トム ヨシダブログ

第10回 クルマの性能は使い方次第

初めに、このたび未曾有の震災にあわれた被災者のみなさまに心からお見舞いを申し上げるとともに、犠牲になられた方のご冥福をお祈り申し上げます。

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  ユイレーシングスクールは卒業生のためにスクールレースを開催している。
  ドライビングスクールやオーバルスクールで基本的な運転操作を教えることはできるのだが、その人のドライビングポテンシャルに幅を持たせることはなかなか難しい。そこで、ひとつの目的に向かって大勢で走ることで運転操作とは別の『運転意識』を養ってもらおうというわけだ。


ルマン式スタートでレースは始まり、

  運転が上達するということは、人間が成長することに似ている。
  子供は伸長期と充実期を繰り返して成長すると言われているが、クルマを運転する時の能力も同じように向上していく。ある程度経験があれば、運転操作はこなれていく。免許証をとったばかりのギクシャクさは影を潜めるはずだ。ドライビングスクールで基本的な操作を学べば、思い通りにクルマを安全に速く走らせる技術はが身につく。例えて言うならば、これが伸長期だ。
  しかし、それだけではクルマの運転は完結しない。我々がたった一人で走る機会などあるわけがないのだから、仮に運転操作に長けていてもそれだけで十分ということはない。同じところを走るにしても日によっては条件が異なるかも知れないし、本人の体調だって同じではないこともある。
  だから。同じ目的を持った人と競い合いながら運転することで、他人を意識することを養ってもらい、同時に自分の思い通りにならない環境でクルマを走らせることで、目的に対する意識を鮮明にすることを期待してスクールレースを開催している。
  どこを走っても同じような速さで走れる。他人と競り合いながらも目的から逆算して、その時に行うべき操作をはじき出す。その練習だ。これが充実期を豊かにする。むろん、運転意識の生長は運転操作のレベルを底上げする効果もある。


我先にとクルマに駆け寄り、

 ユイレーシングスクールが開催しているスクールレースの種類は3つ。YRSエンデューロ、YRSスプリント、YRSオーバルレースだ。今回はその中のYRSエンデューロの話。

  YRSエンデューロは130分の耐久レース。もっとも2001年の開始時には120分だったのだが、卒業生が目標をクリアしてしまったので難易度を上げたしだい。とは言うものの、この難題もクリアしてしまったのだから、まさに運転技術の向上に終わりはない。
  YRSエンデューロのルールはこうだ。レースはチェッカー優先の時間レース。決められた時間を走り切り、なおかつできるだけ遠くまで走った者が勝者になる。これは参加者全員に等しく、過給器つきのクルマもNAのクルマも大排気量車も同等に扱われる。
  つまり、どんなクルマに乗っていようと所定の時間が過ぎてチェッカーが振られた時にコントロールラインを通過できなければ、それまで大量のマージンを築いて独走していようと、周回数は少なくてもチェッカーを受けたクルマよりは上位にならない仕組み。
  そして、競争はコース上だけにしたいのと、ピットでの危険を排除するために、2分半のピットストップを3回義務付ける。ピットロードの制限速度は10キロ。だから、ピットインで順位を上げようとしても徒労に終わる仕組みになっている。
  耐久レースだからチーム参加が原則。当初は卒業生同志でチームを組んで参加することがほとんどだったが、耐久レースの走り方がわかってくると一人で走り切りたいという希望が続出。最近では半数以上のチームがソロエントリ。一人で130分を走り切ってしまう。


一瞬の静寂の後、

  2001年4月28日。第1回YRSエンデューロのその日。1周1キロちょっとの筑波サーキットコース1000のグリッドには7台のクルマが並ぶ。コースの反対側にはイグニッションキーを持ったドライバーが立っている。グリーンフラッグが振り下ろされるやいなや、ドライバーがクルマに駆け寄り、乗り込み、もどかしそうにシートベルトをしてエンジンをかけ、慌てふためくようにグリッドを離れていく。
  それから2時間近くが経過。トップを走るのは赤いロードスター。他のクルマを全て周回遅れにして余裕の走り。
  と、そのロードスターが最終コーナーでスローダウン。フィニッシュまで5分を切っている。137周目のできごと。ピット前のストレートにたどり着いたドライバーがピットクルーとなにやら話している。どうやらガス欠。

  チェッカーを受けなければ、ラップタイムは遅いもののコンスタントに走っている軽自動車のスバルヴィヴィオに追い越されてしまう。
  結局、ドライバーがクルマを押してコントロールラインをまたぎ、最下位になることはまぬがれる。


脱兎のごとくグリッドを後にし、

  時は移り2010年7月31日。ところは同じ筑波サーキットコース1000。この日、35回目のYRSエンデューロが開催された。参加したのは15台。6台がチームエントリで9台がソロエントリ。
  特別ルールが適用され135分の時間レースとして開催されたこのレースを制したのは、170周を走破したロードスター。2位には同じロードスターが169周で入り、同じ距離を走った性能で勝るS2000を押さえ込んだ。
  上位3台が2時間以上全開で走った末に僅差でフィニッシュしたこともレースを大いに盛り上げたが、それ以上に、レース時間が5分延長されたとは言え、1位のクルマが170周、約177キロを走り切ったことが注目された。


ライバルを牽制しながら、

  さて、2001年の137周と2010年の170周。この数字を少し詳しく見てみたい。
  2001年のレース時間は120分。1回3分のピットストップが3回義務付けられていたから、コース上にいた時間は実質111分。それで137周したので時間当たりの周回数は74周。2010年はレース時間が135分で2分半のピットストップが3回義務付けだったから、実際に走行していた時間が127.5分で時間当たり80周したことになる。
  74対80。距離にして時間当たり6キロ強遠くへ走ったことになる。しかも、2001年は燃料を使い切ってしまっていたから、それ以上遠くへ行けなかった。それに対し2010年は燃料タンクにまだガソリンが残っていたから、行こうと思えばまだ先まで走ることができた。
 
  この差はどこから来るのか。


少しでも優位に立とうとペダルが折れんばかりにスロットルを開け続ける。

 たかが6キロの差ではあるが、それが競争という極限状態でクルマを走らせていたら。
 
  速く走ろうとすると、人間は機械に頼りがちになる。速く走ろうと思えばむやみにスロットルを開け、短い時間で減速しようとし、クルマの都合など考えずに目標を達成しようとする。自分の能力ではないのにも関わらず、それが自分の分身のごとく振舞う。
  しかし、サーキットで耐久レースに参加して好成績を修めるというテーマを考えれば、間違いなく運転は合理的でなければならない。ガソリンしかり。タイヤ、ブレーキパッドしかり。クルマの機能を発揮させるために、それを高いレベルで保つためには理詰めのアプローチが必要になる。
  ユイレーシングスクールがモータースポーツ、そしてスポーツドライビングを『知的遊戯』と呼ぶゆえんだ。自動車レースは、決して肉弾戦ではない。


と言ってもプロのドライバーの話ではない。どこにでもいるオジサン、お兄さんが主役だ。

  2001年の第1戦の後。ユイレーシングスクールではYRSエンデューロ参加者に、どうすればより遠くに行けるか、その方法をアドバイスしてきた。時間はかかったが、純粋にクルマを使って楽しんでいる内に、彼らのドライビングポテンシャルは確実に向上した。
  伸長期と充実期を繰り返すことによって、クルマの性能に頼って走るのではなく、クルマの性能を制御しながら目的を達成する方法を身に付けた。
  間違いなく、彼らは市街地であろうと高速道路であろうと、あるいは峠道であろうと、必要最小限の消費で安全に目的を達成する術を知っている。運転操作と運転意識が融合した結果だ。

  第35回YRSエンデューロの優勝者が初めてユイレーシングスクールを受講した時、どうアドバイスしてもアンダーステアを出しながらコーナリングしていたのを思い出す。ドライビングスクールだけでなくスクールレースをやっていて良かったと思う瞬間である。
 
  あなたも少しばかり運転に興味を持ってはいかがですか。


トゥインゴにむらがる運転好きなオーバルレースの常連。詳細は次回。
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  ユイレーシングスクールでは以下のドライビングスクールを開催します。クルマの使い方に興味のある方は参加してみませんか?トゥインゴGTもお待ちしています。(詳細は以下の案内頁をご覧下さい。)
   
◆ 4月22日(金) YRSドライビングスクール FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=fds

□ 4月24日(日) YRSオーバルスクール FSW
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=os&p=osf
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●クルマはよくできた道具なので、性能を発揮させるためにはそれなりの使い方を知る必要があります。ユイレーシングスクールが10周年を記念して制作したCDを聞いてみて下さい。バックグラウンドミュージックもないナレーションだけのCDですが、クルマを思い通りに動かすためのアドバイスが盛りだくさん。一生ものの5時間34分です。
YRS座学オンCD案内頁:http://www.avoc.com/cd/


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