第105回 ホットハッチ考 RSというバッヂ
お気に入りだった13インチタイヤを履いたGD1フィットの後釜であるGK5フィット。
GD1の時に信じられないくらいの荷物が収まって大いに助けられた経験があるので、次もフィットだろうなと思っていたらGK5が出たのは幸いだった。
ATしか乗れない息子が日本に来た時に乗れるように、それとふだんの足だからと7速CVTを選んだのだが、果たしてGK5フィットRSはホットハッチ足りえるか?
まだ回したことはないが、レッドゾーンの始まる6800回転まで回せば、とりあえず動力性能としてはCVTであっても痛痒を感じることはないはずだ。もちろんもっと速いコンパクトカーを選ぶ選択肢はあったけど、総合的に判断すればGK5RS-CVTで不満はない。
が、後席用のドリンクホルダーがないこと以外は使い勝手のいいGK5RS-CVTだが、気になる点がなくはない。
例えばアイドリングストップ。
GK5RS-CVTに乗り出した頃。交差点で止まるとメーターの中に黄色いランプが点る。最初は何のことかわからなかった(マニュアルを読んでいないことを白状するようなものだ)が、ブレーキペダルをさらに踏み込むと消えるので、踏力が足りないことを教えてくれるランプだとわかった。
そこで「ヘェ~ッ」となった。ふつう、みんなは止まる直前にそんなに踏力をかけているのかと驚いた。
ルーテシアRSだろうがトゥィンゴRSだろうが受講生のクルマだろうが、止まる寸前にかけている踏力ははるかに小さい。小さい踏力で止まれなければ問題だが、ちゃんととまれるのだから『もっと力をいれて!』なんて指示されると面食らってしまう。
どういう仕組みになっているかは知らないが、要するにAT特有のクリープ現象で停車中のクルマが動きだすのを防ぐためにブレーキは強く踏んで下さいという警告灯のようだ。しかし上り坂でも下り坂でもやってみたけれど、薄いブレーキでもGK5RS-CVTが動くことはなかった。
気になったのは、自分にとって『強すぎる停止寸前の踏力』がいわゆる標準なのだろうかということ。もしそうなら、ほとんどの人は前荷重のままクルマを止めていることになる。さらに言えば、ブレーキペダルに足を乗せる時にそこまで踏み込んでいるのではないかと心配になる。少なくとも、いわゆるトレイルブレーキングを使う場合にはもっともっと小さな踏力を残すことが重要なので、あの踏力に慣れてしまうと細やかなピッチコントロールができなくなってしまうのではないかと余計な心配をしている。薄いブレーキを使えないのは、それ以前にキチンとブレーキを踏んでいないのではないかと気になってしまう。アナログ時代の人間だからかも知れないが、どうもオンオフ的な操作には抵抗感を覚えるのだ。
YRSのスタッフにこのことを話すと、「トムさん、誰もそんなこと考えて運転してませんよ」と軽くあしらわれてしまったが。
だから、今はアイドリングストップは解除していない。それで、停止するたびに介入しない、つまりエンジンが止まらないようなブレーキングを楽しんでいる。最先端デバイスとの根競べだ。
例えばターンイン時の荷重移動の仕方。
ルーテシアRSでもトゥィンゴRSでも、FRのE30M3でも、はてはアメリカで足に使っていたサバーバンでも、あるいはアメリカでレースをやっていた時も、加速→減速→旋回という流れの中で自分なりの決まりがあってその手続きを守ってきた。もちろんドライビングスクールで同乗走行を行なう時もだ。
場合によってその時間を短縮することはあるが、手続きを省くことはない。クルマの性能を発揮させるにはこの手続きが絶対に必要だと経験しているからだ。
しかしGK5RS-CVTはそんな時、少し変わった挙動をする。このままコーナリングに移るとアウト側前輪のその外にまで荷重が移動してしまうような素振りをする。そのまま先に進むとアンダーステアになるな、と感じるような挙動変化をするのだ。
その原因がハイトの低いタイヤにあるのかサスペンションのセッティングなのかはわからないが、少なくともルノー・スポール3台やGD1フィットでは感じたことのない種類のものだ。もっともGD1フィットのトレッドは広げていたので、スプリングレートは落ちても4つの支点が遠くなったから感じにくくなっていたのかも知れないけど。
あくまでも想像でしかないのだが、オーバースピードでコーナーに入るとアンダーステアが顔を出し失速させ、その先の危険を回避しやすいようなセッティングなのかなとも思う。少なくともノーマルのままで4輪を使ったコーナリングを実現するのは難しい種類の足だ。
だからGK5フィットのRS、とりわけマニュアルシフト車を購入する人は足回りを改造したくなるに違いない。操縦性云々よりもカッコでいじる人もいるだろう。
が、できればクルマはノーマルのまま乗るのがいいと思っている。クルマは高度な技術に裏付けられた道具であり、頭のいい人が集まって作っている。ノーマルだからこそ発揮される性能が確かにある。
改造が許される時代だからと言って、クルマをノーマルの状態から変えるのは賛成しない。車高を落としすぎて扱いにくくなった、なんて例は掃いて捨てるほどある。ドライビングスクール受講生にも「クルマはいじらないほうがいいですよ。改造にお金をかけるんだったら自分に投資するつもりでまたYRSに来て下さい」と話している。
で、個人的なSNSにGK5RSの挙動のことを書いたら、YRS卒業生から「フィットRSのRSはロードセーリングの意味ですから」とコメントをもらった。RSがレーシングスポーツであろうとロードセーリングであろうと、そんなことはどうでもいい。言いたかったのは、RSというバッヂをつけている以上もっと明確な性格を与えるべきだったと思うヨ、ということだ。
メーカーも『走りを感じる装備をプラスしたスポーティモデル』とうたってるからGK5RSに過度の期待をしてはいけないのかも知れないが、なんか、なんちゃってスポーツモデルが増えると、どんどんユーザーが言葉は悪いが去勢されていくような不安を感じる。
YRSのスタッフにこのことを話すと、「トムさん、そこまで考えてクルマと付き合う硬派は少なくなったんですよ」だと。なんか自分が変人に思えてしまった。
でも、GK5フィットには同じエンジンを搭載したRSでないモデルがあるし、ディーラーの話だとハイブリッドに押されてRSはほとんど生産されていない少数派のようだし、メーカーがホンダだし、ユーザーや市場に迎合するのではなく、車格がエントリーモデルだからとかではなく、『乗りこなすなら乗りこなしてみれば!』なんて感じのRSを出してほしかった。RSが記号だけで終わってほしくはなかった。
自分にとっては少し違和感のあるGK5RSだが、繰り返しになるけど、クルマとしての完成度は大いに評価している。荷重が移動しすぎる癖もトレイルブレーキング中に踏力を変化させながらいつもより長めにとれば収まる。それなりに操作すればなんとかなるから不満があるわけではない。
ただ、ルノー・スポールが送り出す一連の『潔い思想に基づいたクルマ』のようなモデルを国産メーカーに期待したいだけだ。
クルマを選ぶ時にルノー・スポールを選択肢に乗せることができる日本のユーザーは幸せだと思う。
※購入後、設問がたくさんあるホンダのアンケートに答えた。上の2点を含めて思いのたけを書き綴っておいた。
ホットハッチ考 終わり