トム ヨシダブログ

第88回 四輪と四つ足と

Uさんという女性がいる。サーキットをクルマで駆け抜けてみたいと思い立ち、運転の基本から習いたいとユイレーシングスクールに参加してくれた。今までに鈴鹿サーキットドライビングスクールやYRSリトリートと呼んでいる拙宅でのYゼミに顔を出してくれた。
そのUさん、本職は乗馬のインストラクター。ご自身も乗馬の選手として競技に参加されていた経験をお持ちだ。

そのUさんから聞いた話。

前々から競馬場を走る馬がなぜあれほどの速さでコーナリングできるのか不思議に思っていたのだが、クルマの運転の話を進めているうちに謎が解けてきた。きっかけは、4本の足で走る馬はさしづめ4輪駆動ですね、とクルマのコーナリング理論から脱線したことだった。

馬の足は基本的に真っ直ぐにしか走れないという。その馬に円弧を描いて走ってもらうには内方という乗り方で馬に曲がってもらうのだと教えてくれた。それは、簡単に言うと、馬の前足と後ろ足の間の胴体を湾曲させ、4本の足自体は直線上を運動しているのにも関わらず、馬全体から見ると曲線的に移動するように仕向けることらしい。まるで4WSではないか。
遠心力はどうやって吸収しているのか、ロールはするのかしないのか、と素人まるだしの質問をぶつけると、Uさんは障害を飛ぶような馬術が専門なので競馬のことはよくわからないと断りながら、騎手が内方姿勢をとることで重心が円弧の内側に移動することで速いコーナリングスピードを実現できるのだと教えてくれた。

馬もすごいけど、それを操る人もすごい。まして馬はクルマと違って意識を持つ生き物だ。

知らないということほど怖いものはなく、4WDに4WSなら乗りこなせれば完璧ですねと相槌を求めると、競馬の場合はそうかも知れないけど乗馬の場合は後2輪駆動と言うべきかも知れないと諭された。走るだけでなく跳躍することも求められる乗馬では、後足が全ての基準になって動きにつながると言う。どうやらテールヘビーの大馬力エンジンを積んだFRのようなものらしい。だから競馬馬と乗馬用の馬では筋肉のつき方も異なるらしい。
さしづめ、有り余るパワーを路面に伝えるためにとんでもなく太いタイヤを履き、後輪のスリップアングルを最優先にセットアップし操作していた昔のF1みたいなものではないか。操るのが大変そうではあるけれど。

いずれにしても、競馬にしろ乗馬にしろ馬が動きやすい環境を整えることで目的を達しているわけで、その意味では馬に乗ることとクルマを運転することの意識の間には共通点があることは間違いない。

実際、120センチの障害を飛べる高い能力を持つ馬でも、乗り手が馬の気持ちになれないともっと低い障害でも飛んでくれなくて自尊心を傷つけられるらしいから、乗り手次第という意味ではまさに同じなんだろうなと。


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