トム ヨシダブログ


第147回 道具の使い方

2011年の初めに同じテーマで書いたのだが、その焼き直し。

以前はスクールの座学で包丁の話をかなりの頻度で話していた。なぜ包丁は引いて切るのか、という包丁という道具の使い方の話。
ところが、話していてもフーンといった感じであまり興味を示してくれないことが多かった。たかが包丁を使うのにそんなメンドクサイ話なんか要らないよ、と思っているのか、こちらの説明が悪くてピンとこないのか、座学より早く走りたいと思っているのかわからないけど、とにかく受けは良くなかった印象しか残っていない。

が、個人的には道具の使い方には大いに興味がある。どうすると道具を効率よく使うことができるか。クルマを運転する時にはいつもそんなことを考えている。正しい道具の使い方を知れば、道具を使っている時にどうすればどういう結果を期待できるか見えてくる。大事ことなのだけど、YRSの受講者でさえ、概して使いかたより使った結果のほうに興味があるように感じると言ったら怒られるか。

包丁は最も単純な機能を備える道具だから例にあげたまでで、実はクルマという道具の使い方に思いをはせてもらいたいとの願いがあった。

で、あまりにも反応がないので全長79センチの包丁を作った。もちろん木製だ。これを座学で見せれば少しは興味を持ってくれるかな、と期待した。

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全長79センチの包丁(のようなモノ)

結果は。見事に期待外れ。模型を目の前にしても、クルマの操作とは全く関係ないからか、興味を持ってくれている気配はなかった。
それ以降、あまり包丁の話はしていない。したほうがいいのだが、他にも使い方の大切さを伝える方法はあるから、79センチの包丁はガレージで惰眠をむさぼることに。

で、そう何回もあることではないので、その包丁らしきもおを紹介しておきたい。

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包丁を赤矢印の方向に動かすと

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切られるモノには緑矢印の向きに刃が当たる

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その断面を想像することができれば

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なぜ包丁は引きながら使うべきなのかがわかる

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大げさに作った包丁だからだけど、刃の角度の差はこれだけ異なる

実際の包丁の刃は薄い。それでも引くと引かないでは切れ味が違う。
クルマの運転でも、ごくわずかな操作の違いが、結果的には大きな差を生む場合が多い。

包丁のような単機能の道具でも使い方を理解すれば、より簡単に、より効率的に目的を達成することができる。クルマはもっともっと複雑な機械だから、使い方を覚えれば、より安全により快適に走らせることができる。サーキットを走るなら、リスクをとることなく速く走らせることができる。意のままにクルマを操ることにつながる。

最近は包丁の話の代わりに、「クルマの正しい動かし方を覚えておいて損はありません」と直球勝負をすることにしている。


第143回 ルーテシアRS 阿讃サーキットを駆ける

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ストレートに並んだルノー、ルノー、ルノー

ルノークラブ走行会が行なわれた阿讃サーキット。香川県との境に近い徳島県東みよし町の山の中にあるこの1周1004mの小さなサーキットは、運転の練習にはもってこい。

なにしろ高低差がハンパじゃない。加えて、これが最大の特長なのだが、エスケープゾーンがほとんどない。コースアウトしたら即ガードレールか土手。こういう環境は得がたい。

突っ込みすぎたらアウトに逃げればいいや、で練習するのと、絶対にコースを外れてはだめだ、で練習するのとでは全く違う。テクニック以前に覚悟の仕方を養える。

それに、エスケープゾーンのないタイトなコースが役に立つこともある。

この日、サーキットを初めて走る人が何人もいたけど、みんな最後にはそこそこ走れるようになった。それは、あくまでも個人的な感想だが、レイアウトというか、目に入ってくる情報が峠道を走っているのと大差ないので馴染みやすいのではないかと。

頂上から下るセクションもいい。とにかく忙しいから考えている時間はない。なんとかしなきゃならないし、やってみればなんとかなるものだ。運転の理想は無意識行動なのだから、それを短時間のうちに習得できる。

そんな阿讃サーキットを慣らし中のルーテシアRSで走った時の動画がこれ。オドメーターの数字は4000を少し超えたばかりだったから、RSボタンには触らずショートシフトをしながら走った。

阿讃サーキットを走るのに特別な資格は要らない。ライセンスも要らない。年会費3,500円を払えば、平日、土曜、祝日なら1,600円で25分走ることができる。関西圏にお住まいのルノーユーザーの方はぜひ一度訪ねてほしい。
ただ、サーキット自体が山の上にあって、そこへ続く道は細く急で、上に住む方々の生活道路でもあるので十分注意してほしい。

サーキットを単に速く走るのではなく、自分がクルマの性能を引き出す操作ができているか検証するのにはうってつけのコースだ。


第142回 ルノークラブ走行会

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全員集合

5月4日。阿讃サーキットでルノーネクストワン徳島とルノー松山が共催するルノークラブ走行会が開催された。

この走行会、20数年前にルノーユーザーの事故がきっかけになって始められたそうで、今回で30回目になるという。
「経験不足に起因する不慮の事故からお客様を守りたいので始めた」という一宮さんのお話を聞いて、何かお役に立てればと押しかけることにした。

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まずはルノーネクストワン徳島に表敬訪問

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予報は外れで日焼けが痛い

せっかくだから座学もやろう、という話になって、集合時間を例年の午後1時から朝10時半にしたのだけれど、座学を始める前にルノーユーザーとその仲間が26名集まった。

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どの顔も真剣そのもの

座学ではいつもの通り、タイヤのグリップの話に始って、運転操作でやってはいけないこととやっていいこと、やったほうがいいことを説明して、参加された方々の質問にもお応えした。

本州以外で初めてのスクールではあったけど、みなさん真剣に話を聞いてくれてとても嬉しかった。

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小さいサーキットだけど設備は万全

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最短距離でクルマを止めるコツを披露

昼食をはさんで、走行は1時から5時まで。走行時間をそぐといけないので、実技はスレッシュホールドブレーキングを体験してもらうことだけにした。全員をお乗せすることはできなかったが、ブレーキペダルの踏み方によって制動距離が大きく変わることははたから見ていてもわかったそうだ。

その後は好きな時に走って、好きな時に休むといういつものルノークラブ走行会。

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合間にコースを歩いて損得勘定の仕方を説明

サーキット走行のベテランから、この日初めてサーキットを走る方まで経験値はバラバラ。大丈夫なのかな、と思っていたけれど、心配する必要はなかった。みなさんご自分のペースを守ってサーキット走行を楽しまれていた。

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走行予定のない方はYRSルーテシアの助手席と後席から

何人かの方を助手席に乗せてオーナーのクルマで走って『理にかなった操作』というものを見てもらったけど、「目から鱗」と言ってくれた方もいたから参考にはなったはずだ。

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ビデオの撮影もしたし

かの一宮さんが0.9ターボのルーテシアを持ち込んでいたから、定員乗車で模範走行(?)を披露した。ちっちゃなエンジンなのに上り坂でも痛痒を感じなかったのは大きな驚き。

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0.9ターボが思いの外速いのに驚いたり

とにかく、コース上にクルマが走っていない時間がないほど、1周40秒台後半~50秒台前半のコースを入れ替わり立ち代わり走ること走ること。 「今日がサーキット初めてなんです」と言ってた方々が、目を三角にするでもなく周回を重ねる。それも初めてにしては大したペースで。 ちょっともったいないところがあったのでアドバイスしたら、その方はベストラップを更新。 カングーも走っていたから速度差は大きかったけど、譲るところは譲り、譲られるまでは待つという秩序あふれる、それでいて楽しさ満点の時間が5時まで続いた。

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定員乗車のカングーが走っていたり

一宮さんも出て行ったら戻ってこないほど運転が好き。なんか、とてもステキな走行会でした。帰りの渋滞が少しばかり苦痛だったけど、それを差し引いても余りある得がたい体験をさせてもらいました。
自宅に戻り、四国が近くなったように感じています。

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見たことのない色のメガーヌRSが走っていたり

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一宮さん お世話になりました。
ルノークラブ走行会 ずっと続けて下さい。

※掲載した写真はYRS卒業生の和田康之とルノーネクストワン徳島に提供してもらいました。


第121回 ルノーがもっと楽しくなる、といいな


素のメガーヌRSとトロフィーRが待つ

メガーヌRSトロフィーのお披露目に全国のルノーディーラーからルノー・スポールスペシャリストとテクニシャンが集まったのに併せ、運転講座と実技にも参加していただいた。


教室での座学があって

運転して楽しいRSモデルの良さをさらにさらに理解してもらおうというルノー・ジャポンのこの企画。事前にドライビングにまつわる資料を送り予習をしてもらい、富士スピードウエイのショートコースでは助手席から誰にでもできるクルマを安定させて走るための操作を見てもらい、翌日は駐車場に作った半径22m直線80mのオーバルコースをできるだけ速く走ってもらった。


同乗走行があって


オーバルトレーニングをやって

みなさん忙しい方ばかりだから運転道を極める時間があるか心配だけれど、少なくともこの2日間はルノー・スポールが送り出すRSモデルの性能の高さと、クルマを思いのままに操る楽しさの一端は体験していただけたと思う。

実は、一目惚れで先代ルーテシアRSを購入した後、あまりのすばらしさにルノー京都の山田さんに、「ドライビングスクールをディーラーオプションに設定しましょうよ」と投げかけたことがある。「だってクルマを動かす手続きを知らないままではこのクルマの価値はわかりませんよ」と。

ルノー・ジャポンとルノーディーラーはクルマを売るのが仕事なのは百も承知している。売ることが最大無二の目的。一人ひとりのユーザーを向いて運転の手ほどきをするのは本来の趣旨から外れる。それでもやってほしかったから。

世の中のクルマが高性能になっていくのに反比例して、クルマを操る人間の能力が低下しているのではないかと危惧しているからだ。結局、クルマがいつもそこにある家電のような存在になったのも、クルマ離れの遠因だと思うからだ。クルマにまつわるモロモロのことは、端的に言えばクルマを動かす人の影がだんだん薄くなっていることに根ざしていると考えるからだ。

という難しいことは置いておいて、クルマを操るのは単純に楽しいから、操り方を知ればもっと楽しくなるから、職務外のことではあるかも知れないけれど、ルノーディーラーに来るお客さんに製品のすばらしさを語るのと同じぐらい熱く、クルマを動かすことの面白さを伝えてほしいと思うのだ。その延長としてドライビングスクールがあって、みんなが運転を楽しめる環境があれば、クルマはもっと楽しくなる。

だから、今回担当させてくれたルノー・ジャポンには大いに感謝しているし、ユイレーシングスクールにできることは何でも協力するから、運転というソフトを抱き合わせてクルマを売る路線を確立してほしいと願っている。

富士での2日間が終わって間もなく、ルノー沼津の大石さんから連絡をもらった。ユーザーの中の有志をつのりドライビングスクールを開催したいとのことだった。具体的に動き出すのにはもう少し時間がかかるかも知れないが、RSモデルのユーザーだけでなく、ぜひカングーもコレオスもみんな含めたドライビングスクールができたらいいなと。お近くにお住まいの方は、大石さんに連絡してみてはいかがだろうか。


ピットで出番を待つ


各地からルノーが集まってきて


トロフィーRはタフだった


トロフィーRの実力を見て、体験


ダブルコーンスラロームでトロフィーRの軽さを見せ付けて


みんな笑顔


シフトアップのバックファイアの音が最高


足も最高


2日目は富士山が迎えてくれて


ロラン・ウルゴンさんとフレデリック・ブレンさんがオーバルトレーニングの視察に


最後に全員で記念撮影(参加者の半分は教室で座学中)


第118回 運転の意識

自宅から650キロ離れた筑波サーキットや430キロ離れた富士スピードウエイに出向くので、1年間にかなりの距離を走る。今年は大阪でも鈴鹿でも開催した。スクールの時はトゥィンゴ ゴルディーニ ルノースポールの出番だ。
今年はそれ以外にも、私用で4回東京に行った。ルーテシアRSを引っ張り出したりフィットRSで楽をしたり。記録はつけていないからわからないが、どのくらいの距離になるのだろう。

スクールで「遠い所から大変ですね」と労わられることがあるが、本人は苦痛ではない。たった一人で新東名を走るのなら退屈もしてしまうだろうし、毎週のことなら飽きてしまうかも知れない。だけど目的はスクールを開催したり打ち合わせをしたり母に会うことだから、移動はあくまでも手段でしかない。移動が目的になるとちょっとつらいかも知れないが。

クルマを運転していると実にさまざまな場面に出くわす。それも運転が苦にならない理由かも知れない。

こんなことがあった。
最近は、追い越し車線をずっと走っていてはいけませんよ、という当たり前のことが告知されるようになったから、追い越し車線を延々と走るクルマは少なくなってきた。しかし・・・。
ある日、追い越し車線を淡々と(?)走っているクルマの後についた。しばらく後について行くとようやく、ウィンカーも出さずに走行車線に移った。追い越して間隔を確認してから走行車線に移動する。トラックが現れればウィンカーを出して追い越し車線に移り、追越が終わればまたウィンカーを出して走行車線に戻る。

そんなことを繰り返していると、抜いた後で再び追い越し車線を淡々と走っていたクルマが、ウィンカーを出して追い越し車線に移り追い越しを終わるとウィンカーを出して走行車線に戻るようになった。
「へぇ~」と思って走っていると、3回ほど走行車線に戻ったのだが、その後はまた追い越し車線を平然と占拠するようになってしまった。
「なんでかな?飽きたのかな?面倒くさいのかな?速いクルマが後に来た時だけ走行車線に戻ればいいと思っているのかな?」と想像しながらリアビューミラーに目をやっていたことが何回あっただろうか。

交通安全指導員になってから「模範的な運転を」と言われるのだが、自分の運転が模範的かどうか自信はない。ただ何があっても事故は起こさないように心がけてはいる。
そうするために自分なりのルールがある。市街地、高速道路、サーキット。走る環境ごとに自分で決めた手続きに従って運転している。
ひとつひとつを説明すると長くなるので省くけど、誰もがそんな自分なりのルールに基づいて習慣的に運転しているのではないだろうか。

結果として、自分で言うのもはばかられるが、行き当たりばったりの運転はしていないと思うし、その場しのぎの運転もしていないと思う。
そうすることによって周りがよく見えるようになる。市街地だろうと高速道路であろうと周りにはクルマがあふれているが、多分、こちらが定数になろうとすればするほど周囲の動きが変数として認識できるようになるのだと思う。

先にあげた例以外にも、運転中は本当にいろいろな場面に出くわす。
この人はこうしたいんんだろうな。あの運転の仕方はやめたほうがいいね。このまま行くとああなるな。こうすればあの人が楽になるかな。次から次へと自分が試される。それを楽しんでいる自分がいる。老化防止にいいかもね、とほくそ笑む自分に気づく。

そう感じられるうちは運転に飽きることはないだろうなと。
さて、このブログをアップしたら富士スピードウエイに向けて出発だ。


第105回 ホットハッチ考 RSというバッヂ


RSバッヂ 1

お気に入りだった13インチタイヤを履いたGD1フィットの後釜であるGK5フィット。
GD1の時に信じられないくらいの荷物が収まって大いに助けられた経験があるので、次もフィットだろうなと思っていたらGK5が出たのは幸いだった。

ATしか乗れない息子が日本に来た時に乗れるように、それとふだんの足だからと7速CVTを選んだのだが、果たしてGK5フィットRSはホットハッチ足りえるか?


風景に溶け込むのはいいんだけど…

まだ回したことはないが、レッドゾーンの始まる6800回転まで回せば、とりあえず動力性能としてはCVTであっても痛痒を感じることはないはずだ。もちろんもっと速いコンパクトカーを選ぶ選択肢はあったけど、総合的に判断すればGK5RS-CVTで不満はない。

が、後席用のドリンクホルダーがないこと以外は使い勝手のいいGK5RS-CVTだが、気になる点がなくはない。


踏力が弱いとしかられる!

例えばアイドリングストップ。
GK5RS-CVTに乗り出した頃。交差点で止まるとメーターの中に黄色いランプが点る。最初は何のことかわからなかった(マニュアルを読んでいないことを白状するようなものだ)が、ブレーキペダルをさらに踏み込むと消えるので、踏力が足りないことを教えてくれるランプだとわかった。

そこで「ヘェ~ッ」となった。ふつう、みんなは止まる直前にそんなに踏力をかけているのかと驚いた。
ルーテシアRSだろうがトゥィンゴRSだろうが受講生のクルマだろうが、止まる寸前にかけている踏力ははるかに小さい。小さい踏力で止まれなければ問題だが、ちゃんととまれるのだから『もっと力をいれて!』なんて指示されると面食らってしまう。

どういう仕組みになっているかは知らないが、要するにAT特有のクリープ現象で停車中のクルマが動きだすのを防ぐためにブレーキは強く踏んで下さいという警告灯のようだ。しかし上り坂でも下り坂でもやってみたけれど、薄いブレーキでもGK5RS-CVTが動くことはなかった。

気になったのは、自分にとって『強すぎる停止寸前の踏力』がいわゆる標準なのだろうかということ。もしそうなら、ほとんどの人は前荷重のままクルマを止めていることになる。さらに言えば、ブレーキペダルに足を乗せる時にそこまで踏み込んでいるのではないかと心配になる。少なくとも、いわゆるトレイルブレーキングを使う場合にはもっともっと小さな踏力を残すことが重要なので、あの踏力に慣れてしまうと細やかなピッチコントロールができなくなってしまうのではないかと余計な心配をしている。薄いブレーキを使えないのは、それ以前にキチンとブレーキを踏んでいないのではないかと気になってしまう。アナログ時代の人間だからかも知れないが、どうもオンオフ的な操作には抵抗感を覚えるのだ。

YRSのスタッフにこのことを話すと、「トムさん、誰もそんなこと考えて運転してませんよ」と軽くあしらわれてしまったが。
だから、今はアイドリングストップは解除していない。それで、停止するたびに介入しない、つまりエンジンが止まらないようなブレーキングを楽しんでいる。最先端デバイスとの根競べだ。


RSバッヂ 2

例えばターンイン時の荷重移動の仕方。
ルーテシアRSでもトゥィンゴRSでも、FRのE30M3でも、はてはアメリカで足に使っていたサバーバンでも、あるいはアメリカでレースをやっていた時も、加速→減速→旋回という流れの中で自分なりの決まりがあってその手続きを守ってきた。もちろんドライビングスクールで同乗走行を行なう時もだ。
場合によってその時間を短縮することはあるが、手続きを省くことはない。クルマの性能を発揮させるにはこの手続きが絶対に必要だと経験しているからだ。
しかしGK5RS-CVTはそんな時、少し変わった挙動をする。このままコーナリングに移るとアウト側前輪のその外にまで荷重が移動してしまうような素振りをする。そのまま先に進むとアンダーステアになるな、と感じるような挙動変化をするのだ。

その原因がハイトの低いタイヤにあるのかサスペンションのセッティングなのかはわからないが、少なくともルノー・スポール3台やGD1フィットでは感じたことのない種類のものだ。もっともGD1フィットのトレッドは広げていたので、スプリングレートは落ちても4つの支点が遠くなったから感じにくくなっていたのかも知れないけど。

あくまでも想像でしかないのだが、オーバースピードでコーナーに入るとアンダーステアが顔を出し失速させ、その先の危険を回避しやすいようなセッティングなのかなとも思う。少なくともノーマルのままで4輪を使ったコーナリングを実現するのは難しい種類の足だ。

だからGK5フィットのRS、とりわけマニュアルシフト車を購入する人は足回りを改造したくなるに違いない。操縦性云々よりもカッコでいじる人もいるだろう。
が、できればクルマはノーマルのまま乗るのがいいと思っている。クルマは高度な技術に裏付けられた道具であり、頭のいい人が集まって作っている。ノーマルだからこそ発揮される性能が確かにある。
改造が許される時代だからと言って、クルマをノーマルの状態から変えるのは賛成しない。車高を落としすぎて扱いにくくなった、なんて例は掃いて捨てるほどある。ドライビングスクール受講生にも「クルマはいじらないほうがいいですよ。改造にお金をかけるんだったら自分に投資するつもりでまたYRSに来て下さい」と話している。

で、個人的なSNSにGK5RSの挙動のことを書いたら、YRS卒業生から「フィットRSのRSはロードセーリングの意味ですから」とコメントをもらった。RSがレーシングスポーツであろうとロードセーリングであろうと、そんなことはどうでもいい。言いたかったのは、RSというバッヂをつけている以上もっと明確な性格を与えるべきだったと思うヨ、ということだ。
メーカーも『走りを感じる装備をプラスしたスポーティモデル』とうたってるからGK5RSに過度の期待をしてはいけないのかも知れないが、なんか、なんちゃってスポーツモデルが増えると、どんどんユーザーが言葉は悪いが去勢されていくような不安を感じる。

YRSのスタッフにこのことを話すと、「トムさん、そこまで考えてクルマと付き合う硬派は少なくなったんですよ」だと。なんか自分が変人に思えてしまった。

でも、GK5フィットには同じエンジンを搭載したRSでないモデルがあるし、ディーラーの話だとハイブリッドに押されてRSはほとんど生産されていない少数派のようだし、メーカーがホンダだし、ユーザーや市場に迎合するのではなく、車格がエントリーモデルだからとかではなく、『乗りこなすなら乗りこなしてみれば!』なんて感じのRSを出してほしかった。RSが記号だけで終わってほしくはなかった。


RSにはもっとサーキットが似合ってほしかった

自分にとっては少し違和感のあるGK5RSだが、繰り返しになるけど、クルマとしての完成度は大いに評価している。荷重が移動しすぎる癖もトレイルブレーキング中に踏力を変化させながらいつもより長めにとれば収まる。それなりに操作すればなんとかなるから不満があるわけではない。
ただ、ルノー・スポールが送り出す一連の『潔い思想に基づいたクルマ』のようなモデルを国産メーカーに期待したいだけだ。

クルマを選ぶ時にルノー・スポールを選択肢に乗せることができる日本のユーザーは幸せだと思う。

※購入後、設問がたくさんあるホンダのアンケートに答えた。上の2点を含めて思いのたけを書き綴っておいた。

ホットハッチ考 終わり


第89回 ユキはよいよい、だったけど…


こんなんでした。須走の旅館にて。

今年は雪が多い。YRSリトリートでの雪かきも3回を数えた。今も降っている。午前中は気温が高かったので降るそばからシャーベットになっていたけど、冷えてきたら積もりだした。明日は新記録の4回目かな。

で、先週末に今年最初のスクールとスクールレースを開催するはずだったのだけど、金曜日にコースが完成した頃から雲行きが怪しくなってきた。宿に戻っていろいろな天気予報片っ端から見てみたが、肯定的な予報は皆無。コースが水没するくらい雨が降っても決行してきたが、道中のこともあるので涙を飲んで夕刻に中止の告知。

天候不順で中止にしたのは、14年間で2回目。前回も雪だったっけ。

なんとか日曜日のオーバルスクールだけでもと懲りずにタブレットとテレビにかじりつくけど、状況は悪化するばかり。岡崎市からの参加があったこともあり、土曜日午前中に中止を決定。今回はユイレーシングスクールに初めて参加してくれる人が半数にのぼっていたのでぜひやりたかったのだけど、日曜日にコースに行ってみて判断が間違っていなかったことを確信。

翌月曜日は東京で打ち合わせ。未明まで東京方面への東名が御殿場から不通でやきもき。大津に帰るための新東名も三ケ日まで通行止め。「ユキめっ」と思いつつも、こればかりはどうにもならない。何もなかったことを良しとしなければ。


金曜日の朝。コースを作る前には富士山が拝めてたのに。


雪がやんだ日曜日。備品運搬車もトホホ。


本当ならばオーバルコースのストレートなんだけど。


探すのが大変だった。

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ホワイトバレンタインデーかな。

パソコンに向かう前に用事で県庁まで出かけたのだけど、湖西道路も161号線もノロノロ。ふだんの倍の時間がかかってしまった。

遅々として進まないので周囲のクルマの動きを観察した。運転を教える立場の人間としての個人的な意見なのだが、やはりクルマを運転している人はふたつに大別できる。

ひとつ目は、雪が降っていて、たまたま気温が低くないので積もってはいないのだが、晴天や雨天との時と同じような感じで運転している人たち。車間にしてもそうだし、前のクルマが減速を開始した時の反応の遅さもそうだ。雪の日には事故が多いようだが、それは、雪道が滑るのではなく、滑りやすい路面を走っていることに対する意識のしかたに問題があるのではないのか。

ふたつ目は、雪=滑ると思っているのだろうか、やたら慎重になって渋滞の原因になってもおかまいなしの人たち。安全を見越して運転するのは大切なことではあるけれど、交通の流れの中にあって自分がどういう位置に置かれているかを自覚したほうがいいのではないか。個人個人の目的を達成するにも、交通という体系の中に組み込まれなければ始まらないのだから。

ふたつに共通するのは、クルマをなにげなく運転していることだ。少しでも運転について考える時間を作れば、誰でもドライビングポテンシャルは向上するのだけどな。


第86回 エンジンドライビングレッスン


終わってからの記念撮影は笑顔、笑顔

エンジンという雑誌がある。時計やクルマやファッションなど大人の男が心引かれるアイテムに焦点を当てて創られている。読まれた方もいると思う。

そのエンジン誌が主催するのがエンジンドライビングレッスン。実は2003年に当時の編集長だった鈴木正文さんに企画を持っていって実現したものだ。
とにかく、毎号毎号これでもかというほど高性能で魅力的な(しかも高額な)クルマが掲載されている。個人的に大きなクルマは性に合わないのだがそれらのクルマの良さは十分に理解できるし、現実にはそういうクルマを所有している人もいるわけで、そんなクルマを所有している人に運転を上手くなってほしいものだ、と考えるのは自然な流れだった。

編集部近くのお寿司屋さんで昼食をごちそうになりながら、「編集長、クルマは使ってなんぼのもんです。読者が思いっきり愛車を走らせる環境を用意して、読者に愛車を粋に走らせるコツを教える機会を作りましょう。クルマは使わなければもったいない。読者が所有欲を使用欲へ転換できるように促すのもエンジンの使命のひとつです」と熱く訴えたことを覚えている。

2003年暮れ。試験的に開催。これが参加した読者に大好評。聞きたかったことを教えてもらえた。自分の操作が間違っていたことに気づいた。運転がこんなに楽しいものだとは気がつかなかった。クルマは操作次第で安定して走るものだとわかった。等など。編集部が集めたアンケートには、運転に目覚めた人達の声があふれていた。

ということで、2004年からは定期的に開催することになった。年によって開催数は異なるが、10年間で46回、延べ1,204名の読者が受講してくれた。

日本に数台しかないというクルマも参加した。ポルシェばかりが20数台も集まった回もあった。きれいにレストアされた古いクルマにも同乗させてもらった。下は20代から上は70代まで、クルマのことになると話が尽きないといういい大人が丸一日、クルマ以外のことを頭から追い出してクルマを動かすことだけに没頭する。そんなエンジンドライビングレッスンが今年も3回開催される。


順番待ちのクルマを見るだけで壮観

午前中に行うオーバル定常円を走る


アドバイスに耳を傾けるどの顔も真剣


エンジン読者はみな紳士。それでいて熱い


参加車もバラエティに富む


高性能なクルマこそ正確な操作が求められる


参加される方もさまざま


午後は筑波サーキットコース1000を走りっぱなし


心地よい疲労と笑顔。最も嬉しい瞬間


ユイレーシングスクールではこんなクルマも作った


鈴木編集長に試乗してもらったことも

※ロードスターを改造したこのクルマ。アメリカのSCCA車両規則に合わせて作った。夢は卒業生とこのクルマでアメリカのレースに挑戦すること。
※写真は過去に開催したエンジンドライビングレッスンから。撮影は神村 聖さん、版権はエンジン編集部にあります。


第80回 なんだかなぁ…

敦賀市を基点とし大津市まで続く国道161号線。必要度が高い割りには、和迩から大津市中心部までは商業地を貫いているため流れがよどむことが多い。少し離れたスーパーに買出しに行く時は国道を使うが、遠出をする時にはその山手側を走る湖西道路を使って一気に京都東インターに向かう。

で、まもなく湖西に越してきてから3年が経つ。使うことの多い湖西道路。少しばかり気になることがある。大津方面に向かってふたつ、敦賀方面に向かってひとつある計3ヶ所の「ゆずり車線」でのこと。
もともとは有料道路だったのだが、国道の渋滞を解消するために全線追い越し禁止にして無料開放されたとか。ところが流入量が増えたのが理由(?)で正面衝突事故が多発(!)したとかで、低速走行車を追い越せるように部分的に2車線化したそうな。もともと片側1車線で設計された経緯から、ゆずり車線は本来の車線の左側に張り出す形で設けられている。そのゆずり車線の走り方の話。

通勤で利用するわけではないので使う頻度はそれほど多いほうではないが、湖西道路に乗るとほとんどの場合時速80キロぐらいの流れに身をおくことになる。制限速度60キロの自動車専用道路なのだが、「交通の流れ」はそれよりも20キロほど速いことが多い。日本海側と太平洋側の国道を結ぶ要でもあるからトラックが多いのだが、彼らのほとんども制限速度を守っては走っていない。関西からの観光バスも多いが、彼らもまた、制限速度を上回る速度で走っている。

ところが、たまに制限速度をピッタリ守って走っているクルマに遭遇する。「交通の流れ」はそれより速いわけだから、必然的にそのクルマの後ろには『減速を強いられたクルマ』が数珠つなぎになる。良識あるとおぼしきそのクルマはトラックにあおられたりするのだが、それでも動ずることなく制限速度を守って走り続ける。
しかし、制限速度で走っていたはずのそのクルマがゆずり車線のある所にさしかかるやいなや、80キロほどに速度をあげるのだ。で、ゆずり車線が終わると再び制限速度を守るかのように速度を落とす。
最初の頃は『2車線にならないと怖くて速度をあげられないのかな』なんて想像をしていたのだが、何度か出会ううちに、もちろん相手は異なるのだが、ゆずり車線で速度をあげる理由がわかった。運転に自信がないのではなく、確信犯なのだ。

ゆずり車線の手前には「この先ゆずり車線、左側追い越し禁止」の看板がある。しかし、先を急ぐクルマの中にはゆずり車線を使って前のクルマを追い越す輩がいることも事実。要するに、かの御仁は違反行為であるゆずり車線を使っての追い越しをされないように、その区間だけ速度を「後続のクルマ」の速さに合わせていたというわけだ。だからゆずり車線が終わると、順法精神を発揮して制限速度での走行に戻ることになる

そこでふたつの疑問。ひとつは、この人達は交通法規を守り守らせることを是としているのに、一部区間だけとは言え法定速度を超えて走ることに矛盾を感じてはいないのか。
もうひとつは、渋滞解消のために2車線化したはずなのに、なぜ増設した車線を走行車線にしなかったのか。湖西道路を走るクルマ全てが拡幅された部分の左側を通ることにすれば、従来の車線が本来の目的である追い越し車線となり渋滞解消に役立つのではないのか。
前後を監視車に挟まれ50キロで走る大きな重機を積んだトレーラーがゆずり車線に移動する場合は抵抗がないかも知れないが、先の例のように速く走れるクルマが制限速度を守って走っている場合は、左に寄りたくない気持ちがわからないでもない。しかも名前がゆずり車線。『なんで俺がゆずらなければならないんだ』となっても不思議ではない。人的努力がなければなりたたない交通規則は不完全のそしりをまぬがれないだろう。

白線を引きなおすだけで交通の流れが安全かつ円滑になれば、それこそ法律の精神をまっとうするということではないのか。

制限速度の設定も問題だ。法律で定められているようだから簡単には変更できないのだろうが、概して日本の制限速度は低く設定されすぎだ。実情に即してはいない。それでは運転する人間の危機感を殺ぐばかりだ。お上が定めた制限速度で走っているのだから安全、という誤解を生みかねない。
速度を抑えて走ったからといってクルマを運転する危険度が減るわけではないのに、単純に走行速度を抑えている。まるで事故が起きることを前提とし、起きた場合の被害を少なくするための設定ではないかと疑いたくもなる。

例えば、自宅のあるカリフォルニア州ファウンテンバレー市を貫く405フリーウエイとブルックハーストストリートのランプ。270度ぐるりと回るコーナーには35マイルの標識がある。もしここを40マイルで走ろうとすれば、いや37マイルでもいい、ほとんどのドライバーは怖い目にあうはずだ。35マイルは規制値ではなく、ふつうの人にとってそのコーナーの限界速度なのだ。

例えば、2000年1月1日をもってアメリカのフリーウエイの制限速度が連邦法ではなく州法で決められるようになった。
で、モンタナ州のように制限速度を撤廃した州も現れ、一時期はそれこそ高性能スポーツカーの聖地になった例もある。
で、カリフォルニア州は都市部の制限速度をオイルショック時に設定された55マイルから65マイルに引き上げた。当初、安全面から変更に反対する声もあったようだが、結果的には渋滞が減ったばかりかフリーウエイでの事故も減ったとする記事を読んだことがある。55マイルを上限として走っていたクルマが減り、「交通の流れ」全体が速くなった結果だろう。
最近のデータは持ち合わせていないので事故の発生件数とかはわからないが、流れが速くなった結果ドライバーに緊張感が生まれ、事故に結びつく運転が減ったとも想像できる・
実際、アメリカに帰るたびにものすごい速さで流れる405に乗って驚く。65マイル制限なのに75マイルは当たり前、時間帯によっては80マイルで流れている。それでも目立つことをしなければ速度違反に問われない。

いろいろな考えの人、様々な価値観の人が混在する「交通の流れ」の中で安全に効率よく運転することは難しい。運転している間は、ドライバー同士がお互いのコミュニケーションをとることができない。同じ空間を共有している人が何を考えているのかわかりようがない。

だから、違反を奨励するつもりは毛頭ないけれども、決められた数字だけにこだわるのではなく、自分が飲み込まれている「交通の流れ」を乱さないように心がけて運転するのが安全への第一歩だと考える。

日本の交通規制については言いたいことが山のようにあるけれど、こればかりは法律で決められたことだからなんともしようがない。しかし、法律の精神が、安全かつ円滑な交通の流れの実現にあるわけだから、もっと実情に即した運用がされてもいいのではないかと思う。

【追記】
・ゆずり車線の看板の下には英語で『Slower traffic lane』と書いてある。湖西に来た時からゆずり車線って変な名前だな、なぜ登坂車線と表記しないのかなと思っていたのだが、たぶんゆずり車線の一部が下っているので帳尻を合わせるための名前なのかなと想像している。
・モンタナ州はその後、相次ぐ高性能スポーツカー事故に対応するために制限速度を設けたというニュースに触れたことがある。


第66回 自由を求めて

この世の中に、全ての束縛から解き放たれた自由はあり得ない。人は制約を受けながら自由を模索する。

クルマの運転も同じ。いかに高性能なクルマでも、その性能の全てを無条件に堪能することは不可能だ。
クルマは人間の能力を拡大してくれる最良の友人ではあるが、クルマが自由をもたらしてくれるわけではない。

我々は目的を定めてクルマを動かす。もろもろの制約の中で安全に、かつ効率良くクルマを動かそうとイメージする。
そのイメージが、『クルマが動きやすい状況』に合致していれば、もろもろの制約などなんのその、クルマは実に生き生きと動いてくれる。
操る人間は、クルマが目的に近づけてくれることに無上の喜びを感じる。

20m間隔で並べられた11本のパイロン。もちろんパイロンに沿って直線的に走ればクルマはその性能をいかんなく発揮する。それでも、いつかはスロットルを閉じなければならない。クルマの速さとはそういうものだ。そして、直線での速さは高性能のクルマと高性能ではないクルマの序列を生む。

ではパイロンを縫って走る場合はどうか。もはやクルマはその持てる性能を無制限に発揮することはできない。クルマに、そして人間にできることは、次から次へと迫りくるパイロンをクリアしながら先に進むことだけ。

パイロンを倒さないように。
遠回りしないようにパイロンをなめて。
チャンスがあればスロットルを開けて。

11本のパイロンをクリアした時。人はクルマと同じ速さを手に入れる。
クルマを生き生きと走らせることができれば、その時、人は自由を手に入れる。
そこにはクルマの絶対的な性能が生む無意味な序列はない。そして、クルマを操る人が主役になる。