トム ヨシダブログ

第3回 トゥインゴGTとの対話が進む

  今年最後のスクールでデモンストレーションをしてやろうという目論見は崩れてしまったが、高速道路を使った慣らし運転と片道400キロ近い富士スピードウエイまでの道のりで、ずいぶんとトゥインゴGTが身体になじんできた。
 
  オートマチックトランスミッション(AT)全盛の時代だが、マニュアルシフトは嫌いではない。確かにATは必要な操作を省くことができるから楽ではある。当然、シフトをする必要がなければないほうがいいと言うが人が多数だろうし、それを否定するつもりもないが、運転を教えている立場からすると、シフトをすることで運転しているという意識が高まるという側面があるということを付け加えておきたい。
 
  いつも走っている道を、あえてゆっくり走ってみる。他人の迷惑にならないような時間に、わざとゆっくり走って見る。その時。いつも目に入ってくる景色はどう映るだろうか。自分の意識の変化に敏感であれば、いつもより集中力が落ちていることに気づくはずだ。ゆっくり走ることによって、速さに対する緊張感が薄れるのが原因だ。人間の行動は環境に大いに左右される。マニュアルシフトが運転力を高めるなどとは言わないが、クルマを選ぶ時、マニュアルシフトが有力な選択肢のひとつであってほしいと思う。
  アメリカで乗っていたシボレーのクルーキャブとサバーバン以外、今まで所有したクルマは全てマニュアルシフト。やがてやってくる新しい相棒も、もちろんマニュアルシフトだ。
 
  マニュアルシフトが好きな理由は他にもある。よほど高級なATでないと、エンジンの力と駆動力がダイレクトにつながっていないもどかしさ、はがゆさを明確に感じてしまうことだ。自動変速機らしくないATはおいそれとは手に入らない。昔で言うところのトルコンスリップを無視して割り切ってしまえばどうってことのない問題なのだが、マニュアルシフトのクルマしか走っていなかった時代に運転の洗礼を受けた者にとっては、ヒールアンドトーができるかできないかはクルマの重要な機能だ。

すっかり色づいた京都。色彩豊か。

  排気量が小さいから下のトルクを期待することは難しい。レバー比の関係なのか、若干ミートポイントがあいまいなクラッチと相まって、ある程度回転を上げておかないと発進時にギクシャクすることがある。実際、ディーラーの敷地でエンストすること4回。いささか自己嫌悪におちいった。
  とは言うものの、「クルマを発進させる時はネ、できるだけ低い回転でクラッチをつなぐのが粋なんだヨ」と教えられた世代だから、低回転での発進を意識し過ぎるのかも知れない。

  走り出してしまうと、この赤い小さなホットハッチの元気さを味わうことができる。
  まだ慣らしが終わっていないので全開にしたことはないが、早く回してみたくなる。そんな気持ちにさせられるのは久しぶりだ。
  40キロぐらいの流れに乗るには、3速で2,100回転まで回せばこと足りる。4速では1,500回転。5速にいたっては1,200回転しかエンジンは回っていない。「どんだけ前の話?」と突っ込まれそうだが、昔の小さなエンジンだと2,000回転は回していないとからきしだらしがなかった。それが5速1,200回転からでもスロットルをゆっくり開けてやるとキチンと加速を始めるのだから、エンジンにとっていいことかどうかは別にして、常用範囲の広さは特筆ものだ。
  1,800回転も回っていればスロットルの開度に反応してターボが効きだす。過給されている加速であることは明確にわかるが、多少スロットルを多めに開けてもドッカンという加速はしない。ただし、3,000回転までしか回していない現時点でも2,500回転を超えてからの加速はこの大きさのクルマのものとは思えないから、加速する時にはいつでも、閉じる準備をしてからスロットルを開けたほうがいい。

街中でなにげなく撮っても絵になる。これがエスプリ?

  料金所を抜けてランプを駆けあがり、合流車線を3速で加速する。2,000回転から3,000回転までの時間は瞬く間。シフトアップが遅れないように気をつける必要がある。4速に上げて3,000回転。77キロ。5速にシフトアップしてメーター読みで3,000回転まで引っ張ると、デジタル数字が100を示す。
  3,000回転をできるだけ維持しながら慣らし運転を行ったが、5速に入れっぱなしでも何の問題もなく、トラックに前をふさがれて80キロに落ちても視界が開ければ5速のまま、他のクルマをリードしながらペースを戻せる。ずぼら運転ができるから長距離も苦にならない。あとは、回せるようになった時にどんな動力性能を感じさせてくれるかだ。

  まだトゥインゴGTの性能の一端を味わっただけだが、ルノージャポンはドライビングスクールにとって理想的な教材を提供してくれた。うまい運転とは、最終的にクルマの性能を自由に引き出したり、制御したりできることと同義だ。少しばかり元気のいい小さなホットハッチは運転の本質を教えてくれるかも知れない。

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

  ユイレーシングスクールはスピードを出すことを教えているのでも奨励しているのでもありません。クルマを運転する時、それが公道であろうとサーキットであとうとその場、その時の秩序を守る必要があるのは言うまでもありません。しかし、一方で速度を出さないことが安全だとする風潮には反対です。制限速度を守っていれば安全かと言うと、そうではないと思うのです。
  制限速度を守っていては、ドライビングポテンシャルはそれ以上にふくらみません。制限速度を守り安全に走行していると思っていても、実はポテンシャルの100%で運転しているわけです。クルマは人間が実現できる以上の速さで走ります。速さに畏怖の念をいだくためにも、ドライビングスクールなどでクルマの性能を引き出すことに挑戦してみる価値はあると思います。

どうやったらクルマと一体になれるか。アドバイスが練習走行で生きる。


Comments are closed.