第288回 久しぶりのNA
4月1日
湖西に戻ったら桜が満開に
もう峠をすぎた頃かな
出かける時には咲いていなかったから
桜が驚くほど暖かかったのだろう
3月末に連続して開催したYRS幸田サーキットドライビングスクールとYRS筑波サーキットドライビングスクールにルーテシアⅢRSがエントリしているので、それならば、久しぶりにNAエンジンを味わおうと引っ張り出した。
3月28日
午前9時
幸田サーキットのストレートで
ブレーキング練習開始
ルーテシアⅢRSはラジオカーとして活躍
3月30日
朝6時半
筑波サーキットコース1000に一台と一人だけ
ストレートで朝日に輝く
ルーテシアⅢRSを走らせている時、なにげなくタコメーターを見てギョッとすることがある。
一般的に、たいていのクルマはどんな速度域でも適切なギアを選んでエンジンが二千回転ほど回っていればこと足りるので、走行中はだいたいその辺りに針がいるのだけれど、高回転型のルーテシアⅢRSのエンジンは時に、3,500rpmとか4,000rpm回っていて、『 あ、いけね。シフトアップしなきゃ 』 なんて焦ることがある。シフトアップの必要がないのにね。
ま、たまにしか乗らないせいでもあるのだが、タコメーターを見た後で、みっともないことだけど、 『 ルーテシアⅢRSを転がしているんだ 』 と再認識することがある。
なにしろ、7,500rpmでレッドゾーンが始まるエンジンにワイドレシオのトランスミッションの組み合わせだから、どのギアも守備範囲は広く、元気よく走ろうとすると回転数は高めになる。5,000rpmあたりからさらに活発になる爆発圧力を感じてしまうと、回り続けるエンジンに畏怖の念すら感じる。
なにしろ、メーター100キロは4速4,500rpmほどでしかなく、使える回転の6割しか回してないわけで、その気になればあと3,000回転も余分に回すことができる。この余裕がたまらない。
5速に上げてもいいし、6速でクルージングを決め込むのもいい。5速なら3,600rpmほど、6速なら3,000rpm弱に落ち着くが、そこからスロットルを開けても2リッターらしからぬ加速を見せる。だけど、しっかりブリッピングをくれてやって3速に落とせば、タコメーターの針は5,600rpmほどに跳ね上がり、ちょうど最大トルクを発生する回転からのちょっと危険な匂いのする加速を堪能することができる。
が、スピードを出すことを目的としてはもったいない。クルマという機械を操り、クルマという道具を使いこなす気持ち良さをルーテシアⅢRSは備えている。
今から50年も前。高校3年の5月。軽免許を持っていたから公安委員会の教習所に行って実技試験だけを受けた。もちろん一発で合格。当時ホンダがレンタカーをやっていてS600を借りることができたから、バイトで溜めたお金を握り締めて勇んで借りに行ったものだ。
その頃は自分の運転がうまいかどうか判断する術を持たなかったから、原則として制限速度の10%増しを上限としていた、と思う。とにかく、スピードを出すよりも自動車技術の先端を行くツインカムエンジンを右足で操ることが嬉しかった、と思う。当時からエンジンの回り方はツインカムエンジンとオーバーヘッドバルブエンジンでは明らかな違いがあった、と記憶する。
それは数ヶ月に一度の体験だったけど、阿蘇山に続く道を登りながら右足に忠実に反応して上下するタコメーターの針とコクコクと決まるトランスミッションの感覚と、おろした幌の向こうから聞こえるエキゾーストノートに心が震えた記憶がある。
時代は移り、排ガス対策のためにスロットルバイワイヤーになったエンジンに昔のレスポンスを望むことは難しい。それに、我がルーテシアⅢRSはエンジンのあたりがつくまで走っていないので、回せば回るし、回転が上がるほどにカムに乗る感じは受けるものの、まだざらついた印象は否めない。
それでも、『 回そうと思えば回せるんだぜ 』 と密かに思える贅沢がたまらない。
高回転のNAエンジンはアナログ的で前時代的かも知れないけれど、いつの時代になってもそれを否定する必要はない。ある時期に、もっとクルマらしく、 を目指して作られたのだから、できるだけ長くその思想を引き継ぎたいと思う。
もちろん、現代技術の粋を集めたダウンサイジングターボ+デュアルクラッチの、例えばルーテシアⅣRSの回転よりトルクで押し出すような加速も、大いに評価すべきではあるけど。