トム ヨシダブログ


第320回 アンダーステア

とあるスーパーマーケットの立体駐車場。スロープを登ってきたクルマは場内に入ると直後に左折。その後それぞれに広大な駐車スペースと進む。

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左折する時、入ってくる全てのクルマがタイヤを慣らす。いわゆるスキール音ってやつだ。これが面白い。どうやってクルマを操っているかがわかる。操作にもいろいろあるけれど、例を挙げるなら、どうやってステアリングホイールを回しているかがわかる。

とにかく、『キキキキキキ キーッ』 とか、『ンギャッ』 とか、『キューゥーゥー』 とか。千差万別。

そもそも、スキール音はトレッドパターンのあるタイヤの接地面のゴムが路面とこすれる際に出る共振音だから、それが発生している場面というのは、ステアリングを切った瞬間から直進方向の慣性力の影響で前輪が外側に向って横滑りをしながら進行方向に回転を続ける状態にある。つまり、クルマのフロントは前輪が向いている方向よりも外側の軌跡を描いていくことになる。サーキットなどのクローズドコースのそれとは程度に差はあるけど、クルマの挙動としてはアンダーステアの範疇に入る。

ついでに言えば、トレッドパターンのないスリックタイヤは基本的にスキール音を発生しない。

であるから、スキール音が大きいということはそれだけ前輪がたくさん滑っていることになる。もちろん速度が高くなって運動エネルギーが増えれば滑る量も増えるが、中にはゆっくり走っていてもスキール音を撒き散らす場合もあるし、そこそこの速度でステアリングを切ってもわずかなスキール音ですむ場合もある。もちろん、ステアリングを切る時の前過重の大きさもスキール音の大小に関係するけど、それはおいておいて。

だから、スキール音の大きさと出方を観察していると運転している人の癖がわかる。ステアリングをバキッと切る人。ステアリングを一発で回してしまう人。ステアリングを回し続ける人。みんな意識してステアリングホイールを回しているわけではないだろうから、その人はいつもそうしているのだと推察もできる。

駐車場の入り口を通過する速度ですら結果的に前輪が外にはらむような運転をする人は、ワインディングロードや雪道を走る時にいったいどんなステアリング操作をしているのだろうか。クルマに助けられながら運転しているのだろうな、と気になってしまう。


少しばかり速度が高いのに躊躇なく間違いなくエイヤッとステアリングホイールを回している


速度を落としているのにスキール音が出るということは奥へ行ってからバキ切りと減速による前過重が原因


そこそこの速度なのにスキール音が出る位置が奥で小さいのはステアリングを回し続ける時間が長いから


せっかく速度を落としたのに内輪差を気にしたのか奥へ行ってから一発で舵角を与えている証拠


他人が運転するクルマを観察するのは面白いしためになる。あなたはどんなふうにステアリングホイールを回していますか?



第303回 左足ブレーキング

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我が家に棲むホットハッチ三態
まだ寒い頃に撮った写真だけど


基本的にAT車に乗る場合は左足でブレーキペダルを踏んでいる。

AT車だと左足の出番がないわけで、左足が『お~い、手持ちぶさただよ~』って言っているような気がするし、右足は常に動いているのに左足を動かさないのは身体の均衡が崩れるような気がするし、アメリカでサバーバンを足に使っていた頃からだから、かれこれ40年近くになる。
因みに、もちろんそれで身体の均衡が保てるとは思っていないけれど、パソコンに向かう時にも左手でマウス、右手でテンキーを操作する。

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ルーテシアⅣRSの足元


終の棲家ならぬ終のクルマに選んだルーテシアⅢRSを引っ張り出した時はもちろん右足でブレーキをかけるけど、それ以外はなんちゃってパドルシフトのフィットRSに乗る時もルーテシアⅣRSに乗る時も左足に頼りっぱなしだ。

で、左足に働いてもらうためだけに左足ブレーキを使っているかと言うとそうではなく、左足ブレーキにはいくつかの利点がある。

交差点で止まった時にクリープを抑制することができるし、坂道発進ではブレーキ開放とスロットルの踏み込みが同調できるというのは当然のこととして、実は過重移動と姿勢制御を能動的かつ積極的に行えるから左足ブレーキを使っていたりする。

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ルーテシアⅢRSの足元


加速をやめるとリアにかかっていた荷重がフロントに移動を始めるけど、その移動する速度はその時の走行状態によって決まるので、運転手が主体的にコントロールすることができない。つまり加速から減速へのトランジッションは 『クルマまかせ』 になる。

日常の運転で過重移動を意識してどうするの、と言われるかも知れないけど、運転中は他のことができないのだから過重移動を人為的にコントロールして積極的にクルマの動きに関与するのも悪くはない。

スロットルを閉じるとややあって重心が背後に近づいてくる気配がする。移動してくる重心をそのままの速さで遅滞なく前輪にかけることができればスムースなトランジッションが実現できる。だから、背後にやってきた重心がそのまま自分を追い越して前輪にかかるように、スロットルオフとタイミングを合わせて左足でパッドとローターをこすり合わせて抵抗にしてやると、慣性力に頼るトランジッションより素早く正確に過重移動が行える。前輪にかかる荷重を自由にコントロールすることができれば、前輪のグリップを自由に増やすことがができるわけで、より短い距離でのブレーキングも可能になるという寸法だ。

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なんちゃってパドルシフトのフィットRSの足元


フロントのブレーキパッドとローターがこすり合い始める位置を左足で探ることができるのなら、左足ブレーキはフロントのロール制御にも有効だ。

峠道を気持ち良く走っている時。時としてクルマが向いている方向と慣性力の方向が一致しない場合がある。オーバースピードでコーナーに入ってしまった時とか、コーナリングを開始してから舵角を増やさざるを得なくなった時などだ。
不用意にスピードを出すのは控えるべきだが、コーナリングを開始する前に、クルマにごくわずかな減速Gが発生し左右前輪に少しの過重が乗ればフロントが落ち着く。速度が落ちないほどの減速Gである必要があるけど、輪加重を意識することで過重が抜け気味になる内側前輪も働かせることができるからだ。あくまでも前後のタイヤのグリップに差が生じない範囲でなければならないが、ノーブレーキで勇猛果敢にコーナリングするのとは180度異なる安定した姿勢を作ることができる。


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昔~しNAASCARの取材でマーケティングディレクターブライアン・フランスに話を聞いた
現NASCARのCEO兼会長


ずいぶんと前のことだけど、NASCARストックカーレースの取材で聞いたのは、かなりのドライバーが左足ブレーキングを使っているという事実。トランスミッションはマニュアルだけどデイトナインターナショナルスピードウエイあたりで、3周ぐらいかけてトップスピードに達したら後はシフトの必要がないので、 『遊んでいる左足』 に働いてもらうのだと言う。もちろんその目的は、スムーズでドライバーのコントロール下にあるウエイトトランスファー、トランジッションだ。
あるスーパースピードウエイ用のセッティングだと、右前輪にネガティブ4度、左前輪にポジティブ3.5度のキャンバーをつけ、ブレーキングでしっかりとフロントに過重をかけた時に対地キャンバーがゼロになりあの高速コーナリングが生まれるのだから、トランジッションをスムースに短縮することができれば大きな武器になる。


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2リッターDOHC16バルブターボエンジン搭載のじゃじゃ馬
真っ直ぐは速かったけど


その昔。某メーカーの2リッター16バルブターボエンジンを搭載したFF車でレースをやっていたことがある。SCCAのショールームストックというカテゴリー。ロールケージ、セーフティネット、消化器の安全装備以外は全くのノーマル。ブレーキパッドも交換できない。ショールームから出てきたクルマでレースをやろうよと。

FF車は今ほど洗練されておらず、ましてハイパワーのFF車となればもう曲がらない。なにしろサスペンションジェオメトリーを変更してもいけないのだから、とにかく人間がなんとかしなければならない。ストレートはアメ車と互角に走れるものの向こうはFR。コーナーの入り口でも出口でもアンダーステアがこれでもかと顔を出す。

しかたないからスロットル全開のまま左足でブレーキをチョン、チョンして前輪に過重を乗せてなんとか向きを変えていた。マニュアル車で左足ブレーキングを使ったのは、後にも先にもこのクルマだけ。ペダルの位置の関係で、マニュアル車だとどうしても左足が右足に勝てないから。

それから考えると、時間が経っているとは言え、現在のFF車のよくしつけられていること。当時と比べると雲泥の差。だから逆に、クルマに助けられて無事に走れている部分もあるはずなのだから、運転には謙虚でありたいものだ。


第299回 Lutecia de Asan Circuit

去年の阿讃サーキットはルーテシアRSシャシースポールで走った。今年はルーテシアRSシャシーカップを持ち込むという贅沢を味わった。

全長1,004mの阿讃サーキット1周の動画、Lutecia de Asan Circuit


締め上げられたシャシーカップの足が阿讃サーキットでどんな動きをするか興味があった。阿讃サーキットは回り込んだコーナーが多い上に路面が荒れているところがある。登りながらのターンインや下りながらのターンインと、アップダウンも激しい。タイトな切り返しもある。一見ワインディングロードの延長のようなサーキットだけれど、もちろん公道よりもはるかに高い速度域で走ることができる。

結果は。タウンスピードではシャシースポールよりゴツゴツした感じの足が全く気にならなかった。バンプに乗った時もバネ下だけが動いていてるのがはっきりわかるし、上屋が揺れるような突き上げがあるでもない。連続して荒れた路面に、トトトトトッて接地感が失われたように感じても次の瞬間には収束しているし、シャシーカップの足は確かにサーキットに向いている。次の操作に移った時のタイムラグもシャシースポールより短く、トランジッションを短縮できるイメージ。

同じコンディションでシャシーカップとシャシースポールを乗り比べればはっきりすると思うのだが、『サーキットで同じタイムを刻むのならば間違いなくシャシーカップのほうが楽』
シャシースポールと比べてハイトの低いタイヤ以外の変更はわずかなはずなのだが、そこはそれ、ヨーイングモーメントの中心をどこにもっていくかが重要なサーキット走行用のセッティングが秀逸なのだろう。公表されていない部分の違いがあるのではと思うのは、かんぐりすぎか。

しかし、サーキットを走るからと言ってシャシーカップがマストではない。ユイレーシングスクール流に言うと、日常の中にタウンユースとサーキットユースのどちらもあるならば、動力性能が同じなのだからシャシースポールが選択としては正しい。ユイレーシングスクールの思想からすれば、『 シャシースポールでシャシーカップ並みの走りを目指すのも悪くないよな 』、という選択肢があることが、ルーテシアRSに目を向ける最大の理由になる。

それを実現しようとする過程が楽しくないわけがなく、それこそルノー・スポールとルーテシアRSから運転好きへのプレゼントだと言ったら言い過ぎか。



第296回 運転中は運転に集中して下さい

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写真は本文と関係ありません


ゴールデンウィ-ク初日の午前中なのに首都圏でいたましい交通事故が発生し、ひとりの方が亡くなったとニュースで知った。

クルマを運転する者は誰しも事故を起こさないように最大限の努力をするべきなのだが、努力をしていても事故が起きる可能性を否定することはできない。
クルマあるいは二輪車を運転するのには目的があるはず。その目的を達成するためには、絶対に事故を起こさないという覚悟で運転する必要があると思う。

このニュースに対してのどなたかのコメントに激しく同意したので、原文のま手ま引用させてもらいます。

『 車の運転はそれ自体がリスク複合体であることをきちんと承知して欲しい。リスクを1秒ごとに見直しているぐらいの意識がなければどんな事故も防げない 』


車内が和気あいあいとしていても、ステアリングホイールを握っている人は同乗している方たちを守る義務と責任があることを忘れないで下さい。
二輪車だからといってすり抜けをしないで下さい。四輪に比べると小さな二輪車ですが立派な交通の構成要因なのですから流れを乱さないよう走って下さい。
クルマにしても二輪にしても運転中は他人とのコミュニケーションをとることができません。予断せずに、まずご自分が運転に集中することが大切です。

ゴールデンウィークはまだまだ続きます。楽しい日々が続くよう、みなさんどうか一生懸命に運転して下さい。

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写真は本文と関係ありません



第283回 YRSツーデースクール

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3月17日(土)
2018年1回目のYRSツーデースクール
朝5時50分の富士山を須走から仰ぐ
雲がたなびきただよう
3月中旬だというのに氷点下
クルマのウインドシールドが凍結


FSWの広大な駐車場でのスクール1日目の写真はなし。受講者にたくさん走ってもらおうと撮影そっちのけでスタッフ大車輪。
午前中にスラローム、ブレーキング、フィギュア8と練習し、午後からはオーバルコースを走り込む。たぶん、走行距離80キロ以上。

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2日目は忘れないうちに準備ができたところでパチリ
2日目は場所をFSWショートコースに移して
遠くにありし日の思い出、FSW名物だった30度バンクが


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YRSツーデースクール2日目はまずコースを歩くことから
信号機の位置、路面の傾斜、うねり、縁石の形状、高さ、諸々を確認
後ろを振り返ってどんなラインでアプローチするのがいいかも確認
けっこうブラインドコーナーがあるのを発見したり


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今回はお二人参加。もっと増えるといいね。


今回は7名の方が初めてユイレーシングスクールに参加してくれた。それでも2日間みっちり走ったから、最後は見違えるほどスムースにクルマを操って。
なにしろ、2日目午後だけで最も走った方はショートコース170周。操作がこなれるわけです。


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走行時間を2時間残して記念撮影
まだまだみんなやる気まんまんです


ポルシェ911ターボSなど速いクルマに混じって静かなクルマも参加。1台のリーフと2台のアクアがタイヤノイズと風を切る音を残してストレートを下ります。


実は、四国からIさんがルノー メガーヌRSで参加してくれたのだけど写真を撮り忘れ。それでも5月に阿讃サーキットで会えるので、その時にちゃんと紹介します。ゴメンナサイ、Iさん。実は2日目の最多周回賞は、そのIさんです。

ユイレーシングスクールでは10月20、21日の土日に2回目のYRSツーデースクールをFSWで開催します。ルノーユーザーの方の参加をお待ちしています。


※ IE(Internet Explorer)でビデオを視聴するのが困難のようです。Chromeやsafari、Firefoxなどのブラウザをご利用下さい


第282回 YRSオーバルスクールFSWロンガー

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ユイレーシングスクールのメインのカリキュラムであるオーバルスクール
パイロンを並べた楕円形のコースをできるだけ速いペースで走るのがテーマ
人がスロットル、ブレーキ、ステアリングを操ると
クルマは加速、減速、旋回を繰り返しながら動く
オーバルスクールで
ゆっくり走っていてはわからない「しないほうがいい操作」を見つけることができる
クルマはよくできた道具だから多少の人の失敗はカバーしてくれる
だからクルマの求める操作を覚えれば安全性が飛躍的に高まり運転が楽しくなる


ユイレーシングスクールは富士スピードウエイの駐車場でドライビングスクールを初めて開催した。だれも駐車場でドライビングスクールを開催するなど思いつかなかった頃だ。
幸いなことに、富士スピードウエイには広大な駐車場がある。運転の練習にうってつけのドライビングスクールを、現在ではいくつかの規模で開催している。

下の映像は、最も大きいYRSオーバルFSWロンガーを走るルーテシアRS。YRSオーバルスクールFSWロンガーで使うコースだ。

半径22m直線160mのオーバルコースは中心線で測って1周502m。コース幅が14mもあるからアウトインアウトで走れば1周600mあまりの周回路になる。
速い人で1周22秒。11秒に1回、ターンインからトレイルブレーキングをつかってアプローチ。イーブンスロットルでボトムスピードを上げ、ステアリングを戻した分だけ過不足なくスロットルを開ける。

単純な作業に思えるかも知れないけれど、クルマが抱えるとてつもなく大きな慣性力をコントロールする難しさはわかる。
難しいから工夫する。次から次へと迫り来るコーナーを前に考える暇もなくとにかくなんとかする。
いつもうまくいくとは限らないけれど、うまくいくこともある。うまくいくと何も考えずに操作してもクルマが思い通りに動く感覚を得ることができる。
あきらめずに続けているうちに、かってに身体が反応し始める。

それこそ、YRSオーバルスクールが求めるもの。『透明な意識がもたらす無意識行動』



ベーシックなYRSオーバルスクールは、半径22m直線60mのYRSオーバルでトレイルブレーキングとイーブンスロットルの練習をした後、半径22m直線130mのYRSオーバルロングでインベタ走行とアウトインアウト走行の練習をします。

ルノーRSモデルに乗っている方にオーバルコースを体験していただくため、ユイレーシングスクールでは4月13日(金)に開催するYRSオーバルスクールに若干名の方を無料で招待いたします(応募多数の場合は抽選となります)。
興味のおありの方はユイレーシングスクールにメール(yui_racingschool@yahoo.co.jp)、あるいは電話(090-9710-4939)でお申し出下さい。


※ IE(Internet Explorer)でビデオを視聴するのが困難のようです。Chromeやsafari、Firefoxなどのブラウザをご利用下さい



第279回 軌跡

しばらく前に、スタッフのKさんがフェイスブックにアップした写真。なんでも、Kさんが駐車場を出た後に奥さんが撮ったものだというが、ここまでクルマの動きを想像させるものは貴重。薄っすらと雪が積もった状況もめったにあるわけではないし、再現するのは難しいだろうし。

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4輪の軌跡が明確に示されているからあれこれ見えてくるものがある
・まず前輪が進む軌跡と後輪の軌跡の違いが明白だ
・前輪と後輪が同列上で発進し徐々に内輪差が生まれコーナリングの終わりに収束するのがよくわかる
・次に内輪差の大きさに注目しなければならないだろう
・こんなに大きいのだ
・だが外側前後輪より内側前後輪の内輪差ほうが大きいね
・内側前後輪のほうが回転中心に対して近いからだな
・でも前後輪の軌跡から想像するとホイールベースが長いと内輪差が大きくなるのがわかるね
・それにしても、据え切りしたまま発進しないで直進状態で発進して転舵しているのは
・だけど右コーナリングが終わり左コーナリングに移ると内輪差がない !?
こういう状況だとKさんがやらないわけがないけれど
本人曰く
「ゼロカウンターくらいだけど右に左に少し滑らせて出てったの分かっちゃう?(^^;)」
やっぱりね



第278回 吉田塾

ユイレーシングスクールは18年の間に様々なカリキュラムを用意してきたが、今回初めて、参加者にどんなことを学びたいか聞いて、それに応じる内容のスクールをやってみた。題して吉田塾。
申し込み時に知りたいことややってみたいことを書いてもらった結果、
・自分のクルマの特性を知りたい
・オーバーステアが出た時の対処方法を知りたい
・コーナリングの限界速度の見極め方を知りたい
・運転の癖を知りたい
・上りと下りのコーナーのブレーキングの踏み方を知りたい
・スピンしてみたい
といった声が寄せられた。

それではというので、いつも使っているFSWの駐車場に半径28mの120度コーナーをパイロンで設定。オーバルコースのように奥が深いコーナーは、コーナーの奥に行くほど速度が落ちてしまうので、オーバーステアに持ち込むのが難しいからだ。
できれば90度ぐらいのコーナーでやりたかったのだけど、コーナーの前後のストレートの幅を14m確保し、コーナー区間は20mのコース幅を取るとなると、駐車場の形状からして120度回さないとならなかったのだ。
それでもオーバルコースよりはコーナーが浅いのでオーバースピードに対して挙動がはっきり出るはずだった。

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コース幅14mというと高速道路の3車線より広い
サーキットでも幅員14mはない
広くするのはどこを走ったらいいのか「迷ってもらうため」と
安全に走ってもらうため


せっかく初めてのコースを走ってもらうのだからと、ユイレーシングスクール始まって以来初めて、朝一番の座学をやめて後回しに。ユイレーシングスクールを初めて受講する方もいたが、自分なりに走ってもらうことにした。

リードフォローでコースを覚えてもらい、次に単独で少しずつペースを上げて走ってもらう。ところが誰もスピンしない。
「あと5キロぐらいターンインの速度を上げてみて下さい」のアドバイスに応えてくれるのだけれど、オーバーステアにはならない。

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なかなかオーバーステアが顔を出さない
決して遅いわけではなく操作がていねいだから
クルマがバランスを崩さない


コース幅を広く取りすぎたためアウトインアウトで走るとコーナーの曲率が大きくなって、全員がそれなりに全開で走っているのに、クルマがバランスを崩すまでの速度に到達しないままターンインしている可能性があるな、と。
で、助走が長く取れる逆回りにしたら、ようやくバランスを崩しそうなクルマがちらほら。
「もう少し速く入ってみましょう」と何回かはっぱをかけると、ようやくスピンするクルマが。

結局、スピンというのは瞬間的なオーバーステアなわけで、オーバーステアというのはフロントタイヤよりもリアタイヤのスリップアングルが大きい状態のことをさすわけで、基本的にアンダーステア傾向に作られている量産車がオーバーステアになることはまれ。リアタイヤのグリップがフロントタイヤのそれに比べて極端に少なくなるような操作をしない限り、オーバーステアとは縁遠いものなんですよ、と説明。

今回もスピンしたのはオーバースピードが原因ではなく、コーナリング中にスロットルを緩めたために過重が移動した結果だった。

クルマがバランスを崩さないように操作すればスピンやアンダーステアとは無縁ですよ、4輪の過重配分をコントロールできれば4輪を使ってクルマを動かせますよ、と昼休みに座学をやって、午後からはいつものオーバルコースでオーバースピードでターンインする練習と、前後タイヤのグリップバランスを微妙にかつ積極的に変えるトレイルブレーキングの練習をしてもらった。

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午後遅く
逆光気味の富士山がきれいだったから
富士山を背景に記念撮影とあいなったのだけど甘かった
人も逆光だった(笑)


今のクルマはほんとうによくできている。タイヤのグリップや剛性も一昔前とは雲泥の差だ。意識的にクルマのバランスを崩そうとしても、簡単にはバランスが崩れない。
クルマが運動力学にのっとって作られている以上、物理学的な操作を学び実行すれば、クルマは安定して思い通りに走ってくれるということだ。



参加してくれた方はそれなりに収穫があったようで笑顔の解散となったけれど、「スピンするにはスピンするような操作をするからです」と説明するのも必要だけど、オーバーステアを実際に体験してもらうのも大切かも知れないと改めて思った。なんとか工夫してもっと『スパッ』って回るレイアウトを考えてみよう。




第276回 優先順位

JAFが、信号機のない横断歩道を歩行者が渡ろうとしている場面でどれだけのクルマが一時停止するか調査したことがあった。その数字を見ると、2017年の調査で8.5%のクルマしか止まらなかった。2016年は7.6%だったという。
調査の方法等はJAFの頁に詳しいが、 ようするにだ、 『信号機のない横断歩道をあなたが渡ろうとしていても、向こうから100台のクルマがやってくるとして最初の91台はまず停まってはくれないよ』 と例えるのは乱暴か。

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結果を受けて昨年、JAFは一時停止しない理由などを聞くアンケートを実施、「信号機のない横断歩道」でクルマは依然として止まらない 一時停止率は8.5% というタイトルで、歩行者がいる場合は一時停止をするのが当たり前をいう視点からレポートしている。
いろいろな設問があるが、ここではなぜ一時停止しなかったのかその理由を見てみたい。※アンケートは複数回答

①自車が停止しても対向車が停止せず危ないから:44.9%
②後続から車がきておらず、自車が通り過ぎれば歩行者は渡れると思うから:41.1%
③横断歩道に歩行者がいても渡るかどうか判らないから:38.4%
④一時停止した際に後続車から追突されそうになる(追突されたことがある)から:33.5%
⑤横断歩道に歩行者がいても譲られることがあるから:19.9%
⑥自車が停止した際に後続車からあおられる(クラクションを鳴らされる等)から:12.6%
⑦自車が停止すると後続で渋滞が起きてしまうなど、後続車等に申し訳ない気持ちがある(交通流を乱したくない)から:12.0%
⑧一時停止することが面倒だから:8.9%
⑨先に横断歩道があることが判りにくいから:7.6%
⑩何も考えていない:5.2%
⑪そもそもこのような場面で歩行者優先だったということを知らなかった:4.2%
⑫警察が取り締まりしていないから:3.7%
⑬その他:6.4%

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面倒だからとか、何も考えていないとか、警察が取り締まりをしていないからなんて理由には驚くが、総じて見れば歩行者がいても積極的に停まろうとしない人が多いのがわかる。クルマを運転している人も歩行者になる場面があるはずなのに、立場が変わると意識も変わるということか。

JAFは『横断歩道における歩行者優先が交通ルール (原文ママ)』であり、『横断歩道を横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない』とし、『歩行者がいる場合にはまず減速してその動きを注視して一時停止しましょう。また、歩行者も横断をしようとする際にはドライバーに横断する意思表示をして、お互いに安全に努めましょう』とレポートを結んでいるのだが・・・。

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確かに、道路交通法第38条には歩行者優先が謳われているけれど、信号のない横断歩道に歩行者がいたら、いかなる場合も一時停止しましょう、というのは現実的でない。
屁理屈に聞こえるかも知れないが、第一章第一条にあるように道路交通法は「交通の安全かつ円滑な流れ」を実現するためのものだ。歩行者優先が一人歩きして横断歩道の手前で停まらない運転者はけしからん、という流れは危うい。歩行者がいても、停まることで交通の流れを阻害するのであれば止まらないほうがいいこともある。

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自分が遵法精神にあふれているとか、自分が優良運転手だとか思ったことはこれっぽっちもないけど、運転している時にあらゆる場面の判断に優先順位をつけることは怠らない。その順位をつけるためのたたき台が「交通の安全かつ円滑な流れ」という思想だ。法律が全て正しくて従わなければならないとは思わないが、クルマを安全かつ効率的に動かすためには自分なりのルールがあるといい。ルールがあれば判断に迷うことがないし、すばやく判断をくだせる。

信号機のない横断歩道に歩行者がいたら一時停止するのは
・高齢者が待っている場合
・複数人が待っている場合
・後ろから来るクルマが遠くにいる場合
・前を走るクルマとの距離があいている場合
・先の信号でひっかかると判断した場合

信号機のない横断歩道に歩行者がいるのに停まらないのは
・前後に複数のクルマがいて一定の速さで流れている場合
・後ろのクルマが車間距離をつめている場合
・歩行者が下を向いている場合
・歩行者がスマホをいじっている場合

横断歩道に関してもこれが全てではないし、右折時とか細い道を走る時とか雨の高速道路とか、やってはいけないこと、やったほうがいいこと、やるべきことを仕分けするため、そしてあらゆる場面で安全かつ円滑にクルマを走らせるために自分なりのルールを作り積み上げてきた。クルマの運転中は次から次へと判断を下さなければならないけど、自分の行動が交通の流れを乱さないように心がけるのは心地よいもんだ。


※ 掲載した写真はイメージです


第259回 不思議だ

一昨日の日曜日。大雨の影響でレースが中止になった鈴鹿サーキットからの帰り道。午後3時ごろの新名神は休日とあって、渋滞はしていないもののそれなりにたくさんのクルマが走っていた。

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名神高速を降りて守山市
圧倒的にヘッドライトをつけていないクルマのほうが多い
新名神の写真はない


ワイパーを速いほうにしてもフロントウインドにぶつかる雨粒を拭ききれないほどの強い雨。路面にも水膜がはっているのか前を走るクルマが巻き上げるしぶきがスクリーンのよう。空はねずみ色に暗く、まんま無彩色の世界。あれほど視界が悪かったのはあまり経験がない。

なのに、ヘッドライトを点けていないクルマが多いのに驚く。

なぜ点けないのだろう?   夜じゃないからか?   見にくいけど見えなくはないから点けないのか?

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湖西道路でも
点けているのは四分の一ぐらい
ヘッドライトを点けることなど造作ないはずだが


決まりじゃないし、別に点けなきゃいけないことはないけれど、右手を(左手を)ひねるだけでこと足りるのだから、点けてもいいじゃないか?

シルバーのクルマなど、テールライトが点いていないとかなり近づかないと確認できない。バックミラーで見るとしぶきの影響もあって存在が希薄。
スモールライトを点けているクルマもいたが、前を走るクルマからすればヘッドライトのほうが視認性は高い。

運転している本人が大丈夫だと感じていても、運転というものはある種の情報処理作業なわけで、しかも交通の流れに身をおいているのだから、昼間であっても視界が悪いときにはヘッドライトを点けるほうが不確定要素が減らせる。
自分が必要ないと思っても、それが正しいとは限らない。交通には多くのクルマが関わっている。全体から見ればそれぞれの存在が確認できたほうがいい。そして最終的には貴方のためにもなるはずだ。

運転中、何かあってからは遅いのだから、その時、その場面で、何をすべきかにもう少し一生懸命になってはどうだろう。