トム ヨシダブログ


第124回 クルマだからできること 1


YRSオーバルレースのワンシーン

16年目を迎えた今年。3種類のYRSスクールレースの中でしばらく中断していたYRSエンデューロとYRSスプリントを再開することにした。
YRSスクールレースは一度でもユイレーシングスクールのカリキュラムを受講したごくごくふつうの人にモータースポーツでしか味わえない醍醐味を味見してもらおうと始めた。手短に言えば、ジムラッセルレーシングスクールの真似だ。
当然のことながら、参加するクルマはふだんの足。レース用に特別な装備はしてはいけないことになっている。ライセンスも要らない。必要なのは長袖と長ズボン、ヘルメットにグローブだけ。

本格的なレースに参加するためにはそれなりの準備が必要で、その手間と費用を考えて「レースなんて自分には関係ない」と思っている人にヨーイドンを体験してもらおうというのが最大の目的だ。もちろん、運転技術の向上に役立つことは言うまでもない。

ところが、初めのうちは卒業生に呼びかけてもなかなか前向きな反応が返ってこなかった。自分の経験からして、レースに出ることで一皮剥けるのは間違いなかったのだが。
そこで卒業生にこんな話やあんな話を投げかけてみた結果、YRSエンデューロもYRSスプリントも大成功を収めた。

『他のスポーツの場合、昂揚感を得るためには一流のアスリートになる必要がります。そのためには莫大な時間と努力が必要です。それに加えて身体能力が高くなければ本当の醍醐味はわからないかも知れません。しかしモータースポーツでは手順を間違えなければ、アマチュアでもその領域に達することができます。それがモータースポーツをみんなに勧める理由です』。

※ 自慢にはならないが、実は運動が大の苦手。小学校に入学する前から病弱で体育の時間はもっぱら見学。そのせいか、いまだに逆上がりもできないし跳び箱も跳んだことがない。そんな話を卒業生にすると怪訝そうな顔をするけど本当の話だ。小学校に入る前から眼鏡をかけていたほど視力が悪かったから、レースに憧れてはいたけれど、プロのレーサーになることなど想像すらできなかった。でも、そんな自分にクルマは大いなる自由を与えてくれた。


サイドバイサイド、テールツーノーズ、ドアツードアのYRSオーバルレース

※ 3番目のYRSスクールレースとして始めたのがYRSオーバルレース。広場にパイロンで楕円形のコースを作り1周20秒足らずの競争を繰り広げる。
日本では馴染みのないオーバルレースだから参加者集めに苦労することがわかっていたから、YRSエンデューロとYRSスプリントが軌道に乗って卒業生がレースを楽しめるようになった2004年に始め今にいたっている。

卒業生をモータースポーツに引きずり込むための悪魔のささやき(!?)は次回に続く。


第123回 For the next decade

間もなく2015年が訪れます。ユイレーシングスクールはクルマの運転を楽しむための、そしてみなさんが大好きなクルマを思いのままに操るコツをお教えするためのプログラムを1月から始めます。

・1月25日(日) YRSオーバルスクール和歌山
大阪から1時間。和歌山マリナシティでYRSオーバルスクールを開催します。宿泊施設がそばにあるので、ご家族連れでの参加も可能なスクールを目指しています。

・1月31日(土) YRSオーバルスクールFSW
YRSオーバルスクールはコーナリングの練習に特化したカリキュラムです。サーキットを走る時に差がつくコーナリング。どうすればクルマの性能を発揮することができるか、その極意をお教えします。

YRSオーバルスクールではこんなことをやります。

・2月1日(日) YRSドライビングワークアウトFSW
今年から使用している富士スピードウエイにあつらえたYRSストリートを使ったYRSドライビングワークアウト。クルマを思いのままに操るために必要な操作と意識を提供します。

YRSドライビングワークアウトではこんなことをやります。

・2月21、22日(土日) YRSツーデースクールFSW
1日目は富士スピードウエイ駐車場でクルマの基本操作を習得し2日目のショートコース走行に生かします。2日間で吸収できることは10回のドライビングスクールと同等です。YRSツーデースクールを受講すると間違いなく操作がこなれます。

YRSツーデースクールでは、
ブレーキング
スラローム
スラローム
フィギュア8
YRSオーバルロンガー走行
FSWショートコース走行
を行ないます。

※ 各カリキュラムの詳しい案内と参加申込みフォームは1月初めにユイレーシングスクールのサイトからアクセスできます。しばらくお待ち下さい。


第122回 41回と585名。そして15年。


今年最後に仰ぐ富士山

12月7日に開催したYRSプライベートレッスンで今年開催予定だった全てのドライビングスクールが終了した。
※2月に雪のために中止になった分を取り返せなかったのが心残りではあるけれど。

先日のディーラートレーニングに参加された方を含めると、今年の受講者は延べ585名。ドライビングスクールの開催数は41回にのぼった。
そして、1999年12月に日本に来てクルマを思いのままに動かす方法を理論的に教えようと始めたユイレーシングスクールも満15歳になった。アメリカとクルマの使われ方とクルマを取り巻く環境が少しばかり違う日本で、果たしてできるものかと不安がないわけではなかったが、なんとかここまでやってくることができた。

それもひとえにユイレーシングスクールに参加してくれた延べ13,629名の方の支援があったからこそと、心から感謝している。

ユイレーシングスクールはこれからも、まずは楽しく、次にサーキットではスピンもコースアウトもしない、公道ではクルマに裏切られない運転を追及していくつもりです。

クルマは便利な道具であるだけでなく、人間を解放してくれる魔法使いの相棒です。その相棒と上手く付き合う場がユイレーシングスクールにあります。今後もユイレーシングスクールをよろしくお願いします。

ユイレーシングスクールの記念写真のなかから。

※最後の写真はルノー・ジャポンに提供していただきました。


第121回 ルノーがもっと楽しくなる、といいな


素のメガーヌRSとトロフィーRが待つ

メガーヌRSトロフィーのお披露目に全国のルノーディーラーからルノー・スポールスペシャリストとテクニシャンが集まったのに併せ、運転講座と実技にも参加していただいた。


教室での座学があって

運転して楽しいRSモデルの良さをさらにさらに理解してもらおうというルノー・ジャポンのこの企画。事前にドライビングにまつわる資料を送り予習をしてもらい、富士スピードウエイのショートコースでは助手席から誰にでもできるクルマを安定させて走るための操作を見てもらい、翌日は駐車場に作った半径22m直線80mのオーバルコースをできるだけ速く走ってもらった。


同乗走行があって


オーバルトレーニングをやって

みなさん忙しい方ばかりだから運転道を極める時間があるか心配だけれど、少なくともこの2日間はルノー・スポールが送り出すRSモデルの性能の高さと、クルマを思いのままに操る楽しさの一端は体験していただけたと思う。

実は、一目惚れで先代ルーテシアRSを購入した後、あまりのすばらしさにルノー京都の山田さんに、「ドライビングスクールをディーラーオプションに設定しましょうよ」と投げかけたことがある。「だってクルマを動かす手続きを知らないままではこのクルマの価値はわかりませんよ」と。

ルノー・ジャポンとルノーディーラーはクルマを売るのが仕事なのは百も承知している。売ることが最大無二の目的。一人ひとりのユーザーを向いて運転の手ほどきをするのは本来の趣旨から外れる。それでもやってほしかったから。

世の中のクルマが高性能になっていくのに反比例して、クルマを操る人間の能力が低下しているのではないかと危惧しているからだ。結局、クルマがいつもそこにある家電のような存在になったのも、クルマ離れの遠因だと思うからだ。クルマにまつわるモロモロのことは、端的に言えばクルマを動かす人の影がだんだん薄くなっていることに根ざしていると考えるからだ。

という難しいことは置いておいて、クルマを操るのは単純に楽しいから、操り方を知ればもっと楽しくなるから、職務外のことではあるかも知れないけれど、ルノーディーラーに来るお客さんに製品のすばらしさを語るのと同じぐらい熱く、クルマを動かすことの面白さを伝えてほしいと思うのだ。その延長としてドライビングスクールがあって、みんなが運転を楽しめる環境があれば、クルマはもっと楽しくなる。

だから、今回担当させてくれたルノー・ジャポンには大いに感謝しているし、ユイレーシングスクールにできることは何でも協力するから、運転というソフトを抱き合わせてクルマを売る路線を確立してほしいと願っている。

富士での2日間が終わって間もなく、ルノー沼津の大石さんから連絡をもらった。ユーザーの中の有志をつのりドライビングスクールを開催したいとのことだった。具体的に動き出すのにはもう少し時間がかかるかも知れないが、RSモデルのユーザーだけでなく、ぜひカングーもコレオスもみんな含めたドライビングスクールができたらいいなと。お近くにお住まいの方は、大石さんに連絡してみてはいかがだろうか。


ピットで出番を待つ


各地からルノーが集まってきて


トロフィーRはタフだった


トロフィーRの実力を見て、体験


ダブルコーンスラロームでトロフィーRの軽さを見せ付けて


みんな笑顔


シフトアップのバックファイアの音が最高


足も最高


2日目は富士山が迎えてくれて


ロラン・ウルゴンさんとフレデリック・ブレンさんがオーバルトレーニングの視察に


最後に全員で記念撮影(参加者の半分は教室で座学中)


第120回 思いのままに

クルマの味わい方は人それぞれ。
希少なクルマを手に入れてニンマリする人。A地点からB地点への移動が快適ならばそれでいいと言う人。サーキットで速さを追求する人。自分だけのクルマに改造するこにいそしむ人。数えだしたらキリがない。

味わい方と言えば、ユイレーシングスクールは独自のカリキュラムを展開している。クルマを味わう方法としてどうですか、という提案。
どのカリキュラムも個人的な好みがその根底にあるのは否定しない。目指しているものは「思いのままにクルマを動かす」手順を提供すること。
速さとか快適とか安全は、全て人間がクルマを思い通りに動かすことができて、初めて求めることができるものだと考えているからだ。

今年から始めたYRSドライビングワークアウトとYRSタイムトライアル。水割りをなめながら悩んで作ったYRSストリートと呼ぶロードコースをできるだけ速く走ることをテーマとする。

3回のYRSドライビングワークアウトと1回のYRSタイムトライアルを終えたが、YRSストリートを作った意味は大いにあると確信することができた。
あるレイアウトのコースを速く走ろうとすると、どこをどう走れば速さにつながるかを分析し、全体の流れを構築しなければならない。ロードコースなら、そのコースの中で最高速に達するストレートに続くコーナーの脱出を大切にしなければならない。オーバルコースならば、コーナーリング中の速度最下点を少しでも高くすることを念頭に置かなければならない。

むろんそれだけではなく、考えなければならないこと、考えたほうがいいことはゴマンとある。
その中でも、YRSストリートで参加者に期待しているものは、4輪を使ったコーナリングをすることだ。

クルマには4本のタイヤしかついていない。このうちの2本には操舵装置がついていて向きが変わる。あとの2本にはついていないから、その2本のタイヤを働かせるためには外力が必要になる。
要するに、ステアリングを切れば前輪にはスリップアングルがついてくれるが、そのままでは後輪にスリップアングルがつくとは限らない。バキッとステアリングを切れば、前輪のスリップアングルが過大になり後輪のそれは増えないからアンダーステアが生じるという話だ。

だから、実はYRSストリート最大の眼目はほぼ2速全開で回る奥の長い左コーナーにある。ラップタイムを無視する必要はないが、参加者がここをどう走るかに注目している。
条件を整えれば、クルマのセットアップ→ターンイン→コーナリング→脱出の一連の動きの中で、前後のスリップアングルが増えたり減ったりを繰り返すのを感知できる。

もちろん、後輪にスリップアングルを生じさせるのは遠心力だけだから、それ相応の速度が出ていなければならないが、それ以上にクルマのバランスが保たれていなければそれを達成することはできない。目指すのは、コーナリング開始からコーナリング終了までの前輪と後輪のスリップアングルの総和が、限りなく等しくなるような操作だ。

YRSストリートの動画をリニューアルしたので紹介します。

それにしても、トゥィンゴRSのリアサスペンションが粘ること粘ること。フロントとのバランスが取れているからスロットルとステアリングで前後輪のスリップアングルの増減を思いのままに調整することができる。
リアが粘るからと言ってアンダーステアが強いクルマではない。オーバーステアやニュートラルステアのクルマでは危なくて走っていられない。

速く走るためには、基本的にアンダーステア気味のクルマを人的努力でオーバーステアにできて、しかもその両方の間を行き来することができなければならないものだ。

来年もYRSストリートを使ったカリキュラムを行ないます。思いのままにクルマを動かす糸口を見つけたい方はぜひ参加してみて下さい。


第119回 見た。触った。乗った。

来春発売されるメガーヌ ルノースポール トロフィーRに乗る機会があった。

当日は助手席にゲストを乗せてトロフィーRのパフォーマンスを体験してもらうのが目的だったのだけれど、楽しくて楽しくて、白状すると、その目的を忘れるぐらい本当に久しぶりに「気持ちの良い時間」を過ごすことができた。

パフォーマンスを体験してもらうために最初から最後まで手を抜かずに4時間、富士スピードウエイのショートコースを200周近く走ったのだけれど、トロフィーRはもちろん音を上げなかった。中盤から水温が少し上がりぎみだったがその後は安定していたし、ブレーキフィールも変わらなかった。そんな任務をまじめに遂行しながらの個人的インプレッション。

たぶん、軽量化がトロフィーR最大のアドバンテージだと思っていたから、走行の初めにスレッシュホールドブレーキングとダブルコーンスラロームを体験してもらった(白状すると、自分でそれを試したかったという気持ちが大きかったのだが)。

これが大正解。

タイヤトレッドがかなり磨耗していたのでスレッシュホールドブレーキングではABSが介入する場面もあった。しかし確かめてはいないけど、その介入の仕方がメガーヌRSより少ないというか、細かく制御されているように感じた。その領域に入っても減速度は変わらなかったし、その領域から抜け出すことも簡単だった。
ゲストに「今介入した」と説明はしたけれど、おそらくその違いはわからなかったと思う。

一人目のゲストを乗せてダブルコーンスラロームを抜けた時、思わず「やったぁ」と声が出そうになった。トロフィーRならではの動きが明確にわかったからだ。

軽量化がクルマにもたらす恩恵はレーシングシーンでも日常でも同じ。が、それはあくまでも一般論に近く、相対的な感覚では計ることが難しい。しかし今回はメガーヌRSという物差しがある。
もともと懐の深い足回りを備えるメガーヌRSに対してトロフィーRがどんなそぶりを見せたか。言葉で表すのが難しいけれど、走っていて笑顔にしてくれる、そんな感じ。
それでは説明にならないので、感じたことを文字にすると、
・操作に対してクルマの動きに遅れがない
・ヨーモーメントの中心がどこにあるかわかりやすい
・『おつり』をもらうことが想像できない
・パワーがあるからピッチングの制御が簡単
ということになる。

3周目からタイヤとガソリンのことだけ頭に入れて可能な限り速く走り、その動きを体験してもらった。すると、ダブルコーンスラロームで感じたことがまさにドンピシャ。

3速と4速の加速度が同じだから4速で傾斜5度のストレートを駆け下り、ブレーキングしながら3速に落としコース幅の半分ぐらいまでトレイルブレーキングを使って1コーナーのイン目がけてステア。操縦性がシャープ、という表現はあたらない。とにかくフロントを押さえている限り、舵角とクルマの向きにズレが生じない。言葉を探せば忠実。その一言。

下のヘアピンを登ってインフィールドに入って切り返すところでも、思ったところにクルマを持って行くことができる。なんと言うのかな、前後左右に荷重は移動しているのだけど、4本のタイヤがずっと地面に張り付いていてくれる感じ。

最終コーナーのアプローチでトレイルブレーキングを使った時。意識的に踏力を強めてみても後輪の滑り出しはホントに穏やか。破綻する気配もない。トレイルブレーキングをあえて短くしても、瞬間、エネルギーの方向とクルマの進む方向がズレるように感じるけど、次の瞬間には前後均等に外荷重になる。

大人2人分軽くなるということはこういうことなんだな、と自分自身すごく勉強になった。おそらく、軽量化の過程で高いところの重量が削がれた結果、重心が下がって相乗効果もあるんだろうなと想像もしたり。

走行中、かなりのゲストに「安定してますね」と言われた。「そうですね。すごくいいクルマです」と正直な気持ちを伝えたけど、すぐに「運転手がいいからでもあるんです」と付け加えることも忘れなかった。みなさん、「そうですね」と運転の仕方にも興味を抱いてくれたようなのが嬉しかった。

どんなに性能の高いクルマでも性能をきちんと引き出す方法を知らなければ、速さは即危険とイコールになるし、第一楽しくない。実際、限界を試すことなど無意味なほどトロフィーRのポテンシャルは高い。

運転を教えている立場の人間のあくまでも個人的な意見なのだが、トロフィーRは運転の仕方を教えてくれる良き先生になると思う。だから、ずっとノーマルのまま乗り続ける覚悟があって、クルマの動かし方をずっと模索し続けようと思う方にピッタリ。飾っておくだけじゃもったいないし、限界を超えて走ろうとしても楽しくないし、トロフィーRの良さはわからない。たぶん、トロフィーRの良さは長い付き合いができる方にしかわからないと思う。

昔からクルマに乗っているせいか機械にお世話になるのを好まない。ルーテシアRSを買ったのも、おせっかいでないクルマがなくなってしまうという危機感からだ。今回、トロフィーRに乗せてもらって、今の時代にしてみればおせっかいではないクルマ、自動車の本質をついたクルマを作るルノーの潔さに拍手を送りたいと思った。そして、こんな得がたい時間を与えてくれたルノー・ジャポンに感謝したい。


第118回 運転の意識

自宅から650キロ離れた筑波サーキットや430キロ離れた富士スピードウエイに出向くので、1年間にかなりの距離を走る。今年は大阪でも鈴鹿でも開催した。スクールの時はトゥィンゴ ゴルディーニ ルノースポールの出番だ。
今年はそれ以外にも、私用で4回東京に行った。ルーテシアRSを引っ張り出したりフィットRSで楽をしたり。記録はつけていないからわからないが、どのくらいの距離になるのだろう。

スクールで「遠い所から大変ですね」と労わられることがあるが、本人は苦痛ではない。たった一人で新東名を走るのなら退屈もしてしまうだろうし、毎週のことなら飽きてしまうかも知れない。だけど目的はスクールを開催したり打ち合わせをしたり母に会うことだから、移動はあくまでも手段でしかない。移動が目的になるとちょっとつらいかも知れないが。

クルマを運転していると実にさまざまな場面に出くわす。それも運転が苦にならない理由かも知れない。

こんなことがあった。
最近は、追い越し車線をずっと走っていてはいけませんよ、という当たり前のことが告知されるようになったから、追い越し車線を延々と走るクルマは少なくなってきた。しかし・・・。
ある日、追い越し車線を淡々と(?)走っているクルマの後についた。しばらく後について行くとようやく、ウィンカーも出さずに走行車線に移った。追い越して間隔を確認してから走行車線に移動する。トラックが現れればウィンカーを出して追い越し車線に移り、追越が終わればまたウィンカーを出して走行車線に戻る。

そんなことを繰り返していると、抜いた後で再び追い越し車線を淡々と走っていたクルマが、ウィンカーを出して追い越し車線に移り追い越しを終わるとウィンカーを出して走行車線に戻るようになった。
「へぇ~」と思って走っていると、3回ほど走行車線に戻ったのだが、その後はまた追い越し車線を平然と占拠するようになってしまった。
「なんでかな?飽きたのかな?面倒くさいのかな?速いクルマが後に来た時だけ走行車線に戻ればいいと思っているのかな?」と想像しながらリアビューミラーに目をやっていたことが何回あっただろうか。

交通安全指導員になってから「模範的な運転を」と言われるのだが、自分の運転が模範的かどうか自信はない。ただ何があっても事故は起こさないように心がけてはいる。
そうするために自分なりのルールがある。市街地、高速道路、サーキット。走る環境ごとに自分で決めた手続きに従って運転している。
ひとつひとつを説明すると長くなるので省くけど、誰もがそんな自分なりのルールに基づいて習慣的に運転しているのではないだろうか。

結果として、自分で言うのもはばかられるが、行き当たりばったりの運転はしていないと思うし、その場しのぎの運転もしていないと思う。
そうすることによって周りがよく見えるようになる。市街地だろうと高速道路であろうと周りにはクルマがあふれているが、多分、こちらが定数になろうとすればするほど周囲の動きが変数として認識できるようになるのだと思う。

先にあげた例以外にも、運転中は本当にいろいろな場面に出くわす。
この人はこうしたいんんだろうな。あの運転の仕方はやめたほうがいいね。このまま行くとああなるな。こうすればあの人が楽になるかな。次から次へと自分が試される。それを楽しんでいる自分がいる。老化防止にいいかもね、とほくそ笑む自分に気づく。

そう感じられるうちは運転に飽きることはないだろうなと。
さて、このブログをアップしたら富士スピードウエイに向けて出発だ。


第117回 トゥィンゴRS活躍


Mさん トゥィンゴRSと記念撮影

YRSトライオーバルスクール。楕円形の直線部の1本にキンクを設けて延長し、より速い速度で短いコーナーを回るのと、より高い速度からブレーキングを練習するために始めたカリキュラムだ。
しかも、今年のレイアウトは直線部を伸ばしてターン1の曲率を小さくヘアピン状にして、なおかつ下り坂になってからブレーキングするように仕向けたから、YRSトライオーバル2013より難易度は上がっている。

10月25日に開催したYRSトライオーバルスクール。この日、エンジンドライビングレッスンに参加したことのあるMさんが、スバル プレオに乗って3年ぶりに遊びに来てくれた。間が空いたとは言え、再度運転の練習に来てくれたのは嬉しい限り。
エンジンドライビングレッスンでオーバル走行は経験済みだから、次のステップとしてYRSトライオーバルスクールはうってつけ。エンジンドライビングレッスンで使うオーバルは半径16mの直線48mだけど、YRSトライオーバルは直線が170mもあるし3つのコーナーは全て性格が異なるから、異次元の体験ができる。


Mさんの走りとプレオの動力性能を追走して確認

しかし、元々YRSトライオーバルは120キロ超の速度からのピッチングコントロールを覚えてもらうことが目的なので、動力性能が十分でないと走っても肝心な部分を体験することが難しい。そこでプレオで基本的な操作を覚えて、高速域はトゥィンゴRSで体験してもらうことにした。


トゥィンゴRSに乗り換えるのでまずは同乗走行

Mさんはすごく丁寧な運転をする方で、少しずつペースを上げてトゥィンゴRSの懐深い走りを楽しんでくれた。

そのMさんが、アドバイスを聞きながらトゥィンゴRSでYRSトライオーバル2014を走った時の動画がこれ。

で、トゥィンゴRSが実力の90%ぐらいでYRSトライオーバル2013を走った時の動画がこれ。

YRSトライオーバルスクールと併催のYRSオーバルレース参加者と記念撮影


第116回 ジムラッセルレーシングスクール


早朝ガレージから運びだされるスクールカー

当時、双子を授かりレース禁止令が出ていて自分で走ることがかなわなかったので、代わりに日本語クラスを作ってもらい日本からの受講者を受け入れる体制を作った。
とここまでは2013年3月のブログに書いた。


マークによる座学があって

1987年。当時ジムラッセルレーシングスクールカリフォルニア校はラグナセカレースウエイとリバーサイドレースウエイを拠点としていた。その後ラグナセカをメインに活動するようになったのだが、日本語クラスはロサンゼルスに近いウィロースプリングスレースウエイでも開催した。
ラリアートにジムラッセルレーシングスクールのスポンサーになってもらっていたこともあり、毎年暮れにはミラージュカップシリーズに参加したドライバーが忘年会を兼ねて受講してくれた。
結局、記録を見てみると243名の日本人がジムラッセルレーシングスクールを受講してくれたことになる。


スクールカーの説明があって

3日間。フォーミュラカーで走り回る魅力的なカリキュラムは昔から憧れだった。そんな環境があれば、もっと直線的にレースデビューを果たせたかも知れない。そんな思いを抱きながら、期間中は日本からのお客さんに一生懸命アドバイスをしたものだ。


注意点が伝えられ

ところが、校長のジャック・クチュアもチーフインストラクターのマーク・ウォロカチャックもしゃべりすぎだと言う。
こちらは、はるばる日本から来てくれたのだから、そしてめったにない機会なのだからと正解をまじえながら操作の方法を伝えることが誠意だと思っていたのだが、自分で考える癖をつけてもらうためにしゃべりすぎは良くないと言う。


「これに乗るんだ」の横でバンライドの準備をして

マークを初めジムラッセルレーシングスクールのインストラクターが淡白とも言えるアドバイスをしていたのは前々から知っていた。それは本当にそっけない。
「ターントゥーレイト」とか「ターントゥークイック」だとか「ブレーキトゥーレイト」とか「スロットルトゥースーン」だとか。とにかく彼らが見た事実を伝えるだけだった。


遅くはない速度でやることをバンライドで実際に体験して

これには悩んだ。大いに悩んだ。自分で考え工夫して運転する癖をつけてもらうことが最も望ましいことはわかる。アメリカ人の受講生が簡単すぎるアドバイスだけで、ゆっくりではあるが上達していく様も目の当たりにした。
一方、日本人と言えば突っ込みすぎるのを抑えることが多かった。質問の内容も、どうすれば速く走れるかに集約された。


2班に分かれて乗車組と手伝い組に分かれて

できる限りためになると思うアドバイスをしてあげたい、けれどしゃべりすぎは駄目だと釘を刺される。ったく、どうすればいいんだ、と思いつつある仮説にたどり着いた。
ジムラッセルレーシングスクールの教え方は『過程』を重視していて、受講生に過程評価の仕方まで教えているのではないかと。日本では結果評価が優先される風潮にあるから、過程を飛ばして『結果』にだけ目がいってしまうのではないだろうかと。


とにかく「スムース&イージー」だよと


まずはシアーズポイントのドラッグストリップを使ってブレーキング

だから、ユイレーシングスクールを始めるにあたってひとつの方針を立てた。『過程』と『結果』の両方を目指すアドバイスをしようと。
それが難しいことだとはわかっているが、運転に限らずふたつの国の教え方の違いに接してきた身としては唯一の解決策だった。


休む間もなく走るのはユイレーシングスクールと同じ

だから、ユイレーシングスクールでは褒めない。受講者がひとつのテーマをクリアしても褒めない。たまたまうまくいった時にも褒めない。
言うことを聞かない人には、質問が来るまでアドバイスしないこともある。質問ばかりする人には、「何も考えないで走って走ってみて下さい」と言う。

その代わりに、「目指すのは理にかなった操作です。まだ先がありますよ、頑張って」と言うことにしている。
そして、「ボク自身まだまだ発展途上です。運転に関してはみなさんの先輩です。信用して大丈夫ですから後についてきて下さい。」と付け加えることにしている。

ですから、ユイレーシングスクールを受講して褒められなくても落胆しないで下さい。みなさんが上達していく様子はちゃんと心に刻んでいますから。


ラッピングに移ればコースのあちこちでインストラクターの目が光る



第115回 加速度のすすめ

パスポートに押されたスタンプを数えてみると、今までに101回日本とアメリカを往復していた。うち1回は取材を兼ねて千葉港からバンクーバー経由でポートランドまで自動車輸出専用船で海を渡ったので、100回と半分を飛行機で往復したことになる。その飛行機にまつわる話。

あれこれ思い出しながら出入国記録を見ていたのだが、今さらながらに文明の利器である飛行機の偉大さを感じた。移動に費やす時間さえいとわなければ、座っているだけで苦もなく太平洋を飛び越えることができる。飛行機という移動手段がなければ、20代の頃に日本を脱出しようとは考えなかったに違いない。

しかし、クルマと同じく人間の生活圏を拡大してくれる道具ではあるけれど、実は飛行機に乗ることはあまり楽しくはなかった。小学生のころから模型飛行機に夢中で翼の真ん中が膨らんでいることも知っていたし、後に翼が揚力を生むことも学んだ。理屈ではわかっているつもりなのだが、あの重たい機体が空に舞い上がる道理が今ひとつ生理的に納得できない。飛行機に乗っていれば床は確かにそこにあるけれど、自分の身体が宙に浮いていることには変わらず不安は消せない。

だから、無理やり目的地に着いてからの予定を想像することで気分を紛らわせてシートに座るのが常だったが、実はひそかな楽しみもあったりする。乗っている飛行機が生み出す加速度だ。

何度も往復しているうちにいろいろなことを経験した。偏西風が強い冬は日本からアメリカに向かう時の所要時間が短くなるが、逆に日本行きは時間がかかってしまう。
実際、離陸後に機長が「ご搭乗ありがとうございました。今日は偏西風が強く・・・」とアナウンスした時は成田からロサンゼルスまで8時間を切ることがあった。税関を出たら待ち合わせの時間より小1時間も早く、時間をもてあましたことも覚えている。

アメリカに向かったある日。座席前のモニターに映し出される対地速度が瞬間的に1,030キロを超えたこともあった。いつもは960~980キロだからかなり追い風が強かったに違いない。

時速1,000キロといえばとんでもない速さだ。しかし、その速さを実感できるかと言うとそうでもない。離陸や着陸の時に窓の外を流れる景色をみればその速さを相対的に感じることができるのだが、上昇してし巡航に移ってしまうと、自分がそんな速度で移動しているなんてイメージすることは難しい。

しかし加速度には、あくまでも個人的な印象ではあるけど、実体がある。

例えばテイクオフ。その日によってフライングスタートであったりスタンディングスタートであったりするのだが、あの巨体が速度を上げていく時間は大のお気に入り。だから、あの加速感をもらさず全身で感じるために、エンジンがうなりを上げ始めると、つま先を上げシートに深く座り直したものだ。
加速度そのものは高々0.2Gぐらいなものだろうが、自分の中に加速度を感じられるあの時間は好きだ。

速度が速くなると加速しているはずなのに加速感が薄れる。飛び立ったわけではないのに重力が小さくなった」ように感じる。窓がビリビリと音を立てる。加速度が弱まったのではなく、大きな飛行機全体が作る空間が加速に慣れたからかな、と想像したり。

ゴゴッと音がして機体が浮いたことがわかる。上昇をするものだと思っていても、ほんの少しだけ上に向かうよりも前方に押し出されている感じが続いたり。

飛行機は地表を離れても加速しながら上昇を続ける。水平飛行に移ってたなと思っても加速しているなと感じることもある。逆に、明らかに減速していることもある。飛行機の飛ぶ速度での空気抵抗は想像できないくらい大きいはずだから、加速をやめるだけでもマイナスGを感じるのかな、などと考えるのも楽しいものだ。

着陸を前にシートベルト着用のサインが出ると、再び座り直すのが常だった。
下降を始めるということは速度を落としているということだからマイナスGを感じてもよさそうなものだが、飛行機の大きさに比べて人間が小さいのでそれと感じられないのかなと思ってみたり、窓の外にパノラマが広がりだすと速度は落ちているはずなのに相対的に速くなっているように思えたり。

黒々とブラックマークのついた滑走路を下に見て行き過ぎじゃないのと心配したりするけど、着地のショックの大きさにこそ差はあれこれまで怖い思いはしたことがない。
それより、着地してからの減速も圧巻だ。飛行機が着地したと感じた瞬間スポイラー立ち上がり、次いで逆噴射が始まる。空中では感じることができないマイナスGを受けながら、さらに、離陸時には感じない微妙な横Gがおそってくる。
その縦と横の加速度の大きさは毎回異なるが、巨体が身をよじるように減速する様は感動すら覚えるものだ。

西海岸に沿って南下した飛行機はいったん東に向きを変えった後にどこかの地点でUターンする。東からロサンゼルス空港に進入する飛行機の隊列にまぎれこむためだ。この時に感じる加速度も捨てがたい。

マイナスのGを感じながら、自分の身体が軽くなったように感じることで降下しているのを実感していると、機体が右に傾きだす。右側に座っていると窓いっぱいにダウンタウンが広がる。
バンク角はどんどん深くなり、同時に自分が重くなる。とても複雑な慣性力が働いているのを想像できるから言葉にするのが難しいけれど、飛行機が減速をしながら円運動の外側に流されていっているような感じだ。それでも旋回の後半は遠心力に負けているように感じないから、おそらく、ある時点で飛行機もラインに乗れるのだろう。

結局、速いものに対する憧れはあっても、速さを心地よさに置き換えることは難しい。地上での時速1,000キロが現実的でないように、だ。我々自身が速さを無制限に享受することも不可能だ。しかし加速度は、いついかなる時でも感じようと思えば感じることができる。

そしてプラスであれマイナスであれ、あるいは横Gであれ、加速度はクルマの姿勢変化に大きく影響する。加速度を意識することもクルマの楽しみの大きな部分を占める。身近な人間能力拡大器であるクルマ。味あわなければもったいない。

時まさに、メガーヌRSトロフィーRの発表。
馬力あたり荷重はメガーヌRSの5.4Kg対トロフィーRの4.75Kg。どんな世界が待っているか楽しみではある。

余談をひとつ。左側の窓際に座ってロサンゼルス空港に近づいた時のこと。例のバンクが終わって水平飛行に移ったその瞬間。左隣にもう1機飛行機がいて声を上げそうになったことがある。なんのことはない。3本の滑走路が並行して走っているロサンゼルス空港への進入で、たまたま同じタイミングの飛行機に出くわしただけだった。

余談をもうひとつ。ある日、成田を離陸してから30分ぐらい経った頃に機材故障のため引き返しますというアナウンス。どこに不具合があるのかの説明はなし。この時ばかりはCAに状況の説明を迫った。いやな思いをしたのはこの時だけ。確率は201分の1というところか。

※今回はYRSスタッフの勝木 学さんの写真を使わせてもらいました。感謝です。