トム ヨシダブログ

第73回 人かクルマか

まったくもって個人的な意見ではあるのだが、昔から「クルマより速く走れるようになりたい」と思ってきた。

正確に表現するのは難しいが、要は、『クルマの性能を余すところなく発揮できる運転技術を身につけたい』といつも思っていた、ということになろうか。
アメリカでレースをやっていた時も、勝敗を度外視して走っていたわけではないが、常にクルマの性能を十分に引き出すことをテーマにしていた。

そんな、思想と言ったら大げさだけれど、そんな考え方は米国ジムラッセルレーシングスクールの創始者であるジャック・カチュアの説くドライビング理論と通じるものがあった。ジャックは3日間のスクールの冒頭で、「クルマの性能より速くは走れません。クルマの性能より速く走った人もいません。まずクルマも性能をどうすれば引き出せるかを考えて下さい」といつも言っていた。
だから、日本語クラスを作ってほしいともちかけたのは、スキップバーバーレーシングスクールではなしにジムラッセルレーシングスクールだった。

時は移り1990年代後半。日本ではクルマが速ければ速く走れるという考え方がサーキットに蔓延していた。ジャックが知ったら眉をしかめる状況だった。

だからユイレーシングスクールが誕生したといっても過言ではない。
だから、端的に言えば、ユイレーシングスクールが掲げたテーマは『道具に頼らず自分の速さを追及しましょう』だったし、14年目の今も同じ。
だから、速く走るための必須アイテムだと誰もが思っているSタイヤは、当時からご法度だった。禁止とは言ったことがないけど、雰囲気をさとってくれたのだろうか、今までSタイヤで参加した人は10人もいない。

『クルマの性能を高めれば速く走れて当たり前。クルマにつぎ込む余裕があるのなら自分に投資してクルマととことん付き合って下さい。運転は一生モノです』なんて面倒くさいドライビングスクールだからか、参加者の4割近くは全くのノーマル。極端に改造したクルマで参加した人はいない。

7月のある日。そんなSタイヤに縁のなかったユイレーシングスクールがついにSタイヤがテーマのプログラムを実施したのだから、常連から「宗旨変えしたのですか?」と問われる始末。そうではなく、ある卒業生がタダでSタイヤを手に入れたことがことの発端。
とにかく、YRSオーバルレースでブイブイ言わせている常連にしてもSタイヤ経験者はいない。ならばみんなで味見するのが良かろうと、有志に協力してもらい1台のロードスターにラジアルタイヤとSタイヤの両方を履かせ、乗り比べをすることになった。

その時の車載映像がこれ。

味見をした後の感想はというと、「転がり抵抗が大きいから無条件に速いということはないね」、「Sタイヤは美味しいところがどこにあるのかわかりづらいな」、「速く走るためにどうしても必要ってことはないよね」、「割高でライフの短いSタイヤの費用対効果って疑問だな」等々。ジャックが聞いたら喜びそうだな、と思ったものだ。


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