルが均等になるような操作を行うことで実現できる。

クルマがアンダーステア気味かあるいはアンダーステアでコーナリングしている時、前輪のスリップアングルは後輪のそれより大きい。つまり前輪は限界付近か限界を越しているのに対し、相対的に言って後輪にはまだ余力がある状態なので4本のタイヤの限界を使ってコーナリングしていることにはならない。オーバーステア気味、あるいはオーバーステアでコーナリングしている場合はその逆。4本全ての美味しいところを使っているわけではないから、遅い。

アンダーステアを出すとフロントが逃げるのを感じるはずだし、オーバーステアではクルマが失速しているのを感じるだろう。どちらもクルマが予定された軌跡に乗って前に進んでいるわけではないのだから、結果的にそのコーナリングは遅いことになる。

ブレーキ、ステアリング、スロットルをトランジッションを意識して操作すれば、前後輪のスリップアングルを均等に持って行くことはできる。もちろんコーナリングをしているクルマの動きは複雑だから、瞬間瞬間の話ではなく、コーナリングのアプローチ、コーナリング、脱出の各パートにおいて、という話だ。

Iさんのポルシェに積まれていたロガーによると、YRSオーバルスクールFSWロンガーの下のコーナーで1.35Gの横向き加速度を記録している。太いリアタイヤのおかげか。それだけのコーナリングフォースを4本のタイヤが発揮したということは、クルマが受けていた遠心力がそれだけ大きかったということであり、それだけの遠心力を発生するほどコーナリング速度が速かったという証明に他ならない。クルマもタイヤも運転手もいい仕事をした、ことになる。

コーナリング初期にアンダーステアを出さないようにするのは簡単ではないけど、前後輪のスリップアングルの大きさに差が出ないように意識して運転していると、ターンイン後のアプローチで、肩ではなく腰で遠心力を感じ始めることができる。4WSでない限り後輪のスリップアングルの源は遠心力だけなのである程度の速度が必要だけど、その時には前後輪のスリップアングルが均等に近づいていると言ってもいいだろう。ヨーモーメントの中心もホイールベースの間に収まっているはずだから、4本のタイヤが同じように働いてくれる状況を作れたことにもなるからクルマは安定して旋回運動を続けることができる。

速度が低い場合は   遠心力やヨーモーメントの影響を受けることは少ないけれど、クルマが動いている間は全てのタイヤにスリップアングルが生じているのだから、前後輪のスリップアングルを意識した操作はバランスを崩さない運転につながるからスリップアングルを意識して損はない。

 

動画はIさんが提供してくれました。静止画は動画からキャプチャーしたものです。



第533回 Kinetic energy

無機の機械と心を持った人間が織りなす物理学の極致を見た。
人間という生き物のすごさに感動する。

(C) MotoGP