第498回 ユイレーシングスクール卒業生が織りなす作品 の2
モータースポーツほど一般的な理解が進まないスポーツはない。早い話、人気がない。
理由はいくつもあるだろう。他のスポーツに比べて使用する道具が高価であるとか、スポーツを行う施設/環境が限られているとか、他のスポーツに比べて潜在的な危険度が高いとか、他のスポーツに比べて取り上げるメディアが少ないとか、等など。思い当たる理由はいくつかあるけれど、それだけではない気がする。最たる理由は、そのスポーツになじみがないということではないかと。
ある統計によると人気のあるスポーツの上位3位は野球、サッカー、相撲らしい。うなずける。実はこの3つ、日本人の誰もが幼少の時に体験しているという共通点がある。野球なら放課後に広場でやった三角ベースボール。サッカーが大きくメディアに取り上げられるようになったのは他のふたつに比べて遅いけど、前回の高校サッカー選手権が98回目というから歴史は長い。ボクも高校時代はクラブで汗を流したことがあるし、ボールを蹴る子供たちは少なくなかったはずだ。相撲というと昔はそこらじゅうにあった土むきだしの地面に大きな円を描いてはっけよいをしていた。大人には勝てないと思ったものだ。
幼少期にスポーツの実体に触れた経験があるかどうかでそのスポーツとの接点が増し、それがそのスポーツを支える動機になり、そのスポーツの人気につながる、という循環が起きていると想像できる。
他にも人気ランキングに載っているスポーツはあるけれど、押しなべて言えば、人間が成長する過程で接する機会が多かったスポーツに人気が集まっている。そしてモータースポーツは今のところ、残念なことに、どの統計にも載っていないという事実。
人気のあるスポーツはもちろん、競技人口が多い。競技人口がアマチュアとそのスポーツを生業にしているプロで構成されているとすると、純粋にスポーツを楽しむアマチュアがいる一方でプロを目指すアマチュアがいて、彼らのお手本となるプロがいる。プロが脚光を浴びる背景にはアマチュアという支持層が欠かせない。いわゆるそのスポーツを下支えする分母だ。ところがモータースポーツにはその分母がない。
我が国のモータースポーツはレースでもジムカーナでもラリーであっても、 第487回 ユイレーシングスクール卒業生が織りなす作品 の1 で触れたようにJAFの規定に則って開催されなければならない。なので、高価な道具を使うスポーツなのにモータースポーツに参加する車両はJAFの規定に合わせなければならない、モータースポーツに参加するにはJAFが発給するライセンスを取得しなければならない、という制約がある。
サーキット走行が楽しくなり、ちょっと腕に覚えがでてきて他人とヨーイドンをしてみようかな、と思いついた人が、実際にレースに参加するまでの道のりは、最後にはあきらめたほうが賢明だと思うにいたるほど長い。分母が容易には増えない環境にある。それが日本のモータースポーツだ。
しかし、レースに参加することがドライビングポテンシャルの向上に効果的なのは明白だし、なによりも自分の経験から言って、秩序ある競争ならば参加した人がクルマとクルマの運転を大いに楽しむことができるのはレース以外にないと確信していたから、スクールレースの開催を視野に入れてドライビングスクールを始めた。モータースポーツの分母の足しに少しでもなればという思い。入り口からずっと先までと。ユイレーシングスクールの名前の由来だ。
最初にYRSエンデューロとYRSスプリントを始めて参加者が増えたところで
次に日本ではなじみの薄いオーバルレースを始めた
YRSエンデューロとYRSスプリントを開催していた期間は
各クラスの上位入賞者に
写真のようなメダルを授与していた
YRSオーバルレースでも渡していたから
10個以上持っている人もいるはず(とってあればの話だけれど)
メダルはユイレーシングスクールオリジナル
金型まで作って仕上げた
もちろん
Designed by Tom Yoshida
手元の資料によると、2001年に始めたYRSエンデューロとYRSスプリントはどちらも延べ39回開催している。YRSスプリントは5クラスが3ヒートレースを、YRSエンデューロは130分(初期は120分)耐久レースをやっていたから、参加した人が経験したスタートの回数、他人と競り合った回数が少なくないことは容易に想像できる。ユイレーシングスクール卒業生は大いに自動車競走を楽しんだに違いない。
YRSスプリントはスタートでエンストなどの混乱が起きないようにとの配慮と、強化クラッチをおごることができた人が有利にならないようにローリングスタートを採用した。YRSエンデューロではピットストップの時間をキッチンタイマーで測って全チーム公平にしする一方、スタートはオリジナルルマン式としてスタートドライバーに偉大な耐久レースの雰囲気を味わってもらった。キーを持ってクルマに駆け寄るのだけど、クルマにスペアキーが刺さっているのを発見して大目玉をくらわしたことが懐かしい。工夫したことはまだまだあるけど、レースをドライビングスクールの延長として開催したかったのと、参加者が公平に争い、何よりも運転を楽しめる環境を用意することに全神経を注いだ。
ある日のYRSエンデューロ
オリジナルルマン式スタート
ドライバーはキーを持って整列したクルマの反対側に
グリーンフラッグでクルマに駆け寄り
ベルトをして鍵穴にキーを差し込む
もどかしい時間
ある日のYRSスプリントのロードスタークラス
2列縦隊のローリングラップで高まる緊張
いつグリーンフラッグが振られるか
透明な気持ちになって感覚を研ぎ澄ます
グリーンフラッグ
先を争って1コーナーに
身体が自然に反応する
生命感の昂揚
ずいぶんと時間が経ち、現在開催しているスクールレースはYRSオーバルレースだけだけど、ユイレーシングスクールが先鞭をつけたライセンスの必要のないレースが各地で始まり開催されていると聞くと、少しはモータースポーツの分母の形成に貢献できたかなと。
YRSスプリントもYRSエンデューロもライセンスがいらないレースではあるけれど、公認レースに劣らないというより、それ以上にピーンと張りつめた緊張感あふれる内容にまで成長した。Sさんのロードスターに後ろ向きに搭載したカメラでユイレーシングスクール卒業生が繰り広げた作品を見てやって下さい。
動画は2012年6月21日開催のYRSスプリントFSW ロードスタークラス ヒート1
※冒頭にはローリングラップが続きます。お急ぎの方は1分10秒あたりからご覧下さい。
※後半のせめぎあいは見ものです。
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