トム ヨシダブログ


第730回 コーナリング考察

クルマはコーナリングが苦手だ。直進状態から旋回に移る時に起きる荷重移動。それは直進方向の加速度をコントロールすることに集中できる加速や減速とは異なり、それらに加えてターンインの瞬間から横方向の加速度もコントロールする必要が生まれるからだ。しかもクルマは巨大な運動エネルギーを抱えて走っているからその向きを変えることは容易ではない。ターンインの速度が速くなると、かかる横Gの大きさは速度の上昇の二乗に比例して大きくなるからさらにやっかいだ。

ユイレーシングスクールがトランジッションにこだわるのは4輪を使ってできるだけ高い速度からターンインしたいから。コーナリングを始めたクルマは前輪の舵角が走行抵抗になって速度を殺がれる傾向にあるから、速く走ることが目的ならばターンイン時の速度はできるだけ高いほうがいい。しかしながら、高い速度でターンインをしても次の瞬間にアンダーステアを出したりオーバーステアに陥っては本末転倒だ。そこでターンイン時のクルマの姿勢=4本のタイヤにかかる荷重=タイヤのグリップをコントロールすることが重要になる。

次のふたつの動画は加速から減速、ターンインからコーナリングに移る加速度の変化をGセンサーで可視化したものだ。

最初の動画はトレイルブレーキングを使ってターンインをする時に、可能な限り前荷重にならないように。そしてコーナリング中に失速しないように明確なイーブンスロットルを心がけている。

次の動画はラップタイムの向上を狙ってスロットルオフを遅らせ強いブレーキをかけ、踏力を抜きながらターンインをした場合。走っていてアンダーステアは感じないものの、クルマの向きと運動エネルギーの方向が一致していない瞬間がある。つまり現象としてはアンダーステアの手前にあるのも事実。

速く走るためにはタイヤのグリップを有効に使う必要があるのは事実だとして、グリップの限界を維持するために摩擦円の円周をなぞることを目指すのがいいのかどうかは検証してみる必要がある。     【参考リンク】YRS教科書 37頁摩擦円回答

最初の動画はブレーキング後に極力前荷重を抜きターンイン時に前輪に負担がかかっていない状態を実現しようとしている。前後輪のグリップが均等な状態からターンインすることによって、ターンイン後はブレーキを引き摺っているにも関わらず減速Gは発生せず横Gだけが増えることになる。タイヤのグリップをコントロールする際に摩擦円の円周をなぞるのではなく、操作と操作の間に4本のタイヤに均等に荷重がかかっている状態を挟んでいるため、結果的に荷重は摩擦円の内側で十字型のように移動することになる。クルマの性能を引き出しやすいように、ユイレーシングスクールが進めているトランジッションを設ける=挙動と挙動の間でクルマをフラットにする、がこれに当たる。

次の画像は最初の動画に対応していて、横Gが立ち上がる瞬間にクルマが加速も減速もしていない状態にあることを示している。
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下の3枚は2番目の動画からキャプチャーしたもの。ターンインのはるか手前で強く瞬間的なブレーキングを行い、直進状態にあるうちに踏力をゆるめる。
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ブレーキをリリーズするタイミングが遅れた結果、前荷重のままターンインすることになる。
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踏力を減らしているのに前輪の舵角が抵抗になって再度減速Gが増加。ステアリングを切るほどに横Gは増えるものの、グラフ上の白い丸が示しているように加速度=運動エネルギーの方向は斜め前に。摩擦円の円周をなぞってタイヤのグリップを確かめようとする時に見られる対角線上の荷重移動だ。
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クルマは重いからヒョコヒョコとは動かない。減速に続いて加速をすることが速さにつながる保証はなく、減速と加速の間にコーナリングがあるのが普通で、コーナリング中は速度を維持するためにイーブンスロットルの状態=加速も減速もしない状態を高い速度で実現することが求められる。画像はコーナリング中に横Gを受けながらスロットルを小刻みに開けて前荷重になることを避けた瞬間。
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クルマにどういう荷重移動を起こさせるのが速さに結びつくのか。クルマによってもタイヤによっても運転手によっても正解はマチマチだろう。ただ、ユイレーシングスクールではまずクルマの高い性能を見極めるためにも、摩擦円の中で直線的に限界に近づくことができる十字型の荷重移動を練習してもらっている。それがタイヤのグリップ限界をさぐりやすくするからだ。速さを手に入れることができれば、速度が低ければそれだけ安全性が増すことになる。タイヤのグリップを探りながらクルマの限界特性を経験する。それがユイレーシングスクールがオーバルスクールを続けている理由だ。

 

ユイレーシングスクールではいわゆるミニサーキットでこれからサーキットを走る方にうってつけのドライビングスクールを開催します。イーブンスロットル、トレイルブレーキングの練習を徹底しクルマの性能を引き出すコツをお教えします。ワンボックスカーでなければどんなクルマでも参加できます。事前に資料をお送りしますしサーキットを走る際のアドバイスも豊富です。愛車でサーキットを走ってみませんか。

・6月22日(木)開催 YRS筑波サーキットドライビングスクール開催案内
・7月20日(木)開催 YRS富士スピードウエイドライビングスクール開催案内



第729回 FSWレーシングコース

パフォーマンスボックスのファイルを整理していたら富士スピードウエイレーシングコースを走った時のデータが出てきた。懐かしい。なので、ちょっと手を加えて昔を振り返ってみることにした。
以前はレーシングコースでもドライビングスクールをやっていたのだけど、ユイレーシングスクールの場合はオーバルスクールなど他のカリキュラムに参加した人のみを対象にしていたので、参加者が伸び悩み尻つぼみに。と言うより、原因は1度レーシングコースを味わってしまった人はFSWの会員になってユイレーシングスクールに来るよりスポーツ走行枠を利用するのを好んだから、というのが正しい。

ということで、まずは2010年11月にルノー・ジャポンがユイレーシングスクールに最初に貸してくれたトゥインゴGTで富士スピードウエイレーシングコースを走った時のブログがこれ。 第7回 体力測定(その2)

次に、その時にパフォーマンスボックスで収集したデータを可視化したのが下のふたつの画像。それぞれ速度と加減速Gを、速度と横Gを座標軸にとってみた。トゥインゴGTはタイヤも何もかも全くのノーマル。

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画像1
最高速は1コーナー手前200mの看板で162.39Km/hを記録
1コーナーへのブレーキングでは最大マイナス1.133Gを記録
ダンロップコーナー手前では155.72Km/h
最終コーナーのボトムスピードは68.23km/h

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画像2
1コーナーの最大横向き加速度は0.847G、100Rが0.847G、ヘアピンが1.209G、ダンロップコーナーが0.962G

2013年春にルノー・ジャポンが新しい相棒を貸してくれた。その名はルノー トゥインゴ ゴルディーニ ルノー・スポール。もちろんタイヤ、ブレーキはノーマルのままで富士スピードウエイレーシングコースを堪能しましたとも。

・トゥインゴゴルディーニRS FSWレーシングコースを走る

・トゥインゴゴルディーニRS 吠える FSWレーシングコースでフル加速 (協力:富士スピードウエイ)
※最終コーナーからスタートして直線部分で停止するという条件でトライしたものです。
※ふたり乗りで行っています。

・富士スピードウエイレーシングコース 巡る (協力:富士スピードウエイ)

富士スピードウエイレーシングコースほど大きくはありませんが、ユイレーシングスクールではいわゆるミニサーキットでこれからサーキットを走る方にうってつけのドライビングスクールを開催します。イーブンスロットル、トレイルブレーキングの練習を徹底しクルマの性能を引き出すコツをお教えします。ワンボックスカーでなければどんなクルマでも参加できます。事前に資料をお送りしますしサーキットを走る際のアドバイスも豊富です。愛車でサーキットを走ってみませんか。

・6月22日(木)開催 YRS筑波サーキットドライビングスクール開催案内
・7月20日(木)開催 YRS富士スピードウエイドライビングスクール開催案内



第728回 ABS考察

ABS。Anti-lock Brake System。アンチロック・ブレーキ・システム。今やほとんどのクルマが装着しているであろうABS。

ブレーキング時に制動力がタイヤのグリップを上回った時や路面の摩擦係数が極端に小さい場合にタイヤがロックすると、タイヤは回転しないで路面上を滑走することになりステアリング操作をしてもクルマの向きが変わらなくなる。結果として危険回避の可能性が減少する。そこで、機械的に制動力を低下させタイヤに回転力を与え、タイヤが回転したら再度制動力を高める。これをごくごく短いサイクルで繰り返すことにより可能な限り平均的に高い制動力を維持しながらもタイヤのロックを防ぎ、かつステアリング操作でクルマの向きを変えることを可能にするのがABS。

経験的に、ミリセコンドの単位でもブレーキラインの油圧を減らすのだから減速Gは弱まるはずで、ABSが効いている間はそれが繰り返されるのだから結果として制動距離は伸びると思うのだけど、ABSの記述の中には『ほとんどの路面でABS非装着車と比較して制動距離が短くなる』と書いてあるモノがある。本当にそうなのか。

そこで、あくまでもユイレーシングスクール独自の方法ではあるけど、ABSが働いた時の減速Gの変化をGセンサーとパフォーマンスボックスを使って可視化してみた。
方法はこうだ。とにかく100キロ近くまで加速しユイレーシングスクールで言うところのブレーキを蹴とばす。操作としてはトランジッションを挟まず、スロットルオフと同時にブレーキペダルを一気に踏みこむ。ジムラッセルレーシングスクールで言うところのブレーキペダルをスクィーズするのではなくスタンプする。その結果が次の動画。

蹴とばしブレーキの減速Gの立ち上がり方をGセンサーで捉えたもの。開始8秒くらいのフラッシュ後は4分の1スローで再生。26秒くらいからバーが上下に大きく振れ落ち着かない。下に掲げたパフォーマンスボックスのグラフの④に該当すると考えられる。

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上の図はパフォーマンスボックスから速度と加減速Gを拾ってグラフにしたもの。赤い線が左目盛の速度。青線が右目盛の加減速G。そこには、経験的にこうだろうなとうABSが介入した時の減速Gの増減が見てとれる。

・加速して最高速が110キロプラスになるあたりでスパッとスロットルオフしてブレーキペダルを瞬時に踏みこむ=①左端
・たちまち減速Gが立ち上がありマイナス1Gを記録=②左端
・その後速度の低下は続くが減速Gの増加は見られない。タイヤのグリップを使い切っているのか=②
・ブレーキペダルを力いっぱい踏みこんでいるが減速Gが減少を始める=③左端
・1秒の間に加減速Gはプラスマイナスゼロに=③右端
・ABSが作動し加減速Gは2秒ほど横ばいで速度も13Km/hあたりで変化なし=④
・再度減速Gが立ち上がり速度も低下し始める=④右端
・速度がゼロになる直前に減速Gが減っているのは停止に備え踏力を抜いているから=⑤

ブレーキング中に何が起きているか正確に検証する術は持たないけど、パフォーマンスボックスが拾ったデータから、ブレーキを蹴とばすした場合ブレーキペダルを思いっきり踏み続けABSが介入している状態においては、クルマが減速をしていない=速度が低下しない時間があることがわかった。すなわちABSが介入せず速度が低下し続ければもっと短い距離で停止できたであろうことは想像に難くない。

ユイレーシングスクールではどのカリキュラムでも希望される方にはブレーキングの練習をしてもらっています。まだABSを働かせたことのない方、ご自身のブレーキングが蹴とばしているか確認したい方、直近のスクールは6月10日(土)開催のYRSオーバルスクールFSWです。
YRSオーバルスクールFSW開催案内をご覧の上、ぜひご参加下さい。クルマとの対話が進むこと請け合いです。



第727回 YRS+エンジンドライビングレッスン

2003年。ユイレーシングスクールとしてしたためた『所有欲から使用欲への転換』と題した一冊の企画書からエンジンドライビングレッスンは産声を上げた。20年目を迎えた今年。先週開催された2回目が通算74回目。ずいぶんと続いたものだ。

今回の参加者は25名。うちエンジンドライビングレッスンが初めての人が10名でサーキットを走ったことのない方が2名。好天に恵まれ、22歳から64歳までのクルマ好き運転好き青年が経験値に関係なくクルマとの対話を大いに楽しんだ1日になった。

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朝7時半筑波サーキットジムカーナ場
ドライビングレッスン開催の意義などを含め
開会をの辞を述べるエンジン村上編集長

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天気に恵まれたこの日は
胸を張って記念撮影
1日中外にいたスタッフは真っ赤に日焼け
 
photo:Sei Kamimura

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722回で紹介したNさん
趣味のクルマのロードスターでは参加したことがあるけど
メガーヌRSトロフィーでは初参加

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メガーヌⅢRSに乗るKさんは
エンジンドライビングレッスン初参加
それでもサーキット走行の経験が多いだけあって
かなりのペースで走っていた

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コース1000のパドックで
ユイレーシングスクールに参加したことのある顔がチラホラ
見学に来たのだとか
写真はSさん
愛車で午前中の走行を楽しんだのだそう

 

エンジンドライビングレッスンは今年あと1回。10月5日(木)に開催します。午前中にユイレーシングスクールのYRSオーバルスクール、午後にコース1000を使ったYRS筑波サーキットドライビングスクールのエッセンスを凝縮して詰め込んだ1日で2度おいしいドライビングスクールです。みなさんの参加をお待ちしています。ルノー乗りの方はぜひ。



第724回 明日に向かって

ある日電話がかかってきた。「息子はまだ免許を持っていないのですが運転を教えたいと思います。参加を認めてもらえますか」と。YRSドライビングワークショップアドバンストコーチングFSWは私有地を第3者が入ってこれない専有の状態で借り切って開催するので運転するために免許証が必要なわけではないし、ユイレーシングスクールとしては運転を学びたい人は誰でも大歓迎だから問題ありませんと伝えておいた。

やがて申込みフォームが送られてきたのだけど、年齢欄を見て驚いた。Kさん12歳。車名はフェアレディZ34 ニスモ。次いで電話があって、Kさんとクルマをシェアして受講するというIさんから申込みフォームが。こちらは16歳。はからずも平均年齢が大幅に低くなったYRSドライビングワークショップアドバンストコーチングとなった。

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レーシングカートをやっているKさんはスクール当日13歳になっていた
レーシングカートをやっていたIさんは現在F4でFSWレーシングコースを走っている
IさんがF4車載ビデオをもってきたから昼休みに即席クリティーク
 
ふたりともFSWまではお父上のクルマに乗って
それではと記念撮影
こういうのいいね!

 

Kさん、Iさん。また練習に来て下さい。親父さん達も遊びに来て下さい。



第723回 ルノークラブ走行会

コロナ禍で3年間休止をよぎなくされていたルノー徳島主催のルノークラブ走行会が再開。ゴールデンウィーク真っただ中、四国は徳島の阿讃サーキットに行ってきました。

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<ルノークラブ走行会/阿讃サーキット関連ブログ>
・2015年 第142回 ルノークラブ走行会
・2015年 第143回 ルーテシアRS 阿讃サーキットを駆ける (車載映像)
・2016年 第186回 四国再訪 阿讃サーキット (車載映像)
・2017年 第235回 四国でルノークラブ走行会
・2018年 第297回 GWはいつもの四国への1
・2018年 第298回 GWはいつもの四国への2
・2018年 第299回 Lutecia de Asan Circuit (車載映像)
・2019年 第372回 ルノークラブ走行会
・2019年 第379回 MEGANE RS de ASAN Circuit (車載映像)

ルノー徳島の一宮さんが主宰するルノークラブ走行会はユイレーシングスクールより歴史が長い。その昔、お客さんが雨の峠道で事故を起こしたのをきっかけに運転操作を練習してもらうために始めたと聞いた。初期の頃はスピンする人やコースアウトする人もいたそうだが、ユーザーの運転に対する意識は確実に変わったと。
クルマがどんどん良くなり危なげなく走るようになった今、一宮さんは今後どのような方向に進めるべきか考えているようす。でも、とりあえず来年も5月3日に阿讃サーキットでルノークラブ走行会は開催するそうです。

 

photo:hiroaki terauchi,technical note



第719回 ローンチコントロール

駐車場だから加速距離は長くないしスタート地点には砂が浮いているからメガーヌRSトロフィー本来の性能ではないと思われるけれど、ローンチコントロールを可視化したらいろいろ見えてきた。


トライは2回だけ。1回目は完全に止まる前録画中にしゃべってしまいボツ。記録は1回目が良かったのだけれど。

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横軸が経過時間
左目盛の赤線が速度を表し右目盛の青線が加減速Gを表す
 
グラフ左端から0.19秒で速度ゼロから発進

YouTubeにあげた動画と同じランだけど記録した数値に違いがあるのはパフォーマンスボックスやiPhoneの取付位置や取り付け方によるものか、それぞれのデバイスのデータの拾い方によるものなのか現時点では不明。

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発進から1.21秒で最大加速度0.586Gを記録
その時の速度が」13.68Km/h
 

発進時は明確なホイールスピンが起きた。しかし昔ながらの高出力のマニュアルシフト車でクラッチをドンとつないだ時のようなホイールスピンではなかったような気がする。経験からすると、エンジン出力から考えれば空転に近いホイールスピンが起きてもおかしくはなかった。何かが介入していた?

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0.5G以上の加速が4.5秒ほど続く
スタート後4.46秒で72.27Km/hを記録
 

この間、時間の経過とともにエンジン回転が上昇しそれに見合った加速度の増加があるはずなのだけど、それが見られなかった。それでも速度が確実に上昇していることを考慮すると、滑りやすい路面、あるいは大きなエンジン出力に対応するため、加速度を押さえる方向でなんらかの制御が入っているものと推察される。
スタート後3.4秒あたりで速度の上昇によどみがある。1速から2速へのシフトアップだろう、加速度にもわずかな落ち込みが見てとれる。対して2速から3速へのシフトアップは5.3秒あたりか。こちらは動画の音声からもわかるが一瞬加速度の鈍化が感じられる。いずれにしろシフトアップ時に加速度がマイナスに振れないシームレスなシフトアップはさすがEDC。

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スタート後7.40秒でこのランの最高速度110.30Km/hを記録
この時の加速度はプラス0.062G
加速度がマイナスになるのは7.46秒時で110.22秒/-0.002G
 

スタートから7.3秒あたり。最高速度に達する前に加速度は大きく減少を始めている。と言うことは、それ以前にスロットルが閉じられていることになる。換言すればスロットルオフ後もクルマは加速した、ということになる。しかも最高速度を記録してからコンマ5秒ほど110Km/hあたりを維持している。運動エネルギーが持つ一面。
スロットルを開けつづければそれだけ運動エネルギーが増加する。スロットルオフと同時にクルマが減速を始めることがないとすれば、状況によってはスロットルを閉じてもクルマがさらに加速する可能性があるわけで、サーキットでブレーキを我慢してスピンしたりコースアウトする人やブレーキをオーバーヒートさせる人はブレーキを遅らせることで短くなった減速区間で速度を落とそうとクルマが加速状態のまま=荷重がリアにかかり前輪のグリップが低下している状況で過大な制動力を立ち上げているのではないか、ユイレーシングスクールで言うところの『蹴とばしブレーキング』をやっているのではないかという仮説がなりたつ。スピンやコースアウトは速度が十分に落ちなかったかターンイン時にクルマが前のめりだったのが原因だろうし、オーバーヒートはブレーキローターの回転が落ちなかったせいだろう。
ブレーキを我慢すれば周回路を速く走れると思うのは錯覚にすぎない。

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最大の減速Gはスタート後8.30秒で-1.004G
その時の速度が96.42Km/h
 

と書いてきて、穴があったら入りたい! 猿も筆の誤り! (笑)
効率的なブレーキングは、加速中リアにあった荷重をフロントに移動させ前輪の輪荷重を増やすように制動力を立ち上げなければならない。輪荷重が増えれば増えるほど前輪のグリップが増加するから本来の制動力を発揮することができて減速Gも大きくなる。だから、最大減速Gは減速区間の後半で記録されるはずだ。つまりグラフの加速度を見る限りこれは明らかに『蹴とばしブレーキング』なのだ。実際、
・スタート後8.5秒から10.5秒までの間、速度は落ちているが減速Gの大きさが横ばい
・11.3秒から13.2秒の間、速度が一定と言うかわずかではあるが上昇している
・減速加速度が跳ね上がり11.5秒から13.6秒の間加速度ゼロ、つまりブレーキをかけているのに速度が落ちていない時間があった
・その後減速Gが回復し速度も低下
これはABSなりなんらかのデバイスが介入した結果だと言わざるを得ない。その原因を作ったのはボクだけど。ブレーキング中に速度の落ちていない時間があれば制動距離が延びるのは自明の理だ。だからブレーキングは上手くなったほうがいい。

※ 加速距離を稼ぎたかったので、このランはスロットルオフを遅らせクルマが完全に下り坂に降りてからブレーキングを開始した。下り坂で前輪に急な荷重がかかった結果である可能性もある。 って、言い訳ですけど。

『蹴とばしブレーキング』の動画

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スタート後14.91秒で-0.374Gを記録した直度に停止したはず
 

しかしグラフを子細にいてみると、速度がゼロになった瞬間がない。最も速度が低下したのは記録によるとスタートから14.91秒後に時速0.04キロになった瞬間だった。速度が落ちて止まったなと思ったからブレーキをリリースしたのだけど、クルマが完全には止まっていなかった=運動エネルギーを開放しきってはいなかったってことになる。もっとも、その前の減速度の大きさにもよるだろうけど。以前、ドライブレコーダーを使った運転診断で「一旦停止ではもっと確実にしっかり停止しましょう」と言われたのはこのことだったのかも知れない。一旦停止で切符を切られるのはこういう運転かも知れない。

クルマの運転って楽しい。クルマの機能、性能を味わうのも面白いし楽しいけど、やっているつもりでやっていなかった自分とか、できていると思ってやっていたのにできていなかった自分を発見するのも楽しい。運転は学習の連続。まだまだ先は長い。

ところで、4月29日(土)に富士スピードウエイ駐車場でYRSドライビングワークショップアドバンストトレーニングを行います。Gセンサーを使って参加者全員のブレーキング、オーバル走行のデータを記録し、教室でモニターに映してアドバイスします。言葉のアドバイスに加えて視覚的にも理解を深められるカリキュラムです。興味のある方は 開催案内 をご覧下さい。ぜひ多くの人に体験してほしいと思います。



第716回 続・人間の操作がクルマを動かす

第708回加速度と速さ 第709回人間の操作がクルマを動かす で取り上げた、YRSオーバルFSWロングを走った時のSさんとボクの走行データ。今回はブレーキングの仕方と減速Gの立ち上がり方の関連を比較検証。と言っても、たった1周の操作を比較するのだからもちろん厳密なものではないし、こうするとこうなるという因果関係みたいなものが導き出せればと思う。
ちなみに選んだラップは2人が下のコーナーのターンイン手前で最も大きな減速Gをたたき出した周。下のふたつの図は速度と減速Gを同じ座標軸に置いた。赤いグラフが速度で左目盛、青いグラフが減速Gで右目盛。右の楕円形の線図はこの周に走った軌跡で線上の小さな緑の丸がスタート/フィニッシュライン。それぞれのX印が下のコーナー前に最大減速Gを記録した地点。図は上がSさんで下がボク。

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Sさんはスタートから0.99秒でマイナス0.889Gのブレーキングをして99.33キロまで減速。トレイルブレーキングを使いながらターンイン。第709回でも触れたけど、加速から減速へも、強りブレーキングからの抜き方にもトランジッションが不足している印象を受ける。

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ボクはスタート後1.1秒でマイナス0.972Gのブレーキングで97.10キロまで減速。ボクはというと、フロントが跳ねないようにブレーキのリリースに時間をかけ、その後のトレイルブレーキの効果を高めようとしている。それぞれのブレーキングがそれがその後のトレイルブレーキで相対速度という視点からどんな影響を与えるか。

下の図は比較しやすいように1周のラップをスタート後10秒で2分割して並べた。図中の赤い横線が減速Gゼロを示す。
※ Sさんの赤線がイラストレーターで制作中に少しズレたのに気づかないまま画像にしてしまった(泣)。

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・Sさんは最大減速Gを発生させた強いブレーキングの後でブレーキを抜いて2秒強引き摺っていると思われるが、減速Gの減少がゆるやかでしかない。減速Gがマイナス0.3Gまで減少するのが2秒後。と言うことは、この間も速度も低下していることになる。3秒後に減速Gが1瞬プラスマイナスゼロに戻るけどその後が安定していないからいぜんとして速度の低下が続く。ボクの場合は強いブレーキのリリース後すぐに減速Gがマイナス0.3Gまで減少し、減速Gは安定しないものの最大でもマイナス0.5Gを超えない範囲で推移しているから、トレイルブレーキング中に速度の低下が緩やかになっている。
・結果として下のコーナーのボトムスピードは60キロ対55キロでSさんの方が速い。Sさんの場合スタート後4.5秒あたりで1瞬60キロになってから速度が上昇を始めるけれど、ボクの場合はスタート後4秒あたりから約1.5秒の間55キロを維持している。
・ボトムスピードを記録してからSさんは加速を続けるけど下のコーナーの立ち上がりで70キロに達したのはスタート後約8秒。対するボクは7.3秒あたり。Sさんのグラフはその後急に立ち上がりプラス0.3~0.4Gの加速を10.7秒あたりまで続けるけど、ボクはイーブンスロットルを始めた4秒からは減速Gが大きくマイナスに振れることなく加速を続けそれに見合った速度を得ている。

・周回路のラップタイムは距離が決まっているので平均速度の裏返しになる。そして周回路ではコーナリング速度より直線での速度のほうが圧倒的に高い。何よりもほとんどの周回路では直線を加速している時間よりコーナーの中にいる時間のほうがずっと長い。例えばYRSオーバルFSWロングを20秒で走るクルマを数えてみると、直線を「1、2、3・・・」くらいで駆け抜けるのに、コーナーを回っている時間は「1、2、3、4、5、6、7・・・」となる。だからコーナリングではボトムスピードを高く維持することも大切だけど、コーナリング区間の平均速度を上げるのがもっと重要になる。
・コーナリング区間というのは直線でスロットルから足を放した時から、コーナーを抜けて立ち上がり舵角がゼロになってフルトラクションをかけられるようになるまでのことを言う。この区間でクルマが失速せずに前に前に進めば平均速度は上昇する。速く走りたい人が陥りがちなブレーキを遅らせることや、立ち上がり速度よりもスロットルを全開にすることを優先することが、果たして平均速度を上げることにつながるかは絶えず検証が必要だ。

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・結果、裏のストレートでSさんが100キロを超えたのはスタート後10.5秒あたりで到達速度が105キロ弱。対するボクは9.7秒あたりで100キロに達し108キロまで加速。
・そこから上のコーナーへのアプローチが始まるのだけど、ターンイン手前でSさんが強いブレーキングをしていないのが見てとれる。対してボクは1瞬だけだけどマイナス0.9G付近までしっかりと減速している。
・上のコーナーはフラットに見えるけど実はうねりがある。それでも下のコーナーほど神経質になる必要はない。減速の後には加速という流れを作りやすい。
・Sさんもボクもスタート後同じように14.5秒あたりで同じ様なボトムスピード57キロを記録。ボクはイーブンスロットルにして加速に備えるけど、Sさんはスロットル瞬間開けたのかも知れない。15.2秒あたりで0.7Gに達しようかという加速度のスパイクが記録され瞬間的に速度も上昇している。この瞬間、加速度もマイナスを示していてコーナーの脱出速度に影響したものと思われる。
・結果、ロールを残しながらコーナーを脱出するのだけど、Sさんが70キロに到達したのが約17.3秒でボクが約16.8秒。直線に出てからの加速については、#2 横Gと速度のグラフ―後半スタート後11.5秒から にも表れているけどSさんはスロットルをステアリングを戻すのよりスロットルを開ける量が多いのかロールを消せないまま加速している。1周20秒のコースでコンマ3秒の差がつくということは、ここに書いたことだけではなく実に様々な要素=クルマを前に進めるための操作がからんでいる。

 

時間のある方はぜひ、709回で触れた横Gと速度の関係のグラフも、『どうするとこうなるのか?』 という観点から見ていただければ幸いです。
#1 横Gと速度のグラフ―前半スタート後11.5秒まで
#2 横Gと速度のグラフ―後半スタート後11.5秒から

 

繰り返しになるけど、運転とは走行中のクルマの状態を把握し、自分の経験なり知識を基にして目的を達成するためにはこういう操作が必要だという仮説を立て、それを実行に移す作業だと考えている。ところが仮説がいつも正しいとは限らないから、間違いを犯さないためにも知識と経験を積み重ねる努力を続ける必要がある。また仮説が正しくてもわずかな操作の違いで結果が目的から外れたり、場合によってはそのつもりなのに自分の立てた仮説通りに操作できていないこともあるだろう。その場合には修正が必要になるのだから、どちらの方向に修正すべきかを瞬時に判断するための知識と経験も必要だとユイレーシングスクールは考えてオリジナルのカリキュラムを展開している。

 

最後に、ここ数回に登場してくれたSさん。ブログの手伝いをしてくれたことを感謝します。ありがとうございました。文中ではあれこれ言いましたが、Sさんが目指す運転の方向性は間違っていません。新たらしい仮説を探すための経験を積みにまたスクールに遊びに来て下さい。



第709回 人間の操作がクルマを動かす

第708回 加速度と速さ で取り上げたSさんとボクの走行データ。

速さから見ればSさんが20秒10でボクが19秒70で高齢者(!)の勝利となったけど、この時は5周した中のベストタイム。Sさんの名誉のために付け加えれば、間際になって「データロガーを積んで走ってみて!」と言われたSさんが実力を発揮できなかった可能性は十分にある。それにYRSオーバルレースFSWでもYRSオーバルスクールFSWでも200周近く走る人もいるから、ラップタイムだけを見て一喜一憂するのはあまり意味がない。Sさんも無心に走っていた時は20秒を切っていたと想像できる。データを取るということは、むしろ子細を見てどうやって走っているか想像できることに価値がある。

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グラフはどちらも速度と横Gを同じ座標軸に置いている。グラフは赤が速度、緑が横Gを表し、赤の横線が横Gゼロを示す。コーナリングの比較のためにスタート後11.5秒で本来ならつながっている1ラップのグラフを2分割して横に並べてみた。どちらも左側がSさんで右がボクのグラフ。何が見える?

・Sさんの速度変化を見るとスタートからコンマ5秒あたりで加速から減速に転じているが、グラフが尖がって折れている。おそらくスロットルオフと同時にブレーキペダルを踏み込んでいるので、加速の終わりに続いて減速が始まっているものと思われる。ボクの場合はSさんより加速が終わっている地点が手前(スタート後コンマ3秒)でトランジッションを意識してブレーキをかけ始めているから速度が落ち始めるのが1テンポ遅い。
・Sさんは加速から減速に移る区間で横Gが減少している。コースは左回りだったのでクルマが右に流れたのだろうか。スタートから4秒あたりまではコーナーのアプローチでおそらく3秒ぐらいまではトレイルブレーキングを使っているのだが、Sさんの横Gの立ち上がり方が急だ。クルマが前に進まずに横(右方向)に流れている可能性がある。それに対しボクの場合は速度の低下に反比例するように横Gが増えウづけている。
・このグラフは進入が下り坂で脱出が上り坂の通称「下のコーナー」の走りを表しているが、Sさんはスタート後4.5秒の地点でボトムスピードを記録している。その後速度は上昇するのだが、横Gがほぼ一定の状態なのに速度が低下してから上昇に転じるのはクルマが前に進んでいない可能性もある。ボクの場合は4秒から5.5秒くらいの間で速度がほぼ一定だからイーブンスロットルの効果だろう。ボトムスピードはSさんのほうが速いがクルマの向いている方向と運動エネルギーの方向が一致しているか検証する必要がある。
・ボトムスピードを記録した後の加速もボクの方は横Gの減少にともない滑らかだが、Sさんの場合は横Gが急激に減少するのにフルトラクションでの加速開始が遅れている(Sさんがスタート後8秒あたりでボクが6.5秒付近)。結果、スタート/フィニッシュ地点と反対側の通称「裏のストレート」での到達速度はSさんが10.8秒あたりで100キロなのに対し、ボクは10.5秒手前で108キロ弱まで達している。

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・裏のストレートでスロットルオフから瞬間的なブレーキング。踏力を抜いてトレイルブレーキングでフロントのロールを抑えてアプローチ。ここでもSさんの横Gの立ち上がり方が急なように見える。パフォーマンスボックスをフロントウインドの真下に取り付けた結果、ヨーモーメントの中心より前にセンサーがあるので前輪にかかる横Gを拾いやすくなったせいなのかも知れない。
・上のコーナー(下のコーナーの反対側でほぼフラットなコーナー)でのSさんのコーナリングは、やはりボトムスピードがある地点だけで記録されているようだ。その後速度は上昇するがアンダーステアが出ていたのか19.5秒まで横Gが残っているのでストレートに出てスロットルを開けてもフル加速には及ばなかったはずだ。対してボクは19秒で横Gを消すことができているのでしっかり加速できたということになる。
・結果として、この周に限ってみれば1周20秒ほどの周回路で、Sさんより1.1キロ速い到達速度と0.4秒速いラップタイムを刻むことができたことになる。

閑話休題。運転とは走行中のクルマの状態を把握し、自分の経験なり知識を基にして目的を達成するためにはこういう操作が必要だという仮説を立て、それを実行に移す作業だと考える。ところが仮説がいつも正しいとは限らないから、経験と知識を積み重ねる努力は続けたい。また特にタイヤへの負担が大きい高速で走る時とか小さなコーナーを回る時など、仮説が正しくてもわずかな操作の違いで結果が目的から外れることが多くなる。場合によってはそのつもりなのに自分の立てた仮説通りに操作できていないこともあるだろう。つまり目的を達成するためには、必然的に操作の修正が求められる場面が無数にあるということだ。

YRSオーバルスクールFSWに参加する人はラインから外れそうになるとなんらかの方法で修正する。10秒後に同じ曲率のコーナーに、20秒後には全く同じコーナーにアプローチするのだから、操作を修正する回数は天文学的になるはずだ。しかし、だから徐々に仮説の正確さが増し、修正の幅が少なくなり、冷静に走ればクルマを前に前に進めることができるようになる。それこそ前後輪のスリップアングルの均等化を目指すこともできる。ユイレーシングスクールがオーバルスクールを潜在的ドライビング技術向上ために勧める理由だ。

 

このブログをお読みのみなさん。ぜひ1度YRSオーバルFSWロングを走ってみませんか。仮説の立て方を理論的に説明します。FMラジオを使ったリアルタイムアドバイスで理論と操作の乖離を指摘します。仮説に見合う修正の方法をアドバイスします。クルマとの対話が間違いなく進みます。

・4月2日(日) YRSオーバルスクールFSW開催案内 へのリンク

 


第706回 続・クルマとの対話が楽しい

705回 クルマとの対話が楽しい』を読まれた方から、「4輪操舵車の場合はどうなんだ」という話があった。第349回 4コントロール 同位相でも触れているけど、改めてメガーヌRSに搭載されている4輪操舵システム、4コントロールのコーナリングについて自分の経験を。

ルノー・ジャポンから借りているメガーヌRSトロフィーには4輪操舵装置である4コントロールが備わっている。高価な装備の目的は、前輪操舵車がコーナリングする際に起きる可能性のある前後タイヤのグリップの不均衡を是正するためだ。

前回説明したようにターンイン直後や高速コーナリングではクルマの向きを変えるために前輪が猛烈に働いている。特にアウト側前輪。タイヤが働くということは路面との間にズレが生じ、簡単に言えばそれがそのままタイヤのグリップの増加につながる。一方の後輪は他力本願的に遠心力を受けるまで路面とのズレを生じないから、どうしても前輪に比べるとグリップが不足がちになる。前後輪にグリップの差が生まれるとクルマがバランスを崩す可能性が高まる。それを補おうというのが4輪操舵の思想だ。

もちろん、だからと言って前輪操舵車の旋回特性が4輪操舵車に全面的に劣るかというとそんなことはない。100年以上も前から馬車の系統を引き継ぎクルマは前輪がステアするのが当たり前だった。現代の前輪操舵装置、例えばダブルアクシスストラットなど完成の域に達していると言ってさしつかえない。繰り返しになるけど、クルマが曲がらないのは運転手が曲げ方を知らないだけなのだ。

改めて簡潔に言えば、4輪操舵装置はクルマを曲げるということに対してフールプルーフ思想を実現したものだと言える。

さて、メガーヌRSトロフィーの4コントロールはある速度で後輪のステアが逆になる。低速域では後輪は逆位相に、高速域では同位相に変位する。

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主に低速時
4輪操舵車逆位相コーナリングでのタイヤの軌跡
 
現実にはあり得ないけれど視覚的な理解のために

それぞれに目的がある。後輪が逆位相で転舵した場合、舵角が同じだとすると(そんなことは現実にはないけど)後輪は前輪の軌跡を踏みながら転がる。つまり理論的には内輪差がなくなる。車両間隔がつかみやすくなる。後輪もクルマの向きを変えるから小回りが効くことになる。

実際のところはどうか。湖西道路を降りてからわが家へ向かう途中に十字路を左折する。変形の交差点で左折は鋭角に曲がることになる。ある時メガーヌRSトロフィーと以前借りていたルーテシアRSでは明らかにハンドリングが異なることに気が付いた。どこが違うかと言うと・・・。
引手でステアリングホイールを回すので左手を時計の11時あたりに持っていって、それを7時くらいまで引き下げる。違いは、ルーテシアRSの場合は手を引いてから1拍ぐらいホールドする間があったのだけど、メガーヌRSトロフィーの場合は7時まで引いたとたんに戻し始めないとイン側に巻き込むような挙動を見せたのだ。ステアリングホイールを引く速度を速めると7時まで引く必要がない場合もある。腰で感じるリアのロールに起因する横Gが少ないから、4コントロールがクルマのコーナリングに積極的に関わっているのがわかった。


メガーヌRSでYRSトライオーバルFSW走る。4コントロール逆位相が見てとれる。

 

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高速走行時
4輪操舵車同位相コーナリングでのタイヤの軌跡
 
同位相の場合は旋回中心があいまい
クルマ任せになるけど
クルマが平行移動する感じ
 
あくまでもイメージです

高速域で後輪が同位相にステアするのはクルマを安定させることが第1目的。高速で走っている時にステアリングを切る。高速だから舵角のついた前輪には比較的大きなズレが生じる=前輪のグリップが極端に高まる≒後輪のグリップは低いままではクルマがバランスを崩す可能性が高い。具体的に言えば、急なステアはオーバーステアにつながるはずだ。
そこで後輪を同位相にステアさせることにより前輪に舵角がつくと後輪にも舵角がつき、後輪に遠心力がかかるのを待たずに後輪のグリップを前輪のそれにみあった大きさにしてバランスをとる。換言すれば本来前輪駆動車では他力本願的に後輪に遠心力が働くのを期待するしかなかったのを、自立本願で必要なだけのスリップアングルを手に入れることができるようになり4本のタイヤでのコーナリングを実現できることになる。

大津の自宅に最初のメガーヌRSを配車してもらい初めてFSWに向かった時のこと。新名神の草津ICから東に向かうと高速道路にしては曲率の小さなコーナーがひとつある。登りの左コーナーでこれまた高速道路にしては大きめのカントがついている。
初めてのメガーヌRSだったが少しばかりオーバースピードでターンイン。どんな場合でも一発でステアリングを回さずに探りながら切り足すのだけど、いつもなら切り足していく過程で腰で感じる横Gが増えるはずなのにそれがない。横Gが抜けたと言うか、ある程度ステアリングを切った段階でクルマが旋回ではなく、何と言うか、円運動をしながら平行移動したと言うか。横Gが増えなかったのには戸惑ったけど、よくよく考えればアウト側前後輪の負担も増えなかったのでこれが4輪操舵が目指すところなのだと納得。逆に、このコーナリングを自分の手柄だと勘違いする人が出なければいいなとも思った。

ということで最後に一言。

自動車技術の進化はめざましい。人間は昔に比べれば安直にクルマを運転できるようになった。クルマの性能に助けられて運転している人も多いはずだ。でも今までもこれからもずっと、クルマを手放しで運転できるわけがない。やはり我々の生活を豊かにしてくれるクルマに畏怖の念をいだき、自分も運転を上手くなろうという気持ちを持つことが大切ではないかと改めて思う。