第246回 湖西道路
福井県敦賀市から滋賀県大津市まで琵琶湖の西側を走る国道161号線。161号線を南下して大津市に入ると間もなく、北小松から161号線のバイパスが始まる。それが湖西道路。正式には区間によって志賀バイパスと呼ばれるそうだが、我々利用者からみればバイパス全てが湖西道路という認識。
ほとんどの区間が片側1車線の湖西道路
※この頁の写真は全て後日改めて撮った湖西道路です
朝早くはめったに利用しないのだけど、先日は用事があって7時半ごろ志賀インターチェンジから湖西道路に乗った。
と、志賀インターチェンジのランプを駆け上がる頃、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。救急車の姿は見えないけれど、サイレンの音量が変わらないから同じように南進しているのは間違いない。志賀インターチェンジの北には比良ランプ、近江舞子ランプ、小松ランプがあるから、そのどれかから乗ってきたのか。
本線に合流。ちょうど京都方面に向かうクルマで混雑する時間で、いつもは制限速度を大幅に越える80キロぐらいで流れているのにこの日は50キロにも届かないほど。湖西道路はアップダウンの連続だから気をつけて運転しないとコンスタントな速度で走るのは難しいし、台数が増えれば詰まる度合いが高くなる。
登りながらのゆるい左カーブを走る頃になると10台ぐらい後ろに赤色等を点けた救急車が見える。『 いや~、どこまで行くのかね。急いでいるのだろうけどこの流れじゃ緊急走行の意味もないよなぁ 』と、救急車の中にあって先を急ぎたいであろう人を思うと意味もなく焦る。
山あいを走る湖西道路は上がったり下がったり右に向いたり左に向いたり、バックミラーを見続けながら運転していても遠くの後続車が視界から消えることもある。後ろに続く車列が遠くまで確認できるところにきて、
『んっ!!!』
救急車の位置が変わっている。さっき救急車の前を走っていたクルマが救急車の後ろにいる。瞬時に悟る。救急車が1車線の道で追い越している。
これはかなり衝撃的な事実。
カーブを抜け直線に入るたびに確認すると、間違いなく救急車は1台、1台と前を走るクルマと位置を変えている。
3台くらい後ろになるとサイレンの音も大きく響き、救急車の動きも手に取るようにわかる。
とある直線区間。片側1車線の道の路肩はそれほど広くなく、路肩の幅も狭くなったりするのだが、救急車の前を走るクルマが白線をまたいで左側に寄る。救急車がそのクルマの右側から追い越す。
止まって緊急車両に道を譲るのではなく、淡々と流れる車列の中にあって速度も落とさずに救急車に先を急いでもらう。
路肩の幅の問題もあるし運転している人の技量もあるから、次から次へと…というわけにはいかず時間はかかるけど、間違いなく救急車は交通の流れよりも早く移動している。
救急車が真後ろに来るやいなや左にステアリングを切ってスペースをあける。カーブの途中ではあったけれど、だからと言って道幅が狭くなるわけではない。スペースがあるからと言って前後に同じような速度で走るクルマがいるわけで、流れより速い速度で走ることはかなわないが、それでも救急車がゆっくりと追い越しを始める。救急車の鼻っ面が右に見える頃、助手席に座った白衣の人が左手を上げるのが目に入る。なぜか妙な達成感。いや、充実感か。
車線の中央に戻り、救急車の後ろをこんなに近く走るのは初めてだなと不遜なことを考えながら見ていると、少し時間をおいて救急車はその前に。
眼前のまだるっこしく感じられる展開を眺めながら思った。
自分の身近にある湖西道路。混んでいたら混んでいるなりに優先すべきことが優先されるという営みを目の当たりにした。救急車と遭遇する機会はそう多くはないだろうけど、もしそういう場面になって、この営みが当たり前のように繰り返されているのなら、まんざらでもないな、と。
嬉しい発見だった。