トム ヨシダブログ

第716回 続・人間の操作がクルマを動かす

第708回加速度と速さ 第709回人間の操作がクルマを動かす で取り上げた、YRSオーバルFSWロングを走った時のSさんとボクの走行データ。今回はブレーキングの仕方と減速Gの立ち上がり方の関連を比較検証。と言っても、たった1周の操作を比較するのだからもちろん厳密なものではないし、こうするとこうなるという因果関係みたいなものが導き出せればと思う。
ちなみに選んだラップは2人が下のコーナーのターンイン手前で最も大きな減速Gをたたき出した周。下のふたつの図は速度と減速Gを同じ座標軸に置いた。赤いグラフが速度で左目盛、青いグラフが減速Gで右目盛。右の楕円形の線図はこの周に走った軌跡で線上の小さな緑の丸がスタート/フィニッシュライン。それぞれのX印が下のコーナー前に最大減速Gを記録した地点。図は上がSさんで下がボク。

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Sさんはスタートから0.99秒でマイナス0.889Gのブレーキングをして99.33キロまで減速。トレイルブレーキングを使いながらターンイン。第709回でも触れたけど、加速から減速へも、強りブレーキングからの抜き方にもトランジッションが不足している印象を受ける。

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ボクはスタート後1.1秒でマイナス0.972Gのブレーキングで97.10キロまで減速。ボクはというと、フロントが跳ねないようにブレーキのリリースに時間をかけ、その後のトレイルブレーキの効果を高めようとしている。それぞれのブレーキングがそれがその後のトレイルブレーキで相対速度という視点からどんな影響を与えるか。

下の図は比較しやすいように1周のラップをスタート後10秒で2分割して並べた。図中の赤い横線が減速Gゼロを示す。
※ Sさんの赤線がイラストレーターで制作中に少しズレたのに気づかないまま画像にしてしまった(泣)。

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・Sさんは最大減速Gを発生させた強いブレーキングの後でブレーキを抜いて2秒強引き摺っていると思われるが、減速Gの減少がゆるやかでしかない。減速Gがマイナス0.3Gまで減少するのが2秒後。と言うことは、この間も速度も低下していることになる。3秒後に減速Gが1瞬プラスマイナスゼロに戻るけどその後が安定していないからいぜんとして速度の低下が続く。ボクの場合は強いブレーキのリリース後すぐに減速Gがマイナス0.3Gまで減少し、減速Gは安定しないものの最大でもマイナス0.5Gを超えない範囲で推移しているから、トレイルブレーキング中に速度の低下が緩やかになっている。
・結果として下のコーナーのボトムスピードは60キロ対55キロでSさんの方が速い。Sさんの場合スタート後4.5秒あたりで1瞬60キロになってから速度が上昇を始めるけれど、ボクの場合はスタート後4秒あたりから約1.5秒の間55キロを維持している。
・ボトムスピードを記録してからSさんは加速を続けるけど下のコーナーの立ち上がりで70キロに達したのはスタート後約8秒。対するボクは7.3秒あたり。Sさんのグラフはその後急に立ち上がりプラス0.3~0.4Gの加速を10.7秒あたりまで続けるけど、ボクはイーブンスロットルを始めた4秒からは減速Gが大きくマイナスに振れることなく加速を続けそれに見合った速度を得ている。

・周回路のラップタイムは距離が決まっているので平均速度の裏返しになる。そして周回路ではコーナリング速度より直線での速度のほうが圧倒的に高い。何よりもほとんどの周回路では直線を加速している時間よりコーナーの中にいる時間のほうがずっと長い。例えばYRSオーバルFSWロングを20秒で走るクルマを数えてみると、直線を「1、2、3・・・」くらいで駆け抜けるのに、コーナーを回っている時間は「1、2、3、4、5、6、7・・・」となる。だからコーナリングではボトムスピードを高く維持することも大切だけど、コーナリング区間の平均速度を上げるのがもっと重要になる。
・コーナリング区間というのは直線でスロットルから足を放した時から、コーナーを抜けて立ち上がり舵角がゼロになってフルトラクションをかけられるようになるまでのことを言う。この区間でクルマが失速せずに前に前に進めば平均速度は上昇する。速く走りたい人が陥りがちなブレーキを遅らせることや、立ち上がり速度よりもスロットルを全開にすることを優先することが、果たして平均速度を上げることにつながるかは絶えず検証が必要だ。

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・結果、裏のストレートでSさんが100キロを超えたのはスタート後10.5秒あたりで到達速度が105キロ弱。対するボクは9.7秒あたりで100キロに達し108キロまで加速。
・そこから上のコーナーへのアプローチが始まるのだけど、ターンイン手前でSさんが強いブレーキングをしていないのが見てとれる。対してボクは1瞬だけだけどマイナス0.9G付近までしっかりと減速している。
・上のコーナーはフラットに見えるけど実はうねりがある。それでも下のコーナーほど神経質になる必要はない。減速の後には加速という流れを作りやすい。
・Sさんもボクもスタート後同じように14.5秒あたりで同じ様なボトムスピード57キロを記録。ボクはイーブンスロットルにして加速に備えるけど、Sさんはスロットル瞬間開けたのかも知れない。15.2秒あたりで0.7Gに達しようかという加速度のスパイクが記録され瞬間的に速度も上昇している。この瞬間、加速度もマイナスを示していてコーナーの脱出速度に影響したものと思われる。
・結果、ロールを残しながらコーナーを脱出するのだけど、Sさんが70キロに到達したのが約17.3秒でボクが約16.8秒。直線に出てからの加速については、#2 横Gと速度のグラフ―後半スタート後11.5秒から にも表れているけどSさんはスロットルをステアリングを戻すのよりスロットルを開ける量が多いのかロールを消せないまま加速している。1周20秒のコースでコンマ3秒の差がつくということは、ここに書いたことだけではなく実に様々な要素=クルマを前に進めるための操作がからんでいる。

 

時間のある方はぜひ、709回で触れた横Gと速度の関係のグラフも、『どうするとこうなるのか?』 という観点から見ていただければ幸いです。
#1 横Gと速度のグラフ―前半スタート後11.5秒まで
#2 横Gと速度のグラフ―後半スタート後11.5秒から

 

繰り返しになるけど、運転とは走行中のクルマの状態を把握し、自分の経験なり知識を基にして目的を達成するためにはこういう操作が必要だという仮説を立て、それを実行に移す作業だと考えている。ところが仮説がいつも正しいとは限らないから、間違いを犯さないためにも知識と経験を積み重ねる努力を続ける必要がある。また仮説が正しくてもわずかな操作の違いで結果が目的から外れたり、場合によってはそのつもりなのに自分の立てた仮説通りに操作できていないこともあるだろう。その場合には修正が必要になるのだから、どちらの方向に修正すべきかを瞬時に判断するための知識と経験も必要だとユイレーシングスクールは考えてオリジナルのカリキュラムを展開している。

 

最後に、ここ数回に登場してくれたSさん。ブログの手伝いをしてくれたことを感謝します。ありがとうございました。文中ではあれこれ言いましたが、Sさんが目指す運転の方向性は間違っていません。新たらしい仮説を探すための経験を積みにまたスクールに遊びに来て下さい。



  • Oya
    Comment @ 2023.04.04 火曜日 

    いつもお世話になっております。
    スクールだけでなく、ブログの内容もいつも興味深く拝読させていただいています。
    今回の比較、とても勉強になります。
    前半のブレーキング操作の違い(特に抜き方)も大きいですが、更にコーナリング中のイーブンスロットル操作の差が大きいように感じます。
    私もよくやってしまいますが、Sさんの6-7.5秒あたりのGの落ち込みに対して、トムさんはずっと加速Gを保つようにイーブンスロットルから全加速につなげていますが、このような操作の違いを生む要因は何だとお考えですか?

  • Comment @ 2023.04.04 火曜日 

    無意識に身体が動いてくれるのでどういう操作をしているかあまり認識はしていないのですが、強いてあげるのならば、
    ・スロットルペダル(ブレーキペダルも)を戻すことを前提に踏んでいる
    ・オンオフのオフ時に100%オフにしないで、スロットル一定でも回れる位置までしか戻さない
    でしょうか。トレイルブレーキングが終わった時点で、それ以降マイナス加速度が発生しないようにすることがイーブンスロットルの目指すところだと思います。

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