トム ヨシダブログ

第18回 タイヤを使う

  オドメーターは13,000キロを超え、トゥインゴGTはますます快調。
  街中を4速で走行中にわずかにスロットルを開けてやると聞こえる、かすかに聞こえる「ヒュィーン」という過給の開始を告げる音が心地よい。

久しぶりの奥伊吹スキー場。木々の緑も深まり夏。

  さて、7月に開催した今年2回目のYRSオーバルスクール奥伊吹の合間に、トゥインゴGTにデータロガーを取り付けて走ってみた。
  YRSオーバル奥伊吹はパイロンを並べて作った半径21.5mの半円を60mの直線で結んだ楕円形のコース。加速、減速、旋回が繰り返されるオーバルコースを速く走ろうとした時、クルマにはどんな加速度が生まれているか検証する。
 
  搭載したデータロガーはパフォーマンスボックスと呼ばれるGPSからのデータを記録。パソコンにダウンロードしたソフトで解析するもの。シガーライターを電源とする簡単なものだが、走り方を解析するには十分なデータを提供してくれる。

 

ウインドシールドの裏側に吸盤で取り付けるだけの簡単なデータロガー

  ユイレーシングスクールではスクールのたびに「どんなに高性能なクルマでもタイヤのグリップを超えて速く走ることはできない」、「安全に走るためにもタイヤのグリップを維持する技術を身につける必要がある」と説明する。またクルマ側から見ればタイヤのグリップとは4本のタイヤのフリップの総和のことだから、4本全てのタイヤのグリップを損なわないような操作をする必要がある、とも説いている。
  どんな時にグリップを損ないやすいか、という話は別の機会にゆずるとしてデータを見てみよう。下の図はYRSオーバル奥伊吹をインベタで走った1周260数メートルの速度と走行位置を示している。それにその時々のクルマの状態を描き加えたものだ。

 

縦軸に速度。横軸に距離を示す。右の図はクルマの位置を示す。

  40数キロでコーナリングしたトゥインゴGTはコーナーが終わる頃から徐々にスピードを上げ、このコースの最高速度70数キロに達する。
  60mの短いストレートのなかばで加速から減速に転じ、トレイルブレーキングを使いながらコーナーに進入。テーマが『できるだけコンスタンとに速いペースで走る』ことだから、コーナーの中で失速しないようにスロットルとステアリングを慎重に操作する。
  どの位置で、どの位スロットルを開けると『クルマが前に進む』かを感じながら、次のストレートに向けてスロットルを開ける。
  たかが1周16秒弱の箱庭みたいなコースではあるけれども、テーマを持って走ると見えなかったものが見えてくる。
 
  余談ながら、YRSオーバルスクールでは同じようなコースを1日に70周以上する。140回以上のコーナリングの練習をする。コーナリングの仕方だけでなく、タイヤのグリップを探る方法を知りたい方はぜひ参加してみてほしい。

  次の図は全く同じ周回のグラフに横Gのデータを取り込んだものだ。クルマの位置関係がわかりにくいかも知れないが、前の図と照らし合わせてみてほしい。

 

赤い線が速度。青い線が横Gを示す。

  図から0.7~0.8Gほどの横向加速度を受けながらコーナリングしているのがわかる。ちなみに最初のコーナーの横Gが比較的小さ目なのはこのコーナーの部分が駐車場で最も低いからだ。
  トレイルブレーキングを使ってコーナーに進入し、コーナリングの姿勢ができたら右足をスロットルペダルに戻してクルマをイーブンスロットルの状態にする。前後の荷重を均一にして4本のタイヤのグリップ全てをコーナリングに振り分けるためだ。

  次の図は同様に速度を表すグラフに加減速Gのデータを読み込んだものだ。

 

赤い線が速度。青い線が加減速Gを示す。

  コーナーを抜けて加速する。加速度はおおむね0.3Gほど。次のコーナーを回れる速度まで落とす時のマイナス加速度が0.5Gほど。
  コーナリング中の加速度に波があるが、これはヨーモーメントが発生していることを示す。原因としては、舵角とスロットルの修正に路面からの外乱が加わり、さらにトゥインゴGTの場合はトラクションコントロールの介入もある。
  しかし波はあるもののその区間の速度がほぼ一定だから、クルマ自体は安定してコーナリングしていることを示している。

  さて、この2つのグラフには安全にクルマを動かすために必要な操作のヒントが全て込められている。クルマ側からの視点に長けていれば、2つのグラフからそんな操作をしたらいいのか導きだせるはずだ。時間がある時にでも、あれこれ想像してみてはどうだろう。走り方を考えるのもクルマを動かす楽しさの一部だ。

  で、今回のまとめ。
  ■加速性能はクルマで決まる。とりあえず加速に関してタイヤのグリップが不足することはない。あるとすれば、発進加速の時か雪道を走る時だ。安心してスロットルを床まで踏んでもかまわない。なぜならば、タイヤの回転する方向と加速度の向きが一致しているからだ。
  ■どんなにすぐれた制動性能を備えたクルマでも、基本的な減速性能は運転手の技術によるところが大きい。制動性能をいくら大きくしても、それが大きなマイナス加速度とイコールになるわけではない。減速時にはタイヤの回転方向と加速度の向きが正反対だから、制動力の立ち上げかた(=踏力のかけかた)しだいでタイヤは簡単に限界を超える。
  ■コーナリングの速さは、間違いなく運転手の技量によって決まる。コーナリングでは加速度がタイヤの回転方向に直角に働く。しかし動いているクルマには加減速の加速度も加わっている。この2種類の加速度を合計すると、ほんのわずかな操作が原因でいとも簡単にタイヤのグリップの限界を超える場面に出くわす。
  ■タイヤには静的なグリップと動的なグリップがある。もちろんクルマを走らせているのは動的なグリップだ。しかし動的なグリップは絶えず変化する。タイヤにかかる全ての加速度の合計が、『その瞬間のタイヤのグリップ』を超えないような操作がクルマを安全に走らせる。

  クルマを運転する人全員が速く走る必要はない。しかしクルマを安全に走らせるためには、タイヤのグリップを超えない操作を知る必要がある。タイヤのグリップの範囲内でクルマを動かせるようになるためには、その人が速く走るつもりのない人であっても、今のところ、速く走る方法からひも解く以外にはない。だからドライビングスクールが有効なのだ。

※ユイレーシングスクールでは運転にまつわる質問にお答えします。匿名でかまいません。クルマの動かし方に疑問のある方は以下のアドレスにお送り下さい。このブログで回答させていただきます。
・ユイレーシングスクール03ma@avoc.com

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  ユイレーシングスクールでは以下のドライビングスクールを開催します。クルマの使い方に興味のある方は参加してみませんか?トゥインゴGTもお待ちしています。(詳細は以下の案内頁をご覧下さい。)

○ 8月28日(日)YRSドライビングワークショップFSW 案内頁
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=dwf

○ 8月30日(火)YRSドライビングスクール筑波
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=tds

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●クルマはよくできた道具なので、性能を発揮させるためにはそれなりの使い方を知る必要があります。ユイレーシングスクールが10周年を記念して制作したCDを聞いてみて下さい。バックグラウンドミュージックもないナレーションだけのCDですが、クルマを思い通りに動かすためのアドバイスが盛りだくさん。クルマ好きにとっては一生ものの5時間34分です。
YRS座学オンCD案内頁:http://www.avoc.com/cd/


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