トム ヨシダブログ


第133回 YRSツーデイズスクール体験記

2月に富士スピードウエイで開催したYRSツーデースクールを受講してくれたNさん。このブログでユイレーシングスクールのことを知って申し込んでくれたと聞いたものだから、あつかましくも感想文をお願いした。
初めてのサーキットにも関わらず小気味いい走りをしていたNさんの体験記をお届けします。

135-321日目を終えてルノー・スポール仲間と
右からメガーヌのWさん ルーテシアのNさん 左はメガーヌのHさん

133-1b2日目 ストレートを駆け下るNさん

133-2bルーテシアⅣRSで参加してくれたNさん(中央)
左は毎年YRSツーデースクールに来てくれるTさん

============================ NさんのYRS体験記 ===========================

・1日目
免許取得から40年以上の運転暦を重ね、その間15台程の車を乗り継いでそれなりにカーライフを楽しんできたつもりですが、還暦を過ぎてもう一度車好きの原点に立ち返り、運転を楽しみたいと思っていました。
若い頃は見よう見まねで運転技術を習得しマニュアルシフトを楽しんで峠道を走ったりしましたが、家族を持ってからは車種の選択や仕様にも制限がありました。漸くその呪縛から開放され自分が欲しい車種を探し始めた時、目に入ったのがルノー・ルーテシアでした。もともと小型で小気味よく峠道を走るタイプが好きなので、雑誌等で以前から気にはしていましたがニューモデルが発表され、『まさに自分はこれが欲しかったんだ!!』と思いました。
それから購入に向けて情報収集する中で見つけたのがルノー・ジャパンのサイトに掲載されていたユイレーシング・スクールのブログです。『ルノーをサーキットで思い切り走らせたい!』と言う思いが強くなり、ついに富士スピードウェイで開催されたYRSツーデースクールに参加しました。
1日目、富士スピードウェイ駐車場端の教室で受付を済ませ、最初にトム校長の挨拶と白板を使って基本的な理論の説明。講義の中では車の動きとタイヤにかかる荷重の変化について説明されました。車を上手に運転し、効率良く安全に走らせる操作の基本を教わりました。ブレーキングの重要性について説明されましたが、特に印象に残ったのは今回初めて聞く言葉で『トランジション』、車が加速から減速への移行や直進からターンへの姿勢変化の際、移行を十分意識して運転操作をしないと、車は思う通りには走らないと言う事でした。

教室講義の終了後、参加者は3グループに分かれて駐車場内に設定された、スラローム/ブレーキング/8の字セクションでいよいよ運転スキルの練習がスタートしました。受講生はFMラジオで校長から飛ぶアドバイスに従って、それぞれの課題に臨みます。私の最初は8の字から、スタッフのグリーンフラッグの合図で勢いよくスタートあっという間にパイロンが迫りタイヤを軋ませながらコーナリングそして直進のタイミングを計りアクセル全開、ブレーキング、今度は反対方向にステアリングを切りコーナリング、あっという間にフラッグが振られセッション終了。
そして他のグループメンバーの走りを待ち、次の順番に臨みます。同じセクションを何度か繰り返しながら、自分なりに工夫を加えて望みます。最初は恐る恐るアクセルを踏み込んでいましたが、回を重ねると、思い切りべた踏みです。ところが車は自分が思ったようには動いてくれず、アウト側に膨らんだりスムーズな動きになりません。すかさずFMラジオからは校長の大きな声のアドバイス、あっと我に返り冷静さを取り戻し再挑戦。

なかなか難しいなと思っていると課題チェンジの指示、次はスラロームでした。等間隔に並べられたパイロンの間を出来るだけ早く走り抜けます。
ここではステアリング切り方が難しい、素早く左右に切ればいい訳ではなく、切るスピードにポイントが、操作を間違うとコース終盤で車のロールが増幅されて怖い思いをしました。校長からは肩に力をいれずハンドルをゆっくり切り始めるように指導を受ける。何度かスラロームを繰り返しまわりの参加者に比べレベルは低いけれど最後まで崩れることなく走りきれるようになりました。

そして最後が重要課題のブレーキング練習。アクセル全開であっという間にスピードは100キロ近くに達し目印のパイロンで急制動、前方のガードレールが目に入りスリル満点。普段の運転では考えられない急発進、急制動、タイヤが悲鳴を上げている。自分なりには精一杯のつもりだが、校長からはまだまだと厳しい指導の声。それならお手本をとお願いすると、さっと運転席に乗り込んで同乗走行の模範操作をしていただいた。さすがにその違いは歴然、制動距離は半分近く短く、ABSも作動しないのに緊急停止の為ハザードが自動的に点滅、これには本当に驚いた。単純なトレーニングながら夫々の難しさを実感して午前中の基礎練習があっという間に終了した。

午後はパイロンで走行ラインを設定されたオーバルコースを周回するユイレーシング・スクール独自の走行練習でした。午前同様にチーム分けされたグループが隊列を組んで周回、最初は一定速度を保って走ります。4本のタイヤのグリップを全てコーナリングに使うためのイーブンスロットルの練習です。徐々に指示速度が上げられます。車の反応を確かめながらハンドル操作、アクセル操作を繰り返しました。
オーバルコースの周回練習は次の段階へ進み、ハイスピードの周回となりコーナー手前でブレーキング/ハンドル操作/加速と繰り返されるようになり、トレーニングも難易度をまして行きました。ここでもFMラジオからは校長の厳しい指導の声が飛び、午前中の練習を思い起こしてブレーキングに力をこめました。
チーム毎に周回を重ねながら後半はオーバルコースも拡大され、トップスピードも一段とアップしこれまでの操作にシフトチェンジが加わります。セカンドでコーナーを立ち上がり加速してサードにシフトアップ直ぐにブレーキングとシフトダウン目まぐるしい操作で、高まるエンジン音、コーナーリングの横G、車を思いっきり走らせていることを実感しました。
1日目最後はオーバル走行でチーム内レースでした。速いクルマが後に迫ると校長からの指示でコーナーをアウトに膨らまないように立ち上がったり、周りの車にも注意をはらいサーキットの走行を意識した走行練習でした。駐車場内を走り回って繰り返し続けられたオーバル練習、気が付いたらオドメーターは80キロ程、1日目のプログラムを無事に終了しました。

・2日目
FSWショートコースで念願のサーキットデビューの日。雨はあがったものの路面は濡れた状態で不安な気持ちでした。コースに到着するとまずコースを歩きます。コーナーの状況やCPポイントの説明を受けながらコースを一周、サーキットの勾配が想像以上にキツイ事を実感。特にホームストレッチは5%の下り勾配があり第1コーナーへ入る前の姿勢の作り方とブレーキング操作を重点的に指導された。
次に教室でライン取りや走行上の注意点の説明があり、ラップタイム計測用のトランスポンダーを渡されました。いよいよサーキット走行です。

走行準備を終えヘルメットを被り、グループに分かれてピットロードからコースイン。最初はウォーミングアップ走行でコース状態の把握から始まり、グループ毎の周回走行が繰り返された。初めのうちは路面が濡れていることもあり、恐る恐る先行車の後ろについて走行ラインを確認し、徐々にスピードを上げていきました。グループ毎に区切られた時間で、周回走行を交互に繰り返す。これまでの講習で学んだことを意識し、周回毎に課題に挑戦するが、あっという間に午前の走行が終了した。午後は講師の同乗走行から、受講者が助手席に座り講師がコースを模範走行。私も校長の運転でコースを周回。昨日の模範ブレーキング同様に圧倒的な操作で、ゆっくりながら、メリハリがあり操作の意図が車に伝わっていることを実感、自分の運転とは異次元の世界を体感し、まさにこれが本物のサーキット走行、大変参考になりました。続いて午前と同様にグループ毎の周回走行が繰り返され、路面状況も良くなり周回スピードも上がりました。グループ走行ながら速い車に抜かれたり、先行車に追いついて様子を伺いながらパスすることが出来たり、サーキット走行の醍醐味を満喫し時間を忘れて、周回を重ねました。ベテラン受講生のレベルとは比べ物になりませんが、今日のサーキットデビューは最高に楽しく、『ルノーでサーキットを思い切り走る』夢が実現できた素晴らしい一日になりました。無事にサーキット走行を終了し、オドメーターは150程でした。

・所感
思い切ってYRSに参加してとても良かったと思います。これまでもスポーツの講習等様々な指導を受けて来ましたが、その度に感じることは、自分の目標に挑戦する時、その領域の知識や経験のある人の指導を受ける事が、最も速くて効果的な対策だと思います。車を移動手段の道具としか考えない場合は運転を教習所で教わって免許を取ればそれ以上の必要はないかもしれませんが、上手に運転したい、速く走りたい、車の運転を楽しみたい、と思ったら操作については専門の指導が必要です。今回は吉田校長の永年の指導経験から組み立てられた内容や、受講者に繰り返される熱血指導を体感し、特に2日目には『ルノーでサーキットを思い切り走る』という願いも実現できました。2日間の短い時間でしたが充実した内容に大変満足しています。

また性能が良くていい車だと思っていても、一般道路では性能の一部しか感じることは出来ませんでしたが、駐車場やサーキットで思い切り車を走らせた事で、ルノーが素晴らしい車だと言う事も実感、ルノーにして良かったと思いました。ルノーはサーキットイベントやユーザー同士の交流会等も開催していますが、今後は機会があったら参加したいと思います。

高齢者が年甲斐もなく、サーキットを走りたいと思ったのは、これまで様々なスポーツを経験し楽しんできましたが、加齢と共に体力の限界を感じ始めて来たからです。2日間の初挑戦を終えてからは、『まだまだやりたい事がある!』と挑戦する課題を見つけて、前向きな自分を発見しました。

今後も愛車ルノーで、練習を重ね、新しいカーライフを楽しみたいと思います。


第132回 鈴鹿ツインサーキット

131-1久しぶりにレブリミットまで回した

131-2
鈴鹿ツインサーキットGコースはこんなレイアウト

筑波サーキットと富士スピードウエイで開催しているいろいろなカリキュラムを関西でも展開したくて候補地を探していたけど、クルマを動かす基本操作を練習するYRSドライビングワークショップを鈴鹿ツインサーキットGコースで開催することにした。

4月2日(木)に開催するのは、全長1,750mのフルコースの半分を使うGコース。とにかく運転の上達には反復練習が欠かせないので1周40数秒で周回できるのが嬉しい。
と言っても、長さは960mあるし直線は280mもある。コーナーの数は12でコース幅は最低でも10mある。練習にはうってつけ。特にストレートを使ったスレッシュホールドブレーキングの練習は期待大。

クルマの基本的な動かし方、と言っても教習所のそれとは異なり高いレベルでのだが、を体験してみたい方はぜひ参加してみてほしい。
・YRSドライビングワークショップ鈴鹿 開催案内

冬場はほとんど乗らない愛車を引っ張り出して、タイヤのショルダーのイボイボが削れない範囲で走った時の動画がこれ。

ルノー・スポールが作るクルマはやっぱりいい。もっと評価されてしかるべきだと思う。

※動画の中でナビがしゃべっていますが聞き流して下さい。


第131回 YRSツーデースクール

運転の上達のためには短期間に集中して練習するほうが効果的、というジムラッセルレーシングスクールの校長の教えを守って開催するYRSツーデースクール。

今回は4台のルノー・スポールが参加してくれた。


埼玉のTさんと東京のNさん。Nさんはサーキットが初めて


滋賀県から来てくれたWさんと千葉のHさん

YRSツーデースクールは1日目の午前中にブレーキング、スラローム、フィギュア8で基本操作を、午後のオーバルでイーブンスロットルとトレイルブレーキングを練習。うまくできてもできなくても、1日目に経験したことを2日目のサーキット走行に生かすことを最大の目標とする。
手前味噌ではなく、これでみなさんホントに上手くなる。今回はサーキット初体験の方が5名いらしたが、最後には全員がクルマをイキイキと走らせていた。
2日間でクルマの操り方がわかるユイレーシングスクールの目玉商品だ。


ルーテシアRSが全開でストレートを駆け下る


ルーテシアRSがロードホールディングに勝るロードスターを追い詰める


メガーヌRSがいい音を立てて疾走

ここ数年、またサーキットがにぎやかになってきて日程の確保が難しくなってきたけど、なんとか今年中にもう1度ツーデースクールができないかと画策中だ。


第130回 Kさん レースデ ビュー


RSはサーキットが似合う

ルノー・ジャポンのブログでユイレーシングスクールのことを知ったKさん。昨年3月に愛車ルーテシアRSとともにYRSオーバルスクールに参加してくれた。
その後、YRSドライビングワークアウトやYRSトライオーバルスクールなど昨年中に4回、今年に入ってYRSオーバルスクールにも参加してくれた。

Kさんがサーキット走行を楽しまれていることは知っていたから、ことあるごとに「YRSのスクールレースに出ると運転の幅が広がるしスクール以上の効果がありまっせ」とささやき続けたのが功を奏したのだろう、2月のYRSスプリントレースに参加してくれた。

レースと言っても、ドライビングスクールの一環として行なっている卒業生を対象としたスクールのようなもの。一度でもYRSのドライビングスクールを受ければ参加する資格はあるし、クルマにも特別な準備をする必要はない。とにかく、とかく敷居の高い日本のモータースポーツ界にあって、少しでも多くの人にヨーイドンの醍醐味を味わってもらいたいと思って始めたのがYRSスプリントレースとYRSエンデューロレース。
だから、レースでの走り方も教えるしレーシングマナーも教える。サーキットを走ったことがあって、YRS流のクルマを意のままにコントロールする方法を知ってもらった人は誰でも参加できる。

と言っても、レース内容もそれなりかというとそうではない。続けて参加している人のレベルはかなりのもので、彼らが公式なレースに出ようと決心さえすれば上位に食い込むのも難しくはない。
実際、Kさんが今回参加してくれたYRSスプリントレースを卒業してライセンスを必要とするレースに参加し、優勝したりシリーズチャンピオンになった人が何人もいる。

さて、サーキットを走ることには慣れていたKさん。初めてのヨーイドンでどんな振る舞いをするか興味深く見させてもらった。
結果は上出来。結果は別としてしっかりとレースをしていた。

8月に行なうYRSスプリントレースにも参加してくれるそうだし、その前にYRSオーバルスクールにも来てくれるそうだから、その時にでもあと1、2台を食う方法をアドバイスしようと思っている。

後日初めてのYRSスプリントの感想を求めたら、 Kさん自身のブログ にまとめましたと返信があったのを付け加えておこう。


ローリングスタートからヨーイドン
気持ちのいい瞬間


コーナリングスピードに勝るツーシーターを追いかける
気分が透明になったかな?


追って追われて
だけど2台とも突っ込みすぎ!


レース中何を考えているのか?
いや、何も考えてはいないはず


勝とうと思ってレースを走って、レースに勝った人はいない


最初にやるべきことは自分がミスなく走り続けることだ


レース中のラップタイムを見ながら
「フムフム、悪くないんじゃない」

photo:YRS + Rumi Masuda


第129回 クルマだからできること 5


扱い方さえしっていればどんなクルマでもニュートラルステアで走らせることができる

1979年9月。2200台のクルマをお腹いっぱいに詰め込んだ輸出専用船に乗り込み千葉港を出帆。10日目にはバンクーバーで半数のクルマがおろされ、12日目にはポートランド港で続々と埠頭に向かって走るクルマを横目に下船。初めて海路アメリカに渡った。
まだ秋口だというのにアリューシャン列島付近では大時化。船内の傾斜計が30度を示す中、船長はカウンターステアを切って平衡を保つのだと教えてくれた。

双子の息子が4歳になってレースを再開した。大人6人が快適に寝ることができる15mのモーターホームでレーシングカーを載せたトレーラーを引き、800キロ離れたレース場を往復した。モーターホームがなければレース再開の許しは出なかった。

アメリカに拠点を移してから飛行機で199回太平洋を渡った。一度だけ、成田を飛び立って1時間ぐらいして機材の故障で引き返したことがあったが、それ以外は快適な空の旅だった。そして400人の命を乗せて飛行機を操縦するパイロットに、いつも畏敬の念を抱いたものだ。

船、クルマ、飛行機。交通機関の発達は我々人間の生活を、空間的に時間的に精神的に拡大してくれた。ことにクルマはふつうの人々の日々の生活を発展させてくれた立役者ではある。

しかし、人が移動に使う船にしても飛行機にしても、それを操る人はふつうの人ではない。厳しい国家試験に合格した人だけが、人を乗せて移動することを許される。
ところがクルマだけは、動かしたいと思った人はそれほど困難をともなわずに免許証を手にすることができる。人間や物を載せて、人間がとうてい及ばない速さで移動する点では同じなのにだ。

我々は職業運転手ではないと言えばそれまでだが、自分ひとりであっても人を乗せて移動する交通機関を操るという意味に違いはない、というのがユイレーシングスクールの考えだ。

だから、スクールやスクールレースの時におりに触れてこう言うことにしている。

『クルマを運転している時、みなさんは交通体系の中でクルマの性能を損なわない範囲でなら自由を謳歌することができます。しかしその時、みなさんの後ろには誰もいないんです。全ての責任を負わなければなりません。そのことを忘れないようにして下さい。一方でクルマを運転するということは、自分で脚本を書き、自分で演出し、自分で主役を張り、自分が観客になり、自分で自分を称えることができる、社会生活の中でも稀な機会です。大人が一生懸命になる価値があります。粋にクルマを動かすためにも、今一度、これからどのようにクルマと付き合っていくのか、改めて考えてみてはいかがですか』。


クルマは操り方によってはアンダーステアになり


操り方によってはオーバーステアになる

「クルマだからできること」 終わり


第128回 クルマだからできること 4

手元にある資料の最も古い数字を探すと、半世紀前の1966年の自家用自動車の登録台数は271万台とある。この年、日本の人口が9,903万人で、2輪と4輪を合わせた運転免許の保有者数が2,286万人。免許が取得できる16歳以上の人口に対する保有者数の割合が31.5%と記されている。
最も新しい数字は2013年で、自家用自動車の登録台数が5,991万台。50年前に比べて22倍以上に膨れ上がっている。人口も12,730万人28.5%増加したけれど、運転免許保有者も3.6倍の8,186万人に増えた。
50年前。10人に3人しか運転免許を持っていなかったのに、今や10人中7.5人がクルマを運転する時代になった。
1965年に高校1年で軽自動車免許を手に入れてから50年。クルマの発達とクルマ社会の拡大を目の当たりにしてきた者として隔世の感がある。

昔はクルマを運転することが多少なりとも特殊なことだったのだが、今ではクルマがそこにあることは当たり前で、運転すること自体ごくふつうのことになった。クルマが空気や水のような存在になったと言うと大げさに聞こえるかも知れないが、クルマがそれだけ我々の生活に浸透していることは疑いない。

同時にそれは、人のクルマへの接し方にも変化をもたらした。所有欲を満たすクルマ。移動の利便性を優先させたクルマ。自己表現の対象としてのクルマ。等など。クルマから派生する価値観の多様化は止まるところを知らない。

しかしその反面、クルマを動かすのは人間であるはずなのに、クルマという道具を使うことに没頭する人の数は昔と変わらないような気がする。免許人口が増加しクルマが増え続けてきたのに、モータースポーツにいそしむ人の数もサーキット走行を楽しむ人の数も、こと日本においてはその増加に見合っただけ増えているとは思えない。

クルマが空気や水のような存在になってしまったからなのだろうか。日本の環境の問題なのか。クルマが生活の一部になったから、もはや運転は目的にはなり得ず手段でしかない、ということなのだろうか。何かもったいないような気がする。クルマが道具である限り、思いっきり使ってみなければその本当の価値はわからないと思うのだが。

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このブログを見てYRSドライビングスクールに参加してくれたKさん。YRSオーバルスクールに始ってYRSドライビングワークショップ、YRSトライオーバルスクールと基本カリキュラムの全てとYRSタイムトライアルに参加してくれた。そのKさんが2月7日に開催するユイレーシングスクールのスクールレースに申し込んでくれた。ルーテシアRSをどう扱うのかじっくり見させてもらうことにしよう。


予選タイムの逆順に並んでワクワクのローリングラップ


スタート 反応の早い人も遅い人も我先に


レースはいつも混戦


次のヒートは前のヒートの着順でローリングラップ


ここにいたる駆け引きと透明な時間こそレースの醍醐味


1コーナーに並んで進入

3コーナーでも並んだまま

写真は2008年10月に富士スピードウエイショートコースで開催したYRSスプリントロードスタークラス。ふだんの足に使っているクルマで、そのへんにいるおじさんとお兄さんとお姉さんの走りです。

「クルマだからできること最終回」に続く


第127回 YRSオーバルスクール和歌山

滋賀県に越してきてから4年。関西でもスクールをやりたいと前々から思っていた。
やるならユイレーシングスクールの目玉であるYRSオーバルスクールと開催地を物色していたのだが、昨年開催した大阪の舞洲スポールアイランドは路面が波打っていてクルマが跳ねる。タイムトライアルのような競技ならうってつけのコースなのだが、後輪を使ったコーナリングの練習には少しばかり不向きだった。

そんな時、2年前に和歌山から富士スピードウエイで開催したYRSツーデースクールを受講してくれた木綿さんが交渉してくれて、とある駐車場を借りることができた。

和歌山県ではじめてのYRSオーバルスクール。参加18名中9名が地元の方。他はいつもの通り以前にYRSを受講してくれた顔見知りの面々。神奈川から駆けつけてくれた人もいた。

紀州らしく穏やかでポカポカの陽気の中で楽しい時間は過ぎていきました。

150x60mぐらいの舗装した広場があれば、もっとYRSオーバルスクールを開催して運転の楽しさを味わってほしいと思っている。どこか、そんな場所をご存知の方いませんか?


第126回 クルマだからできること 3

アメリカに拠点を構えていた時、一度4Gの加速度が味わえるというドラッグスターに乗りたくなった。しかし周囲にいるレース関係者も出入りしている会社もみなロードレースが専門でドラッグレースの門外漢。そこでドラッグスター専門のドライビングスクールの門を叩くことにした。そのスクールでは専用に作られたスーパーコンプ、いわゆるレールと呼ばれる長いフレームを持つドラッグスターに乗ることができた。
ことの顛末は別の機会にゆずるとして、初日の教室で、ドラッグレースのファニーカークラスで世界チャンピオンになったことがある講師が最初に言った言葉が強く強く印象に残っているので紹介したい。

彼は、ドラッグスターを操ることは芸術だと言った。

彼は神妙な面持ちで座る受講生を前に、『ピアノを弾きながらハーモニカを吹くようなもので一度にいくつものことを正確に行なわなければならない。簡単なことではないが、それを目指してこれから練習する。ドラッグスターに乗ることはそういうものだ』と言った。

物心ついてからレーシングカーを操るプロの走りをみて、行きつくところまで行くとクルマの運転はそういうものなんだろうなと薄々感じていたから新鮮さはなかったが、改めて他人から言われると激しくうなずくしかなかったし、目指すところが鮮明になったのを記憶している。
彼は、何はともあれ全てをまとめ上げることが何よりも優先されるのだから、どれかひとつだけに集中すると他がおろそかになる。そうならないような意識を持って焦らないように、と続けた。危険と隣り合わせのドラッグレースに必要な心構えを説いたのだ。

YRSスクールレースを始めてしばらくは、突っ込みすぎて失速したり、不用意な操作でライバルのラインを踏んでしまったり、勝ちたいという気持ちが、いつもはできていることができなかった卒業生も少なくなかった。そんな時、直接参加者に話したり、メールマガジンで伝えたり、先の講師の言った言葉を繰り返した。

なにしろ歴史もない実績もないユイレーシングスクールだったから、のっけから『クルマの運転は芸術だ』なんて言おうものなら疑いの目で見られることは間違いなかった。しかし、それが高名な世界チャンピオンの言葉で、実際のドライビングスクールでも使われていた言葉となれば躊躇する必要はない。

最初のうちは『何言ってんのかね』というような顔をしていた常連も、何年かすると合点がいったようだ。口に出してはっきりとは言わないが、なんとなくそれ風のことを目指しているというようなことを聞いたことが少なくない。
ある卒業生は自身のブログに『これだけだと誤解しそうだが、いろいろ考え、学んだ挙句、これに行き着く気がする』と書いてくれた。

さて、クルマの運転は芸術、とは言ってみたのはいいけれど、もちろんそれは社会一般の通念の芸術とは違う。あくまでも一人ひとりが胸に秘めるような類の、個人に帰する価値観だ。

しかし、クルマを思いのままに動かしたいと思った時や特にクルマの性能を存分に発揮してみたいと思う時には、あらゆることを同時進行で正確に行なわなければならないという意味で、クルマの運転が芸術というのはあながち外れてはいないとユイレーシングスクールは考えている。

※ YRSエンデューロとYRSスプリントが軌道に乗ったところで始めたYRSオーバルレース。一時ほどの参加者は集まらないが2004年から10年、昨年末までに76回開催した。中には雪の日も豪雨の日もあったが、どんな状況でもクルマを思いのままに走らせたい人が集まるYRSオーバルレース。天候のせいで中止にしたことはない。

ウエットだって全くグリップしないわけじゃないし


グリップしないならそれなりに走ればいいんだし


条件はみな同じ


クルマをきちんと動かすことができれば


本場アメリカではやらない雨のオーバルレースができる

ユイレーシングスクールのクルマを生かすは続きます。


第125回 クルマだからできること 2


YRSエンデューロ ルマン式スタート

受講生や卒業生に白い目で見られながらも、スクールレース実現のために語り続けました。

『地面に書いた幅10cmの白線があとします。「その上を踏み外さないでできるだけ速く歩いて下さい」と言われても躊躇する人は少ないと思います。しかし高さ50mで幅10cmの平均台をできるだけ速く走りきって下さいと言われたら、かなりの人が戸惑うのではないでしょうか。クルマの運転とはそんなものです。自分の足が地面についているわけではありませんから、それなりの慎重さが必要になります』。

『サーキットで速く走るということは、平均台が10mの高さにおいてあるのと同じようなものです。日常ではできることができない。日常で培った知識と経験を生かすことができない。しかしやることは日常と同じ。だから錯覚が起きるのも当然なのですが、思い違いをしたまま走って自らを危険にさらしたら、そんなサーキット走行が楽しいわけがありません。平均台を渡るのが目的ならば、早く渡ることはできないかも知れませんが跨って渡ったっていいはずです。他人の目を気にするのはナンセンスです』。

『サーキットは対向車が来ない、歩行者が歩いていないなど一般の道路とは異なる環境にあります。ここにひとつの落とし穴があります。ひょっとすると無意識の中でサーキットは自由に走れるところだと決めてかかっていることはありませんか。サーキットではクルマの限界とみなさんの限界を超えて速く走ることはできません。速く走ろうと思うのならばクルマを動かす手続きを省くことはできませんし、あなた方一人ひとりの実力以上に頑張っても速くは走れないのです。つまりサーキットを走るということは決して自由ではありません。クルマの限界を超えた自由ははなから存在しないのですから、まずクルマをキチンと走らせることを心がけるべきです』。


パワーがあるだけでは耐久レースに勝てない

『サーキットを走っているのにレースで他人と競争するのが怖いと思っている人がいます。ですが、他人と一緒に走るのが怖いと言う人がサーキットを限界で走ることのほうが危ないと思いませんか』。

『レースに参加する時、最も大切なのはスピンやコースアウトをせずに安全に走行を終えることです。レースではひとつの目的に向かってたくさんの人が走っています。あなたのスピンが原因で、あるいはあなたのクルマの故障が原因で何かが起きてしまったら、と想像してみて下さい。ひとりよがりは駄目です。そういう人に限って運転も自分本位で、クルマ本来の性能を使えていないものです』。

『自分の意識と自分の速さを認識した人は、間違いなく安全に速く走ることができます。後はみなさんがが自分を追い詰めた時にも、その認識を持ち続けることができるかどうかだけです』。

『ある走行会で整備不良のクルマがオイル漏れで燃えてしまった例もあります。傍若無人な運転をする人がスピンやコースアウトする場合も少なくありません。日本のモータースポーツには手軽さが必要ですし、少しずつ垣根は低くなってきているようですが、逆に手軽さを気軽さとはき違えてることがないようにしたいものです』。


YRSスプリント スモールボアクラスのスタート

『モータースポーツに参加するのも、クルマを運転すること自体も危険をはらんでいます。ですがクルマの運転がはらむ危険のほとんどは人間の意識で回避できます。レースの安全を確保するためにも施設やクルマの装備を充実するだけでは十分ではありません。レースに参加する人全員の意識の持ちようが最も大切です』。

『モータースポーツはもともと不公平なスポーツです。絶対的なイコールコンディションはありえません。だから結果を求めるよりプロセスを楽しむべきですし、そこに価値があるはずです。プロではないのですから財産や身の危険を冒してまで先を急ぐ必要はありません』。

『モータースポーツ、特にアマチュアのモータースポーツは善意の上に成り立っています。無意味なブロックをしたり強引にインに入ったり、他人を犠牲にして自分が優位に立つのが許されるのならばそれはモータースポーツではありません。ライバルより上位でフィニッシュするより、ライバルに「あの人とはもうレースはしたくない」と思われないようにレースを終えるのがグラスルーツモータースポーツのボトムラインです』。

『なぜレースに出たほうがいいのかと言うと、自分とまじめに向き合う機会、それもかなりの極限状態で自分と対峙する機会が持てるからです。今の世の中、自分しか頼れない、という状況に身を置くことは少ないでしょう。それを実現できるのがレースです』。


YRSスプリント ラージボアクラスのスタート

『サーキットを走るにしても、一人で走るぶんには自分本位で走ることができます。追い求めるものは絶対的な速さだけですから、疲れたら休めますし、タイムが出なくても自分で納得すればいいのであって、全てを自分のペースで進めることができます。
それはそれでいいのかも知れませんが、逆の見方をすれば、一人で走っているので自分の本来のポテンシャルに気づいていない可能性もあります。もしそうならば、もったいないと思いませんか。
ひとつの目的に向かって他人と走る時にはラップタイムよりも大切なことがあります。レースに求められるものは相対的な速さです。その人が競り合いという流れのなかで、その瞬間、その場で、その状況で何ができるかを連続して判断できるかが勝敗を分けます。自分の都合で走っていては追いつかないものです。流れの中で判断し、流れにまかせる。それが、本来運転に必要な無意識行動を育てることにつながります。
現代のクルマはレースをしたぐらいでは壊れません。あなたが何をクルマに求めているかを確かめるためにも、一度ヨーイドンをしてみませんか』。


YRSスプリント ロードスタークラスのスタート

※掲載した写真は2007年1月27日に開催したYRSエンデューロ&スプリントの模様です

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YRSスクールレースの案内は以下の頁にあります。
・2月7日(土)YRSエンデューロ規則書&申込みフォーム
・2月7日(土) YRSスプリント規則書&申込みフォーム

ユイレーシングスクールのグラスルーツモータースポーツ礼賛は次号も続く


第124回 クルマだからできること 1


YRSオーバルレースのワンシーン

16年目を迎えた今年。3種類のYRSスクールレースの中でしばらく中断していたYRSエンデューロとYRSスプリントを再開することにした。
YRSスクールレースは一度でもユイレーシングスクールのカリキュラムを受講したごくごくふつうの人にモータースポーツでしか味わえない醍醐味を味見してもらおうと始めた。手短に言えば、ジムラッセルレーシングスクールの真似だ。
当然のことながら、参加するクルマはふだんの足。レース用に特別な装備はしてはいけないことになっている。ライセンスも要らない。必要なのは長袖と長ズボン、ヘルメットにグローブだけ。

本格的なレースに参加するためにはそれなりの準備が必要で、その手間と費用を考えて「レースなんて自分には関係ない」と思っている人にヨーイドンを体験してもらおうというのが最大の目的だ。もちろん、運転技術の向上に役立つことは言うまでもない。

ところが、初めのうちは卒業生に呼びかけてもなかなか前向きな反応が返ってこなかった。自分の経験からして、レースに出ることで一皮剥けるのは間違いなかったのだが。
そこで卒業生にこんな話やあんな話を投げかけてみた結果、YRSエンデューロもYRSスプリントも大成功を収めた。

『他のスポーツの場合、昂揚感を得るためには一流のアスリートになる必要がります。そのためには莫大な時間と努力が必要です。それに加えて身体能力が高くなければ本当の醍醐味はわからないかも知れません。しかしモータースポーツでは手順を間違えなければ、アマチュアでもその領域に達することができます。それがモータースポーツをみんなに勧める理由です』。

※ 自慢にはならないが、実は運動が大の苦手。小学校に入学する前から病弱で体育の時間はもっぱら見学。そのせいか、いまだに逆上がりもできないし跳び箱も跳んだことがない。そんな話を卒業生にすると怪訝そうな顔をするけど本当の話だ。小学校に入る前から眼鏡をかけていたほど視力が悪かったから、レースに憧れてはいたけれど、プロのレーサーになることなど想像すらできなかった。でも、そんな自分にクルマは大いなる自由を与えてくれた。


サイドバイサイド、テールツーノーズ、ドアツードアのYRSオーバルレース

※ 3番目のYRSスクールレースとして始めたのがYRSオーバルレース。広場にパイロンで楕円形のコースを作り1周20秒足らずの競争を繰り広げる。
日本では馴染みのないオーバルレースだから参加者集めに苦労することがわかっていたから、YRSエンデューロとYRSスプリントが軌道に乗って卒業生がレースを楽しめるようになった2004年に始め今にいたっている。

卒業生をモータースポーツに引きずり込むための悪魔のささやき(!?)は次回に続く。