トム ヨシダブログ


第160回 雨宿り

我が家には1台分のガレージとカーポートがひとつしかない。ガレージには終の相棒のルーテシア3RSが住んでいるから、ルノー・ジャポンから借りているルーテシア4RSとふだんの足のフィット3RSは時に応じてカーポートに身を寄せるか、カーカバーにもぐる日々を送ってきた。75歳になったらサーキットで乗り回そうと思っているNAロードスターは、保存のために馬をかって上げてあるのでずっとカーカバーのお世話になている。

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柿が色づきピラカンサも鮮やかになってきた

相棒であり自分と同じぐらい大切なクルマだから何とかしたいと思ってはいたのだが、ついにふたつめのカーポートが完成した。これで、3台ものクルマを使いまわせる幸せにお返しができたんじゃないかと。

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外壁の一部を取り壊してふたつ目のカーポートを設置した

これからも手を抜かずにクルマと運転を楽しむぞ、っと。


第159回 YRSドライビングスクール阿讃

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明石海峡大橋を渡り

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淡路ハイウエイオアシスから本州を望み

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大鳴門橋をわたり

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阿波パーキングエリアでひと休み

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高速を降りて東みよし町の山あいに分け入り

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阿讃山脈を駆け上がり

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阿讃サーキットに到着

5月4日にルノーネクストワン徳島が主催した走行会のお手伝いをした時、会場となった阿讃サーキットがいたく気に入った。

阿讃サーキットは1周1004mと長くはないし、エスケープゾーンはほとんどないに等しい。アップダウンに富んでいてすごく面白いけど、コース後半の下りは回りこんだコーナーの連続で速度は乗らない。路面も決してスムースとは言えない。

なのになぜ気に入ったかと言うと、考えていては速く走ることができない、からだ。
次から次へと迫り来るコーナー。ブレーキングゾーンが登っていたり下っていたり。走行ラインを間違えると立ち上がりが苦しくなったり。1周50秒ちょっとの間、瞬間瞬間で反応して走ることを求められる。まさに、スポーツドライビングに求められる「無意識行動」を養うのには絶好のレイアウト。

あらゆる区間でクルマの性能をキチンと発揮することができないと、単位時間あたりの移動距離が短いから速く走れない。クルマをキチンと動かすために理にかなった操作が必要だけど、それが自然に身につく。大きなサーキットを走った時の爽快感はないかも知れないけど、運転というものが分かっているかどうか確認するにはうってつけ。

そこで、無謀にも連休の中日に四国初のYRSドライビングスクールを試験的に開催してみた。
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まずは記念撮影

集まってくれたのは75歳のMさんを初めとする10名。阿讃サーキット経験者が5名、サーキット未経験者が3名。快晴ではない代わりに暑くもない1日、多い人は130周近く阿讃サーキットを走り回った。

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メガーヌRSで参加のFさんがストレートを駆け上る!

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Fさん1コーナーに飛び込むの図

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ルノーネクストワン徳島のIさんも元気、元気

もちろん、走行の合間にはアドバイスをしたり質疑応答をしたのだが、この日、一皮むけたのは阿讃サーキットを走りこんでいる最年少25歳のOさん。

あるセッション中に異音が発生したとかで、調べるとエアコンのコンプレッサーからと判明。悪化させたくないから走行をやめると言うOさんに、無理ではなければベルトを外して走ってみないかともちかけた。パワーステアリングのポンプも回しているベルトだから、当然ステアリングにアシストは期待できなくなる。けれど構造上の問題はないし、せっかくのスクールなのだからと。

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ピットで出番を待つOさん

ベルトを外してコースに出たOさん。戻ってくるなり、「重~い」。で、「じゃぁ、次のセッションではこうやってステアリングを回してみては?」とアドバイス。それで、だいぶ重ステに煩わされることがなくなったようだ。

で、最後のセッション前。ガソリンが少ないから走らないというOさんに、「ならば、こうやってセッションを走ってみてはどうだろう」と提案した。

全ての走行が終わり全車がピットに戻ってきてからOさんに「どうだった?」と聞くと、「これまでのベストタイムを更新しました!」。「やったじゃない」。握手を求めた時のOさんの笑顔が忘れられない。

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IさんのルーテシアRSとFさんのメガーヌRSとパチリ

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楽しければ速い遅いはどうでもいいんです
サーキット未経験者も最後には「粋に」クルマを走らせてました

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標高が高いのでパドックにはもう秋の気配

う~ん、運転は楽しいし面白い。


第158回 雨の筑波サーキット

YRSスクールレースの合間に撮影。今回はYRS卒業生のEさんに追いかけてもらった。

サーキットで全開にした時の、あの腹に響く音は最高。ところが室内で録音しているのにも関わらず、耳に届く音と再生した音の質が微妙に違う。あの気持ちのいい音を忠実に再現する方法はないのだろうか?


第157回 エンジンドライビングレッスン

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エンジンドライビングレッスンの朝は早く7時集合

エンジンという雑誌があって、男が憧れるクルマや時計やファッションがこれでもかと載っていた。
あくまでも個人的な意見だけど、ことクルマに関しては所有するだけではもったいない、というのが持論。

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仲間が参加していたのでパチリ

だから、憧れのクルマを手に入れた人が飾っておくだけでなく、そのクルマを使い倒せる場所を提供しましょうよと編集部に提案した。
企画書の題名は『所有欲から使用欲への転換』。
読者限定の企画として開催する意義は大きいとなって、2003年に第1回目のエンジンドライビングレッスンを開催した。

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村上編集長がドライビングレッスンの主旨とクルマを楽しむ極意を語る

あれから12年。9月3日に52回目のエンジンドライビングレッスンを無事終了。

リピーターが多くもう何年も通ってくれている人も多い。1回目から30回近く来てくれているYさんは、当時に比べて12歳も年をとった。

一方、初めてエンジンドライビングレッスンに参加してくれる人も増えている。今回は29名中10名が初めてオーバルコースでイーブンスロットルとトレイルブレーキングを練習した。

ユイレーシングスクールのカリキュラムと同じで、おべんちゃらは言わないけれどどうすればクルマを思いのままに動かすことができるか、そのコツは徹底してお話している。

遠く山形から初めて参加してくれたルーテシアRS乗りのKさんもそのひとり。時々二本松にあるエビスサーキットを走っているそうだけど、エンジンドライビングレッスンに参加してクルマの動かし方がわかった、と嬉しい一言。

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KさんのルーテシアRSが最終コーナーを立ち上がる

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編集長は早引けで参加者2名も早退だけど恒例の本誌掲載用記念撮影

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ルノー・ジャポンのブログを読んでいてくれたKさんと

この日、初めてサーキットを走った人。もう50時間以上サーキットを走っている人。乗っているクルマも違えば経験も違うけど、共通しているのはクルマが、運転が好きなこと。

エンジンドライビングレッスンでは、「運転は一生モノです。運転に興味を持つのは早くても遅くてもかまいません。自分の中に積み上げたものが多いほどクルマの動きを理解しやすくなります。やってはいけないことがわかって、やったほうがいいことを自然にできるようになると運転が楽しくなります。また機会があれば遊びに来て下さい」と結びます。


第156回 大好物

今年の夏は暑かった。歳をとると暑い時はよけいに暑く、寒い時にはよけいに寒く感じるようになるものなのだろうか、な~んて考えながら好物の鰻を食べに行く。

小さい頃は、あの裏返した時の景色が苦手だったけど、吉田家の法事では鰻を食べる慣わしだったからいつのまにかステーキよりも好きになっていた。

今回は、独断と偏見で、最近食べて個人的だけど美味しいと思った鰻重を紹介の巻。

156-1初めて関西風の焼き方で食べたけど美味
「大谷茶屋」大津市

156-2庭にの池で鰻が泳いでいたけど日影がたまり場になっていた
「大谷茶屋」大津市
※食用ですか?と聞いたら、裏の山から清水を引いてきて育てているとの説明

156-3白焼きも美味しかった
「山田別館」香取市

156-4ふたからはみ出てた
「山田」佐原市

156-5FSWの近くで美味しい鰻が食べられるのが嬉しい
「ひろ田」御殿場市

156-6FSWからクルマで5分の駆け込み寺
「駿府苑」小山町

156-7ついつい足が向いてしまう
「ひろ田」御殿場市

若い頃は待つのが大の苦手だったけど、今は焼けるのを待つのも至福の時間。


第155回 交通統計

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※写真は本文と関係ありません

交通事故総合分析センターという公益財団法人(ITARDA)がある。道路交通法に基づいて国家公安委員会から認定され、交通に関する各種の統計を、警察庁を初め中央、地方の行政機関を横断して収集できる立場にある。
その広範にわたる数字を元に、ITARDAでは毎年夏前に前年度の数字を加えた交通統計という資料を発行している。

日本でユイレーシングスクールを初めて間もない頃、あるきっかけで交通事故の実態を知りたいと思いこの交通統計にたどりつき、それからは毎年入手してユイレーシングスクール独自のデータを作成しいる。

「あるきっかけ」についてはまたの機会にゆずるとして、今回はいくつかの数字を見てほしいと思う。

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※写真は本文と関係ありません

昨年度の数字。日本には8,200万人の運転免許保有者がいる。クルマ離れがニュースになるご時勢なのに保有者の数は増え続けている。
統計では4輪と2輪を合わせた、しかも自家用営業用の区別なく、大型特殊車まで含んだ数字を自動車保有台数としているのだが、それによれば国内で9,100万台の車両が走っている。こちらも毎年増加している。
想像できないくらい大きな規模の交通というものが存在していることがわかる。ボク自身が8,200万分の1であって、9,100万分の3の車両を所有していることになるのだが、現実味は薄い。それほどクルマが普及していることになり、運転が日常生活の一部になりきっていることになる。

しかし、クルマは便利で有益で楽しい乗り物であるはずなのだけれど、統計をひもとくと少しばかり残念な数字が目に止まる。
ひと頃より、「速度を出させない」施策が、いいかどうかは別にして、功を奏しているのだろう、交通事故の総数は減少傾向にある。死にいたる事故の件数も減ってきている。もっともわが国は24時間死者しかカウントしていないから、ひょっとすると交通事故が原因で亡くなった方の数字はもっと大きいかも知れない。

それはそれとして、ユイレーシングスクールが注目しているのは単独事故の件数とそれによる死者数だ。

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交通事故総件数に占める単独事故の割合

統計では事故を車両対車両、車両対人、車両単独の3つに分類している。前ふたつは相手があっての事故だけれど、車両単独の事故は、多分間違いなく、運転している本人が避けようとすれば、或いは事故を防ごうとすれば防げた事故であるはずだ。

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※写真は本文と関係ありません

そして、交通事故そのものが減ってきている中で単独事故の件数も減少しているのだが、交通事故の原因を死者数から眺めると驚くべき数字が割り出される。

昨年度に起きた交通事故のうち3%強が単独事故だけど、死亡事故に限って見ると24%が単独事故が原因、という事実。
例えが適切ではないかも知れないが、『100件の交通事故のうち単独事故は4件未満に過ぎないのに、交通事故によって亡くなられた方の4人に1人が、避けようとすれば避けられた、あるいは避ける方法を知っていれば避けられたであろう単独事故が原因で亡くなっています』ということだ。

日本の交通全体の分母がとんでもなく大きいから、自分のこととして捉えるの無理だとは思うけど、クルマを運転している人が事故を起こす可能性は決してゼロではない。
しかも、いったん単独事故が起こすと死にいたる可能性が高い、ということを、クルマを運転する人全てが意識しておいたほうがいいと思う。いささか暗澹たる気持ちでデータを更新するたび、厳に自分も戒めることにしている。

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類型別単独事故原因

詳細までは分からないが、交通統計には単独事故の原因も載っている。これは勝手な想像だけど、もう少し集中して運転して、もう少し的確に状況を判断できて、もう少しクルマの運転操作に長けていたら、と思わざるを得ない数字ではある。


第154回 TさんとルーテシアRS

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今年2回目のYRS筑波サーキットドライビングスクール

2011年10月8日。買ったばかりのルーテシア3RSでTさんがYRSツーデースクールに参加してくれた。
それまで過給器付きのシルビアに乗っていたのだが、面白いクルマだけど運転していて急かされるような気がすることが多くて乗換えを考えていたそうだ。

FFのルーテシア3RSを選んだ理由を聞いてみると、購入を決めたのは勘みたいなもの、との答え。試乗してみてなんとなくいいなと思ったからだそうだ。駆動方式の違いは気にならなかった、と言うよりもFRとFFでどのような違いがあるのかのほうに興味があったと言う。

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インフィールドのストレートを加速するTさんのルーテシア3RS

その後、Tさんはルーテシア3RSともにYRSツーデースクールに3回、YRSオーバルスクールに1回、YRSドライビングワークアウトに2回、鈴鹿サーキットレーシングコースで開催したYRSドライビングスクール鈴鹿や富士スピードウエイのショートコースとレーシングコースで開催したYRSドライビングスクールFSW、筑波サーキットコース1000で開催したYRS筑波サーキットドライビングスクールにも参加してくれた。

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最終コーナーを立ち上がるTさんのルーテシア3RS

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最終コーナーを立ち上がるTさん運転のルーテシア4RS

「実際に所有してみて、選んで正解だったと思います。エンジンを回しても、のんびり走っても、クルマが対応してくれている感じを受けるます」とルーテシア3RSの感想を語るTさんに、12回めのユイレーシングスクール参加になった筑波サーキットドライビングスクールでルーテシア4RSに乗ってもらうことにした。いつもきれいな破綻のない走りをするTさんが、成り立ちが少しばかり違うルーテシア4RSをどう動かすか見てみたかったから。

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Tさんがルーテシア4RSに乗り込み

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インフィールドでいい音を響かせ

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1コーナーに向けてGTRを追いつめる

結果は? セッション毎に3と4を交互に乗り換えることにはなったものの、どちらも同じような、流れるようでいて決して遅くないペースを刻んでいた。

以下は後日、Tさんから届いた感想。

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猛暑のなか有意義な時間を過ごせました。ブレーキのコントロールは前回よりも進歩したのではないかと勝手に思っています。まだ繊細な調整ができるまでには至っていませんが…。

また、現行ルーテシアをお借りして走る事ができたのも貴重な体験でした。私の先代ルーテシアと比較した感想は以下の通りです。

【エンジン】
カタログでの最大出力はほぼ同じですが、現行の方が低~中回転の蹴りだしがずっとよかったです。以前乗っていた車もターボエンジンでしたが低回転域は弱かったのでルーテシア4RSのトルク特性が印象的でした。

【ブレーキ】
効きは十分でした。自分でコントロールしてるつもりでしたが、車のアシスト制御が働いていた様です。

【操舵感】
型が違うので別モノの感覚かと思っていましたが動きに共通性がある印象でした。どちらの車でも同様の操作をしたつもりですが旋回したい方向に巻き込んでいくところは同じメーカーが作っただけあるなと興味深く思いました。(午前中にしたブレーキのトレーニング効果があった、という事でもあるかと思います)

【トランスミッション】
オートマチックでも想像よりスムーズにアップダウンするなと感じました。パドルシフトのマニュアル操作も試しましたが、慣れが要るかなと思いました。

【見た目】
現行の方がスマートな印象ですが、個人的には車幅の広がった先代の方が好みです。

書いてみると、何かありきたりな内容ですね。

異なる車を乗り比べる事ができたのは非常に面白かったです。次の機会にまたいろいろ試せる様、日常でも車の姿勢を意識して操作しようと思います。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ここまで * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

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ルーテシア4RSとTさんと

Tさんも楽しんでくれたようだし、自分で運転していては見ることのできないルーテシア4RSの走りを拝むこともできたし、とんでもなく暑い日だったけど気分は爽快だったことを付け加えておこう。

Tさん、また遊びに来て下さい。


第153回 ルーテシアRS 筑波サーキットコース1000を駆ける

SnapShot(1)

ルーテシア4RSが来てからというもの、あのヒップラインが気になってしかたがない。理由を聞かれると困るのだけど、あの造形はいい。

で、どうしてもあのヒップライン越しに車載映像を撮りたくて、YRS筑波サーキットドライビングスクールの合間に挑戦してみた。その時の動画がこれ。
※もう少し長いレンズを使って、もう少し後で張り出して撮ったほうがヒップラインが強調できるみたいだから、そのうち再挑戦。

6000キロを超え、おとなしくしてたかいがあったのか、エンジンも軽く回るようになった気がする。燃費も良くなっている気がするし。トランジッションでのピッチコントロールに気をつければ、すごく奥の深い足が体験できそうだし。これからが楽しみ、楽しみ。


第152回 古きを愛でる

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ウン 可愛い

富士スピードウエイでスクールがある時に泊まるホテルの近くに、いつも足を運ぶお魚がおいしい赤提灯がある。遠くないのでホテルから歩いて行くのだけれど、その道すがら、ある駐車場にきれいな色の赤いクルマが止まっている。

最初に目についた時。古いルノーだということは一目でわかったけど、なんというクルマかとっさには思い出せなかった。
以前、どこかで目にした記憶もあるし、その昔、これでもかというほどイン側のサスペンションを伸ばし、何十台もの「このクルマ」が倒れんばかりの姿勢でコーナリングしているレース中の写真も見たことがある。こういうのイイネ、とにんまりした記憶はあるものの、当時は車名までは気をとめていなかったようだ。

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時を刻んだエンブレム
これは勲章でしょう

ある日、開店までに時間があったのでクルマの周りをグルリ。外観より実際の車齢に近いようなエンブレムに「RENAULT 4 GTL」とあった。

少しばかりいい気持ちになってからホテルに戻り、パソコンで検索してみてわかったのはフランス語ではカトルと呼ぶこと。なんと1961年から1992年までの長きにわたって作られたこと。ハッチバックを備えた最初の乗用車とされていること等だった。

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キャンバストップのルーフラック付き
オ・シ・ャ・レ

この可愛いカトルが何年式なのかわからないけど、決して若くはないはず。何歳ぐらいなのだろう。
オーナーは男性なのか女性なのかとか、夕方駐車場にあるということはふだんの足には使わず休日専用なのかなとか、部品はまだ手に入るのだろうかとか、あれこれ想像したり心配したり。

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今風のデザインじゃないけど存在感ありあり
今時のクルマよりクルマっぽいのが ◎

ユイレーシングスクールの卒業生にも知人にも古いクルマを大切に乗っている人がいる。たいてい、『そのクルマ』 だから所有したいという信念の持ち主だ。
『そのクルマ』 が、今時のクルマに比べて動力性能が劣っていても、便利ではなくても、維持するのが大変であっても、『そのクルマ』 がその人の自己表現の手段であって、『そのクルマ』 がその人の生活を豊かにしてくれるという確固たる根拠を持っている人達だ。

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検索した写真はどれもドアミラーだから最初からスタンダードだったのだろうか
だとしたら時代の先取り?

昔から、クルマそのものよりクルマの機能を優先してクルマを選んできた。だから個体に固執することはほとんどなかった。いつも動力性能と使い勝手だけが選択の基準だった。もちろん絶対的な性能とかではなく、自分の理想に照らし合わせてのこと。それ自体間違いではないと思うのだけど、運転することしにか執着してこなかった立場からすると、『そのクルマ』を見つけられた人に対していつも尊敬の念を感じるし、維持する努力を惜しまない彼らを応援したい気持ちになる。

ところが日本では、古いクルマが生き永らえるのがますます厳しくなるようだ。アメリカのように、古いクルマには通常の登録料より安いヒストリカルライセンスプレートを発行することが難しくても、休日だけに適用される安い保険を販売することが無理であっても、少なくとも現代のクルマと同等の努力で『そのクルマ』達を使い続けることができなけば成熟したクルマ社会とは言えない。

ないものねだり、であることはわかっているものの、なまじクルマを所有して使うことに関しては恵まれているアメリカのシステムを30年も体験してきたから、なんで日本もその極めて合理的なやり方を真似をしないのかなといつも疑問に思う。だから、なおさらに『そのクルマ』に出会った人達と『そのクルマ』達に拍手を送りたくなる。

この赤いカトルもそうだけど、クルマ好きの人がいつまでもクルマ好きでいてくれると嬉しいのだけれど。


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この日は生の大トロがあったので中トロ、赤身と食べ比べ
シ・ア・ワ・セ

最初の出会いからこのかた、美味しいお魚を食べに駐車場の横を通る時、「ヨッ、元気?」と声をかけてから赤提灯に急ぐことにしている。


第151回 人の速さとクルマの速さ

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YRSストリートの一番奥のコーナーを抜けると富士山がお出迎え

ドライビングスクールを続けているとたくさんの嬉しいことや楽しいことに出会う。毎回なにかしら心に残るシーンがあるものだけど、先日のYRSドライビングワークアウトでもそんな時間があった。

サーキットでなくても同時に複数のクルマが走るユイレーシングスクールのオーバルスクールやドライビングワークアウトでは、時として追いかけっこが始ることがある。競争するのがドライビングスクールの目的ではないけれど、一方では運転が上手くなっていく過程で他人と競うことが大切な場合もある。

今回追いかけっこをしていたのはこのふたりだけではなかったけれど、ブログに登場してもらうのはポルシェ911に乗るNさんとBRZに乗るKさん。
ふたりともユイレーシングスクールに足しげく通ってくれるいわば常連。二人とも思うところがあってYRSドライビングワークアウトに参加してくれた。

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1速に落としたくなるようなヘアピンを我慢してストレートの速さにつなげる
※写真は慣熟走行

YRSドライビングワークアウトを開催するのは広大な駐車場に作った1周840メートルの俗称YRSストリート。昨年の春、夜な夜な水割りを片手に考えに考え抜いた【ここをマスターしたら運転が上手くなる】というレイアウト。

1日の始まりは何のアドバイスもなしに参加者にコースを走ってもらうのだけど、初めての人はストレートを下って行くと正面に立ちふさがるガードレールに驚く。3速からフルブレーキングで2速に落とし、このコースで最もタイムをかせげるキンクに続く大事な「下のコーナー」を回る時、いやでも目に入るのだから。

それでも、たっぷりと時間をとったスレッショールドブレーキングの練習が終わるとガードレールが不安ではなくなって、参加者は徐々にペースを上げていく。ブレーキングのコツを覚えるとイニシャルで瞬時に速度を落とすことができるようになるから、真っ直ぐ行ってしまうような可能性は限りなくゼロになる。

以前に走ったことのあるNさんとKさんは日常からのリセットが終わると41秒前後で周回。YRSドライビングワークアウトでは5分程度のセッションを何回も繰り返すのだが、同じグループになったNさんとKさんは、やがてテールツーノーズで走り始めた。

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下のコーナーでテールツーノーズのNさんとKさん

直線での加速に勝るNさんと軽さが生きるコーナーが速いKさん。Nさんが前でKさんが後というパターンでセッションが続く。Kさんは「下のコーナー」のブレーキングでNさんに近づこうとするが、なかなかNさんと同じような立ち上がりができない。結局、ツイスティなセクションで間合いをつめ、再び「下のコーナー」でNさんに挑むという膠着状態が数セッション。

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ストレート駆け下ってブレーキングからターンイン
その瞬間、瞬間のお互いの気持ちが手にとるようにわかるのが嬉しい

そこであるセッションが終わったところでKさんに耳打ち。『あのね、「下のコーナー」のブレーキング。今はこうなっているけど、実際はムニョムニョしているから次はこうしてみたら』。

次のセッション。何度かトライしたKさんはムニョムニョを克服。「下のコーナー」を抜けて2速から3速に上げるころにはパワーの差が現れるけど、コーナーの立ち上がりではNさんのテールにしっかりと貼りつけるようになった。

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車間に惑わされないためにも相対的速さを理解できる感性が重要

何をアドバイスしたかというと、人間が考える速さとクルマの速さが必ずしも一致しないということ。運転しながらこの区別ができるかどうかが肝心だ、という話をした。ある現象をだけをとらえて近づいたと思っても、それはあくまでも人間から見ているだけで、クルマから見れば『その操作では近づくことはできませんよ』と言っているかも知れない。

今回の例では、ブレーキングで速さに勝るNさんに近ずくことを見つけたKさんは、できる限りブレーキングを遅らせてさらにNさんに近ずく努力を続けた。しかしそれを続けていても、加速性能はNさんのほうがいいのだから、それ以上局面が変わるわけはなかった。

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1000分の1まで計測できるYRSオリジナルの計測装置
運転中の耳に毎周のラップタイムが届く
タイムが伸びないと「起きて下さい」の声も

これは今回のNさんとKさんにに限らず、JAFの公認レースでも頻繁に見られる考え違い。

ブレーキングで前のクルマに近づく。思いの外に近づく。それを自分の手柄だと勘違いするから、さらにブレーキングを我慢する。我慢した結果、間合いを詰められて、かつ前のクルマと同じように立ち上がれるかと言うと、そんな保障はどこにもない。
3速全開の時に「ある車間」で走っていたとする。ブレーキングして2速に落とした時点で、単位時間あたりの移動量が減るわけだから、自ずと前のクルマとの距離は「ある車間」よりずっと短くなる。車速が変化すれば車間も変化する道理なのだけど、運転していると絶対的な速さに夢中になっているから、近づくと『ヤッター』となって、次にはもっとやってやろうとなってしまう。
本当にブレーキングが上手ければ、頑張らなくても、多少の性能差があっても前のクルマについていけるはずなのに。誰かを追いかけている時、相手に近づくのが自分のブレーキングが上手いせいなのか、それとも単に速度が落ちたからなのか見極められなければもったいない。

頑張ってそれなりの効果のようなものが現れると安心して、その先のことまで頭が回らなくなるのが人間の生理。ある意味でしかたのないことかもしれないけど、その状況を打破する工夫が次のステップにつながる。それがユイレーシングスクールがレースを勧め、ライセンスもいらない手軽なスクールレースを開催している理由でもある。

で、こうしたらとアドバイスをしてKさんがやってみたら、それまでとは全く違う展開になったという話。Kさんは宿敵ポルシェに届かんとする走りに、たいそう喜んでいた。

Nさんの名誉のために付け加えておくと、動力性能に大きな開きがあるのに同じような速さで走っていたのはNさんのせいではない。
ポルシェのように動力性能の高いクルマはそれなりのデザインがなされている。タイヤが太いのもその性能を生かすためだ。しかしながら、どんな場合でもその性能を発揮できるとは限らない。特にYRSストリートのようないやらしいコースだと、太いタイヤが走行抵抗となり、BRZより重い車重もコーナリングスピードを殺ぐから、その性能を生かせる区間が短くなる。どんなクルマでも40秒を切れれば95点、というレイアウトにしたのだから、ポルシェはポルシェ、ロードスターはロードスターなりに、それぞれコースに合わせてそれなりの走り方を構築する必要がある。

速い人は、ポルシェ乗りも39秒、ロードスター乗りも39秒で走ることができる、YRSストリートとはそんなコース。

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YRSではどんなクルマでも同乗走行で性能を引き出すコツをアドバイスします

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YRSでは受講生の走りを見ただけで何が足りないか、何が過ぎているかアドバイスします
写真はアンダーステアを出しながらコーナリングのKさん
※いつもはこんな走りではありません

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アドバイスを受けた受講生はやってはならないこと、やるべきことを区分けしながら速さを身につけます

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YRSドライビングワークアウトではコースに一度に入るのは4台まで
コース幅が14メートルもあるので安全に余裕をもって練習することができます

Kさんと『楽しかったねぇ』と話し込んでいたNさんだけど、ポルシェ乗りとしての自尊心に傷がつかなかったと言ったら嘘になるだろう。次に同じようなシチュエーションがあったら、今度はNさんにポルシェの特性を生かす走り方をアドバイスして、コーナリングの速いクルマを引き離すコツをアドバイスをしたいと思う。

クルマを上手く運転するには一つひとつの操作を自分のものにすることも大切だけど、同時にある場面で何をするべきかという答えを引き出しに溜め込むことも重要だ。

ユイレーシングスクールに来てくれた運転大好きの人達が、一日中心底運転に没頭しているのを目の当たりにするのは楽しいし、スクール終了後にお互いの進歩を披瀝しあっているのを小耳にはさむのは本当に嬉しい。ドライビングスクールをやってて良かったと思えるのは、幸せなことだ。